パケパ芋ノスケミン
只今、深夜の道をえっちらおっちら移動中でございます。
もちろん、あの泉で出会った青いのさん、イズミンも一緒。名前を呼んじゃったのは夢じゃなかったんだってさ。そっか…うん…そっか…。
そのイズミンはね、なんとクロノスケの引く台車の一部になっちゃったの。
台車の持ち手部分をさ、クロノスケが首から胸部あたりで支えて歩いてくれてるんだけど、そのクロノスケと持ち手の間に入り込んで、クッション素材みたいな役割をしてくれてるんだよ。
時々持ち手が滑るみたいで、クロノスケが歩きにくそうにしてた時に、イズミンがアギーラの作ったクッションシートに擬態して、それをさらに薄型に進化させ、ピトって持ち手に張り付いてくれて…そのまま現在に至っとりますです。
触り心地としては…熱がある時におでこに貼り付けるシートってあるでしょ?あれの両面ぷるぷるバージョンって感じ。
クロノスケにも持ち手にもぴったり張り付いてるから、持ち手が滑り落ちたりしないもんで、クロノスケもとっても歩きやすそう。
なんて働き者なの!って思ってたら、本人はその状態のまま居眠りも可能なんだって言ってる。
イズミン、便利な奴…
◇◇◇
さらに数日が経過。
とうとう…とうとうです!ユスティーナ国側に一番近いジネヴラ国の町、マッソに到着しました~!!
マッソの町のギルドには、ガイアさんからの伝言が入ってるはずだから、まずはアギーラにそれを受け取ってきてもらおう。
実質的にはマッソの検問が、国境の検問を兼ねてるんだろうから、厳しい審査があるのかもしれない。
雑なチェックでお馴染み、ミネラリアの検問だってセレスト国との国境に一番近い町だったから、住民以外の出入りには厳しかったと思うの。…たぶんな。
アギーラは問題なく入町出来ると思うけど、ちょっと緊張するよね。
「じゃ、行ってくる。ここら辺は冒険者やら採取人なんかがちょこちょこ通ると思うから、気を付けて」
「うん、アギーラも気を付けてね。あと、帰りに食材調達お願いしまーす!」
「あ、そうだった。買うものメモは用意できてる?」
「右側に書いてあるのは出来れば買ってきて欲しいもので、左側はマスト。数は書いてある個数以上なら上限なしで買って構わないけど、なるべくマジックバッグを持ってるって事は隠した方が良いから、いっぺんに買わないように気を付けるんだよ。お店では大きな袋に入れて、マジックバッグには、後で人気のない所で入れ直すようにして…」
「お母さんかよ!つーか、ベルにそんな事を言われるとは心外なんですけども。あのおむつケーキをガイアさんの目の前で収納から取り出して、ガッツリ目撃されたあのベルに…」
「ぐぅぅ…」
…の音も出ませんな。
ダットンさんとバズさんも私共々、背負い籠派の採取スタイルで、アギーラをお見送り。
このスタイルだったらどこの町の周辺にも馴染むはず。
ちなみに私の肩にはソウさんが乗っていて、背負い籠の中では、パケパ芋ノスケミンが入って遊んでるんだよ。
パケパ芋ノスケミン
私の諸々センスに関しての苦情は、一切受け付けません。あしからず。
◇◇◇
「みんな、ご飯だよ~!」
のんびり川に足を浸しながら食べるご飯の美味しいことよ。
今は夏、そろそろ秋も近い。異世界の夏は日本の夏より全然涼しいのよね。朝晩は肌寒いくらいだし、とにかく良い。夏でも長袖一枚で、丁度、良い。
そんな訳で、夏場の外仕事もまったく苦じゃないの。
アギーラが町に行っている間に、ここらへんでも色々と植物採取をしておこう。
場所が変わると植物も変わるから楽しいのよね~。イズミンと出会ったあの泉のほとりには、胸躍る植物があったし。そう、カカオとコーヒー。
ああいうさ、綺麗な場所で植物を育てて生活するのも楽しそうだなって思ったんだよね。自生でカカオとコーヒーもあるし…。
人里が遠すぎるから、実際に住むとなったら正直厳しい。スローライフを希望してはいるけどさ、世捨て人になりたい訳じゃないからなぁ…。
それでも、私の浮遊もアギーラの俯瞰くらい早く移動できれば、あの泉の周りにひっそり住むのもアリかなって思ってはいるくらいには気に入っちゃったんだよね。
なんたってあそこには、温泉がある。魔素が溜まるとなにやら効能だってあるかもしれないし…、年を取ったらありがたみが増すような気が…しないでもないじゃん。
「なんであの泉って、水があったかかったんだろう…」
私の独り言のようなつぶやきに、食後でまったりウトウトしていたお芋ちゃんが目も開けずに答えた。
<赤の地脈が青の地脈に触れておったのかもしれんな。魔素も溜まりやすそうだったし、なかなかに良い地であった>
地脈…風水とかで聞いた事があるような、ないような。
地層とかそっち系の話かな…マグマとか火山系の話じゃなくって?
ここは地球じゃないもんねぇ…。
赤の地脈と青の地脈ときたか。
うん、全然わかんない。
◇◇◇
結局、食後はずっと川べりでダラダラタイムを満喫。やがてアギーラが戻ってきた。
「市場が大きくて助かっちゃった」
「おかえり~。いいなぁ、楽しそう!なんか良いものあった?」
「辺境地だから心配してたんだけど、メモにあったものは全部買えたよ。ベルにとっての良いものってのはなんだかわかんないけど…食材は思ってたより新鮮なのが買えたと思う。あとね、バナナが売ってたから買ってみたんだ。僕、初バナナ~!」
「私もお初!まさかバナナがあるなんて!!あ、そう言えばカカオの木とコーヒーの木を見つけたって私、言ったじゃないですかぁ」
「見つけたからって、どうすりゃいいのかは全くわかんないのでーす!って言ってたやつ?」
「そうそう。意地でも鑑定しまくって、なんとかするつもりだよ。なんか出来たらなんかあげますって言ってたやつ」
「失敗作でも絶対ちょうだいって言ってたやつ。…いやまじで、絶対にちょうだいよね」
「わかってるって。いやさぁ、バナナまであるなんて凄くない?コーヒーにカカオにバナナだよ。ここらへんってそういう…ブラジル的な感じなのかな?」
「ブラジル!気候が似てるとか…うーん、似てない気がする…」
「ブラジルって、もっとこう…全体的に暑いイメージがあるよね」
「そしてまさかの北のジネヴラなのに!」
「そうだった。北の国だった…」
「でも、北の国って言っても北国、雪国って訳じゃないみたいだし、ありえなくもないよ」
「そう言えば…地脈ってのが関係してるのかも。地脈同士が触れててどうとかこうとかって…」
「地脈?」
「泉の水があったかかったでしょ?あれってお芋ちゃん情報では、地脈っていうのが関係してるのかもしれないんだってさ。赤の地脈が大きな青の地脈に触れてる?とかなんとか…」
「さすが物知り芋御坊!なるほどねぇ…赤って事は火の地脈。火系の魔力が地中を流れてるイメージ。それが青…水の地脈にちょっと触れちゃってる。結果、水が火であったまっちゃった的な事が…この世界には起こるって事かな」
「わかるようなわからんような話だけどさ、植物生態系もその地脈とやらが上手い事、作用してたとしたら…あ…鑑定で調べてみれば良かった…」
「今頃!おっそ…」
「鑑定ばっかりするのって、それはそれでなんだかなぁと思って…自重してんのよ。自分で考える力が衰退しそうじゃん」
「それわかる!僕もスキルばっかりに頼ってる気がして、時々不安になるもん。ベルは生き物の鑑定も嫌がってたよね」
「生き物の鑑定はさぁ…相手の許可が欲しいって思っちゃうの。それにね、今や心の中では、“鑑定したら負け”っていう、謎のマイルールもある。こういうのって子供思考なのかな…」
「あはは、“この線の上から出たら負け”とかでしょ?子供の頃の、あの謎のルール縛りって確かに不思議だよね。あれって何なんだろう」
「わからんけど、絶対に抗えない何かなのよ…。あ、ギルドはどうした?ガイアさん、何だって?」
「手紙はこれ。あと、領地への行き方案と…これなんだけど、グリンデルさんの知り合いがね…」
アギーラからの話によると、なんとグリンデルさん、思いっきり知り合いに根回ししておいてくれたみたい。困った時には頼りなさいって。あ、ありがてぇ…
◇◇◇
今後は日中移動になるから、暫くはここで体調を整えようという事で、マッソの町から少し離れた森の中で連泊中。
クロノスケが台車を引くのは目立つからどうするか…護衛役のソウさんを肩に乗せたアギーラと、今後についての相談をしなければ…。
「ばる…はると…辺境伯領に行くんだよね」
「そうそう、バルハルト領。すっごい領地が広いらしいんだ。領地に入ったら、ガイアさんが居る場所に一番近い村をとりあえずは目指すって事で良い?」
「うんうん。ね、ガイアさんには会えるのかなぁ」
「どうだろう。連絡だけ入れておいて、ガイアさんからのレス待ちにしようかなって」
「そうだね。邪魔になるのは嫌だし」
「うん。瘴気の近くに巨大な陣営地を作って、集められた冒険者達はそこで寝泊りするって感じらしいから、その陣営地宛でギルドから手紙を届けてもらうか、ソウさんに伝言を頼むのも有りかな…とか思ってるとこ。もちろん僕が俯瞰で確認してからだけど」
「そっかぁ。ソウさんの方が確実だし早いし、上手くいけばその場で返事をもらえるかも。ソウさん、かまわないかな?」
【いいよ~!】
「ソウさんは瘴気祓いにも参加した事があるし、雰囲気もわかってるだろうから…その時はお願いするね」
【わかった!】
「ここ最近の巨大な瘴気って、全部海沿いで発生してるんだったよね」
「うん。辺鄙なところに瘴気が出ると、そこに行くまでだって大変だよ」
「そうなんだ…しかも瘴気を祓うのって何か月もかかるんでしょ?」
「色んなケースがあるらしいけど、最近はどこの瘴気祓いもすっごく時間がかかってるって話だよ。みんな疲弊しちゃってギスギスしてくるから嫌なんだって、ガイアさんが言ってた」
「長引くとそれだけ士気も低下するもんね」
「それもあるんだけどさ…貴族ってのは、本来こういう時に率先して、世界を守る為に存在してるはずなのに、全然出てこないらしくってね。そのせいで、徐々に現場の不満が募ってるらしいよ」
「あー!私も聞いた事があるよ。貴族がいろんな面で優遇されてる代わりに、有事の際は、自らが先陣を切る事になってるとかなんとか」
「それそれ。だけどさ、“これは有事じゃない”とか言い訳しまくって、みんな逃げてるらしいんだ。でもバルハルト辺境伯って人は、私兵まで率いて、冒険者と一緒に瘴気祓いに参加してる貴族なんだって」