呼びま~~~
えー、本日はまず、こちらのテーブルの上をご覧ください。
肉肉肉肉卵卵卵卵…すっごい量でしょ~!
これね、パケパノスケが持って帰ってきてくれたの。
ジャイアントルネードルコッコっていう、ルコッコを巨大化させたような大型魔獣なんだけど、これがなんとまぁ…卵までもが超でっかい。
みんながJTルコッコって言ってるから、以下、JTルコッコでお送りします。
ソウさんがそのJTルコッコを解体してくれたもんだから、お肉は部位別にテーブルの上に並べてみたんだけど、とにかくすっごい量なのよ。
って事で、うちにゃぁ肉と卵が溢れておるんですわ…ぐふふ。
卵だけを頂戴する計画だったらしいんだけど、途中でJTルコッコが巣に戻ってきて、戦闘になっちゃったらしい。
そんな危険な事はしてほしくないけど…魔獣と戦う事も含めて、それが彼らの生きる道なんだったら、私には止められない。
でもこの卵に関しては、もしかしたら私の為に取ってこようとしてくれたんじゃないかって思って…そうだったら、やっぱりそんな危ない事はしないで欲しいって思ったりね。
いやもうホント、気分はすっかり保護者だよ。
まぁ、色々思うところありつつも、みんなの頑張りのおかげで卵様とその親御様である、JTルコッコのお肉も頂ける訳なんだけど…。
「クロノスケには、た~くさんお肉をあげるよ~」
昨日、みんなで足湯を楽しんでた時に、遅れて戻ってきたクロノスケを見て、パケパが明らかに動揺して目を逸らしたもんだからさ、よくよく話を聞いてみたら…パケパ達ったら倒したJTルコッコを、クロノスケ一人に回収させたらしいの。自分たちは露天風呂にさっさと浸かって、キャッキャしてたのよ。
まったくもう!JTルコッコとその卵には、とっても感謝してるけど…パケパには桶あがりのプリンと共に、エアげんこつ!
◇◇◇
JTルコッコの肉と卵を存分に堪能した翌日の早朝、まだ薄暗い時間に目が覚めてしまった私、ちょいと散歩に出る事にした。
パケパ芋ノスケとソウさんに加えて、泉にいた精霊さんまでもが、ダイニングの片隅に作った寛ぎスペースですやすやと眠っている。
青いのさん…もしも私たちが悪い人だったらどうすんの!って、言ってやりたいくらいに、無防備にお眠りになってるんだけど…こんな事で大丈夫なのかしら。ちゃんと生きていけるのか心配だよ…。
そう言えば…夢でね、この泉の精霊さんにうっかり名前を付けちゃって、夜中に思わず飛び起きちゃったのよね。
こればっかりはうっかり禁止。細心の注意をはらわないといかん案件。
勝手に名付けなんて、絶対にいたしません。なんせ私はきちんと学習できる女なのですから。
え?人の夢の話なんて、一番どうでも良い??
わかる~!夢繋がりで言うとさぁ、他人の起承転結もオチもない夢の話を聞かされた時ってどうしてる?あれ、正直リアクションに困るよね…
◇◇◇
おぅ…泉のキラキラが明らかに減ってる。
魔素って結局のところ、魔力の主素材って感じ。これがないと魔力も魔法もないって事で…こういう現象を利用できれば…あ!雑魔石を泉に浸けておけば良かった。なんて今更~。
ま、いっか。正直、今は泉の魔素よりカカオとコーヒーだし!
実をもう少しだけ貰っていこうと思って。本当は木ごと欲しいけど、しがない逃亡者の身。荷物は増やせない。
木ってマイ収納には収納出来ないからさ、仕方ないよね。
いや、違うな。出来ないって言うのは語弊がある。だって、入る事は入るもん。
収納する時にもの凄い抵抗感があって“本当に収納しちゃって良いの?マジで??”みたいな警告が、体感的にあるの。“それでも良いよ!”って思えば、無理矢理収納する事はできるって感じ。
でもね、一度収納に入った植物は植えなおしても成長はしないの。植物的には死んでるんだと思う。だからさ、収納から出して時間が動き出すと、ただただ普通に枯れていくだけ。
なもんで、植物も薬草として使う分には問題ないんだけど、植え替えるとなると…あーーー、マジックバッグがあるじゃん!
わたしったらすっかり忘れてた。
そう、右頬。あれなら時間経過がちゃんとあるから、普通に運べるかもしれない。
アギーラが自分や人族はバッグには入らないって言ってたけど、木なら入るんじゃない?
試しに小さめの木を掘って掘って掘りまくり、マジックバッグにイーン!
小さな虫なんかがどうなってるのかなんて、知ったこっちゃないもーん。きっと異世界ファンタジー補正でなんとかなるんだもーん。
◇◇◇
労働の後の一杯、最高~!
冷たい飲み物が飲める幸せを噛み締めております。
いつかはアイスコーヒーだって、我がものになる日が来るかもしれないの。ぐふ、ぐふふ…
「おはよう、ベル」
「ぐふ、ふ…お、おはようございます、ダットンさん。早いですねぇ」
「こんなに元気になっちまったからな。今まで床で過ごした分を取り返そうと、体が動いちまうみたいだ」
「あはは」
「いやいや、本当だよ。これが夢なんじゃないかって…体が飛び起きちまうんだから。信じられないんだよ…いまだにね」
「あの、ずっと疑問だったんですけど…ダットンさん達の星詠みっていうスキルは…その…自分達の事は、わからないんですか?」
「自らの事がわかるのなら、あんなひどい目にはあわなかったろうな。わしらの力はそんなに便利に使える力でもないんだよ」
「すっごく便利な力なんだって思ってました。塔に閉じ込められるくらいだもん…」
「わしら星詠みはな…魔素を見る事ができるんだ。実際に目に見えなくとも、体に衝撃が走って…体感で察知する時もある」
「へぇぇ!体感で…凄いですねぇ」
そもそも星詠みの語源はね、先人が、たくさんの魔素はまるで夜空の星のきらめきのようだって言ったところからきてるんだって。まぁ、これは多少、昔話的な要素も入ってるって言ってるけど…。
「バズなんかは“目の前に星がチカチカするくらいの衝撃が走るんだから、体感で感じるのも立派な星詠みだ”なんて言っているがなぁ。まぁ、もちろん他にも、直観力…なんらかの察知力が他の人より優れているらしくて、吉兆を占ったり、予見したりという事も出来る時もあるが…」
「へぇぇ。なんだか、高位スキルの集合体みたい」
「そうなのか?そういう…他の人のスキルなんかはよく知らんが…」
「実は私もよく知らないんですけどね、えへへ。そう言えば…私たちの事を知ってたっていうのは…」
「あぁ、今でも忘れられんよ。特に…ベルが生まれただろう時の衝撃たるや…」
「あの…じゃぁ…私たちの事って、ユスティーナの国に…?」
「いや、大丈夫。なんにも伝えとらんから安心してくれ」
「え…」
「不思議そうな顔をしてるな。なぁ、ベル…わしら星詠みも人なんだ。人を人とも思わないような奴らには、わしらだって最低限の協力しかしないのさ。そうやって星詠みは、代々あの塔で沈黙を貫いてきたのさ」
「‥‥‥」
「危機が迫っているとか魔獣の大量発生とか…そう言う事がわかればきちんと伝えるぞ。だが、それだけ。ベルやアギーラの事は…悪しき者でないと、バズもわしも感じておったから、ずっと静観していたんだ」
「私たちの事、ずっと認識してたんですね」
「あぁ。でもな、どちらかと言えば二人の事は…この先、一体何が起こるんだろうと楽しみにもしていたよ。まさか、わしらが助けられるとは思いもしなかったが…」
「そう言われちゃうと、なんだか不思議なご縁な気がしてきました…」
「もちろん普通は人に対して何かを感じたりはせんぞ。ベルやアギーラは特別だ。ベルも、魔素が見えているんだろう?ならわかるはずだ。これが役に立てる事もあるが、立てない事もたくさんあるって…」
「それは…魔素がすべてって訳じゃないから」
「そう、その通り。それに…わかる事だって決して多くはない。アギーラと話をしていて分かったんだか…アギーラに関しては魔力覚醒の時に、わしらは存在を感知したようなんだ。それまで…一切、彼については何も感じなかった。それに、バズも二人が塔に近づいてきている事を察知できていなかったんだ。ほら、決して万能じゃない。とてもあやふやな面が、星詠みの力にはあるんだ」
いやいやいや、ダットンさんそれは違うんだよぅ。
アギーラはこの世界で産まれた訳じゃなくって、16歳で異世界転移したからだし。
あとはアギーラのステルスマントの性能がスバラシイせいじゃ…。
あ、これ…要するに全部アギーラのせいっすね…
◇◇◇
「そう言えば…ユスティーナの王都で、膨大な魔素を見た事はありませんか?」
王都の夜景を見たくて、夜中にこっそり小屋を出て見に行った時の、あの綺麗な光景。
あれは魔素だったのか…ダットンさんなら何か知ってるかもしれないよね。
「それは…王都だけだったのかい?」
「え?あぁ…見た時は真夜中だったんですけどね。私は孤児院でずっと生活していたから、夜に外に出た事はほとんどなくってわからないの。たまたま王都を湖ごしに見た時に、キラキラが見えて…悪いものじゃなきゃ別に良いんですけど、あまりに大量だったから、ずっと気になっていたんです」
王都の上空、全てを覆うような光だった。
私が見た事があるのは、自然の中での魔素の塊だけ。あんなに…人の営みのある場所の上空を覆って見えたのは、あの時一回きりなんだ。
綺麗だったけど、あとあと考えて見たら恐くもあり…ダットンさんだったら何か知ってるかもしれない。
「そうか。すまんなぁ…その話は、わしらの口からは…」
わかりましたわかりました。
…わかりましたよね?
ダットンさん達は、星詠み故に沢山の秘密契約があって、迂闊に話せないことが沢山あるんだって。
ほら、だから…守秘義務に抵触する何かが、あれにはあるって事がわかりましたよね?
「あぁ。話は変わるが…随分と昔の話、子供の頃に一度だけ、王都へ行った事があるんだ。人ばっかりたくさんいて…さぞ悪い奴もたくさんいるだろう…酷いことをする奴が世の中にはたくさんいるんだろうなぁ、なんて思った事が…あった、な…」
ん?なんか変だぞ。
急にどうしたんだろう…話が意味不明だよ。
ダットンさんがすっごい汗かいてる。
もしかして…今、何らかの守秘契約に抵触た話をしたとか…。
「やはり…ベルもかなり見えているんだな」
あ、普通なダットンさんに戻った。
何だったんだろう…。
「えぇとまぁ、そうですねぇ…秘密ですよ」
「そりゃもちろんだ。わしらの扱いを見てもわかるだろう?下手な事は言わぬがなんとやら。ベルも言動には気を付けるんだぞ」
「はい…」
「それじゃ、わしはそろそろ小屋に戻らせてもらおう…二度寝でもするかな」
「どうぞどうぞ。あ、あの…今のお話、アギーラにしても良いですか?」
「もちろん構わんさ」
ダットンさんが使っていたロッキングチェアを収納しようと思い…ふと足元が目に入る。
ダットンさんの居た場所…土の上には、上下にVの字が引っ付いたような模様があった。
見ようによっては…×印みたいに見える…かも…。
‥‥‥。
考えすぎかな…
◇◇◇
「…って事があったのよ」
「へぇ…ダットンさんが話せないって事は、そう言う事だよね」
「アギーラもやっぱそう思う?」
「そりゃね。そんな話があっての×印かぁ、良いネタじゃないよなぁ。こわ~」
「×印は私が思っただけだよ。考えすぎかもしれない」
「どうだろ~。そういう時の直感って当たってるケースが多い気がする。急に子供の頃の…妙な言い回しの話とか、それって絶対変でしょ。王都のそれは…なんかあるって事は間違いない」
「まぁね。色々考えても仕方ないけど、もしアギーラがどこかでそれ系情報を耳にしたら教えて欲しいかな」
「了解了解。さてと…そろそろ出発する?」
◇◇◇
出発の用意が出来たので、ソウさんがパケパ芋ノスケに知らせに向かう。
一緒に泉の精霊さん…青いのさんがこっちに向かってきた。会えなかったらお別れできないしさ、どうしようかなって思ってたからホッとする。
「会えて良かった!今からここを出発するの。長々とおじゃましちゃってごめんね。お世話になりました」
<どこに行くの?>
「うーんとあっちのほう。ジネヴラっていう国の…海の方に行ってみるつもりなんだ」
<ふぅん。いいよ>
「そうなんだ。へ…いいよ…って…?」
<だから、い・い・よ。早く行こー!>
「んん?…い、一緒に来る…の?」
<うん!>
「え、なんで?」
<え、なんで?>
「なんで…って、なんで?」
<だって…ベルは名前をくれたの>
「なまふぇ!」
思わず声がひっくり返っちゃったけど…名前!?付けてない付けてない。今回は私、何にもしてない。むしろ注意してた側!
アギーラ…その目はなんですか?
「だって…イズミンって、ベルが名前を付けてくれたから…」
イズミン。
その名は…聞いたような聞かなかったような…呼んだような呼ばなかったような…。
あの夢の中…私はイズミンって、呼びま~~~
した…
この暑さのせいで、一瞬マボロシかと思いましたが、レビューを頂きました。
ありがとうございます。
この場を借りまして、感想、誤字報告、いいねを入れて下さった方々へもお礼申し上げたく。
本当にありがとうございます。
どれほど励みになっている事かを言い表す表現力がないのが残念ですが、いつも、とてもとても感謝しています。
暑い日が続きますが、皆さま、お体にはくれぐれも気を付けながら、これからもこの異世界を覗きにきてもらえると嬉しいです!(^^)!