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閑話 滝ノ宮明君の失踪

 クラス担任の先生から、滝ノ宮君と連絡が取れなくなっていると話があった。


 …信じられない。一瞬頭が真っ白になる。

 先週ずっと休んでいて皆が心配していた。

 …もちろん私も。

 何しろこの一週間、全く連絡が取れなかったのだから。


 クラスのチャット型連絡網も既読にならない。SNSも個人メールにもレスはなく、通話は『電源が切れています』のアナウンス。毎日のように一緒に遊んでいたらしいゲームにも、ログインがないらしい。

 お家を知っている子達が、昨日はとうとうお見舞いへ行ったそうだ。母親からインターフォン越しに「『明は少し具合が悪くて…わざわざ来てくれたのにごめんなさいね』と言われて、会わせてもらえなかった」などと話していた。


 先生からは、家にも戻ってきていないし、スマホも見つかっていないという話や、そういう事だからお見舞いに行くのは控えるように…なんて、話が続いていたけど…もう…何も聞きたくない。

 同じように感じたのだと思われる何人かが、自分の手を耳に押し当てて、先生の声を遮断しようとしているのがわかる。


 ◇◇◇


 あれからまた一週間が過ぎた。


 依然として行方が知れないと暗い顔をして担任と校長先生が話している。そのあと、前回とは別の数人が別室に呼ばれて教室を出て行った。

 女子のすすり泣きくような声以外、何も聞こえない1限目が自習となった教室。

 男子も目を赤くしてうつむいている。


 しばらくすると、滝ノ宮君の家庭の事情も聞こえてきた。


 曰く、滝ノ宮君は中学の頃から親が購入したマンションで独りで暮らしていた。

 曰く、ご両親は離婚していて、お互い別の場所で別の家庭を持っている。

 曰く、そのどちらの家庭にも、相手との子供がいて滝ノ宮君の居場所は…


 クラスメイトがお見舞いに行った日は、学校から『無断で休んでいる』と連絡を受けた母親が、滝ノ宮君が住むマンションの様子を、ちょうど見に来ていた日だったらしい。


 ――居なくなってから会いに行くのって、どんな気分?

 私は滝ノ宮家の事情なんて知りもしないのに、どす黒い感情に支配される。


 滝ノ宮君はなんだか不思議な人だ。

 スクールカーストなんて彼の前には存在しない。どこのグループにも飄々と顔をだし、それでいて固執しない。それを自然にみんなが受け入れている。

 カースト最上位の貴羅樹君たちと、一緒に観に行った映画の話をしていたかと思えば、私みたいな陰キャにも普通に話しかけてくる。


 いつものように誰かから貰ったのだろうお菓子をパクパク食べながら…私の席の前でふっと立ち止まる。滝ノ宮君は母性本能を刺激するらしい。

 毎日誰かに世話を焼かれて…かいがいしく餌付けされているかのようだ。


「あ!その本、昨日読み終わったとこだよ!横山さん、どこまで読んだの?ふーん…ふふ…そのあとさー、フェイロンとスイレンが「なっ、ちょ、やめてよ~!」」

「あは。ごめんごめん。言わない、言わないってば…」


 彼の眼鏡の奥…切れ長で二重の大きな目が、笑うと三日月みたいになるのが見たくて、出来るだけさりげなく視線をあげる…


 ――滝ノ宮君が戻ってきたら私もお菓子をたくさん持ってこよう。

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