そんなこんなで順調な逃亡
浮遊を使いながらダットンさんを乗せた座席を、クロノスケからきっかり1cm浮かせております。
逃亡者一味、ジネヴラへ順調に向かっておりますよ~!
「道が明るくて良かった~。足元も結構見えるしさ。拍子抜けしちゃったよ」
「空に雲がかかってて衛星も星も見えなかったりしたら、相当山の夜道は怖いと思うよ~。しかも峠越えだと、普通の旅人は飲み水だけでも大荷物でしょ」
「あ、そっか。確かに荷物があったら大変かも…。誰にも会いませんように~♪魔獣も人も出ませんように~♪遭遇、絶対イヤだよ~ん♪」
「それ…五分おきくらいでちょいちょい挟んでくるね」
「効くか効かないかはわかんないけど、吟遊しないよりましかなって思って。おまじないみたいなもんよ」
「もし魔獣に遭遇しなかったら、この先の人生、ずっと歌ってれば良いじゃん!」
「他の人がいそうにないから、こうやって歌えるんだって。この世界、歌うたってる人なんていないんだからね」
「そういや…音楽って全く耳に入ってこないかも。楽器も見た事ないし」
「それ、私も不思議だったんだ。ギターっぽいものくらいはありそうなもんじゃない?アギーラが見た事ないんだったら、やっぱないのかなぁ…」
「わざわざ尋ねた事はないけどさ、少なくとも見た事はないなぁ…あ、そろそろ小さな休憩場所が出てくるはず。そこでちょっと休もう」
「了解!」
お手洗い休憩も兼ねてるから、ちゃんと小屋も出しますよ。
だってさ、只今、ド深夜なんですよ。お花摘みは屋外の自然豊かな天然のおトイレでどうぞ~っていうような時間帯でもないし。
ま、少なくとも私は昼間だって絶対にイヤだけどね。
小屋を手早く設置して、しばしの休息。
みんなには悪いけど、まっずい体力回復ポーションを少~しだけ飲んでもらおう。
昼夜逆転を甘く見てはいかんのだよ。
見事に全員死んだ魚みたいな顔になってしまったので、お口直しに大サービスでプリンを差し上げましょう…。
そうそう、プリンを作ってて思い出したもんで、しょっぱいプリン系料理も作ってみたの。茶碗蒸しってやつね。
出汁と溶き卵、蒸すだけ簡単。野菜と魚と肉のエキスたっぷりの出汁で作ってるんだ~。
茶碗蒸しなら食べやすいし、ダットンさんの食事にピッタリかなって思って作ってみたら、大喜びされてしまったので、プリンを作るたびに茶碗蒸しも蒸かす事にしてるのよ。美味しいよね、茶碗蒸し。
でもさ…アギーラがマジックバッグに入れて沢山持ってきてくれたから、まだまだ在庫はあるけど…卵不足になったらどうしようって不安になってきちゃった。
それくらい卵消費が激しいのよ。主にプリン消費ね。
こんなに喜んでもらえるプリンが作れなくなったらさ、みんな悲しむじゃんよ…
◇◇◇
移動中、ソウさんとお芋ちゃんは護衛兼、何かあった時の戦闘隊員。ダットンさんシートの横に休憩籠が備え付けてあるから、基本的に移動中はそこで休んでもらってるんだ。
護衛なのに移動中、休んでて良いのかって?
だってソウさんってばね、『察知』っていうグリンデルさんと同じ固有スキルを持ってるんだって言うんだもん。
グリンデルさんの『察知』は“身体の状態異常を察知できるスキル”だけどさ、ソウさんのは“危険や状況異常なんかを察知できるスキル”って感じらしいよ。
これは獣化うんぬんは関係なくって、以前から持ってるスキルなんだって。
これが凄いのよ。
なんせ大丈夫な時がわかるってスキルなんだから。
今までにもソウさんが【大丈夫!】って言ってくる時があったのよ。ずっと野生の勘みたいなやつだと思ってたんだけど…スキルで察知して言ってたんだって。
ソウさんが“大丈夫”って思ってる時は大丈夫な時。その代わりソウさんが“気をつけろ!”って言った時は全力で警戒しろ…ってね。
だからさ、ソウさん察知アンテナが反応しない時はだらだらしながら進めるし、ソウさん自体も休憩できるっていう…逃亡者一味にとっては最高に美味しいスキルのお陰で、我らは精神衛生上、とっても気楽に深夜行進をさせてもらえてる訳なのです。
私が深夜行動の言い出しっぺだけど、ソウさんの危険察知スキルがなければ、もっとピリピリして大変だったと思うのよ。ソウ氏のスキル、ありがたいわ~!
魔力が減ってきてて、魔法も廃れたって言われるこの世界だけど、スキルは色々あるんじゃないかなって思うの。
ステータスって人にペラペラ喋るもんじゃないから、わかんないけどさ…。
スキルと魔法って何が違うんだろうね。
確か…魔法を使うとなると、長~い詠唱ってやつが必要だって言う話だったよね。私は例外として…。
それに比べて、スキルは詠唱も要らなければ魔力消費も少なかったり必要ないものもある。ほら、裁縫やら料理やらのスキルなんてものは、魔力がいらないスキルでしょ?
それで便利な力が手に入るんだから、なんだかスキルの方がお得感があるなぁ。
あれ…そう言えば、ソウさんが氷を出すのって魔法じゃないの?詠唱してないし…。
でも、確かガイアさんが“攻撃魔法”って言ってた気がする…。獣化したソウさんは、詠唱なしで魔法が使えてるって事で…って、あれ…なんか…あれれ…
◇◇◇
結局、誰にも…魔獣にも遭遇せず、空が白み始めた。
少しでも日が昇ってしまえば、旅団に遭遇する可能性がある。さっさと道を逸れて、私ら逃亡者一味は森の中に逃げ込まねばならん!
この深夜の行進を繰り返し…ゆっくり峠を越えて進めば、あと一週間くらいでジネヴラ最南の町、マッソ近くに到着出来るだろうって。もちろん、アギーラ情報ね。
でもさ、一度は長めの休憩をどこかで取ろうって話もしてるんだ。
私もソウさんもある意味子供だし、ダットンさんだけじゃなくって、バズさんだって病み上がりみたいなもんだし、アギーラは自称ひ弱君だし。
我ら、最弱なくせに深夜に峠越えなんてしてるんだもん。
半透明アギーラが俯瞰で周囲を偵察し、小屋を設置できそうな場所を探してきてくれたので、森の中を進む事になった。
ダットンさんにどうしてもと請われ、とうとう森の中だけは、自力で歩いてもらう事になりましたよ…。
ダットンさんの回復力が怖い今日この頃。
もしかして、スキルとかさ…何かあるのかもしれないね。
小屋では各自好きに休む事に。お風呂も好きな時に使って良いし、ご飯はテーブルの上に適当に出しておいて、好きな時に勝手につまむスタイルにしたの。
ダットンさんのご飯とみんなのご飯をテーブルの上に並べて…私はとりあえず、少し寝る!
◇◇◇
ハッと目覚めれば夕方。
めっっっちゃ寝てしまった!
急いでシャワーを浴びて、洗濯物を洗濯機に放り込みながら考え事。
何の考え事かって…そりゃもちろん食べ物の事ですよ。
調味料とかソースとか、レパートリーを増やしたいなぁって思ってて、ついにソースが出来上がったもんだから、今日はあれを試してみたいなって。
肉やら魚やらは豊富にあるけど、どうしても味付けが同じだからマンネリになっちゃうのよ。
だからね、暇を見つけてはちょいちょい作ってたんだ。
ふふふ、オリジナルソースですよ!
味?黒ソースに、こちらもただいま絶賛研究中のケチャップと…果物、お酒、砂糖、バターなんかを加えて煮詰めた…デミグラスソース風でもない、ウスターソース調でもないお味って感じかなぁ。
あ、ここから派生してウスターソースっぽい味ができるかも…次はウスターソースを研究しよう。
まずはストックしてあるコロッケタネを使って、オムレツを作りまーす!
オムレツだけでも美味しいけども…研究中のケチャップをかけても良いんだけども…今日はそこに、このオリジナルソ―スをがっつりとかけたいのです!!
◇◇◇
【絶対売るべき!】
「どうかなぁ。材料費がかかるし、保存の問題もあるからさ。市販品にするには無理があるだろうし…」
「いや、絶対に売るべきだよ。これを食べられないなんて人生の損失だ!ベルジナルソースの買い手は絶対にいる」
【いる!】
「少なくとも僕は絶対に買う!」
【ベルジナルソース、買うの!】
【買うの!】
ケサラとパサラがすっごく気に入ったらしく、買う買うって騒いでるけどさ…どうやって買うつもりやねん。あんたら毛玉やで…
◇◇◇
そんなこんなで順調な逃亡が数日続き…いつものように、深夜の行進出発前に半透明アギーラが偵察に出かけ、そして戻ってきた。
「次の休憩予定地に綺麗な場所があったよ。あれって泉じゃないかなぁ」
「泉って…何?池?」
「まぁ…そんな感じ。水が湧き出てたみたいだから、池じゃないんじゃないかなって」
正直、泉と池の区別なんてつかないけども!知ったかぶりして会話を続ける私。なによ…別に良いでしょ…
「泉かぁ…みんなが遊べそう?」
「うん。パケパが好きそう」
「へぇ~、楽しみ!みんなが気に入ったらさぁ、そこで何日か休憩取るのも良いんじゃない?」
「確かに…ちょうど良いかも」
「俄然歩く気力が出てきた!じゃぁ、出発~!!」
みんなでひたすら夜道を歩く。
そして…
「本当だ。すっごい綺麗!水がキラキラして…」
――キラキラ
うん…。
すっごく…すっごく、キラキラしてるね。
――キラキラ
いやこれさ…どう考えてもおかしいよね!
キラキラしすぎっしょーーー!!




