表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/225

そうそう、私って時々賢いの

 ベッドルームから出てきたダットンさんとバズさんの若返り振りを、アギーラが絶賛驚愕中。

 そうでしょうそうでしょう。毎日見てる私だって、ドン引きですからね。もちろん、いい意味でだけど。


「お芋ちゃんが言うには、魔力が日常的にたくさん奪われてたんじゃないかって。魔力枯渇してた状態が長く続きすぎて、体に異常な負担がかかって老化が加速してた、的な?」


「そんなのすぐに倒れそうだけど…」


「そうなのよ。よくわかんないけど、何かしらのやり方で生かさず殺さず…みたいな方法をとってたんだろうね。もしも魔道具でそういう事が出来るんだったら恐いなーって思ってさ」


「それ…特に僕たちにとってはめっちゃ脅威じゃん。ベルも僕もその魔道具に繋がれたら一生さぁ…僕はまだしも、魔力が枯渇しないってわかったら、ベルなんてどうなるか…」


「やーめーてー!」


 フラグ立てたでしょ、立ててないもんだのなんだのと騒いでいたら、パ芋ノスケが外遊びから戻って来た。

 クロノスケがすかさずアギーラに駆け寄る。周りをグルグル、シッポブンブン。すっごく歓迎してる!…たぶん。


「やっぱりさ、半透明アギーラが精霊の祈り木の所でクロノスケの事を見てたの、知ってるんじゃない?ほら、すっごい歓迎してるみたいじゃん」


「言い方。僕がストーカーみたいじゃないか!」


「まぁまぁ。あ、そうだ…クロノスケの頭を触ってみて」


「お…本当だ。ポコってしてる」


「本人は平気みたいだけど心配でさぁ」


「触っても嫌がらない…うーん、実はこういう骨格だったり。異世界だし、ありえるよ?」


「お芋ちゃんは何か知ってるみたいなの。でもさぁ、<暫く見守っていればいい>とか言うばっかで…大丈夫としか言わなくってね…」


「お芋ちゃんってさ。なんか、悟りとか開いてそうな感じあるよね。芋坊主め…」


「芋和尚」


「芋法師」


「芋御坊(ごぼう)


「それ、食べ物っぽい…芋ごぼう」


「きんぴらごぼう、食べたいなぁ。ごぼうってこの世界にもあるのかな。醤油はないけど、ごぼうとワニ肉炒めなんて美味しそうじゃん。あ、マヨがあるからごぼうサラダは出来るよね…」


「おい、芋成分はどうした…」


 ◇◇◇


 ごぼうはないけど、アギーラおかげで食糧不足を無事に乗り越えた私達逃亡一味、ゆっくりと移動してみてはどうだろうか、なんて話になりました。

 あの塔から二人が消えた事、さすがにもう気付いてるだろうからね~。


 定期的に二人が出す報告書を取りに来る人がいて、その人が生存確認ついでに、食料やら日配品的なものを置いていくシステムだったんだって。緊急時にはバディバードを飛ばすって事になってて、それ以外には通常、誰も来ないとな。

 

 扱いマジ最悪じゃん。本人の意思そっちのけで閉じ込めといて、よくそんな酷い扱いが出来たもんだよ。幽閉するほど大事な能力ならさぁ、ちょっとは敬意を払うべきなんじゃないの?腹立つなぁ…絶対、ジネヴラへ無事に逃げてもらうんだから!


 塔からの脱出に使ったものは回収できるものは回収したし、縄はお芋ちゃんが燃やした後をソウさんが消火。その残骸はケサラとパサラが吹き飛ばして証拠隠滅してくれたんだけど…二人がいなくなってるって事は隠せないでしょ?


 ダットンさんがおじいさんおじいさんしてた時は、残り少ない時間をここで穏やかに過ごしてもらいたいって…。ダットンさんをここで看取って、バズさんが望めば一緒にジネヴラに…なんて思ってた、私にもそんな時代がありましたよ。


 今や全員一致で「ありゃあ、まだまだ長生きする」って結論になってるからね。少しずつでもジネヴラへの移動をはじめたほうが良かろうって話になった訳ですよ。


 二人が塔でどんな仕事をしてたのかは結局聞いてないんだけど、もし見つかったら連れ戻されるのは確実。

 絶対にボンクラ達は手放さないに決まってるもん。

 腹立つなぁ…絶対、ジネヴラへ無事に逃げてもらうんだから!ここ、大事だから。ちゃんと二回言いましたからね!!

 

 ◇◇◇


 と、言う事で…移動計画、始動!


 アギーラが大きなサイズのクロノスケに、座席用シートをごそごそと取り付けているのをボーっと見学する私。

 

 ダットンさんをクロノスケに乗せて貰おうって事になったんだ。クロノスケも<いいよ~>って言ってたもん、雰囲気でだけど…。


 マイ収納に入っていたあの台車もクロノスケ仕様にカスタマイズしてあるけど、ダットンさん、今や普通に座れるからね。休憩多めで行けば、座位移動も出来ると思うんだ。

 

 基本的には台車じゃなくってこのシートに乗って移動できれば、クロノスケの負担も少ないんじゃないかなって思ったんだけど…色々試しながら体の負担が少ない方法を探ろうって。


 私ももちろん浮遊パワーを使うよ。

 出来るだけダットンさんの座った座席を浮かせるイメージ…覚えていますでしょうか。そう、最初にきっかり1cmだけ浮いていた事を。あのイメージなのです。


 けっこう長い間、きっかり1cmだけ浮いてたからね。ワタクシは1cmプロと言っても過言ではないのですよ。

 いや~、あの1cmが、こんな形で役に立つなんて思いもしなかった…。


 私が浮遊を使うと、クロノスケがキョトンってして、急いで自分の背中を確認しようとしたり、首をかしげて私をソワソワしながら見つめてくる。

 

 急に重さが感じなくなってビックリしちゃってるなら大成功だよね。クロノスケへの負担が減るなら、喜んで1cmプロ、やりまっせ~!


 ◇◇◇


 クロノスケに取り付けるダットンさん用の座席も無事に完成を迎える。旅立ちの日は近い。

 でも、この逃亡で一番の難関となるだろう、国境越えの峠越えだから、用意は周到にしないとね。


 どんな行程になるかわからないから、私はひたすらに食事のストックを作る事にしたの。

 なんやかんやあってもさ、ちゃんとご飯が食べられれば、大抵の事は大丈夫だって…思いたいってのもある。


 洗濯やら掃除やらは、ソウさんやバズさんが引き受けてくれてるし、ケサラやパサラも手伝ってくれる。こまごまとした家事やDIYはアギーラが担当。あたしゃ全精力で食事作りに邁進できるってもんですよ。


 ダットンさんのお世話?

 それは今は昔じゃよ…ダットンさん、自分の事は自分で出来るようになってるもん。一人でお風呂にだって入れるからね。


 そんな驚異の回復を見せるダットンさんではあるけれど、体力的にはキツイ行程は無理だし、バズさんだってそれは同じだと思う。


 半透明じゃないアギーラ本体ももちろん無理。自慢じゃないけど体力はないって、何故かすっごく威張って言ってたし。

 まぁ、体力的な部分に関しては、私も全く自信がないのは同じ…でね、考えたのよ。


「ねぇ、これから先はジネヴラへの最難関…峠越え行程になる訳じゃぁないですか」


「うん、そうだね。クロノスケが安定して歩ける場所とか考えるとさぁ…これが結構ムズいんだよなぁ」


「だよねぇ。で、思ったんだけど…深夜にさ、普通~にジネヴラに繋がる道を使わせてもらえないかな?」


 だってよく考えたら、国内ならともかく…国を跨ぐような旅程の人達が、峠越え区間で夜中に馬車を走らせてるはずないと思うのよ。

 

 日本でだって深夜に山歩きしてる一般人なんて、あんまりいないでしょ?

 魔獣に遭遇するリスクはもちろん高くなるだろうけど、それは森の中から山越えしつつ、ジネヴラに入るのも同じ事かなって。


「俯瞰でアギーラに野営地点を探ってもらいつつで、他の人たちが野営してる地点だけ上手く避けて通れば、むしろ森の中を進むよりさぁ…どうかな」


「‥‥‥。ベルって時々賢いんだよなぁ」


「そうそう、私って時々賢いの。って、あれ?…君は恐ろしい程に失礼だな!部下にしたい後輩グランプリ殿堂入りは取り消します」


「それもう言いたいだけじゃん…。国内の大主道っていう大きな道に関しては、深夜でも早馬が走ってたりするらしいから無理だけど、なんせ峠越えだし…作戦的には悪くないと思ったよ」


「良かった~!クロノスケの負担がずいぶん違ってくると思うのよ~」


「さっそく今夜から俯瞰でジネヴラに繋がる道を偵察してみようかな。野営地がわかれば、そこだけ迂回すればいいもんね」


 そうと決まれば早寝!

 おやすみなさーい。

 

 ◇◇◇


 偵察決行の時刻。只今、深夜の2時でございます。


 なーんて、張り切って中継風に言ってはみても、私はすることがないんだわ。

 俯瞰中のアギーラ本体の見守り役ってだけだもん。


 暇だから、みんなのステルスマントに刺繍しよっと。

 ケサラの毛を蔦系染料で染めた糸で刺繍すると、その文言を強化する性質があるんだって鑑定先生が言うからさ。

 

 ちょいちょい刺繍をマントのふちに入れてるのよ。アギーラがダットンさん達の分もマントを作ってくれたから、今夜はこれにがっつり刺繍を…。


 ぽかーんアギーラを確認しながら、ちくちくと。この国境越えの峠越え、もし上手く深夜の道利用ができるなら、このステルスマントは重要アイテムになるはず。


 なんせ裁縫の腕が上がりまくってるからさ。自慢じゃないけど刺繍なんざ、びっくりするほど超高速でできちゃうもんね~。

 仕上がったマントを自画自賛していたら、半透明アギーラが、実に良い笑顔で帰還してきた。

 

「何か所か大きな野営地があったよ。どっちの国側から入ってきても、みんなそこで泊るみたい。小さい休憩所がいくつも点在してたけど、この時間は誰も使ってなかったからさぁ、小さい休憩所を上手く使って、僕らも休みを取るようにしていけば…この作戦、勝算はあると思う」


「良かった~」


「ただ、悪天候だったら中止にしよう。衛星と星で、今日なんかは結構明るかったけどね」


「そこら辺はアギーラの判断に任せるわ。急がなくても食料も水もたっぷりあるし。安全第一でゆっくり行こう」


「じゃぁ、まずはみんなに昼夜逆転生活に慣れて貰わないと…」


 ◇◇◇


 数日かけて、みんなで昼夜逆転生活を送る。

 パケパはナップサックの中で寝ててくれても良いから、好きに寝起きしてもらおうと思ったんだけど、結局は一緒になって夜更かししてくれている。

 

 とにかくダットンさんが心配だったけど、蓋を開ければ、ソウさんがすぐ寝ちゃう方が問題なくらいだった。

 ソウさんは護衛があるから…お芋ちゃんがつっつきまわして起こしてくれてるけど…大丈夫かしら…。


 アギーラの数度の偵察によると、少なくとも日没以降に移動する人はいなかった。少なくとも夜間移動する人影は確認できなかったって。ツガイコウモリ便も夜間は飛行してないらしいし、人の動き的には合格。


 国境越えをわざわざ夜間にする人なんて、それこそ早馬くらいだろうけど、国越えする早馬が通るのは相当稀なんじゃないかな。


 それにさ、早馬を走らせる人が、もし私達を見かけたとしても、無駄に首を突っ込んでは来ないと思うのよ。だって早馬だもん。お急ぎだから早馬な訳で…いちいちこっちの事を確認なんてしてこない…はず。


「ベル、そろそろ行くよ~!」


「はーい!」


 いざ、深夜の行進。行ってきます!

誤字報告、ありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ