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(た)(す)(け)(る)(?)

 なんだ?あれは…なんなんだよ!

 ここに、この塔に動物が入ってきた事は一度たりともない。

 意を決してもう一度鎧戸の方を見やる。


 そこには小さな…トカゲ?と、飛んでる!?


 しばらくは状況が呑み込めずに混乱していたが、襲い掛かってくるわけでもない小屋の外にいるトカゲから目を離せずにいたら、少しずつ冷静になってきた。


 だって…よく考えたら俺達には盗られるものなんて何もないじゃないか。

 何を怖がる事があるってんだよ。


 ここで食われて終わるのも一興なんじゃないか?

 じいさんも食われちまうかもしれんが…もう意識もないんだ。二人で最期を…こんなかたちで迎えるのも悪くない気がしてきた。


 それにしても…妙な奴だ。

 翼のあるトカゲは、何か大きな板を抱えて…その場でただ浮遊していた。

 なんとなくだが、こちらの様子をじっと伺っているようにも見える。


 じっとただただこちらを見つめるトカゲ。

 不思議な事に敵意やその手の緊張は一切感じなかった。

 

 対峙する事しばし。やがてトカゲは一人納得したようにコクンコクンと肯くと、大きな板をこちらにぐいぐいと見せつけてきた。


 不思議な事に翼を持つトカゲがその板から手を放しても、その板は空中に浮いたままだ。

 よくよく見るとトカゲの周りに二つのぼんやりとした光を感じる。

 

 その一つが板を支えているようにも見えるが…これは魔術の類だろうか。もう一つの光はただ周りで浮遊しているだけだった。


 翼の生えたトカゲのような生き物が、小さな手で手招きをしている。

 その動きはやたらに愛らしく、恐怖はいつの間にか消え失せていた。

 俺は思い切って一歩、もう一歩とトカゲに近づいてみる。


 トカゲが宙に浮いている板を見るようにと、促すような仕草をしきりととっている。

 その板をよく見れば、俺の…俺達が使っている文字がたくさん並んでいた。


 一番上に“はい/いいえ”と大きく書いてあり、その下には文字と記号。

 これは…明らかに人の手によるものだ。

 これを俺にどうしろと…?


 そこまで考えたところで、トカゲが小さな手で一つずつゆっくりと板の文字を指している事に気がついた。

 このトカゲ、人の文字を理解してるのか?

 何かを…俺に伝えようとしているのか?

 

(た)


(す)


(け)


(る)


(?)


 小さなトカゲの小さな手は何度も何度も繰り返す。


 た…す…け…る…?


 たすける…助ける!

 

 た、助けてくれるっていうのか?


 トカゲは次はお前の番だと言わんばかりに、板を俺の方へと突き出してくる。俺は思わず小屋から飛び出して、必死に板に書かれた文字をゆび指した。


(じいさんがしにそう。どうかちじょうでさいごを。たのむ、たすけてくれ)


 トカゲは大きく肯いた。

 翼の生えた小さなトカゲと二つの光はあっという間に視界から消えてしまった。


 これは現実…だよ…な?


「じいさん、じいさん。なんだかよくわからないが…もしかしたら…」


 小屋へ戻ってじいさんに話しかけるが、じいさんはもう、目を閉じたままで苦しそうに息をしているだけだった。


 どういう奴らかなんてどうでもいい。

 どうか…どうか…間に合ってくれ。


 ◇◇◇


 只今、塔をただただ超ガン見しております。

 塔には出入口がちゃんとついてるから、人の出入りは出来る。って、あたりまえかっ!


 でも、その扉には遠目でもわかるくらいな…もの凄い頑丈そうな鎖みたいなものがグルグル巻きにされてて、鍵がかかってんのよ。

 ほら、脱出系のマジックなんかで、派手に鎖をぐるぐる巻きにするでしょ?あんな感じ。


 どんな人が住んでるんだろう。

 塔の()()からグルグル巻きの鎖と鍵が付いてるって事は、やっぱり幽閉とか、そういう扱いなんだろうなぁ。


「パトナ、あんまり塔に近づかないでね」

 

 さっきからきょろきょろと興味津々な様子のパトナに釘をさしておく。


<ベルは心配性~!>


 パトナはケタケタ笑ってるけど、ケサラとパサラも、ここは風が歪んでるから嫌いだって言ってるし…みんな小さいからさ、何かしらの悪影響とかあったら嫌だなぁ。

 ま、私は依然として何にも感じませんけどもね。ちぇっ。


 きっと…アギーラの言っていた通り、なんらかの魔道具があるんだろうね。

 アギーラがたった数年でステルスマントなんてものを開発できたんだから、そういう…建物を隠蔽する魔道具なんかが、すでにこの世界にあったとしても、おかしくないとは思うのよ。


 そんな話をヒソヒソとパケパとしていたら、アギーラとソウさん、お芋ちゃんが塔の上からもの凄いスピードで戻ってきた。


<ベル、時間がない。じいさんが死にそうだと…最後に塔から出してやりたいと言っておる>


【たすけてって言ってた。あの人達は大丈夫だよ】


<ベル…なんとか助けてやれないか?>


 うーん。


 あのグルグル巻きの鎖と鍵を壊したら突入出来るだろうけど、後々問題があるかもしれない。

 でもあんまりタラタラしてたら誰かが来ちゃうかもしれないし…鍵を壊すしかないかなぁ…。


 うーん、うーん。


 あ、アギーラ作成逃亡グッズ!

 大量のS字フックとか、すっごく丈夫な長~い縄とか…これ何に使うのさ!って思ってたけど…まさかこんなにすぐに役に立つことがあろうとは。


 いや、縄はワニの時に既に使って十分に役に立ってたけども、アギーラ恐るべし!

 ごそごそとマイ収納からグッズを諸々取り出して、ソウさんに縄の先端を渡す。


「これを塔にしっかり結んで…あとはこの曲がるS字フックってやつを綱にかけて…こうしてああして…って、出来る?」


【おじさんに聞いてみる!】


(僕の荷物の中に革の手袋がある)


「助かる。それはおじさんにはめて貰おう」


 私の救出作戦を理解したアギーラが助け舟を出してくれた。

 救出作戦って言っても、ただ縄を使って地上に降りてくるベタな作戦だけどね。魔力なんてものがこの世界にはあるからさ…私達にだって出来る事があると思うの。


「ケサラ、パサラ、お願いがあるの。あの塔のてっぺんから縄をつたって人が二人降りてくるからね、風の力で…急激に降下、落ちてこないように助けてあげて欲しいんだ。私も、浮遊の力を使ってみるよ。一緒に助けてくれる?」


【【わかった!】】


「クロノスケは大きくなって、この縄をひっぱっていてくれないかな」


 私が話しかけている途中で、すでにクロノスケが大きな姿へと変わっていく。

 小さいクロノスケでも馬力…犬力?は相当あるみたいだから、小さくても大丈夫なのかもしれないけど、見た目って結構大事だと思うの…私の気持ち的に。


 木に引っ掛けてしっかりと結んだ縄。よほどのことがなきゃ大丈夫だとは思うけど、保険として、その縄の先端をクロノスケに咥えさせた。


「上から人が縄をつたって降りてくるからね。この縄を…離さないでひっぱっていて欲しいの。出来る?」


<グルル…>


 口に縄を咥えたクロノスケ。コクンコクンと頷いた。

 やっぱり言葉がわかってるんだ…。


「お願いクロノスケ、私を助けてね!」


<グルル…>


 ソウさんが再び塔の上から戻ってきた。


「あとは、おじさんにはおじいさんをおんぶしてもらってね。あ…これ、おんぶ紐なんだけど使えるかも!使い方がわかんないだろうから、とにかくこの紐でおじいさんをおじさんにしっかり固定するようにって伝えて。ソウさんが手伝えば出来ると思うから」


【わかった!】


「ケサラ、パサラ、クロノスケ、準備は良い?パトナは全体的に状況を見て、何か変化があった時に私に教えて欲しいの。できる?」


<【【任せて!】】>

<グルルルル…>


 塔の上を見ていたら、おじさんが顔を出してきた。私が叫ぼうとしたら、アギーラが人差し指で「しぃ」と慌てたようにポーズをとった。


 ‥‥‥。


 話しちゃダメって事…?


 やっぱりここには、何かがあるんだろう。盗聴器みたいな魔道具なんてものもあるのかもしれない。

 大きく肯いて、オーライオーライのジェスチャーを繰り返した。


 やがておじさんがおじいさんらしき人物を背負い、縄に付けたS字フックに手をかけ…ここからは私たちの出番。

 浮遊の力、お願い!あの二人をゆっくり地上へ!!

 すでにケサラとパサラは、おじさんの両肩あたりで必死に風を操っている。


 おじさんがおじいさんを背負って縄をつたって降りて…くっ…大人二人分、さすがに重い。汗がどっと噴き出す。

 ちょっとでも気を抜くと、あのおじさん達がもの凄い速度で落ちてきそう。


 ケサラとパサラも必死に風の流れを作って、おじさん達を浮かせてくれてるけど、ピンポイントで人間を…しかも二人も浮かすなんてそうそう出来る事じゃない。


 ――ズル…ズルルルル


 あぁ!

 これは…重すぎる。

 おじさん達の体が一瞬、大きく空中で傾いた。


 ――グラリッ


 もう、ダメ!

 これじゃ、力が押し負けてしまう。


 思わず目をギュッと瞑りかけたその瞬間、私の肩ごしにパトナがまばゆい光を放った。


「…パ、パトナ?」


<ベルに…力を…!>


 パトナからの光が私の中にどんどん流れ込む。

 体の中で自分の魔力とパトナの発した光が融合していくのがわかった。


 パトナの力…なんて強い、力。

 でも、これなら…

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