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まさかの異世界deアゲイン

 森の中を爆走していたら、誰かがナップサックの中から私の背中をトントンしてきた。たぶんサイズ的にお芋ちゃんだな。


 結局、不安だからってクロノスケもナップサックに入ってもらってるの。

 お芋ちゃんがクロノスケは足が凄く速いって言ってたけどさ…迷子になっちゃったら可哀想じゃん。

 

 パケパ芋がキツいだの狭いだのぶうぶう文句を言ってたけど…苦情は一切受け付けませんからね。


<ベル、すまん>


「お芋ちゃん、どうかしたの?」


 キツい狭いの苦情じゃないみたい。お芋ちゃんがシリアスモード。


<少し妙な感じがする…何かがおかしい>


「アギーラもそんな事言ってたけど、妙な感じってなぁに?」


<僅かだが…わざわざ立ち入りたくはない気にさせられるというか…妨害されているというか…>


(アギーラ、お芋ちゃんが妙な感じがするって言ってるんだけど)


(やっぱり?僕も!だんだん妙な感じが強くなってきてて…これ、なんなんだろう)


 ソウさんに聞いたら、妙な感じはあるけど大丈夫じゃないかなぁ、だってさ。え?なに??パケパも変だなって思ってたの???


 でたよでたよ~。


 霊感が強いんだっていう友達が一斉に「この部屋になんかいる!」って言って泣き出した修学旅行と同じ空気よ、これ。あの何とも言えない疎外感、まさかの異世界deアゲイン。


 ◇◇◇


 若干いじけ気味の私に半透明アギーラはステイと命じ、はるか上空へと飛んで行ってしまった。アギーラはこういう時の斥候役も引き受けてくれてるんだ。


 川沿いを行ければいいんだけどさぁ、ジネヴラに行く道がここらへんはがっつり川沿いらしくて。森の中を進まないと道から丸見えになっちゃうんだって。


 えー!そこまでする必要ある?普通に道、走っちゃおうぜ~。…とかさ、ちょっとだけ思ったけど、ガイアさんのあの真剣な顔を思い出すと、それも言い出せないっていうね。

 さてと…私は植物採取でもしましょうかね。

 

 見た事のない植物があったりして、なかなかに楽しい。

 迷子にならないようにパケパ芋ノスケが周りをウロウロしてくれてるから安心して採取できるってもんよね~。

 

 あっちフラフラこっちフラフラ、木の実を取ったり食べたりしていたら、アギーラがもの凄い勢いで戻ってきた。


(大変大変!)


(ど、どうしたの?)


(この先に塔があった!)


(あー、そうなんだ。迂回したほうが良い?)


(場所的に塔の横を通って行った方が道が楽なんだけど…じゃなくてっ!あのさ、塔の上にちっちゃな小屋があって)


(塔の上に小屋!凄い建築観!!)


(僕も思わずガン見しちゃった。だけど…)


(だけど?)


(その小屋の屋根にさ、“たすけて”って…)


(うわーまじかー…)


(まじ)


(どうする?)


(塔に近づくにつれて妙な感覚が強くなったんだ。この変な感覚はこの塔のせいだよ。たぶんだけど…なにかの妨害系魔道具があるんだと思う)


(たすけてかぁ…スルーすべきなんだろうなぁ。ほら、我らは一応逃亡の身だし)


(うん…でもさ…無理矢理突破すれば塔に近づけなくもなかったから、ちょっと小屋の中を覗けたんだけど…)


(誰か居たりした…とか?)


(うん…すっごく弱ってるっぽいおじいちゃんとおじさんがいたよ。おじさんがベッドに寝てるおじいちゃんの面倒見てる感じだった)


(どうする?助けられる様なら助けてあげたいけど…塔って事は、悪いことして幽閉されてる可能性もあるよね?)


(そうなんだよなぁ。でも言い方は悪いけど、幽閉されるような…身分の高い人には見えなかった。平民はさ、塔に幽閉なんてされないでしょ?それと…おじさんが、この俯瞰の状態の僕を“見た”気がするんだよ。ねぇ…やっぱりもう一回…見に行ってきても良い?)


(もちろん。そこまで聞いちゃったら気になるし。危険な感じはなかったんだよね?)


(妙な感覚以外は特に危険は感じなかった…あのおじさんと意思の疎通が出来れば良いんだけど)


 “見た気がする”ってくらいじゃ、半透明アギーラとは会話なんてできないだろう。

 意思の疎通、ねぇ…


(あっ!これでいけるんじゃない?)


 半透明アギーラとの意思疎通用文字ボードをソウさんに持たせてみた。

 文字ボードを抱えて飛ぶソウさん。お芋ちゃんがソウさんの後ろから、文字ボードを一緒に支えてくれている。


「ソウさんとお芋ちゃんに一緒に行ってもらうって事で…まずはこれで意思の疎通が図れるか試してみたらどう?私達はステルスマントを羽織って塔の傍で隠れてるから。ヤバい時は全員全速力で逃げるってのでどうよ」


 もしもの時は、エリーゼ湖とロードスター川が交差する地点、今朝まで過ごしていた地点に集合するって事に決めて、いざ、作戦決行!


 ‥‥‥。

 

 あれ?…みんなが妙に私をチラチラ見てくるんですけど、これ如何に。

 だ、大丈夫よ。私だってちゃんと戻れますってば!


 確かに私が戻れるかは少~し心配ではあるけど、ケサラとパサラはナップサックの中にずっと居てくれるって…きっと大丈夫。クロノスケとパトナもいるし…大丈夫…な、ハズ。


(ベル、もし迷子になったら僕が渡した色煙高筒の小さいバージョン、あれを使うんだよ)


 行商とかする人が雇う御者さんや護衛の冒険者さんが携帯しているっていう、安全グッズの一つで色煙高筒って言うのがあるんだけど、それをアギーラが小さいバージョンにして持たせてくれてるの。

 

 打ち上げ花火の筒みたいな見た目で、本物の色煙高筒よりはサイズも効果範囲も小さいらしいけど、そこそこ近くだったら絶対に見つけられるからって。

 

 いつもいつも迷惑かけてすまないねぇ…

 

◇◇◇


 思ったよりまじもんの塔だった。すっごく立派なやつ。

 アギーラ達を見送って、只今、塔の側で息をひそめて潜伏中でございます。

 この塔の上に小屋って…下からじゃ見えないけど、なかなか興味深い建築というかなんというか…ずいぶんと個性的だよね。

 

 この世界の建物ってさ、ほぼ平屋か2階建てなの。孤児院も教会も2階建て。

 ミネラリアにある貴族が住む区画の屋敷でマックス3階建てらしいし、高層ビルなんてない。

 

 そりゃさ、王都なんかはもっと高い建物があるのかもしれないけど、少なくともエリーゼ湖ごしにみた王都は摩天楼な雰囲気なんてまったくなかったし。

 そんな低層建築からのまさかの塔だもんなぁ。しかもこんな場所に。

 考えれば考える程、ヤバい気しかしてこない。


 高貴な身分の犯罪者なんかが幽閉されてる可能性がめちゃくちゃ高いと思うのよ。アギーラは見た目、そんな感じしなかったって、それはそれでなんだか色々失礼な事言ってたけど。訳あり臭、ぷんぷんだよ。

 犯罪絡み案件じゃなきゃいいなぁ…


 ◆◆◆


「じいさん、じいさん…しっかりしろ。もうちょっと…頑張ってくれよ」


 俺はバズ。

 星詠みっていう珍しいスキルがある事がわかり、実の親に、はした金で国に売り飛ばされた男だ。


 この塔に幽閉され、気付けばもう何年もの月日が経過していた。

 俺の前任である星詠みの先輩が、とうとう動けなくなっちまった。


 そもそも、自分の死期を悟った為に、後継の俺がこの塔に入った訳だから、ある程度はこういう事も覚悟はしてたんだがな。

 それでも…出来るだけじいさんにも日光浴をさせ、足を動かしたり、マッサージしたり、色々試みていくうちに、少し持ち直して…ずっと二人でこの塔で暮らしてきたんだよ。


 ここいらが限界か…こんな塔に閉じ込められてなきゃ、もっともっと長生きできただろうに…くそっ。


 じいさんによると、俺がこの塔…星詠みの塔に入った頃より少し前から、この世界では妙な事が起こるようになったらしい。


 まずは大量の巨大瘴気の発生。これはユスティーナには起こっていないが、もう一つの妙な出来事がこの国では起こっている。


 二つのとてつもない膨大な魔素…魔力がこの地に顕現したんだ。

 

 俺もこの塔に入ってからは、その力の動向はチェックしているが…じいさん曰く、ここいらの魔素がやけに活発になって超巨大ダンジョンが出来たり、この地から長く遠ざかっていた聖なる者たちが、再び姿を現わし始めているのは、その魔力のせいじゃないかって…。


 俺にはそこまでわからないけど…じいさんが言うならそうなんだろう。


 瘴気なんかの発生は伝えているが、もちろん他の事はあのボンクラ王家の奴らには伝えていない。伝えてはいないが…この世界で今、何かが確実に起こり始めている事は確かなんだと思う。


 なぁ、じいさん。この妙な出来事の成り行きを、ここで…二人で眺めてひっそり楽しもうって笑ってたじゃないか…。


 俺を…ここに置いて一人で逝かないでくれよ…


 ◆◆◆


 とうとうじいさんの足がうっ血してきた。

 俺に出来る事はマッサージしてやる事くらい。あとはもう、最期を看取るだけだろう。

 短い間だったけど、親より親らしいじいさんに出会えて…俺は幸せ者だったよ。

 次にここに来る奴にもさ、俺は…じいさんが俺にしてくれたみたいにしてやれるかな。


 ――‥‥‥


 な、なんだ?今、妙な視線が…。


 じいさんは眠ったままだし、ここは…星詠みの塔の上の小屋。

 決まった日にしか人は来ないし、動物はおろか、鳥やら虫すらも変な魔道具のせいで寄り付いても来ないはずなのに。


 ――‥‥‥


 やっぱり誰かいる気がしてならない。

 俺…とうとう頭がヤバくなってきたのかもしれない。


 ◆◆◆


 じいさんの体を拭いてやる。

 あばらが浮き上がった小さな体。

 ここ数日で一段と小さくなっちまった気がする。

 もう…目を開ける事もない。


 唯一の家族だと思ってるんだ。

 もう少し、もう少しだけ…。


 ――コンコン


 鎧戸を叩く音が…幻聴が聞こえるなんて、まったく柄じゃねぇ。

 

 さてと…ちょいと空気の入れ替えでもするかな。

 塔の上は風が凄いからと、少しだけ開けていた二重の鎧戸を一つ、思い切って全部どける事にした。

 

 外から一気に小屋の中に風が…え…?

 

 ――‥‥‥


 鎧戸の間から覗く…大きな瞳。


 俺は思わずその場で尻もちをついて、ずりずりと後ろに下がる。

 みっともないとか言わないでほしいもんだな。

 だって…こんな事、ある訳がないんだよ、この塔では。


 なんだ?あれは…なんなんだよ!

 ここに、この塔に動物が入ってきた事は一度たりともない。

 意を決してもう一度鎧戸の方を見やる。


 そこには小さな…トカゲ?と、飛んでる!?

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