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アギーラ、迷ったってよ。

 かなり早い時間に小屋を設置したから夕ご飯を食べて片づけ終わっても、まだ日は落ちない。

 外にハンモックやらロッキングチェアを出して、みんなで夕涼みしよう。

 

 私は夕涼みがてらアギーラがくれたスケルトンマントに、ちょいと刺繍をマシマシとカスタマイズしたりして、食後のひと時を過ごす事にした。

 ちなみにパケパ芋とソウさんはクロノスケに寄っかかってボケェってしてる。ボケェって。盗撮すっぞ!


 湖とそこから分岐する川のほとりに小屋を建てたんだけど、ここ、いい所なのよ~。たまに刺繍から目をあげると、どこを見ても絶景という…なんこれ優雅。


 ――ゆらゆら


 ソウさんが風呂場で出した大量の氷を桶に入れて、薬草茶のピッチャーを冷やしてるんだ。冷たい薬草茶をみんなで食後のお茶としていただいたりしながら夕涼みなんて最高やん…。


 今年は冬になったら絶対に天然の氷を大量ゲットするつもりだけど、今もらえる氷はすっごく嬉しい。ソウさんには出来るだけ逃亡中に沢山作って貰おう。


 だってさ、お芋ちゃんと妙ちくりんな戦いを繰り広げてるんだけど…ソウさんったら氷を相当量作れるんだもん。ありゃ魔力が相当あるんだと思うのよ。だから思いっきり氷を作って貰おうってね~。


 ――ゆらゆら


 贅沢やん…これが逃亡者生活って事をうっかり忘れてしまいそうなくらい。

 組み立て式のスタンド付きハンモックもロッキングチェアもめっちゃ居心地良き。メイドインアギーラ、ありがとう!


 パケパ芋やソウさんは小屋の周りをウロウロし始めたけど、クロノスケはハンモックが気に入ったらしくて、さっきからず~っと居座って微動だにしない。

 この子はとっても寛ぎ上手。泰然自若というかなんというか…図々しいとも言う気がしないでもないけど…可愛いから許す。


 ――ゆらゆら


 ――ゆらゆら


 ◇◇◇


 はっ、寝てしまった!


 いつの間にか、もこもこ毛布にくるまれている私。ハンモックでクロノスケと一緒に爆睡してしまっていた。ちなみにソウさんとお芋ちゃんは…まだ対決してた!


 氷vs炎


 二人共、ほんっとに好きだよねぇ。

 まぁ、ここなら誰もいないし、湖の水があるから良いかな。お芋ちゃんがとんでもない事しでかしても、みんなで消火できるはず…。


「最後は絶対氷にして、私に全部頂戴ね~」


<【わかった!】>


 さてと…私はそろそろ家に入ろっかな。変な鳴き声が聞こえる時もあるし…日が暮れてくるとさすがに恐い。

 

 家に入ると、パケパ芋ノスケとソウさんが後ろから続々とついてきた。

 氷の入った桶をクロノスケが引きずって持ってきてくれる。

 小さくなっても力持ちなんだなぁ…大きなクロノスケと同じパワーがあるのかしら。だったらそれはそれで凄いわよね。


 氷を速攻マイ収納にポイポイして諸々お片づけして…あら?いつの間にかみんなが団子みたいになって、部屋の片隅、床の上で寝てしまっていた。


 ダイニングにもみんなが休める場所を作った方が良いかも。

 ソウさんは私お手製の籠で寝起きしてるけど、パケパ芋ノスケは私と一緒に寝室のベッドで寝てるんだよね。ダイニングにも休憩所、作ってあげたいなぁ。


 ソウさんの籠の大きいバージョンって感じの…木箱の中にタオルやらクッションをたくさん入れて作ってみようかな。

 作りかけのラグマットを逃亡中に仕上げて、それを下に敷いたら可愛いんでないの?ついでに部屋のカーテンとお揃いのクッションとか…色々やっちゃおうかな…。カフェカーテンみたいなのを吊るすだけでもずいぶん雰囲気が違ってくると思うし。


 ベッドの上で寝転がりながら部屋の模様替えを画策。

 アギーラにこの小屋をお返しする時に呆れられない程度に…少しくらいなら良いと思うのよね~。

 さっそく小屋改造計画をガンガン練りつつも、手はクロノスケをぐりぐりとなでくりまわしてしまう。


 ――もふもふもふもふ


 はぁぁ…クロノスケがもふっとしていて幸せ。

 ケサラとパサラとはまた違う手触りなのだよ。

 あれも良いけどこれも良いってね。ぐふふ。


 ――もふもふもふもふ


 おやすみなさーい!


 ◇◇◇


 ――パチリ

 

 変な時間に眠っちゃったからか、真夜中に目が覚めてしまった。

 時刻は…深夜2時。


 パケパ芋ノスケ団子が足元でぐっすり眠ってるから、起こさないようにそっとベッドを抜け出す。ソウさんも起こさないようにこっそりと…。


 湖面が綺麗だったからさ、深夜の雰囲気ってどんな感じになるか…ちょっとだけ見てみたいじゃん。


 どれどれ、どんな感じ?


 うわ~、ヤバーい。やっぱ綺麗だわ。

 闇と静寂に支配された森と湖。 

 綺麗だけど…ずっと見てるとちょっと怖くなってくるわね。


 ‥‥‥。


 ん…?


 あれは…なんだろう…。


 湖の先、王都…何やらキラキラした小さなものが流動してる…?

 遠くてよく見えないけど…すっごく綺麗。


 まるで…魔素だまりの土が舞ってるみたい。

 こういう自然現象でもあるのかしら。


 異世界ってホント不思議や…


 ◇◇◇


「はい、おはよう!おはよう!!みんな、起きて~」


 ソウさんもパケパ芋ノスケも、もれなく全員ねぼすけ隊長だという事が判明。

 ここは私がしっかりしなくてはいかん!孤児院の規則正しい生活がまさかここで役に立つとは思いもせんかった!!


 ぼけーっとしている全員に朝ご飯を食べさせて小屋から追い出す事に成功したワタクシ、小屋を手早く収納して、テーブルだけを出した状態で半透明アギーラの到着を待つことしばし。


 パケパ芋ノスケが朝の散策に行っている間にアギーラがやってきた。

 テーブルに置いた文字ボードと手描きの地図を使って、アギーラとソウさんと今日の大まかな行動の確認をするんだ。


 本日の行程はロードスター川を右手に見ながら、ひたすら北上してジネヴラ方面に進む予定。

 ロードスター川の左側にはジネヴラに続く道があるから、そっち側は避けて進むんだってさ。川より少し王都寄りの森の中を突き進んで行くという行程となります、だそうです。


 三人でふんふん言いながら確認していたら、パケパ芋ノスケが外から戻ってきた。


 ふふふ、アギーラがクロノスケに気付いたぞ。

 めっちゃガン見してる。驚いてる驚いてる。可愛かろう?


(このワンコね、本当はもっと大きいんだよ)


(え!?サイズが変わるの?)


「クロノスケ~、大きくなれる?最初に会った時のサイズになってみてくれない?」


<キャン>


 ぐんぐんぐんって大きくなっていくクロノスケ。

 絶対に私の話してる言葉を理解してるよ。


 でかいでしょ~良いでしょ~!

 このサイズでも是非もふらせてもらいたいですなぁ。

 しれっと近づいて…ちょっとだけもふる。


 ――もふもふもふもふ


 あは。幸せ。


 って…あれ…?そう言えば黒い大きな犬の話ってさ、どっかで聞いたような気がしたようなしなかったような…あれ、したよね?…あれれ??


(この犬…精霊の祈り木の所にいた、あの犬じゃないか!?)


(え、そうなの?)


 そう言えば、アギーラがずっと見かけていた大きな黒い犬が、突然姿を消して…すっごく心配してたんだった!


 ‥‥‥。


 ごめんアギーラ。

 その話、今の今まですっかり…きれいさっぱり忘れていたよ。


(この犬、間違いないよ。生きてたんだ…良かった…)


(そこの…川沿いで会ったの。クロノスケって呼んだら…勝手に名前が付いちゃったみたいなんだけど…お芋ちゃんが“黒の者”だって言ってたよ。もしかしたらだけど、闇魔法の“黒”って意味かなって思ってるんだけど、本当の所はわかんない)


 すっかり忘れていた事が若干後ろめたいもんだから、言い訳がましく聞かれてもいない闇魔法の話なんてしちゃったりして。人ってこういうとこ、あるわよね。…私だけかしら。

 

 空中に漂う半透明アギーラを、ティーカッププードルサイズのクロノスケが見上げている。

 あ、これは絶対に半透明アギーラが見えてるパターンのやつやん。

 クロノスケはこれで全員が見えてるって事になるね!私と一緒。おそろいおそろい。


 しかもしつこ~くアギーラの事をクンカクンカしてるって事は、匂いもわかってるって事かもしれないぞ。

 私とおそろいかと思ったら、クロノスケの方が一段も二段もうわてだった的な…。


 そう言えば、最初に出会った時に小屋の前で伏せして動かなかったのって、アギーラの匂いが小屋に残ってたからだったりして。

 その場合、私にうっかり名付けられてるクロノスケは…あ、私よりうわてかもしれないけど、なんだか可哀想になってきたぞ…


 ◇◇◇


 半透明アギーラが心配していたワンコとの再会を一通り喜び終わり、逃亡スタート。

 しばらくは順調だったんだけど、アギーラが途中からいつもとは違う動きを先程から見せておりますよ。

 

 さらに暫くすると、先頭を飛んでいたアギーラが首をかしげながら振り返って私たちの方に向かってくる。

 え…なになに?どうしたん??


 ふんふん…ふんふん…ふーん。


 アギーラ、迷ったってよ。


 そうなんだ。いや~、迷ったって言われても私も全くわかんないからさ、「じゃぁ、今日は適当に行こうぜ~!」って言ったら露骨に嫌な顔されちゃった。

 アギーラって旅行とか行ったらさ、分単位計画ばっちり立てちゃうタイプだと思うなぁ。


 私の発言を華麗に無視した半透明アギーラは、森を超上空から見て位置を把握してくるって言って、あっという間に飛び立ってしまった。

 

 私はアギーラから逃亡グッズとしてもらってたワンタッチテントを出してみたり、パケパ芋ノスケとソウさんにお茶を出してみたり。そしてみんなで柿チップスをポリポリしてみたり。


 テント、便利よ~。私たちがつけてるステルスマントと同じステルス機能の付いたワンタッチテント。お試しで使ってみたんだけど、何気に凄い。

 どういう仕組みかわかんないけど、下が…地面との接触面が全くゴツゴツしてないの。エアクッションみたいな…なんだこれ。すっごい快適。

 

 快適テントの中でみんなでゴロンゴロンして遊んでいたら半透明アギーラが戻ってきた。迷わず戻ってきたから、ステルス機能って製作者本人にはステルスしないんだな~なんて思ってたら、外にお茶セットとテーブルが出てた。ステルスうんぬん関係ございませんでした…。


(いや~ごめんごめん。川の位置も確認できてるし、方向的にはあってるから、このまま進もう)


(わかった!ありがと~!!)


(事前偵察ではもっと高い位置で飛んでたんだけど…なんか方向感覚が狂っちゃったみたいで…今日の昼休憩予定地で泊る事にした方が良いかな)


(了解!)


 って事は、今日も自由時間がいっぱいじゃーん!

 パケパ芋ノスケ、たくさん遊べるよ~。


(でもさ…ちょっと変なんだよなぁ。なんかこう…弾かれたっていうか…勝手に方向がずれた感じがしたんだよ)


(弾かれた?)


(うん。よくわかんないけど…妙な感じ。方向感覚が狂っちゃったみたいな)


(へぇぇ、あれかな?富士の樹海だと磁石が全く使えない的なやつじゃない!)


(樹海、磁石が使えなくなるほどの影響なんてないけどね)


 え?そうなの!?


 って、異世界(地球)の雑学なんて今更どうでも良いけどさ…披露する場もないしね…別に良いんだけどさ…。


 なんで?なんで地球で私よりひと干支ほど少ない年月しか生活してなかったアギーラがそう言う事知ってて、私が知らないのかって事の方が…なんか…なんか…ぐやじい(悔しい)

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