洗濯機は偉大だったよ…。
どうも、アギーラです。異世界生活も早や二週間が経過したよ。
ありがたい事に言語系統は問題がなかったんだよね。転移補正みたいなやつかな。読み書きもできるのはありがたかった~。
認識がズレてないも確認しないとね。
1の次は3、5、7…なんてこともあるかもしれないからさ。常識のすり合わせは大事だよ。…ふんふんそうですかそうですか…大丈夫そう。
貨幣の種類を聞いたら、
草銭 十円
銅貨 百円
大銅貨 千円
銀貨 一万円
大銀貨 十万円
金貨 百万円
大金貨 一千万円
…単位は…ふんふん…。
良かった!十進法アイシテマ~ス!!
金銭の取り扱いは、現金かギルドカード。
ギルドに登録すれば、カードが発行されるんだって。それでお金を管理できるみたい。
便利そうだけど入会するにはお金もかかるし…いや、そもそも異世界知識ゼロの、か弱い僕がギルドに登録してどうするのさ…って事で、現金一択なんだよね。
その現金もシーラさんのですが…何か?
でも、いつかは中を覗いてみたいよなぁ。だって、ギルドだよ!異世界と言えば、『ギルドがあったらいいな~』って思うじゃん…え?思わないの?…とにかく、僕にとっては異世界ロマンなんだってば!
何度かシーラさんと一緒に食料の買出しへも行ったんだけど、それもすぐに一任されるようになったんだ。
物価も買出しのついでにと色々見てまわってるから、だいぶつかめてきているかな。普段の食材の買出しくらいではこれといって困る事もなくなってきたよ。
たださぁ…獣人って計算が苦手な人が多いらしくて、馴染みの店以外では獣人と見るや釣銭をぼったくられそうになるんだ。
しかーし!そんなことはゴリゴリの現役高校生だった滝ノ宮明には通用しない!!
使ってる計算は小学生レベルのものだけれどねっ!
他の獣人が騙されてるのだって見過ごさないぞ。
成敗してくれるわ。
◇◇◇
シーラさん宅の居候生活にも少しずつ慣れてはきたけれど、正直洗濯には手こずってる。
洗濯機は偉大だったよ…。
あーわかる!脱水でしょ?絞るのが大変なんでしょ?って思った?
残念、不正解。
僕は獣人なのです。アギーラは明より力がはるかに強かった。という訳で、絞りは問題ないんだけど…。
とにかく汚れが落ちないんだ。力だけでは如何ともしがたい汚れと日々格闘してるんだよ。
生産職だから汚れるのは仕方がないけど、それだけでもないのかも。
町でもメインストリートのごく一部やお屋敷街のほうなんかは、石畳が引いてあるけれども僕らの生活圏にはない。土埃と密集した生活スペースと…これはもう仕方がないよね。
あと、この異世界は油もそこそこ流通しているからそれも、関係してるかもしれない。
食用のものは、オリーブの油と花だか植物だかの油が、主に使われてるらしい。『食用』ってのが売ってるのを見ただけだから、詳しくはわからないや。ついでに言うとラードやバターもあるよ。
もっとついでに言うと、サイズ感がかなり違うけど、日本で食べていたような果物とか野菜もある。
転移当初はわからなかったけど、じゃがいもや玉ねぎなんかとっても大きいんだ。味的には、日本のスーパーで異世界産の野菜が混ざってても、気付かない自信がすごくある、なんて思ってたけど、これがもし日本のスーパーに並んでたら二度見するレベルだね。
獣人だから肉食かなって思うでしょ。なんかなぁ…最近、食に興味がなくなっちゃったんだよね。果物が食べたくなるくらいで、シーラさんにも食が細いって心配されてるんだけど。
こっちに転移させられてからは暫くは、もの珍しさと何だか知らない飢餓感みたいな感覚があって、バクバク食べてたんだけどなぁ。日本に居た頃は細かったけど、結構大食いだったんだ。
この頃はなんだか食欲がどこかに行っちゃったみたい。
自分でも不思議なんだけど…ただ成長期が終わっただけだったりして…え…怖っ。
…もっと色々沢山食べる事にしよう。
あれ?僕、何の話してたっけ…あぁ、油の話だったね。
工業用には鉱油?鉱物みたいなのから取れる油があるみたいなんだけど、それを抽出できるようになってから、一気に広まったみたい。道具類のメンテには油が必要不可欠。油がない時代は何を使ってたんだろうね…
はぁ…落ちないよね~油汚れ。制服の首回りとか、おっかない事になるでしょ?あれのヒドい感じ。さらに僕らは店舗と森の工房の往復だから…ぐぅぐるぅぅ。
わっ、無意識に犬みたいな声が出たぞ!すごい!!
油が流通してるからか石鹸はそんなに悪くないと思うんだよね。だけど手でいくらゴシゴシしても一向に汚れが落ちないんだ。
洗濯ってなかなか良い魔道具がないみたいで、みんな粛々と手で洗ってる。
生活魔法の一種、浄化魔法を持ってる人も、やっぱり水と石鹸でしっかり洗わないと、繊維の奥の汚れとかは落とせない人がほとんどじゃないかって。
最近は家で洗う人もいるみたいだけど、井戸が近くにあって、そこに共同洗濯場があるから、僕はそこを利用してるんだ。工房では川が近くにあるからそこでね。
石を使って叩いてみたり色々してみたんだけど、布が摩耗するだけでいまいちだった。ぬるま湯で石鹸を溶かした液につけおきみたいにしてから少し放置してから洗うのが一番良いかな。
いや、それなら木でゴリゴリしたらどうだ?なんて考えていたそんな時、思い出した洗濯板の存在。
使ったことはないけれど、洗濯板って洗濯機ができる前の時代にはポピュラーだったはず。
テレビで見たはずなんだけど…どんな感じだったかなぁ…。
◇◇◇
シーラさんに穴の開いた服を繕いたいからと。裁縫道具を借りるついでに、ナイフも借りられないかとお願いしてみる。そうしたら、これからナイフは色々と使うだろうからって、なんと新調してくれる事になった。シーラさん、親切すぎるんだ。
洗濯板に使う木はね、店舗にも工房にも乾いた木が沢山保管されてるから、それをわけてもらったんだ。
薪に使うのはもちろんだけど、魔道具の完成模型なんかを作る場合もあるみたいで、仕事にも使ってるんだって。
確かに、家具並みの大きな魔道具が痛いセンスだと辛いから、先にイメージをすり合わせるのって大事だよね。
え?木の種類?しらなーい。僕の直観で良い感じのやつをチョイスさ。
とりあえず、今あるナイフをお借りして、できるだけ平らな面になるようにしたり、面取りしたりしで加工していく。
もう少し滑らかにしたいなと思っていたら、チラチラ僕の作業を見ていたシーラさんが、仕事で使っているやすりを貸してくれた。…あは。あっという間に滑らかな仕上がりになったぞ。
…僕ってこんなに器用だったっけ。
やっぱり獣人で力が強いからかな。普通はナイフでは、こんなに綺麗に削れたりしないんだけどなぁ。
今度は同じ方向に何本も何本も溝を掘ろう。電動トリマー下さい…ミノでも…彫刻刀でも…なーんて、ブツブツ言いながら、1cm開けて1cm分を削って…繰り返し同じ作業を続ける。
木が折れたり割れたりしないかなって心配したけど、大丈夫みたいだ。選んだ木が良かったのかもしれない。削り終わってからやすりを丁寧にかける。
あ…ここまで作っといて今頃気付いた。
耐水加工なんてものは…ないよなぁ。綺麗に仕上がった凹凸のある面を、ささくれなどがないか無意識に何度も撫でつつ考える。水やら石鹸やら…汚れも木に染み込まないようにする?そんなものこの世界にあるかなぁ。
ぐぅぐるぅぅと無意識に唸りながら、僕は無心で板を撫でていた。
衣服のほうに影響のあるものは困るよね…