その素敵なブツを私にください!
その後も粛々と歩みを進め、夕闇の一歩手前で本日のお宿設置場所に到着。
川から風呂用のお水を魔道具の全自動ポンプで汲み上げて、浄水カートリッジを取り付けて…出来た~!
どれどれ…シャワーからお湯がちゃんと出るよ!偉大なるアギーラ様、ありがとう!!
「ソウさん!お風呂場の桶にお湯を張りましたよ~」
ぴょっこぴょっことソウさんが歩いてくる。
飛んでるソウさんか肩乗りソウさんばっかり見てたから、歩く姿は久々。歩き方、可愛いのよね~。
【ありがと】
ソウさん、水浴び…お湯浴びが大好きなんだって。
ウキウキとお風呂に向かうソウさんの後をお芋ちゃんが追って行った。
「あれ、お芋ちゃんも一緒に入るの?ちゃんとソウさんに許可取りなよ~」
<もう取ったからな!>
あらら?いつの間に仲良くなったんだい??
ま、仲良くしてくれるに越したことはないから良いけども。
お芋ちゃん、ソウさんをビビらせた自覚があるのね。歩み寄りってやつ?も~、大人芋なんだから。
さてさて…私は決して覗きなんてしませんことよ。夕食を作るんだからね。
ちなみにソウさんは戦闘、護衛、掃除と私の洗濯物の乾燥担当。ソウさんは生活魔法が使えるんだよ。だから、掃除やら洗濯物の乾燥なんかはお任せする事にしたの。きぃぃ、生活魔法がただただ羨ましい…。
私は台所全般と小屋設置担当。小屋設置って収納から出して浄化槽出してカチカチ回すだけだけどね!
私の分担が妙に少ないけど、それは子供割引よ。
あ、ソウさんも子供なんだった…へへへ。
洗濯はアギーラ製洗濯機があるから楽ちん~。魔道具の洗濯機はね、MAX80%程度水分をとばす事ができるの。
でも魔石がもったいないから生活魔法が使える人がいるなら魔法で乾燥させた方が良いし、ピーカンな時はもちろん天日がっベスト。
逃亡中、外に干すのは難しいからソウさんのお力で魔石を節約する所存です。
はっきりは聞いてないけど、私の服の乾燥程度じゃまったく魔力に問題なしって感じらしい。ソウさんも相当魔力が多いんじゃないかな。推測だけどね。
うーん、夕ご飯は何にしよう。
ノープランのまま手を動かす。とりあえず色んな野菜を下処理して…ストックを作っておけば無駄にはならないし、時短調理には欠かせない。
うぇーい、収納最高~!とか呟きながら、野菜の下処理で出た野菜くずを寸胴鍋に入れて水をたっぷりと。寸胴鍋はアギーラが小屋に置いておいてくれたものを使う。わかってるね~、アギーラ。
今は野菜くずしか入ってないけど、気分はすでにベテランの給食おばちゃん。
これはしばらくスープのベースにするつもりなんだ。食材が今は沢山あるけど、無駄遣いは厳禁。大事に使っていかないとね。
お肉は何があるかな…あ、私がレディーキラーディアの肉が好きだって言ったからかガイアさんが沢山買ってきてくれてる。今日はこれをシンプルに焼いてステーキで夕食にしよう!
ハーブブレンド(海塩入り)で下味をつけて焼いて…肉汁でじゃがいもとトマトも焼こう。トマトって焼くと美味しいよねぇ~。
じゃがいもはそのまま付け合わせにして、トマトは薄くスライスしたチーズと合わせよう。
あとはキャベツを切って少しの塩と少しの油、ロムロムひと絞りでモミモミして放置。パンは鉄板で軽く温めてバターを少し。
いやー、やっぱ鉄板ってすっごい使える。色んな料理が一気に出来るから便利よね。焼肉のタレなんかを作って、いつかはみんなで焼肉パーティーなんてやってみたいな。焼き肉のタレとか、漬け込み用のタレ、この世界でも需要があるかも…作ってみようかな…。
やばいやばい、逃亡初日からニンマリが止まらない。今朝は泣きそうだったのに、私ったら現金すぎ。いや~、子供ってこういうとこあるよね~。
アギーラが用意しておいてくれた深めのフライパンで、玉ねぎときのこを炒めて、じゃがいもを投入。ハーブブレンドをすり込んだ肉を少し、ローリエを一枚。
寸胴鍋から、野菜くずエキスをすくってフライパンへ入れる。
最後に牛乳をいれてひと煮立ち、塩で味を整えて…。
夕ご飯、出来たよ~!
あれ…ソウさん達、まだお風呂から戻ってきてないんだけど。
ちょいと遅くないかしら。
まさかとは思うけど、逃亡疲れで湯あたりしてたりして…。
――そわそわ
――そわそわ
「ソ、ソウさーん、お芋ちゃーん。大丈夫?」
洗面所の前で小さく叫ぶ。
いやだってさ、あんまり大声出しちゃうと、ここら辺に居るかもしれない獣とかの気を引いちゃうかもしれないから恐いんだもん。
かもしれないかもしれないで恐がるなって言われても、恐いものは恐いんだって。
ん…?中からボソボソと声が聞こえてくる。
扉に耳をつけて盗聴。
<これで勝ちはいただこう>
【余裕】
<クソ…やりおるな。これでどうだぁ!>
【負けなーい!】
騒いでるけど牧歌的。現場で事件はおこってなさそうだけど…何してんだろ。
――ドンドンドン
「おーい、君たち、何やってんの?ご飯出来たよ~!」
<ベルか!ちょっとこっちに来い>
「え?いや…なんとなく入りにくいんですけど…」
<なんでだ?>
「いやその何と言いますか…」
あたしゃ痴女じゃぁないんだよ。って二人共、そもそもが素っ裸だけどね。気分的な問題なのです。
【きゃはは】
あれれ?ソウさんが笑ってる!?
すっごい楽しそう。
<負けぬぞ…>
【受けて立つ!】
気、気になる…。
‥‥‥。
「二人共~、入るよ~」
欲望にあっさり負けた私。こ、子供だから良いんだもん。
<早く来い。面白いぞ>
【これでどうだー!】
「あんたたち…何やってんの?」
桶には大量の氷。
おいおい、私が入れたお湯はどうした、お湯は。
<ソウがな、こうやって氷を作るだろ?それを我が溶かすんだ。どっちが早く出来るかの勝負!>
凄い。ある意味凄いけど…終わりが見えない。なんだその遊びは…。
そしてお芋ちゃん。大人芋だと思った件、撤回しますからね。
【楽しいな!】
<次は外でやろう。ここではこれ以上はまずかろう>
【俺、お腹が空いた~】
<よし、早く体を洗ってしまおう>
まだ洗ってなかったんかーい!
いやいやいやいや、ちょっと待てよ。
その素敵なブツを私にください!
◇◇◇
<うわ~、御馳走~!>
「逃亡初日だからちょっと食材奮発しちゃった。明日からは逃亡者らしい食卓になりま~す」
<え~!けち~!!>
【食べても良い?】
「どうぞどうぞ。いただきます!」
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「本日はレディーキラーディアのステーキとミルクスープだよ。キャベツは口直しにどうぞ。焼きトマトとチーズはパンに乗せても美味しいから…みんなの分、のっけてもいいかな?」
ソウさん、小さいのにめっちゃ食べるんだよね…ミルクスープ、全然足りなかった。
あわよくば明日の朝食分になるかもって思ってたのに…。
明日からはもうちょっと多めに作ろうかな。
お皿を洗いながら食事量を一人給食センターの脳内反省会。
「疲れが取れる薬草茶を貰ったから、みんなで飲もうかね~」
グリンデルさんからもらった薬草茶。グリンデルさん、袋いっぱいに色んな薬草茶の茶葉を入れてくれてたんだよ。
煮出した薬草茶に私特製、キビ草で作った甘味をたっぷりと注ぐ。
こういう甘~い薬草茶って明日への活力!って感じがして良いのよね~。
あ!そうだ!!ソウさんのお陰で例のブツ…氷がいっぱいあるから、冷たいお茶が出来るじゃ~ん。
氷…口から出すのかな…とか…ちょっと思っちゃったけど、手の先から出してた。
これって、飲めるのかしら…うん…まぁ…しばらくは冷やす為だけに使おうかな。生活魔法で出す水は飲料水になるらしいけど…うん…まぁ…しばらくは…うん…。
薬草茶の鍋ごと氷で冷やして…アイス薬草茶!
こんなに冷たい飲み物はこの世界に来て初めてだよ。冷蔵庫もなければ氷もなかったからね。
冷蔵庫、この世界にもあるにはあるけど、すっごくお高いんだって。魔石の消費も半端ないらしいし…なにより、すっごく珍しい鳥の羽が手に入らないと作れない一品なんだって。
でも、いつかは手に入れたい。冷蔵庫を夢見る子供ってなんだかシュールなぁおい。
いや待てよ、この逃亡中にソウさんに氷をたくさん作って貰ってマイ収納に確保しておけば、冷蔵庫がなくてもひんやり生活をゲットできるんじゃ…。
いやいや待てよ、ソウさんに頼まなくとも、冬に川の水が凍った時、あの氷を収納しておけば、そもそも夏のひんやり生活がもっと前にゲットできてたんじゃ…。
――ちーん




