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未知と遭遇できない…

 いかんいかん、しっかりせにゃ。

 パシンコパシンコと頬を叩いて己を鼓舞する。

 

 嘆くばっかりじゃ駄目だよね。逃亡先で美味しい食べ物に巡り合えるかもしれないじゃん。

 こんな状況にはなっちゃったけども、未知の食べ物との遭遇を夢見て、前向きにいかなくっちゃ。


 あ…ガイアさんが年齢的に一人じゃ他領地の町に入れないって言ってた。


 未知と遭遇できない…

 

 ――ずーん


 先程とは違う種類のしょんぼりもさらにまといつつ、孤児院に別れを告げた。

 

 そして逃亡の第一歩を踏み出す。


 背負い籠派の薬草採取人スタイルで単身、町の検問を堂々と通過する。


 準成人で取得できるギルド会員カードではないけど、自分の情報が記載されている、お金の入出金用カードを門の所にいるおじさんに見せた。


 これって商人の子供なんかが持たされるカードらしいから、簡易な身分証明としての認知度は高いんだ。見た目が完全なる子供って事もあるし、これでなにか言われた事は一度もない。そんな便利カードなの。


 って、おじさん、まったく見てないけどもねん!

 今日だけは見て欲しいんだけどなぁ…。


「おはようございます」


「おや、お嬢ちゃん、採取でもしに行くのかい?」


「うん」


 自分より大きなカラッポの背負い籠を見せると、おじさんが破顔した。


「そうかそうか。気を付けて行きな」


「はぁい」


 自分の…ベル自身のカードを使って、セレスト方向へ向かう門からミネラリアを正式に出ていく。このおじさんがしかるべき時にしかるべき相手にしっかり証言してくれて、逃亡先がセレストだって思ってくれないかな作戦。


 アギーラ達の小屋がある方向だけど…シーラさんやアギーラに迷惑がかからない事を祈りつつ、やはりセレストに行ったと思わせる作戦が良いだろうってみんなで決めたんだ。


 私だって、え?ここまでする必要なくないっすか?って正直思ったんだけどね…国が絡んでたら、もの凄~くしつこいからって言われたんだ。


 なんでもユスティーナ国って、実は昔からちょいちょい色々とやらかしてるらしくて、きな臭い事には国やら中央に近い貴族やらが、裏に表に関与してる事が多いらしいのよ。これはグリンデルさん情報。

 

 名前からボンクラ王家なんて揶揄されてるし、初期学校の給食と町にある街灯以外は褒められてるのは聞いた事のない残念王家だけど…意外に暗黒面が強め感出てきちゃったよ…。これ本当だったら良い所が全然ないじゃん…ボンクラ…。


 ちなみにミネラリアの領主さんは貴族だけど、前領主も今の領主もとっても良い人らしい。ガイアさん達もそれがミネラリアへの定住の決め手になったんだって言ってた。住む場所がある程度自分で選べる職種なら、領主って結構重要なんだね。ふんふん、勉強になります。

 

 私も一度、あのアギーラ主催の魔石当てっこ大会で見かけたというか、舞台へ誘導した事があったけど、穏やかな感じの人だったなぁ。お付きの人もビクビクしてたりしなかったし。うんうん、皆楽しそうで良い事よ。よきに計らえ~的な感じの人だった。ぴらぴらした服も着てなかったし、地味で落ち着いた印象だったと記憶。


 良い人と言えば、ジネヴラ国にも良心ある貴族一族がいて、その貴族が治める領地に行ってみてはどうかって…あれもグリンデルさんが提案してくれたんだよね。グリンデルさんって情報通!って思ったら、実はジネヴラの出身なんだってさ。


 グリンデルさんが住んでた頃とは代替わりしちゃってるらしいけど、今代の領主は若いながらも信用に値する人物なんだってさ。なんなら、本当の事を話して相談に乗ってもらうのも良いんじゃないかって。


 信用に足る情報をさぞかしお持ちなんでしょうけども…グリンデルさんが信頼できるって言うなら、私もやぶさかではないけれども…。

 でもね…この連絡手段の限られた世界で、どんだけ遠隔地情報持ってんのよ、おっかないわ!って思ったのは私だけでしょうかね…ガイアさんも肯いてるだけだし…そんなもの…なのか…な?。


 ジネヴラの海側がその貴族の領地になってるらしいから、行き先的にはガイアさんと同じだし、丁度良いんじゃないかって話だった。

 出来ればそこまで行って…少し落ち着ける場所を探せればいいなぁ。


 ◇◇◇


 シーラさんの小屋に着いたら、驚いた事にアギーラの小屋があった場所に、新たに小さな小屋が出来ていた。

 アギーラってばまさかの秀吉戦法。昼だけど一夜城を作ってしまった。まぁ、秀吉はまったく一夜で築いてなかった。そもそも築いてなかったって話もあるけど、こっちはマジだから。

 掘っ立て小屋だけど、小屋は小屋。この短時間にダミーの小屋、作ったって…どんだけよ。

 

 そのアギーラ、どうりですっごい張り切ってると思ったら、最初っから俯瞰で逃亡アシストしてくれる気満々だったんだよ。すっごい上空から俯瞰で俯瞰できるから、道案内には自信あるって…。

 この恩、いずれ何かでお返しします。まったくあてはないけどな。


 半透明アギーラを先頭にソウさんと私が続く。

 速度は、半透明アギーラ>飛ぶソウさん>浮遊の私、の順。


 私が一番遅いんだよ…結構訓練してたのに、ビリッケツ。

 そりゃ普通の人から比べたら何倍も速いけどさぁ…ビリッケツよ?凹むわ。


 半透明アギーラはとにかく断トツで速い。だって、今やミネラリアから王都まで30分で行けるらしいからね。しかも戻りは一瞬で帰れるんだって言うから…それはさすがにチートすぎて、誰もかなわないでしょうよ。

 

 せめてソウさんには遅れをとらないようにって思って頑張ったけど…ソウさんもすっごく速くて完全に負けた。ううう…くそぅ、チートめ…。


 三人とパケパ芋でひたすら道なき道を走る。

 パケパ芋は迷子になると困るから、私のナップサックに入って貰ってるんだ。暫くはこのスタイルで走るつもり。


 ケサラとパサラは並走したそうだったけど、私の速度に合わせてゆっくり飛ぶと、突風にもっていかれる可能性もあるからね。

 でもナップサックの中に居るのも好きみたいだから、ぶうぶう言いつつもしぶしぶ納得してくれたんだ。      

 パトナとお芋ちゃんは、ナップサックに自ら喜んで飛び込んでいったから、あいつらは問題なーし。


 あ、半透明アギーラがこちらに向かって何やら合図を送ってきたぞ。

 あれは…休憩の合図!


 3時間ほど走ったところで、最初の休憩地点に到着。

 アギーラはこの休憩地点を、事前にピックアップしておいてくれたんだよ。すっごくありがたい。


 事前にアギーラに言われている通り、小屋を出してのしっかり休憩を取る事になった。

 暗くなってから馴れない小屋出しは大変だから、小屋の設置を少しでも慣らしておくべきだって言うんだもん。アギーラ逃亡プランに抜かりがなさ過ぎて若干引きつつ、小屋を設置する。


 次に浄化槽を設置。スライムを利用した浄化槽はカートリッジ式で、入れ替え式。スライム量が減ってきたらお取替えのサイン。なんだか聞いた事のある様なない様な、便利な仕組み。


 だいたい一つで一か月くらいは使えるだろうって。

 小屋の棚にびっしり大量にストックしてあるスライムカートリッジやらトイレ紙を見ると、なんだろう…安心…。


 飲料水は大量に樽に詰めておいてものを収納してあるから、上水道が使えない状態でも大丈夫なように飲み水の確保もできてる。収納に入れておけば、水も腐らないしね。なんだろう…すっごく安心…。


 お風呂や洗濯機で使う水は別タンクに川や湖の水を入れて、浄化しながら使うんだ。ちなみに海水でも大丈夫なんだって。こっちもやっぱりスライムカートリッジをつけての利用。


 この世界の便利番付はスライムとフワンフワが双頭で断トツトップだと思うわ。スライムたん、弱ーい!とか言ってた過去はしれっと撤回したい所存でございます。


 半透明アギーラは小屋を無事に私が設置したのを見届けると、めっちゃ良い笑顔でサムズアップして、ミネラリアへと戻って行った。

 

 この瞬間にも、もうミネラリアに戻ってるんだよなぁ。ほんと不思議な奴。

 半透明アギーラが戻ってきたら、ここを出発する予定って事にして、しばしの休息。

 ナップサックでずっと休憩してたパケパ芋は、お外で遊んできて貰おう。


「ご飯がすぐできるから、あんまり遠くに行かないでね。食べ損ねるよ~」


【【<<ギャー!>>】】


 さてと…私は昼食の用意。手早くパパっと済ませよう。

 マイ収納から唐揚げを取り出してキャベツを細かく刻んで黒ソースを少し、パンに乗せる。みんなが食べやすいようにミニオープンサンド状態でセッティング。これまたこっそり残しておいたコロッケにタルタル風マヨをたっぷりかけて…よし、昼ご飯の完成!

 

 昼食後、みんなでまったりしてたら半透明アギーラが戻ってきてくれた。小屋を収納して、また道なき道を走る。今はね、エリーゼ湖っていう、すっごい大きな湖を目指してるんだよ。


 逃亡中なのはわかってる。わかってるけど…湖で泳ぎたい!魚釣りしてみたい!!って思うのは、呑気すぎるだろうか…

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