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恐さも12倍

 十倍ってなん?十倍ってなんなん?ユスティーナなにやってくれてんねんブツブツブツ…と、私が背後にゴゴゴ…と擬音付きで謎の闇を背負い始めたのを、野生の勘で察知したらしいガイアさんが、話題を方向転換。今日のダンジョン遠足で狩った頬袋ビッグ栗鼠の話になった。


「そういや頬袋ビッグ栗鼠計6匹、どういう取り分にするんだ?ソウが狩ったが、ほぼベルのお陰ってのは間違いないし…半々じゃちょっとなぁ…」


 あ、そうだった。ここに来たのはその手の話をする為だった。

 収納があるから自分で狩ったやつを記念に貰えればいいかなぁ。私ってば基本守銭奴タイプだけど、こういう時は仲間と分かち合う精神、ちゃんと持っとりますんよ。


「私は自分で狩った分だけもらえたら良いです。あとはみんなで分配して、あ、ソウさんには多めに…」


「さすがに俺に権利はないぜ」


「いやいや、一緒に居たんですから。私がいなければガイアさんだって狩ってたかもしれないし」


「それはタラレバ論ってやつだろ」


「あ、私とソウさんのマジックバッグ加工費を、ガイアさんが出してくれるって事でどうです?ガイアさんシーラさんソウさんアギーラと私…あ、ライアン君で計6匹ですよ!」


 名案!ドヤッ!!


「全然駄目だろ、それ。なんで何もしてない俺んちに、3匹も集合するんだよ!」


 ドヤッたら即却下されてしまった。

 アギーラ君、その残念そうな目はなんですか?私はそんな目を一日に何度もするような子に育てた覚えはありませんよ。


「じゃぁ、ちょうど切りよくガイアさん家族2:ソウさん2:私2でどうでしょうか。それならソウさんは売る分も手に入るし、アギーラには私の分を進呈するって事で…」


「【売らないよ!】」


「え?売らないの?」


【家宝にする!】


「ガイアさんガイアさん、ソウさんがね、うふふ…家宝にするんだって言ってますよ、うふふ」


 ソウさん、可愛い事言うじゃん。家宝にするんだって~!

 獣化してるソウさんがバッグを二つ首に下げて、引きずりながら歩いてる様を想像。子供が親の指輪とかネックレスをつけまくっちゃう系。微笑ましいったらない。


「ベル…笑い事じゃない。マジックバッグは家宝だ」


「え…いや~てっきり売るんだとばっかり思ってました。右頬は売ればいいのに」


 右頬って時間停止機能がついてないほうの頬袋ね。私はたぶんだけど時間停止だか、時間が超絶ゆ~っくり流れてるだかのマイ収納があるから、時間経過有りの右頬が欲しいんだけど。

 ほらさ、漬けてる最中のピクルスとか、下味つけてる途中の肉とか入れておきたいじゃん。


 でも、みんなはどっちかって言われたら絶対的に左頬が欲しいと思うの。私だってマイ収納がなければ時間停止のついた左頬が欲しいもんね。


「いや、だから売らないって。そうだ、売るで思い出したが…これ、一気に全部は卸せないぜ。まずいな…」


「ん?なんでですか?」


「噂になりすぎる。まいったな…栗鼠が沢山狩れる事態なんて考えた事もなかった。これじゃ、素材が腐っちまうじゃねーか」


「生産ギルドからしたって、そんなに素材が一気に入ってきたら絶対騒ぎになると思うよ」


 アギーラまでもが心配そうな声をあげる。


「頬袋ビッグ栗鼠ってそんなに珍しいの?」


「いや…珍しいってのももちろんだが、複数匹を…しかも迷いなく一撃で狩った骸を持っていくっていう所も問題だ」


「迷いなくとかって、わかるんですか?」


「見る奴が見たらな。それを何匹もとなると…」


「‥‥‥」


「1匹分を仕上げるのに、どのくらいかかるんですか?」


「たぶん、最短で…1週間。最優先で作ってくれるだろうが…でも1週間も待てないぞ」


 最初に一つマジックバッグを作って貰って、そこに残りの狩った栗鼠を入れておこうという算段でも、その1週間で素材の劣化があるって事なんだろう。


「明日にでも持って行かないと…鮮度的に不味いって事?」


「できれば…」


 ぐぐぐ…ガイアさんはたぶん私が右頬のマジックバッグを持ってるんだと思ってると思うけど…。


「あ、あの~、良かったら私が預かりましょうか…えへへ」


「ベル、お前…まさか左頬持ちなのか?」


 やっぱりね。右頬持ちだと思われてたかぁ。

 貴族の息のかかっていない平民が持つものとして考えられるのは右頬まで。左頬持ちは相当に珍しいって聞いた事があるんだ。しかもさ、持ってるのが孤児院育ちの私だときたら、誰だって左頬だとは考えない訳よ。


 右頬のマジックバッグを持ってる孤児院育ちの子供なんてのも、聞いた事はなさそうだけど、やんごとなき事情がある子供も世界のどこかにはいるかもしれないし…ガイアさんもそんな事を考えてたのかもしれない。


「いや…あの…実はですね…」


 もごもごと話す内容に、ガイアさんとシーラさんの顔が蒼白になっていく。ソウさんの顔色は…うん、変わってないというか顔色、ないもん…。でも、変わってないけど…瞳孔開き切った目でこっちを見るのはちょっぴり恐いからやめて欲しいかな…。


「あんな巨大なもの(おむつケーキ)を出してきたのを見たから、俺はてっきり親の形見かなんかの…右頬を持ってるんだと思ってたんだ。収納って…」


「あの…実は私もよくわかってないんです。習得したばっかりだし…100%安全かと言われるとまったく自信がないので、どうされるかは皆さんのご意見に従います。それに私が死ぬと、取り出せない可能性もあるから…」


「まぁ…そういうものなの?」


「わかりません…可能性はあるかなって。でもあの…素材がどんどん劣化するよりかはマシかなって思ったんですけど、どうでしょう…?」


「そ、そうだな。明日、俺がとりあえず2匹持って行く。今夜は全部入れておいてもらえないか?鮮度でマジックバッグの容量が変わるって話を聞いた事があるんだよ…嘘か本当かは知らんが。入れておいてくれると助かる」


 私は6匹の頬袋ビッグ栗鼠を収納。

 ひぃぃ、絶対死ねない!


「でも、連続して持っていくと目立っちゃいますねぇ。私の分は何年か置いておいた方がいいでしょうか?右頬は欲しいなって思ってはいますけど、今すぐにどうしても欲しいって訳でもないから…」


「いや、アギーラにでも半年後くらいに持って行って貰えば良いだろう。作ったものは先にソウとベルが使うとしても…ソウには出来れば元の姿に戻ったあかつきに、2匹くらいはセレストでなんとかして貰えたら良いんだがなぁ」


 現状、ソウさんは元の姿に戻る算段がまったくついてないんだよね。

 暫くはセレストで捌いてもらうのは難しいだろうな。

 でも早くソウさんとガイアさんにマジックバッグを持ってもらって、残りの栗鼠を入れておいてもらいたい。

 高級素材を何個も持ち歩いてると思うと…どうにも落ち着かないって、ものの数分で実感中!


「そう言えば…マジックバッグってどうやって作るんですか?」


「え?そりゃぁ…解体して、魔法付与してから縫製職人にカバー作って貰って、さらにまた魔法付与…だったかな。俺も細かい作り方まではわからねぇ」


「魔法付与…ラシッドさんはできないんですか?」


 どうだろうなぁ、と、つぶやくガイアさんの代わりにアギーラが答えてくれた。


「ラシッドさんの魔法付与は鍛冶に特化してるから難しいかもね。ギルドから依頼がくるから完全獣化用の衣服くらいは付与してるけど…他から頼まれても引き受けないと思うよ。それに…さすがにマジックバッグ作るのはリスクが高すぎるからさ。ラシッドさんは引き受けないと思う」


「そっかぁ…じゃぁ、私が暫く預かって、マジックバッグが出来たらそっちに素材を移して、ガイアさんかソウさんに持ってもらうって事で良いですか?」


「そうだな、それでお願いしてもいいか?」


「もちろん。死んだらおじゃんですけど」


「やめろって」


 ――コンコンコン


 何の音?…いやいやいや、違うから。私の諭されタイム効果音じゃないってば。誰かが玄関扉を叩いてる音だよ。


「ん?こんな時間に…来客か?」


 みんなが二階に上がったのを確認して、ガイアさんが扉へと向かう。アギーラとソウさんが階段の中央で下階の様子を伺っている。


 今、夜の8時頃。個人宅に約束なく来訪するには遅すぎる時間なんだってさ。近所の人が来るにしても、この時間だと緊急事態って感じらしい。町中のお店はまだ開いてる時間だし、人通りも結構あるのに意外よね。


 そろそろお暇しようとは思ってたけど、ガイアさんが送ってくれるんじゃなかったら、私もこの時間帯まで外出したりはしないかなぁ。


 この世界の治安、孤児院にずっと居るからよくはわかんないけどね…みんなの緊張感でなんとなく恐くなっちゃう。

 なんせマジックバッグ12個分もここにあるんだから、恐さも12倍。


「誰だ?」


「あ…あの、遅くにすいません。ベルの…孤児院の院長です」

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