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コンコンコン、何の音?

「いらっしゃい!ベルが来るかもってアギーラが言ってたけど、本当に来たわね~」


 ダンジョン遠足の帰り、院長先生に話をつけたガイアさんに速攻で身柄を拘束されてしまったドナドナなワタクシ。只今、シーラさんとガイアさんのお宅にお邪魔しております。


 帰り道に大量の肉、じゃがいも、パン、玉ねぎ、トマト、キュウリ、キャベツ、油…とにかく色々なものを買いこんだ。もちろんガイアさんマネー。

 あ、チーズ売ってる!チーズもちょっとだけ買って貰おう。やったー!


 キラキラしたガイアさんの目に負けて、今夜の夕食は私が作る事になったんだけどさ。孤児院じゃ決められた予算内での料理作りだから、こういうの、すっごく嬉しい。いっぱい作っちゃうもんね。


 おうちでシーラさんに「ベルは疲れてるのにアンタは!」とか言われて、ガイアさんがめっちゃ怒られてたけど、ほぼほぼ待機時間だったから実質疲れてない。でもそんな事は言わないで、一方的にガイアさんが怒られてる夫婦漫才を、ライアン君と一緒に見学してニヤニヤと楽しんだ。


 しばらくすると話は自然と私の事に…ガイアさんもライアン君の可愛さでうっかり忘れてくれるかと思ったけど…ちっ。


「ベル、ちょいと話しをしておいた方が良いと思うんだがな。そういえば…他の…精霊様たちも一緒なのか?」


 私の髪留め、毛糸ポンポンに擬態したケサラとパサラを見つめながら聞いてきた。

 

 「あ…すいません。一緒に来ちゃってます」


「そうかそうか。どうぞご自由に寛いでください」


 ガイアさんてばパケパ芋に話しかける時、絶対に両手を広げるんだよね。いやもうめっちゃ熱烈な精霊妖精幻獣信仰宗教信徒って感じで…恐い恐い。


 パケパ芋は、既に籠に入っていたソウさんの横からぎゅうぎゅうと籠の中に潜り込んで、みんなで仲良くゴロゴロタイムに興じている。なにそれ。撮りたい撮りたい撮りたい…うぐぐ…。


 ソウさんは首だけを持ち上げて籠の縁に乗せ、話を聞く体制だけど、目がすでに半分になっていた。これはもうすぐ寝るやつだな。


「まぁ…なんだ。ありゃ、一体どういう事だ?」


 あーうー、とうとうガイアさんの尋問タイムがスタートしてしまった…。


「内密にお願いできませんか…ねぇ」


「悪いがシーラには一緒に聞いてもらうぞ。俺はシーラに隠し事は出来ないからな。他の奴には言わねぇ…言えねぇし…」


 ソウさんも大きく肯いてくれている。目は閉じてるけどね。

 あ、カックンってしたわ。肯いてくれてるんじゃなくて寝てるだけやん…。


「シーラさんはもちろん構いません。あの、実はですね…今日、魔獣を初めて近くで見たんですけど…一か所だけ光ってたの。だから…もしかして急所かなって思って…」


「光って見えた?急所が…ん?…なんで光ってたら急所だって思うんだ?」


 ガイアさん、意外と鋭い。意外と…失礼やけども…。


「あの…実はですね…私ったら、ま、魔石が光って見える…みたいな…」


「なんだって?」


 ガイアさんの大きな声に、舟を漕いでたソウさんがビクッとする。急いで目を開けてずっと聞いてました的な雰囲気を漂わしてるよ。なんかごめん…。


「正確に言うと魔素の集合体が光って見えてるのかも…自分でもよくわからないんですけども…」


「…そんな事ってあるのか?」


「光ってる石を見つけたから、綺麗だねって友達に見せたら、みんなから普通の石だって言われて…おかしいなって思って。教会のバザーでアギーラがやってた魔石の当てっこ大会で、魔石が光って見えてるんじゃないかって…」


 腕組みをしながらガイアさんが厳しい顔をして尋ねてきた。


「他に…誰かにこの事を話したか?」


「アギーラだけです。他には誰にも言ってません」


「そうか…ソウ、お前…わかってるな?これは人一人の命がかかってるような話だ」


 急いで目を開けて、こくんこくんと大きく肯いてくれたけどさ…いいよいいよソウさんもう寝てていいよ…。


「ならいい…。なぁベル、我慢できなくなっちまったのはわかる。俺もさっきはすげぇ興奮してたし。だけどな…お前さんのやったことは、自分の身を自ら危険に晒したってのと同じ事なんだぞ」


「うん…」


「今回は俺と…俺とソウが見てただけだ。でも、もしその力が他の奴らにバレた場合、どうなるか…わかるか?」


「はい…」


「わかるのか?俺にはとてもじゃないが想像できんがなぁ。とんでもない目にあわされて…一生どこかに閉じ込められて、飼い殺される事だって十分に考えられる。それくらいの事なんだぞ?」


「ごめんなさい…」


「ベルの潜在的な能力だかスキルだか…それをどうこう言ってるんじゃないからな。ベルに関しては…シーラも俺も、なんかしらあるんだろうって思っちゃいたから…俺が言いたいのは、もっと自分を大事に…いや、能力を隠す事をちゃんと…自分で危機管理を…もう何て言って良いのかわからん…」


 ですよねー…


 ◇◇◇


 コンコンコン、何の音?

 私が諭されてる音~!ってくらいに懇々(こんこん)とガイアさんが私に言い聞かせるこの世はとっても危険なんだ話の数々。

 

 スキルの高い人は昔から家族に売られたり、いつの間にかいなくなってしまったり…そんな神隠しみたいな事だってあるんだからな…云々かんぬん…。

 

 暫くコンコンコンが続いていたけれど、やがて哀れな子を見るような目をしたアギーラが、お腹が空いたと助け舟を出してくれた。すんごく有難いですけどね…その目はやめて欲しいの。


 ガイアさんの気が変わらないうちに私はご飯作りに専念。

 シーラさんが手伝ってくれるって立候補してくれたけど、もちろん却下。

 子供が突然増えちゃった感があるシーラお母さんには、こんな時くらいはゆっくり休んでもらいたいからね。


 その代わり、アギーラには台所見張り番として一緒に居てもらう事にした。パン粉係を兼任してもらおうじゃないか。

 ちなみにガイアさんはライアン君係で、ソウさんは睡眠係。


 まずはお肉の下ごしらえ。唐揚げ用のルコッコだけじゃなくって、お安く手に入れた肉も一緒に下味をつけていく。安いお肉には臭み消し用で作ったハーブブレンドを使ってみようかな。

 たっぷりと擦り付けて、お酒と一緒に揉み込む。これでお安いお肉もあら不思議!ってなるに違いない…たぶん。


 ソウさんはなんでも食べられるらしい。味が付いたもの、皆と同じものを食べてるんだってさ。

 完全獣化してる時も内臓性能は人間の形状の時と同じなのかしら?…考えてもわからないけど、普通に食べてるって話だからそれを信じよう。


 下ごしらえしておいた安いお肉を玉ねぎと炒めてトマトを投入。

 そうそう、トマトと言えば今年は異世界に来て初のドライトマト作りに挑戦してるんだよ。収納様のお陰でセミドライ状態のトマトも保管ができて大満足だよ。


 あとは…キャベツも入れよっかな。水とお酒を少し入れて煮込んでいこう。お肉が柔らかくなったら一度取り出しておいて、あとはぎりぎりまでぐつぐつと。最後に塩と酸味緩和の砂糖も少~しだけ入れて…味を調えたら、安いお肉のトマト煮込み、完成!


 今日はね、唐揚げとポテトフライだけじゃなくって、コロッケも大量に揚げる予定なの。パン粉係(アギーラ)のおかげで、パン粉は十分に確保出来てる。準備は万端。


 薄く切った肉にはしっかりと味をつけて焼いてから細かく切る。みじん切り級。包丁で叩きまくる。これを茹でたじゃがいもと炒めた玉ねぎに混ぜて丸めて衣をつけて…表面をさっと揚げるだけで完成!もちろんポテトフライも大量に作るよ。


 マヨネーズに玉ねぎときゅうり、ハーブブレンドと柿で作ったピクルスを細かく刻んだものを合わせて、タルタルソースっぽいものも作ってみた。

 コロッケにどうかと思ったけど、唐揚げにもいけそう。


 後は絶賛研究中のトマトケチャップもどきもこっそり収納から出しておこう。料理が得意な人が食べたら、この短時間に出来るはずない!とか言われちゃいそうだけど、シーラさんもガイアさんも料理が得意じゃないからバレないはず。


 ケチャップもどきはもちろんポテトフライ用だよ。アツアツのポテトフライに細かく切ったチーズを絡めて、ケチャップもどきを添えてアギーラに渡したら、感極まって涙目になっていたのでひっそり決意する。

 いつかは…ハンバーガーセットとか作ってやんよ!


 ◇◇◇


 食後、唐揚げ三兄弟が満足げにお腹をさすっている。すっごいたくさん揚げたのに…完食されてしまった。どんだけ食べるんだよ、君たち。

 シーラさんはタルタルソースもどきがお気に召したようで、レシピの催促を頂きました!

 

 柿のピクルスやらハーブブレンドは、アギーラに渡すつもりでナップサックに入れていた事にして、なんとか誤魔化す私。今日ダンジョンに来ることすら知らなかったけどね…。


 玉ねぎときゅうりはみじん切りして塩をかけて、よーく絞って使うと水っぽくならないけど、なんせ海塩が高いからなぁ…。

 こっちの世界のきゅうりってサクサクだからね。タルタルに入れたらすごく食感が楽しいんだけど…やっぱり海塩が高すぎる。

 水気を抜く作業で塩を使うのって、勿体ないのよね~。


 そんな話をしていたら、シーラさんがソウさんに何やら話しかけてから席を立った。すぐに壺を持って戻ってきた。なんと大量の海塩をシーラさんがお裾分けしてくれたんだよ。


「こんなに貰っちゃって良いんですか?海塩すっごく高いのに…」


「これはね、ソウがセレストから持ってきてくれたの。ほら、他の国は海に面してるでしょ?だから安定供給されているのよ。海塩は国が管理しているけど、個人がお土産に持ってきてくれる分には問題ないって訳」


 それならこちらもと、ハーブブレンドを大量にお渡しする。唐揚げだけじゃなくって、臭みの強い肉料理にも使えるバージョンも。これに海塩を入れれば、簡単な卓上調味料にもなるからね…この場で作ってお渡ししようではないか。


 ハーブブレンドもレシピ販売が決まってるから、そのうち食料品店で買えるようになると良いなぁ…なんて話をしつつ、宣伝も抜かりなく。

 孤児院は小さな子供もいるから、ハーブブレンドを大量に使う事は自重してるんだけど、今日の反応でかなりの手ごたえを感じちゃったもんね。これ、絶対売れるわ。守銭奴心が疼く…。


 どうでも良いけどさ…今やユスティーナで買う海塩のお値段、セレストの約十倍なんだって。いやこれ、全然どうでも良くなかった。十倍って!

誤字報告、ありがとうございます!

反省します…

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