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ちょっとビックリス…なーんちゃって。

描写は薄いですが子供(主人公)が魔獣を狩るシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 ジルに続きラナも、ダンジョン産魔獣狩りに成功してウキウキと戻ってきた。

 次は私の番!二人共、ちゃんとスライムを倒せたんだって。


「ベル、それは何だ?」


「これはね、私の武器?…武器かなぁ…あ、ちゃんとさっきのナイフを手に持って行くから大丈夫」


「そうか…まぁ…、絶対に無理はするなよ?院長からは本人が望めばとは言われているが、魔獣と相対した時に思いきり走って逃げるってのも俺は選択肢の一つだと思ってる。まったく…嫌な時代になったもんだよな」


 酷な話だけどさ、小さな子供にもある程度戦えるように教育を施す家庭も増えてきてるんだって。やっぱり瘴気が蔓延し始めてるってのが、自己防衛の手段を身に着けさせる一因になってるみたい。


 今回のダンジョン遠足、嫌がる子供に無理強いはさせたくないけど、魔獣を近くで見せる事で、もしもの時の為に心の準備を少しでもさせてやりたいって気持ちもあったらしいんだよね。

 

 そんな話をガイアさんから聞きながら、くぼみから出て暫く歩く。うしろを振り返ると半透明アギーラもついてきている。

 アギーラったら長い時間、ダンジョン内で頑張ってるなぁ。今日一日でかなり上達したんじゃないの?


 ――てくてく

 

 ――てくてく


 …結構な時間、歩いてるんだけどさ…なかなか魔獣が出てこない。

 ジルの時もラナの時も…二人共、やけに戻ってくるのが遅いなって思ったけど、こういう事かぁ…。


「この階だとスライムだけ?」


「いや、他にも出るぞ~。たま~にだがな、珍しいやつも出たりするんだ」


「ふうん…スライム以外だと私が倒すのは難しい?」


「ハハハ。そんな心配をしなくとも、ほぼスライムしか出ないから安心しろ」


「そっかぁ」


 歩きながらそんな会話をしてるのも、わざとスライムに見つけてもらう為。人の気配に魔獣は反応して襲ってくるらしいからね。

 スライムたん、やっぱり相手とのレベルの違いで逃げ出すなんていう知能は持ち合わせてないんだってさ。


【頬袋ビッグ栗鼠がいる!】


「え!どこどこ?ガイアさん、ソウさんが頬袋ビッグ栗鼠がいるって言ってますよ!」


【ほら、そこ!】


 ソウさんが移動した先を、ガイアさんがこっそり伺っている。


「あぁ、間違いない。こんな所で群れてやがるなんて…でも今日はお預けだな」


「え、何で?私のせい?頬袋ビッグ栗鼠って、あのマジックバッグの原料でしょ?狩って、狩ってよ!私はここで絶対に、絶~対に、邪魔しないで大人し~くしてるから!!」


 パケパ芋に合図すると、皆が私の側から離れて、天井近くで見ている半透明アギーラの傍に向かって行った。

 これは、昨晩決めたルール。ダンジョン遠足についてきても良いけど、戦闘になったら遠くに避難する事。


 お芋ちゃんは<我は強いのだ!炎ですべてを焼き尽くす…>とかとんでもない事言い出してきたけど、ダメなものはダメ。危険っていうのもあるけど…サラマンダー様はさ、火の魔法を使う気満々らしいんだもん。


 見えない所から突然火の玉出てきたらね、人はそれを鬼火というんだよ。とか私に諭されて、<意味が解らん!>って言いながら、憮然とした顔してたけど、ダメなものはダメ。


 そりゃ私だって見たいけどさぁ、孤児院の中じゃ論外だし、山火事にでもなったらエラいこっちゃだから、森でも絶対に試せないし。だから、お芋ちゃんの火の魔法ってやつ、実はずーっと見学お預け中。

 ダメダメ言っているけど、いつか機会があったら見てみたいのよね~。

 とにかく今日はダメ。


 私から離れたパケパ芋は、実体がないはずの半透明アギーラの頭や肩の上に全員器用に乗っかって座り込んでいる。それ、どうやってんのさ…。


「ソウ、お前狩ってこいよ。一匹でも狩れれば相当おいしいから頑張れ」


 短く一鳴きしたソウさんが、頬袋ビッグ栗鼠に向かって飛ぶ。


 マジックバッグが何個も目の前に転がっておりますよ!今、私の顔を鏡で見たら絶対に目が¥マークになってるはず!!

 こういう時にこの世界の通貨イメージじゃなくって、思い浮かべるのは¥っていう…私の中の日本人がひょっこり出てきちゃうのよね。


「この栗鼠って、急所を一突きで仕留めないとダメなんだよね?」


 ガイアさんにヒソヒソ声で質問。


「そうだ。俺は大剣使いだから、基本的には不向きなんだよ。栗鼠は小さすぎて体がめちゃくちゃになっちまうから。本当ならソウなんかは得意だと思うぞ。ソウもたまに使っていたりしていたが、スティレットっていう武器とか…そういう細長い短剣が良いんだ。ま、それでも運任せだがな」


 1匹の栗鼠に狙いを定めたソウさんがもの凄い速さで近づいて…口から何かを出した。


 なんか…出した?

 口から…?

 ソウさんってば口から何か出して、栗鼠にぶつけてるよ!


「ソウさんの…あれ…なんですか?」


「凄いだろう?あれな、獣化したソウの攻撃魔法なんだよ。口から尖った氷が出て、それで魔獣をやっつけるんだ。詠唱なしであんなもんが口から出るなんて、色魔法持ちの話でも聞いた事がねぇぜ」


 栗鼠に氷がかすったけれど、急所じゃない。

 残念。手負いのまま逃げられちゃった。


 もっと大きな氷も出せるみたいなんだけど、栗鼠が小さいから気を使って、小さな氷の玉を出してるらしい。その分、殺傷能力が低くて急所に当たらないとやっぱり狩るのは厳しいって…。


 ぐぐぐ…。


 言いたい…。


 私にしか見えないけど、光ってる部分には魔石があって、そこが急所なんだよ。全身を毛で覆われている頬袋ビッグ栗鼠でも、ちゃんと魔石が光って見えてるんだもん。


 ‥‥‥。


 ぬぁぁぁ!もどかしい!!


 言ったらダメ…かな?


 …言いたい…言いたい…。


 だって頬袋ビッグ栗鼠だもん。マジックバッグなんて、ものすごい高額商品なんだよ!

 2匹目の頬袋ビッグ栗鼠にもの凄い早さで近づくソウさん。


 も~、我慢できん!


「ソウさん、右足の付け根部分!」


 思わず叫んでしまった…。

 半透明アギーラが手で顔を覆ってるのがチラっと見えたけどさ…だって、マジックバッグだよ?これはしょうがないと思うの。


 ソウさんがわずかな躊躇の後、右足の付け根めがけて氷を飛ばした。


 ――ヒュン


 一瞬にして頬袋ビッグ栗鼠から命が消えた事がわかる。

 

 急所突きって凄い!こんなふうに即死しちゃうんだ。

 ちょっとビックリス…なーんちゃって。


 なんて思ってたら、さっきソウさんが仕留めそこなった手負いの栗鼠がこっちに近づいてきた。やばいやばい、激おこ。


 基本的には手負いになった頬袋ビッグ栗鼠は逃げ去って行くらしいのに…私が小さいから狙われたのかも。

 だって私しか見えてない…ターゲット捕捉って感じで、完全に狙われてるのがわかるんだもん。目がいっちゃってるし…。


 頬袋ビッグ栗鼠が牙むき出しでおっかない顔して飛びかかってきた。遠目でみたら可愛いな~なんて、ちょっとだけ思ったけどさ、全然可愛くなかったよ。


 ガイアさんが私を背後に引き入れて、守ってくれながらも、右手に持っている大ぶりの短剣を振りかざして頬袋ビッグ栗鼠を屠ろうと動く。


 も、もったいない!


「ガイアさん、私が!」


 ガイアさんの左手に守られながらも、お手製の巨大針を頬袋ビッグ栗鼠の光る部分に…


 ――さくっ


 ごめんよ、栗鼠ちゃん。でもさ、超超高級バッグなんよ、君。


「私もゲット~!」


「ベル、お手柄だ!」


「やったー!」


 ガイアさんとしばし喜びあっていたら、ソウさんから声がかかった。


【ベル、こいつ!こいつのは?】


 3匹目の頬袋ビッグ栗鼠を前にして、ソウさんが聞いてくる。


「左脇腹、模様が変わるあたり!」


【わかった!】


 氷が急所を一撃。


 そうして私とソウさんのタッグで、なんと5匹もの頬袋ビッグ栗鼠を狩ってしまったのでありました、¥¥¥…。


 ◇◇◇


「…栗鼠の件は、黙っておこうと思うが、異論はないよな」


 ソウさんも私もこくりと肯く。

 こんな量の栗鼠が…急所一撃しか狩る方法がないって言われてるのに、どうやって狩れたんだ?なんて聞かれても私も非常に困る。いや、私()()()非常に困るのか…。


 頬袋を傷つけちゃうと売り物にならないから、ガイアさんがそ~っと回収して、丁寧に丁寧に匂閉布で作った袋に入れていく。ここでミスしたら洒落にならないから、私もソウさんも一切手を出さず、大人しくガイアさんの邪魔をしないように隅っこで待機。


 あ、袋の口を髪ゴムで結んでるー!ガイアさんやサワットさんからも聞いてたから知ってはいたけれど、本当に普通に使ってくれてるんだなぁ。

 

 髪ゴムに関しては各国で販売されていて、孤児院の冬の手仕事なんていうレベルじゃ到底追いつかず、ギルドが取り仕切る巨大市場になっちゃってるんだけど、実際にこうやって流通しているのを見るのはとっても感慨深いものがある。


「ベル、院長にはうまく話をつけるから、今日はこのまま俺の家に来い。話をしなきゃいかん…いいな?」


「うん…わかった」


「なかなか魔獣が出なかったって事にするから、話を合わせてくれ」


 帰り道でスライムに遭遇したので、私もちゃんとスライム討伐を経験済み 

 異世界の第一歩としてはスライム討伐しないと始まらないよね。

 スライムたんの雑魔石…記念に持ち帰ろっと。


 浮遊がどんどん上達してきてるから、遠くに行く機会も増えてるんだ。興味本位だけじゃなくって、ここで魔獣を狩れた事は良い経験になったわ。

 異世界で生きていくってこういう事なんだな…って、わかってはいたけど、実体験出来た事は大きな収穫だよ。


 ラナやジルが待っているくぼみに戻ったら、なななななんと…二人はせっせと泥団子を作って…遊んでた!

 ジルなんてさ、「俺はもう泥団子は卒業したんだよ」とか言ってたくせに。


 う、羨ましい…。


 ダンジョンの泥で泥団子なんて…。こちとら手が汚れないようにって、ずっと我慢してたのに。

 急いで一緒になって泥をこねて丸めていたら、ガイアさんがなんだかあきれ顔でこっちを見てきた。

 なんでよ…泥団子、最高なのに。


 そんなこんなでダンジョン遠足も終盤。他の班と一階で合流して、無事帰還。

 半透明アギーラが両手を広げて、ハリウッド俳優みたいな…オーマイガー的な仕草で、首を振りながら消えていった。


 ちょ、その去り際は今後の展開を嫌でも予想させてくれる。やめて…

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