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ダンジョン遠足

「ダンジョン遠足?」


「初期学校を卒業した子なら参加OKだって~」


「そうそう、どうする?」


「ギルドが冒険者をたくさん護衛につけてくれるって話だよ、一緒に行こうよ~」


「でもダンジョンって恐いじゃん…」


 孤児院で近頃ホットな話題と言えば、ダンジョン遠足。これに尽きるわね。


 ダンジョンに沢山冒険者が入るようになって、1階…入口階にはほとんど魔獣がでなくなってる。浅いダンジョン階は安全地帯って言われてて、ルーキー冒険者の訓練場みたいになってるんだって。

 

 町の近くにダンジョンができたしせっかくだからって、ギルドが孤児院に声をかけてくれたらしいんだよね。

 

 瘴気やら魔獣やら…そういうのがある世界だもん。子供だからって安全圏にずっといられると思ったら大間違い。そういう世界に自分たちは暮らしてるんだって事を認識させるうえでも、希望者限定とは言え、この遠足にはやる価値があるって事なんだろう。

 

 でもこれ…ギルドに利点がまったくないんじゃない?って思うんだけど、ギルド側も未来の冒険者やギルド会員に投資しておきたいって感じなのかしらね。孤児院から卒業してギルドに関わるような働き口を得る子供も多いし。

 

 ギルドと孤児院がどういう繋がりかは知らないけれど、仲良しなのよ。いっつも孤児院になんやかんや便宜を図ってくれるんだから。

 そんな親切を断るなんてどうかしてるでしょ。私は冒険者には絶対なれないけどさ、もちろん遠足には行くぞ~!


 初期学校も無事に卒業できたし、ずいぶん成長もしたし~。

 入学と同じく卒業もなんのイベント的行事もなく終わってしまったから、卒業したって感覚もうっすいんだけどね。

 卒業式とかさ、練習しまくって正直面倒だなって思ってたけど、ないと解ったよ。あれはあれで大事だったんだなって…。


 そんなこんなで身長的にはまったく成長してないんだけど、せ、精神的にはすんごく成長したと思う…たぶん。


 成長したと言えば、私も初期学校を卒業したという事で、自分の将来の道…孤児院の方針に従って、将来の方向性を決めたんだよ。

 裁縫と料理を頑張るっていう方向だけだけど…方向性は一貫して変わってないから、特に何がどうって事もないんだけどさ。

 

 私は、裁縫親衛隊に席を置きつつ、厨房でも今や、月に数回は夕食作りの担当もしてる。二足の草鞋でどちらかのスキルを使って職を得たいってアピール中なの。


 いや、アピールって誰にやねん!って事はさておきよ。

 院長先生もアリー先生も自分も誰も…私が就職するなんて思ってないからね。


 有難い事にグーチョキパのお陰で順調にお金が溜まってるから、どこかに働きに出るというよりは孤児院新卒で自営業を予定してるんだもん。

 将来のスローライフwithモフモフを現実のものとすべくな資金繰り、かなり良い感じに進んでるの。ふふふ、ふへへへへ…


 既にアギーラと一緒に商会を立ち上げてるから、卒業したらしばらくはそこを窓口にさせてもらって、色々と好きな事をやってみようって思ってるんだ。しょ、詳細は秘密。未定じゃないよ…未定じゃないんだよ…。


 でもさ、将来の方向性とこれとは話は別。裁縫も料理も孤児院にいる間はせっせと腕を磨いておきたいと思って、お手伝いに勤しんでるんだ。

 裁縫も料理も…ここでの人生を豊かにしてくれるのは間違いないからね。


 裁縫はともかく、料理は…最初はじゃがいもの皮むきばっかりだったよなぁ。今ではスープ作ったり、オーブンでパンやスコップコロッケを焼いたり。予算や在庫…そんなしばりがある中で、手際よく大量の料理を作るっていう給食スタイルを極めている最中なんだ。


 あれ…何の話してたんだっけ?

 そうそう、ダンジョン遠足よ。

 

 人間族の私がさ、ダンジョンに入れるチャンスなんてそうそうないんだから。

 異世界に来て、ダンジョンがあるのに弱っちいから入れないなんて、つまんない!って、ずっと思ってたんだもん。こんな企画があるなら絶対に入ってみたいじゃん。


 アギーラがすっごい羨ましがってたから、それこそ俯瞰で…半透明アギーラとして行ってくれば良いのにって言ったら、閉塞的な場所をずっと飛ぶのはバランスが難しいんだって言ってた。

 

 確かにドローンを洞窟の中で飛ばすって考えたら、難易度高そうだもんね。

 もうさ、普通なアギーラで普通にダンジョンに行けば良いじゃんって思ってるんだけど、それは恐いから嫌なんだって。まぁ、わからんでもない…。


 とにかく私はダンジョン遠足に立候補。

 ラナもジルももちろん一緒だよ。

 みんなで行けば恐くない。


 初ダンジョン、行ってきまーす!


 ◇◇◇


 孤児院で飼っている馬代わりの家畜、ラヴァリマに台車を付けて、体力なし自慢の子供達を乗せポクポクと。

 後ろには体力自慢の子達が飛び跳ねながら歩いて続く。ラナとかジルとか。

 私はもちろんラヴァリマの引く台車に乗ってます。ここで体力を使い果たす訳にはいかんのだよ。


 そう、今日は待ちに待ったダンジョン遠足!


 院長先生と成人が近い冒険者志望の先輩達が引率してくれて、アリー先生が遠足不参加組の面倒を見る為に、孤児院でお留守番してくれている。


 院長先生は元冒険者だから、こういう時は昔取った杵柄で大活躍。今日はちゃんと大きな剣も帯剣してるんだ。冒険者志望の先輩たちも自分たちの武器をちゃんと持ってるし。

 その姿を見てるだけで一気にテンション上がるわ。

 

 興奮覚めやらぬ私、とうとうやってきましたよ~!

 ダンジョン!ダンジョン!


 入口は自然のトンネルみたいな…洞窟って感じ?

 いや、洞窟なんて実際には見た事ないし、ただのイメージだけどさ…。

 子供達の頭には雑魔石一つで動く小さな灯り、ザッツライトのヘッドライトバージョンが装着されている。


 ザッツライトの明かりってダンジョン探索に最適らしくて、冒険者の皆さんの熱烈な支持を受け、売れに売れまくってるんだよ。

 リブロさんと色々話をして、更にギルドの人達とも相談して…やっぱり5年間は製造方法を秘匿する事になったの。

 

 ランドリーシステムを使うなんてとんでもない。ランドリーシステムをダミー利用して、別の小屋を建てて…ってアギーラとリブロさんが何やらきびきびと動いてくれている。

 

 アギーラと相談して、リブロさんを仲間に引き入れちゃったんだ。

 守秘匿魔法契約もしてるし、シーラさんも信用してるっていう御仁だもん。

 私も大賛成。


 リブロさんみたいな人が味方になってくれるなんて、すっごくありがたい申し出だった。

 私、適材適所、頼れるところは全部頼るをモットーにしておりますからね。


 でも5年経ったら、川の水に浸けるだけってバレる訳なんだけどさ…これどうなの?ってのは未だに思っている訳で…暴動とか起こったらどうしよう…。


 その暴動の種となるかもしれない雑魔石、使い道は今後一年、ザッツライトだけにして大量製造販売する事になったの。魔石としてちゃんと使える雑魔石っていうアピールをしていこう作戦。


 その後はリブロさんと相談しつつ、他の小さな魔道具にも随時使えるようにしていこうって方針で決まったの。

 既存の魔道具にも使える事は使えるけど、小さくて軽いっていう雑魔石の特徴を生かした魔道具を作りたいって、アギーラが張り切ってるんだ。


 あー!入口にガイアさんがいるよ。ソウさんもいるじゃん!

 他にも冒険者っぽい人が沢山いて、院長先生達と挨拶してる。

 ガイアさんも今日は私たちの護衛に付いてくれるのかな?

 Sランク冒険者のガイアさん…遠足には過剰戦力だとは思うけど、すっごい安心感!


 あれ?半透明アギーラもいるよ!

 ダンジョンに入るつもりなのかなぁ。

 閉塞感があるところは操作が苦手だって言ってたけど…。


 ふふふ、ダンジョンに入りたい気持ちに抗えなかったんだな。

 ダンジョンと言えば、やっぱり異世界ロマンがあるのよね~


 ◇◇◇


 ダンジョン入口脇には、私を含めた子供達が大集合。

 日本でも遠足に行くらしい子供達が、駅のホームにウンチングスタイルで綺麗に並んで、ちょこんと座り込んでる姿を見かける事があったけど…まさしくあれよ、あれ。


 冒険者ギルド長だというおじさんが、遠足の注意点を話している。

 一瞬、私がかつて勤めていた会社の朝礼の如く、長~い訓示がくるのかと思って身構えるも、“付き添いで入る冒険者の指示には絶対に従う事”“無駄なお喋り禁止”、それだけだった。


 そして私はダンジョンに…一歩、足を踏み入れる。


 一歩…入った!

 私、ダンジョンに入ったよー!!

 これで私もダンジョンに入った事があるって言える!!!


 私の密やかなる異世界目標~生涯で一度はダンジョンに入ってみたい~は、あっけなく達成してしまった。

 ダンジョンに入る事ができるなんて思いもしなかったから、ダンジョン遠足があるなんてラッキーだったよ。


 ふーん…少し湿っぽいけど、ぬかるんでたりはしない。

 壁はちょっとひんやりしてて、ざらざらした岩肌。地面は踏みしめられた土って感じ?意外にフラットで歩きやすい。

 こんなものがある日突然出来ちゃう世界ってどうよ。いやもう凄すぎでしょ。


 しばらくダンジョン内を粛々と歩いて行く。思っていたより凄く広いから驚いちゃった。

 冒険者、尊敬しちゃうわ。こんな所をよく迷子にならないで探索できるよね。


 暫く大人しく歩いて、ちょっと大きな部屋みたいな空間に入る。皆、中心にまとまってウンチング。

 他の冒険者達が子供集団を見て一瞬ギョッとするけれど、ギルド長やガイアさんを見て、安心したように笑ったり手を振ったりしながら、ぞくぞくと地下階に降りて行った。


 入口階…1階部分は今は魔獣が出なくなってるから安心だよ。

 最初は雑魚的な魔獣がちらほら出てたらしいけど、沢山の冒険者が地下に入って行くようになったら、1階には魔獣が上がってこなくなったんだって話。


 地下2階、3階まではいわゆる雑魔石が体内からでるような、小さな魔獣や弱い魔獣が出てくる。たまにそこそこ強い魔獣も出てくるらしいけど、その遭遇率は低いんだって。

 それ以降の階は下に行くにつれ、どんどん強い魔獣が出てくるって感じだね。


 まぁ、魔獣の湧く仕組みすらよくわかってないんだって話だけど、ダンジョンの均衡が崩れない限りは、上階には下階の強い魔獣は上がってこない、らしい。


 事前に班別けされていた数人の班に分かれて、1班ずつ地下2階に入るとな。

 ガイアさん組、ギルド長組にわかれて各冒険者さん達がついて、地下階に数人ずつ子供達を連れて行ってくれるんだって。

 

 1階では院長先生と冒険者志望の先輩達、数人の冒険者さんが残りの子供達の見守りをしてくれる。安全の確保を最大限にするから、皆で地下階へ行く事はしないんだって。


 部屋の向かい側に地下への階段が見える…穴にロープかと思ってたら階段だった。

 階段って所が人的で不思議よね。本当にどうやって出来たんだろう。

 いや、そもそもダンジョンってなんなん?なーんて考えてたらキリないから考えるの…やめよっと。


 最初の班がガイアさん達と地下に入って行く。その後すぐにギルド長率いる2班めが地下に消えていった。

 この部屋では大声で騒いだりしなければ、自由にしていて大丈夫なんだって。

 

 ラナとこそこそ話をしたり、苔をむしったりして時間を潰す。

 そして…あっという間に私たちの番がやってきた!

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