一家に一台。ザッツライト!
ソウさんの獣化解除計画の第一歩。
とりあえずは魔素水、レッツ・クッキング―!
いや、料理って訳じゃないけど、料理って思った方がスキルで上手い事いくんじゃないかなって…えへへ。
★用意するもの:雑魔石30個、水3カップ
薬草を煮出す時には、水の量もちゃんと計測するようにしたの。レシピを書く時に濃度も大事になってくるからね。薬師さん達が使ってる規定の計量カップ、グリンデルさんから貰ったんだもーん。
クッキングと言いつつ、厨房に行くのはなぁ…。こっそり部屋でコンロを使う事にしても良いかしら。
お金持ちアギーラがね、譲ってくれたんだよ、この魔道具コンロ。
「逃亡用にどうぞ」だってさ。
いやホント、アギーラの逃亡心が盛り上がってくれてるおかげで、私の荷物はどんどん増える一方。
最近思ったんだけど、これってあれでしょ?俗に言うフラグってやつ。
あやつ、わざと私の逃亡フラグを立てまくってるんじゃないかって思い始めてるんだけど…。
魔石って固いから根野菜扱いで良いかなぁ…水から魔石を煮てみよう。
良い子のみんなは、絶対に一人で部屋に籠ってコンロを使って煮炊きなんてしてはいけませんよ。私?私は累積アラフォーだから良いのです。
――ぐらぐら
石を煮込む。かなり怪しい絵面。
自分の魔力を込めるイメージでひたすらかき回して…これはグリンデルさんから教わった方法なんだ。薬師さん達ってポーションとか作る時、自分の魔力を混ぜて作るらしい。マネっ子大事。
――ぐるぐる
雑魔石の光が…お湯に溶けだしてきてるみたい。
このままで良いのかなぁ。
もうちょっとだけ煮詰めてみよう。
――ぐつぐつ
あ、あれ?お湯がまだあるのに…すっごい煙が出てきたんだけど。
なんだ?なんで?
きょ、今日はこのくらいで勘弁しておいてやろう…。
冷ましても光ってる!
ポーション瓶に入れたら、もの凄くソレっぽいものが出来ちゃった。
魔女っ娘印、魔素水の完成~!
高濃度って…どうしたら良いんだろう。
もっと煮詰めるのは恐いなぁ。煙いっぱい出てくるしさ…やっぱり雑魔石じゃ無理かな。
魔石、欲しい…でも、この町で人工魔石やら天然魔石やらを大量に買うと、目立ちそう。
グリンデルさんから、例の薬草茶と飴の事があるから、目立った行動は控えるようにって釘刺されてるんだよね。
アギーラ、この町以外から魔石を確保できる伝手があったりするかしら。どろんから戻ってきたら聞いてみなくっちゃ。
◇◇◇
どろんと言えば、あの雑魔石報告会以来、アギーラったら全然学校に来ないんだよ。もうすぐ初期学校も卒業なのに。不良だよ不良。
「ベル!今日さ、ジルと一緒に森に寄ってから帰らない?」
「うーん…今日はやめとく」
「ざんねーん。じゃぁ、お土産期待してて!」
「ありがと~」
ラナ達が学校帰りに森に行くらしいけど、私はここの所のソウさん獣化解除計画でヘトヘトにつき、森遊びはパス。
ヘトヘトな割には解決の糸口すら見つけられず…余計にヘトヘト増し増し。
資料を読んでも、なんだかこう…とっても大事な何かが足りてないんじゃないかとは思うんだよね。でも、それが何かもわからないって言う…お手上げよ、お手上げ。
直接会えてはいないんだけど、グリンデルさん情報によるとソウさんは元気に飛び回るようになったらしい。これがせめてもの救いだよ。睡眠がちゃんと取れるようになったのが良かったのかな。
そうそう、飛び回るって字の如く、ソウさんったら本当に飛べるようになったらしいよ。
最初、羽?翼?があるのにまったく飛べなかったから、ルコッコ系…にわとりみたいに昔の名残り的な形状だけが残ってるのかと思ってたら、ちゃんと飛べたらしい。
ガイアさんがダンジョンに連れていった時に、魔獣にちょっかいだそうとしてご開眼~!って話だった。
それからはガイアさんとダンジョンに一緒に潜って、鍛錬の日々。
体力使って暴れまわって…欝々とした気持ちを発散させた方が寝つきも良いらしく、積極的にダンジョンに入ってるんだって。
獣化したソウさんはとっても強い魔法が使えるって話で、今やガイアさんの立派な相棒としてご活躍らしいの。
二人共ソロの冒険者だけど、組んで仕事する事も多かったみたいだから、ソウさんが言葉が話せなくてもツーカーは健在。さすがに今のソウさんにはソロでの活動は難しいから、上手くバディが組めて良かったよね。
ソウさんってまだ若いのに、もうAランク冒険者なんだってさ。だから、瘴気祓いにってセレストから呼び戻されてもおかしくないんだけど、事情が事情だからって免除されてるらしい。
経緯を見守ってきたグリンデルさんやらリーフさん、ガイアさんに、最近仲良くなってきたらしいアギーラ。何と言っても母のように慕っているシーラさんと、それにソウさんの言葉がわかる私。
ガイアさん達の近くにいたほうが良いだろうって判断になったんだって。
私が言葉が通じるって事に関しては、最初に唯一と脳が勘違いしてなんちゃらかんちゃら…って、小難しい感じでみんなが勝手に推測してくれてるから、そのまま否定せずにいる事にしたっす。
「鑑定魔法から言葉がわかるんですよ」なんて、二重でアウトでしょ。ただでさえ鑑定持ちも少ないのに、鑑定で言葉がわかるパターンだなんて口が裂けても言えないからねぇ。
調べれば調べる程、ソウさんの一連はバグでバグったせいだって実感する日々。
要するにさ…私のせいだって事なのよ。
自分のせいでソウさんがこんな目にあってるんだって思うと…どげんかせんといかん!
とぼとぼと足取り重く…教会の敷地も一人で歩くと長いんだよなぁ…でも早く部屋に帰って資料を読まなくっちゃいかん!
「おーぃ!ベルーー!!」
ん?この声は…アギーラだ!
めっちゃ走ってきてるけど…後ろにヘロヘロなおじさん付き。
「アギーラ!どうしたの?」
「き、君がベルさんかい?ぜぇ、ぜぇ」
むっちゃ、ゼーヒー言ってるおじさんが私に突進してきた。ち、近い近い!最近、近い人…多すぎないかい?
「あ…はい。ベルは私で…」
「いやはや…本当に小さな…ぜぇ、ぜぇ…あの…私はタンデムという町で魔石生産人をしているリブロと言います。ぜぇ」
「リブロさん、熱烈すぎてベルがひいてますって…」
「す、すまん。つい、興奮してしまいました。ベルさん、本当に、本当にありがとう!」
「リブロさん達も雑魔石の研究をずっとしてきたんだけどね、なかなか有効活用する方法が見つけられなくって…」
「あぁ…アギーラに雑魔石の事を色々と教えてくれた人って、この…リブロさん?」
「そうそう。それで、今回の事で相談したくて手紙を出したらさ…」
「居ても立っても居られず…来てしまいました!」
「あ…はぁ…」
「ごめんね、ベル。僕も魔石の事に詳しくないから、グーチョキパの件をとりあえず聞いてみようと思っただけなんだけど。まさかミネラリアまで来ちゃうとは思わなくって…」
「いやいや、相談してくれて良かった。これが…これから起こるかもしれない魔石不足の一助になる重要な局面だって事はわかって…ほらやっぱり、君たち全然わかっていないんじゃないか?これはね、とてつもない…大発明なんだよ。グーチョキパももちろんだけれど、きちんと製造方法を秘匿しないとダメだから」
「雑魔石はアギーラとやっている商会から、グーチョキパを出そうと思ってたんですけど…」
「え…アギーラ、そうなのかい?」
「いや、僕は雑魔石のグーチョキパはベル個人で、今考えている魔道具の手元灯は商会からって考えていました」
「ふんふん…私もそうしたほうが良いと思うよ。発明者の権利は守るべきだから」
「はい。僕ら、魔石の価格やなんかについても全然見当がつかなくて…特に雑魔石の扱いなんて、どの店にもないし。自分たちの設定が今後の指針になるだろうから…どういう風にしたらいいか、相談させてもらいたくって…」
「もちろん、任せてくれ。ベルさんも…私が意見を出させてもらっても構いませんか?」
「はい。まったくわからないので…私からもお願いしたいくらいです」
「4年…いや、5年は、製造方法を秘匿して、最初の1~2年はアギーラが発明した手元灯の魔道具だけで、雑魔石の有用性をアピールするのが良いと思う。雑魔石が使える…役に立つ魔石なんだって周知させないとならないから」
「手元灯だけで?」
「アギーラからアイデアは聞かせてもらったけれど、手元灯やヘッドライト…絶対いける。とにかくシンプルに雑魔石が使える魔石だっていう事を、みんなにわかってもらうのが先決だよ」
◆◆◆
~教会バザーのお知らせ~
あの雑魔石が魔石として使用できる、画期的な魔道具『ザッツライト』、先行販売決定!
①置きやすい燭台型
②持ち運びに便利な筒形
③冒険者垂涎、ヘッドライト型
※教会バザー、孤児院ブースで特別価格にて提供
※先着各1000名様限定。お一人様一点限り
※バザーでの収益は全て孤児院への寄付となります
雑魔石専用の魔道具で、小さく柔らかな灯りをお手元に。
一家に一台、ザッツライト!
そのライトとそのライトは違う、なんて思ってはなりません。




