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バグでバグった

「ソウさんに一体何が起こったんだろう。あのグリンデルさんですら、まったくわからないって…」


「だよねぇ…。ソウさん、みんなが心配してたけど、本当にどこも具合は悪くないですか?今は平気でも、どこかが痛かったり苦しかったり、そういう事はない?」


【うん】


「グリンデルさんもリーフさんも、なんとか元の姿に戻せるようにって調べてくれてるから…」


【うん…でも、眠れないよ…】


「眠れないのは辛いですよねぇ。私、薬師のリーフさんから、先祖返りに関する研究の資料を借りたんです。何が出来るかはわからないけど、みんなで…元に戻れるように調べてみるから、あんまりくよくよしないで、ね?」


【ありがと…】


 テーブルの上でしょんぼりうなだれるソウさん。

 元気づける方法…なんか、なんかないかなぁ…あっ!


「アギーラ、タオルとか布とか…余ってない?」


「ベルがライアン君用に買っておいて欲しいって言ってたから、ちょこちょこ集めてるのがあるけど?」


「おぉぉ~、それ貸して。いや、ちょーだい!」


「いや、ベルが前払いしてるんだからベルのものだって。取ってくるから待ってて」


 ライアン君ご利用グッズを作ろうと思ってさ、柔らかいタオルや布地があったら買っておいてってアギーラにお願いしてたんだ。


 私はほとんどお店に行かないからっていうのもあるけど、アギーラは町中を飛び回ってるし、商人との付き合いも多い。良い品をお安く買っておいてくれるのよね~。


 さてと…ナップサックから取り出すふりをして、マイ収納から籠を出す。

 いや、誰も見ていないと思っても、こういうクセ付けは重要だから。


 おむつケーキdeガイアさんガン見。あの件をしっかり学習して、今後に生かす事が出来るしっかり者なのですよ、私は。おほほ。


 一番下にはちょっとしっかりめな生地を。その上にフワフワのタオルを敷き詰めて…。複数パターン作って洗い替え用も…。


 あ…ソウさんがちょっとだけ近づいてきてくれた。

 明らかに…明らかに籠に興味を持っているじゃないか!


「ここにソウさんのゆっくり休める場所を作るからね」


【休める?】


「うん。自分だけの場所があると気持ちが少し楽になるかもしれないから試してみようよ。ちょっと狭いかな?くらいがお勧めなんだよね~」


 ――フワフワギュッギュッ


 おぉ、なかなかに丁度良い。

 ここに小さなクッションをいくつも作って、どんどん入れていくよ~!

 ソウさんのぬいぐるみ風も作っちゃおっと…。


 全霊込めてレッツ鼻歌。吟遊、発動!


 ソウさんがゆっくり休めますように~♪眠れ~眠れ~ぐっすり眠れるぅぅ安眠クッショ~ン♪


 ソウさん専用ベッドの完成!籠だけどね!!


 ソウさんが籠の中を覗き込んでいる。

 気に入ってくれるかな…


【…入ってもいいの?】


「もちろん。自分で入れる?」


【うん…】


「少しでも休めると良いんだけど…自分一人で籠から出られるかどうかも確認してね」


 ソウさんは出たり入ったりして、暫くすると籠の中でグルグル回ってポジション決めをし始めた。


 なんだこれ!めっちゃ愛らしいではないか!!

 グルグルしてるその姿にアギーラと二人、目が釘付け。かわいいねぇ…。


 ベスポジが決まったらしいソウさんは丸まって座り込み、そのうちに目をトロンとさせ始めた。

 アギーラがすかさずホワホワのタオルを、丸まったソウさんにかけながら呟いた。


「…もう寝てるや」


 ◇◇◇


「うぉっほん、それでは…雑魔石報告会をさせて頂きます!」


「いや、もったいぶってどうしたよ?自分でハードルめっちゃ上げてるし」


「自らハードルを上げている私、そう、そこで察するが良い!」


「まじ?」


「まじ正解 土より凄し 川の水」


「ここで一句とか、いらないけども!なにかしら進展があったって事だよね。川の水の方で効果があったって事?」


「その通~り!たぶんだけど、土と違って川の水は流れてるでしょう?だからじゃないかなって思ってるんだ…知らんけど。普通の土でも、あと10日くらいつければいけるかもしれないけど、どうも土だとバラツキが出るんだよねぇ」


「川の水だとバラツキがなかったの?バラツキって言われても理解不能だけど…」


「本当の所は私もわかんないけどさ。川の水に浸けた雑魔石、少なくとも目視では均一に光を感じるんだ。これさ…10日間、川に浸けたブツね。ほれほれ、魔道具に置いてごらん。って、アギーラから借りたコンロだけど」


「う、うん」


 ――カチャッ


 ――ボッ


「‥‥‥」


「ね?」


「う…ううう…ベル~!」


「え、何!?やだ、アギーラ、泣いてんの?」


「だってずっと考えてぇぇ…これまでぇぇぇうううっぐうっぐ…」


「こ、これならさ、ランドリーシステムのお店の隅っこで浸けておけばいいし、回収も楽だよね、ね?」


 アギーラ開発の洗濯機を利用したランドリーシステムが誕生して早や1年。今や王都にまで支店が出ている。いや、他国にも出店が決まっている。

 このランドリーシステム、基本的には川の水を利用して洗濯するからさ、川沿いに店舗がある事も多いんだよ。だから、店舗でこっそり雑魔石を浸けて置けるのではないかと…。


「べーーールーーー!」


 雑魔石、色々研究したけれど、10日程、川の水に浸ける事。大量に…他の雑魔石と重なり合うようにして川の水に浸ける事。この二点がポイント、というか全て。


「でもこれさ、普通に使うとしたら、こんなにたくさん雑魔石を使わないと魔道具を動かせないじゃん。で、考えたのよ。豆電球みたいな使い方が出来ないかなって。どう思う?」


「豆電球?」


「うん。危ないから蝋燭は使いたくないって時とかのミニ光源なイメージ?家の中の暗くて危ないなって所に置いたり、冒険者が手元を照らす用のライト…片手で持てるくらいの手持ちサイズの懐中電灯あるじゃん。ああいうの、作れないかなって。ヘッドライトにしても雑魔石なら石が小さくて良いかな~とか思ってさ」


「そうか、雑魔石は小さいからコンパクトにできるし、なんせ軽い…ヘッドライト…良いかも」


「暗いダンジョン内とかの探索とかには明るすぎない光源とか、需要がありそうかなって思ったんだよね。ダンジョンの明るさとか…まったく知らないから、もし凄く明るかったら使えないんだけどさ。でも、風の抵抗とかも関係ない訳だし…そういう豆電球的なものやら、ミニ懐中電灯みたいな魔道具を作ったら利用価値があるんじゃないかなって」


「…ベル、悪い。今日は学校サボる事にする!しばらく来られないかも。じゃぁね!」


 アギーラ、どろん。


◇◇◇


 さて、私にはやらねばならないことがある。


 そう、それはソウさんの獣化解除計画。


 実はね、リーフさんからもらった資料に興味深い事が書いてあったの。

 先祖返りの唯一を研究していたという薬師さんの資料を預かったから、さっそく読んでみたのよ。


 効果が認められそうな一覧には、聞いた事のない薬草なんかはもちろんだけど、加えて、高濃度の魔素水とやらが必要じゃないかって見解が書いてあった。

 獣人族の色々な事、この世界の魔素と関連があるんじゃないかって言われてるんだって。

 

 もっと昔になくなって良いはずなのに、その進化が出来てないのは外界にある魔素を、体が上手く取り入れられないからとかなんとか…そんな感じ。

 だから一度、体内に外部から高濃度の魔素を入れて…うんぬんかんぬん…む、難しい…。


 高濃度の魔素水が不安定期や発情香にも有効な手段なら、そっちからのアプローチも試してみたいし、作ってみて損はないはず。


 私も調べてみます!キリッ、とか言っちゃってなんだけどさ、草をぽいぽい入れて混ぜ混ぜして、お薬完成~!的なビジョンがまったく見えないのよね~。


 ソウさんの症状に関しては…まったく前例がないしなぁ。

 そもそもあれは通常の先祖返りなのか?って、全員の疑問がある訳で。

 先祖返りというより、明らかに先祖子供返りだし。


 もしも…成人後の先祖返りがこういう症状になるんだとしたら、非常にマズい事だって、グリンデルさんもリーフさんも言ってる。もちろん私もそう思う。

 ある日突然、親がリアル子供になる家庭続出とか…困る以外のなにものでもないからね。


 とりあえずは普通の先祖返りや唯一の件と、ソウさんの事は別件って考えて、まずはソウさんの件の対処方法を考えようって結論になったんだ。

 ただ、今まで、大人になってから先祖返りする人なんていなかったから、ソウさんの件に関しては謎が多すぎて、グリンデルさん達もお手上げなんだけどね…。


 私の作ったソウさん専用籠のベッドで寝るようになってからは、睡眠不足が解消されて、だいぶソウさんも落ち着いてきたらしい。良かった良かった!って思うけど、これはさ…根本的な解決ではまったくないんだよ。


 シーラさん大好きっ子になっちゃったソウさん。

 シーラさんが突然のダブル子育てって感じになっちゃって負担が増えちゃってるから、普段はアギーラやガイアさんが外に連れ出して、日中はシーラさんから剥がしてるらしい。

 みんな各自各自でこの状況を受け止めて…自分たちが出来る事をやってる。


 自分に母性象徴の白羽の矢が立たずに良かった~!とか考えてる私の性格の悪さが、一段と際立つのは気のせいだよね…うん、きっと気のせいに違いない。


 “唯一”って絶対的に抗えない存在らしいんだよ。

 だから、そもそも、ソウさんが疑問を持った時点で、私は唯一とは違うんじゃないかってガイアさんが言ってたもん。


 私に魅力がないからじゃないかって声が、聞こえた気がしたけど…気のせい…じゃない気がする。ちっ。

 なんて冗談はさて置き、成人してからっていうのはやっぱりおかしい。


 考えられるのは…私の存在自体が、この世界のものではないからだって事。

 ガイアさんやグリンデルさん達には言えないのが辛いところだけど…自分の中ではそれが正解じゃないかって…。

 アギーラにその事を話したら、さもありなんって顔されたしね。


 バグでバグった…って事だと思う。

 私というバグ…この世界の異分子のせいで、ソウさん自身がバグったんじゃないかと思うのよ…

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