ちっちゃくなっちゃった。
「ベル、いらっしゃい」
「シーラさんっ!その肩に乗ってるのってもしかして…」
「聞いたのね。これが今のソウよ…」
「ぐるる…」
グリンデルさんからとんでもない事を聞いてしまって、居ても立ってもいられずに、シーラさん達の住居兼現在休業中の魔道具店を訪ねた私。
一体どうしちゃったの?
ソウさん…ちっちゃくなっちゃった。
お芋ちゃんみたいになっちゃったんだよ!
お芋ちゃんはエリマキトカゲみたいな見た目だけど、ソウさんはエリマキがなくってしっかりとした羽が付いてる感じ。サイズは私の片手にだって乗るくらいの小ささ。
羽が付いてるトカゲっぽい生き物。
すっごく小さいけど、この姿は…竜、なのかな…。
手乗りサイズの竜…竜なんてもちろん見た事ないけど、こんなに小さな…子供だとしても、こんな…手乗りサイズってあるかしら…。
ファンタジーにも程があるがあるよな体積問題。
院長先生もガイアさんも、完全獣化したら超大きくなってたから、この世界では普通なんだろうけど…獣化した際のサイズ変換って、どうなってるんだろう。
そして獣化して大きくなるのは気にならないくせに、こんなに小さくなってしまうと、元に戻れるのかって不安に感じるのは何故なんだろう。
ソウさん…戻れるんだよね…?
「ごめんなさい、勝手に話を聞いてしまって…。グリンデルさんから珍しい症例として話を聞いていたら、だんだん、ソウさんの事かもって…それで…」
「アギーラが学校に行ったら、ベルにも話すって算段になっていたのだから…気にしなくても良いわよ」
「あの…ソウさん、言葉はわかるんですか?」
「ぐるる…」
「グリンデルから聞いたかもしれないけれどね、恐らく今、子供に戻っちゃってる感じね。アタシたちの話はだいたいはわかってるみたいなんだけど、難しい話は首をひねっているから…理解できていない事もあるみたい」
「なんだってそんな事に…」
「原因はまったくわからないって言われたわ。それに…話せなくなっちゃってね。ぐるるぐるるって言うばっかりなのよ。アギーラが文字ボードっていうのを作ってくれたから、最低限の意思疎通はそれでとっているんだけど。この体でボードを指し示すのは大変みたいで…」
確かにちょっと疲れそう。意思伝達に時間もかかるだろうし…。
ソウさんの小さな頭をシーラさんがポンポンとあやすようにすると、ソウさんは嬉しそうに目を細めている。
いやいやその顔、完全なる子供ですやん…。
思わずじっーと…まじまじーっと見つめてしまう。するとソウさんは私の視線に気づき、じりりじりりと後ずさると、シーラさんの後ろにすっぽり隠れてしまった。
「ぐるるるる…」
「なんだか…私、すっごく恐がられてません?」
「それが…アタシ以外にはみんなにその態度でね。人が来るとこうやって隠れようとしたりして…」
「ぐるる…」
「ソウ、全然眠れてないみたいで。どうしていいものやら…」
「ホギャーホギャー」
「あらあら、ライアンが泣いてるわ。ちょっと見てくるから、その間に話でもしてみてちょうだいよ。若い子となら打ち解けられるかもしれないし…。アギーラもすぐに小屋から戻ってくると思うから」
必死にシーラさんの髪を引っ張って離れたがらない、小さな小さなソウさんをテーブルの上に置くと、シーラさんは二階に駆けあがって行った。
必死に追いかけようとするソウさんは、ベちっとテーブルの上ですっ転んで、そのまましゃがみこんで固まってしまう。
あれ?羽があるのに、テーブルの上から飛んで追いかけようとはしないんだ。飛べないの…かな?
シーン――
話しかける言葉が何も見つからない。「いや~、こらまた小さくなりましたなぁ!わっはっは~」とか…言える?言えないわ~。
「ソウさん…あの、私の事はわかりますか?ベルって言います」
「ぐるる…」
首を縦にコクンと振っているから、私の事は認識してるのかな…たぶん。
例のあの“唯一”衝動はどうしたのかしら。私、唯一認定されてたらしいって話じゃなかったっけ?
ビビリまくってテーブルの隅までさらに逃げたよぅ。縮こまって震えているよぅ。
私、唯一どころか、めっちゃ恐がられてるんですけど…これ如何に。
唯一認定からの~、唯一(疑)からの~、NO唯一、的な~!
こんな時になんだけど…やったーーー!
…って、いかんいかん。とりあえずはソウさんの事を調べさせてもらおう。
「あの…ちょっとだけ…ソウさんの事、調べても良いですか?私のスキルなんだけど…もしかしたらソウさんの言葉がわかるかもしれないの」
ケサラとパサラに最初出会った時に、体の具合が悪い所がないかって鑑定したら、鑑定を通じて何故か言葉がわかるようになったからね。だからもしかしたら…。
ソウさんは首を少しかしげていたけれど、話の意味を咀嚼できたのか、今度は何度も何度も首を縦に振ってきた。
「じゃ、ちょっとだけ。失礼します…」
「ぐるる…」
【状態異常なし/言葉、わかる?】
状態異常なしって、なんでやねん!というツッコミは今は省略。
「【言葉、わかる?】って、今、言いましたよね?」
【‥‥‥!!!】
「ただいま戻りました~」
扉を開けて、アギーラが家に入ってきた。
「アギーラ、おかえり~。お邪魔してまーす」
「え、ベル?どうし…ソウさんの事、聞いたんだ」
「うん…グリンデルさんと別件で話してて、そこで症例として聞いたら…もしかしてって思って…。ちなみに私とアギーラが知り合いだってグリンデルさんにバレたわ」
「あはは、いつかは話しておこうって言ってたから別に良いじゃん。でも今じゃない感はあるな」
「たぶん、この町で色々な事がありすぎてゲッソリしてると思う…」
「まぁ…仕方ないよ。知ってくれてるなら、色々と相談出来る事も増えるし良いんじゃない?」
「そうだね。まずはこっちが先決だけど…」
ソウさんを見る。アギーラの事はそれなりに信用してるらしく、アギーラを見ても震えたりはしていない。
良いんだ…良いんだ…。別に、全然、気にしてないもん。
「本当に、もうびっくりでさ。こんな事があるなら、何でもありじゃんって思ったの僕だけかな…。ファンタジー超越してるでしょ、これ」
「確かに…」
「ぐるる…」
「ソウさん、お待たせしてごめんなさい。今ね、私と言葉が通じるかどうかの実験しようとしてたところなんだ」
「あぁ…ケサラとパサラの時みたいにって事?」
「そうそう、よく覚えてたね」
「あんな面白い話、忘れる訳ないでしょ…」
「ソウさん、他にも何か言ってみて下さい」
【戻れない!】
「なんて?」
「【戻れない!】って言ってる。ソウさん、あってますよね?」
ソウさんは大きく縦に首を振った。
「ソウさん…ごめんね、話を色々と勝手に聞いちゃったの。グリンデルさん…薬師さんから聞いたんだけど、今、完全獣化が解けなくなった状態なんですよね?ソウさんはいつもはどうやって獣化から戻ってたんですか?戻り方を忘れちゃったって事?それともいつもの方法じゃ戻れないって事?」
戻り方を忘れただけなら、思い出せれば戻れるかもしれないけど、いつもの方法じゃ戻れないなら、ちょいと面倒そうな話。どうなんだろう。
【‥‥‥?】
質問が難しすぎたかな。わかんないって顔してるよ…
「獣化から戻る方法は覚えてる?」
【獣化した事ない…】
ん?んん?
今まで獣化した事が無いのに、完全獣化して…戻れなくなっちゃったって事?
これ…かなりまずいんじゃない?
「なになに?ソウさんはなんて言ってる?」
「獣化した事がないって…。ソウさん、今までの人生で一回も獣化した事がないの?」
こくんと大きく首を縦に振るソウさんを見て、アギーラと思わず顔を見合わせてしまう。
「あ…あの、今聞くのもなんだけど…私の事、“唯一”だって思ってますか?」
【ゆいいつ?】
少々…いやだいぶ、子供化してしまったらしく、話が難しいと通じないって言ってたけど…まさかのこれもわからない…。
「うーん…ソウさんは、誰が一番好き?」
【シーラ!】
やっぱり!?良かった~!とか、こんな時に思っちゃいけないのかもしれないけど、やっぱり良かった~!!
これ、唯一騒動…原因はわからないけど、なかった事になってる気がする。
唯一だ!とか言われてもさ…困ったなって思ってたのよ。
ほらなんせ、私、まだ8歳だし。この世界でのルールは知らんけども、私の居た場所ではこういうの、犯罪中の犯罪だからね。郷に入っては郷に従えというけれど、受け入れられないものは受け入れられない。
「ソウさん、何だって?」
「シーラさんが一番好きだって」
「そうだろうなとは思ってたけど…“唯一”というよりは、母性を求めての“好き”って感じだよね」
「うん。シーラさんの事、お母さんみたいに思ってるんだろうなぁ。私の唯一問題って…これ、ノーカンきたよね?」
「ベルが嫌がってる事は知ってるけどさ、告ってきた相手から告られた次の瞬間に振られる人を見てしまった的な、謎シチュエーションが…」
「それな!唯一とかマジ勘弁って思ってたけど、これはこれでなんだろう。切ない…」
本当にこれで良かったと1000%思ってる、思ってるけどさ。何とも言えない感情がちょ~っとだけあるっていうかね…いや、別に良いんだけども…




