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これってもしやロリコ…

つがい”を連想させるような、“唯一”という表現が暫く出てきます。

苦手に思われる方はご注意ください。

ちなみにそっち系の話には全くなりません。

 アギーラの俯瞰検証、あれこれあれこれ。

 ふんふん、半透明のアギーラがペンと紙を手で持って移動するのは現状難しいわね。

 

 しかも、持って移動しても、手に持っている紙にペンで何か書いても…書けないのよ。

 インクがでないだけじゃない、筆圧の跡すら残らなかったし。これは書板も同じで白灰の粉すら残らない。


 でも、文字ボードを使って、半透明アギーラが指差しで意思を伝える事はできる。

 声は聞こえるらしいんだけどね、ウワンウワ~ンって音が反響しちゃってる感じで、聞き取り辛いんだって。

 レベルアップしたら改善されるのかなぁ。もし声が聞こえたら、天井裏に潜む忍者行動もできるんだよ。犯罪だけどね…。


 今のところ、とりあえず私は筆談、アギーラは文字ボードとジェスチャーで、意思の疎通を図ろうって事になったんだ。

 さっそく文字ボード…コックリさんボードみたいなやつ…を作るって、アギーラが張り切ってる。


 これにて大興奮の第一回俯瞰会合は終了。


 いやー、思いもかけず、もの凄い収穫だったわ。

 何に使うのかって聞かれても困っちゃうんだけど、おもしろいは正義、だからね!


 ◇◇◇


 半眼からの白眼に見事なシフトを決めたガイアさんを放置して、孤児院に帰ろうとした時、お店の扉を開けて入ってくる男の人と鉢合わせ。


「こんにちは!入るよ~」


「ソウさん!」


「よう、アギーラ。ガイア居る?」


「居ますよ。1階の奥で座ってます」


「あ、お客さんかな?ごめんね、急にお邪魔しちゃって………っ!!!!!」


「いえ、私はお(いとま)するので大丈夫で…?………ひぃぃ」


 ペコペコしながら脇をすり抜けて外に出ようとしたら、ソウさんとアギーラが呼んでいた男の人が、妙なフリーズの後、急に間合いを詰めてきた。


 ちょちょちょ…恐い恐い。

 ぎょっとして固まってしまう私。


 私の様子に気づいたソウさんという人は、慌てたようにさささっと後ろに下がってくれた。


「ご、ごめん。僕………ガイアさんの知り合いで、冒険者をしているソウって言います。君の…名前を聞いても良いかな?」


 話すと…まぁ、普通の人っぽいけども名乗りたくないなぁ…。

 ガイアさんのお知り合いだって言うし…仕方ないか…。


「アギーラさんの友達で、ベルと言います…」


「そう、ベル。ベル…ベルは何歳なの?」


 ずいっと間合いを詰められる。


「8歳…」


「ふーん、そっかぁ」


 ずいずいっと間合いをさらに詰めてくる。


「どこに住んでるの?」


 ずいずいずいっと…えーん、こいつ…なんなの?

 このソウって人、恐いー!


「おい!お前、ベルから離れろ」


 白目から完全復活したガイアさんが、奥から出てきた。もっと言ってー!


「ガイアったら、酷いなぁ。俺、変な事なんて言ってないし」


「いや、なんか目つきがヤバかったし近づきすぎ。ソウ、来週のダンジョンの話だろう?いいから早くこっち来い」


 そう言ってガイアさんがソウさんを、奥の部屋へと強制連行してくれた。

 これってもしやロリコ…


「ベル、送るから行くよ!」


「アギーラ、待って~!ガイアさん、お邪魔しました」


「おう、また来いよ!」


 ガイアさんのでっかい体躯の後ろから、ソウさんがその肩越しに、顔だけにょきっと出して手を振っている。


「ベル、また会おうねぇ!」


 嫌です。きっぱり。


 ◆◆◆


「ソウ、お前…一体どうしたんだよ」


 今までの付き合いで、そういう性癖じゃない事はわかっちゃいるが、何だよ…今の態度は…。


「俺、()()…見つけた…」


「‥‥‥!?」


「‥‥‥」


「お前が完全獣化してるところなんて見た事ないけどよ。唯一を見つけるって事は、先祖返りだって事だぞ?」


「‥‥‥」


「いや、別に詮索するつもりはねぇよ。ただ、成人してから唯一を見つけるって…なぁ、本当に唯一なのか?」


「ガイアも…唯一持ちなら…わかるでしょ」


「…まぁな。でも…年齢が…。とにかく、本当に唯一だったら…お前、変な態度は金輪際、絶対にとるな。さっきだって相当怖がられてたぞ」


 野生の血が濃いと言われる先祖返りの獣人男性は、自分の唯一の相手を見つけた時、体内魔力が一気に沸騰して増幅する。自分の体の事だ、間違いようがない。あの…唯一を唯一と認識した時の悟り。


 先祖返りの獣人男性が本能で嗅ぎ取る唯一、大事なパートナーの存在。

 面白い事に唯一は、大抵、先祖返りの奴の近くに住んでいて、しかも近い年頃の奴から見つかる。だから、唯一は幼馴染ってパターンばかりなんだ。


 幼馴染が好きだから、唯一になるんじゃないかって?違うね。そういう甘~い話じゃねぇんだよ。

 こればっかりは、先祖返りの奴にしかわからんだろうけど。


 産まれる前から決められている唯一の相手。

 まるで神の采配、天啓。

 そういうレベルの話なんだ。


 ソウみたいに成人した奴が、唯一を見つけるなんて事は凄く珍しい。珍しいというか、そんな話聞いた事もない。

 まいったな…こんな時期に、こんな事ってあるのかよ。


 そう、こんな時期に、だ。

 獣人女性の抱える悩みの改善薬が販売されるって話は、随分前から聞いていた。今回の件はヤタガラスと特にサクラが暗躍しているから、ギルドも本気で貴族連中と渡り合ってるんだろうと思う。一部のやつらは、獣人族への嫌がらせにかけては天下一品だ。今回の件の根回しも、さぞ大変なこったろう。


 薬師達もやけに張り切って取り組んでいる。俺達獣人は昔っから家族や友人が、辛い思いをしてきたのをずっと見てきた。そんな辛い症状を緩和させてくれるブツが見つかったっていうんだから、気持ちはわかる。

 今日だって先祖返りに影響がないかどうかの調査に、俺だって参加してたんだ。


 そもそも先祖返りはごくごく少数。どういう条件下で生まれるかも定かじゃない。人数が少ないから、こういう時に協力できる者も少ない。

 それに先祖返りってそもそもなんだと問われても、俺自身もよくわからないくらい、定義はあやふやなものだしな。

 

 完全獣化するかしないかがまず一つの指標となる。だが、完全獣化できる奴でも、全員が先祖返りって訳じゃない。他の人よりたくさんのスキルを持っていたり、魔力量が獣人族にしては多かったり…そう言う事も見極める判断にはなるだろう。そして…先祖返りの一番の特徴は、幼い頃に自分の唯一を見つけるかどうか。

 

 唯一を見つけるのはみんな幼少期。だから成人以降の獣人女性にふりかかる不安定期の薬には、俺達の特性は別段気にかける事は無いんじゃないかって…今日も薬師に一席ぶったばかりだった。

 

 どうやら発情香も不安定期も、どっちの薬も発明者は同じ人間族らしくて、獣人には詳しくない奴らしい。なんで発明出来たのかが逆に疑問だけど。

 

 その開発者から、薬によって獣人族の生態系が崩れる事のないようにしてもらいたいって、口酸っぱく言われているらしく、先祖返りの俺にまでお声がかかったらしいが…成人後に唯一を見つけちまった男が、こんな時期に、俺の目の前に現れるとは。


 ‥‥‥。

 すぐにでもギルドにに報告しておいた方が良いだろう。


 それにしてもだぜ?よりにもよってソウの唯一がベルとはな。

 いやはやなんとも…これって笑ったら不謹慎か?

 

 先祖返りだってかなり特別な存在だと言われているが、ベルは別な意味で…特別な()()を持って生まれた子だ。少なくとも俺はそう思っている。あの子には()()がある。

 見た目も年齢も全く違うけど、何故か()()アギーラと似ているのも不思議なところだ。ソウと俺みたいに、類は友を呼んだんだろうけれど。


「わかってる。俺だって嫌われたくないからね。こんな事、もちろん初めてで…ちょっと取り乱しただけだよ。今度からは気を付けるって」


「あんまり吹聴するなよ」


 自分の身を自分で守れない様な幼い頃は特に、自分が先祖返りだという事を吹聴するのはよくないと、黙っているようにと言われたもんだ。獣人族ってのは、昔っからなにかと人間族のお偉いさんがたから煙たがられてきた。今はそんな事ないけれど、先祖返りは攫われて殺されたりしてきた歴史が度々繰り返されてきたらしいから。


 強い力は世界の均衡を崩すとか何とか…だから、ペラペラ言いふらさないようにって両親からきつく言い含められて育ったんだよ。ソウはもう成人してるってのに…これは風習みたいなもんだから、つい言っちまう。俺も年をとったのかもしれない…。


「ジンクス?でも俺はもう大人だし、あんまり気にする事もないんじゃないかなぁ」


「まぁな。それとな…相手は人間だ。シーラもそうだったが、この衝動を理解してもらうのは難しい。そこをよくよく考えて行動する事だ。嫌われたらそれこそ悲劇だぞ」


「うん…」

 

「あと…成人までは手を出すなよ。ベルはちょいと変わってはいるが、いい子だ。絶対に嫌な思いをさせないでやってくれ。シーラだってベルの事はもの凄く可愛がって…お前、ヘタな事したら殺すからな」


「怖っ。これだから唯一持ちが唯一の事になると…わかってるってば!」


「お前も唯一持ちの一歩を踏み出したんだよ、アホウが。そうだ、あとでステータス確認してみろ。もしかしたら魔力が増えてるかもしれない。成人してから唯一が見つかったってケースは初めて聞いたから、自信はないけど…なぁ、体は大丈夫か?」


「一瞬全身が燃えたのかと思って驚いたけど…今はもう大丈夫。落ち着いてるし、むしろ快調なくらいだよ」


「そうか。じゃぁ悪いがな、今から一緒にギルドへ行ってくれ」


「ギルドって…何で?」


「それは道すがら話すよ」


「別に良いけど…」


「…なぁ、くくっ…シーラに言っても良いか?」


「ダメって言っても、絶対言うくせに」


 俺の事、いつもさんざん笑って、さんざんからかってくれたよな。

 唯一持ちは大変だなぁ…なーんて、呑気に言いやがって。

 積年の鬱憤をこれから存分に返してやるから、楽しみにしとけよ。


 俺の唯一がシーラだったように、ソウの唯一はベル。

 まぁ、そう言う事だ。


 ベルにとっては災難かもしれん。

 すでに好きな奴でもいたら…ソウの存在は厄介でしかない。

 そういう事がおこらないように、幼い時に唯一がちゃあんと見つかるんだって、昔、爺さんが言ってたのに…こんなイレギュラーな事があるなんて…。

 アギーラ?あれは違うだろうよ。あれはどう見ても()()()だ。


 人間族には理解されない事が多いから、ソウも前途多難だよ。

 でも、こればっかりはどうしようもない事。

 なんせこれは…俺達、先祖返りの運命なんだから。

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