幽体離脱~!?
ガイアさんの精霊信仰しゅうきょゥ…大興奮が一段落し、パケパ芋達が外に遊びに行った後、すっかり忘れていたおむつケーキを進呈。
げっ、ガイアさんが凄い目をしてこっち見てた…。
だってさ…おむつケーキ、収納から出す前にガイアさんに外で会っちゃって、こっそり出す暇がなかったんだもん。
ガイアさんがパケパ芋に感動してるうちに、シレっと出しちゃおう作戦は見事に失敗した模様。
「もう、何も言わんが…色々、気をつけろよ」
ガイアさんはそれだけ私に言って、シーラさんと一緒におむつケーキを見て喜んでいる。
アギーラ、そんな目で私を見るんじゃないよ。
わかってる、わかってます。もっと気を引き締めて生きるから。
私の天使、ライアン君がまたお仕事モードに入っちゃった。もっと見ていたいけど、そろそろお暇しなければ。
帰る前にはもちろんアレをお願いせねばいかん。
「ねぇねぇ、そろそろ失礼させてもらおうと思うんだけど…その前にさ、アギーラの俯瞰魔法、見ーせーてー!」
◇◇◇
「僕、抜け殻みたいになるだけだから、見てても本当に面白くないと思うけど…」
「いいのいいの。ちょっと見たいだけだからさ。あ、バングル使ってみてね」
「了解。ガイアさーん、少し俯瞰を使いたいんですけど、一緒に来てもらえますか?ベルが見たいらしくって…」
最近では一人で訓練する事も多いらしいけど、ガイアさんがいる時は、訓練に付き合って貰ってるんだって。
なんでもアギーラの本体を揺さぶれば、俯瞰しているアギーラの意識はすぐに戻ってくるらしいんだ。
だからね、アギーラの様子が変だなって思ったら、ガイアさんが引き戻す要員として横にスタンバイしてるらしい。とは言っても一度も何か事件があった訳じゃないよ。
でも保険的な意味合いで、大抵はガイアさんがご飯食べたりしてる間に付き合って貰ってるんだって言ってた。
今日は私が見学するから、ガイアさんにも一緒にいて貰いたいんだって。
「いいぞ。ライアンが寝たばかりだから、1階に行こうか」
そうだ、ガイアさんにもバングルを渡してしまおう。
ちょいとアギーラの俯瞰魔法見学の前に、バングル試着会。
魔法付与でズボンを完全獣化に対応させる事もできるらしいけど、今日の服には付与がかかってないらしいから、私とアギーラは先に下におりてスタンバイ。
いや待てよ、獣化の瞬間をちょっとだけ…だって幼馴染のジルに頼んでも獣化の瞬間、見せてくれないんだもん。って、あたしゃ痴女じゃないんだよ!興味、知的好奇心なのです!!
「ガイアさん、バングルを付けたままで何度か獣化を試してもらえますか?ちゃんとバングルが伸縮するか試して欲しいんです。もし駄目だったら、アギーラに魔法付与し直してもらうので」
アギーラに聞いたんだけどさ、ギルドにはそういう冒険者サービスがあるんだって。
完全獣化出来る人に対しては、人型と獣化した際の体躯、どっちでも対応できるように、すっごくリーズナブルな価格で、防具やら服やらに魔法付与をかけてくれるらしいの。
完全獣化できる人が少なくなってる世界で、完全獣化できる人は今やとっても貴重な存在らしい。
孤児院の院長先生やジルなんかは、実は結構な貴重人物なの。
最近じゃガイアさんの衣類には直接アギーラが付与してるんだって。ギルドに頼むと結構時間がかかるらしいんだ。
アギーラったら魔法付与が結構得意らしくてね、ぐんぐん成長中なのよ。
なんでも魔法付与って、あのパソコンやらでゴニャゴニャするプログラミングってやつに似てる所があるらしくって、結構スムーズに勉強が進んじゃったらしい。
「ベルもプログラミングをかじった事があるなら、魔法付与お勧めだよ!」って言ってきやがった。これだから、若い奴は…みんながみんな、さらっとプログラミングができると思うなよ。こめかみに梅干しの刑を処してやる。わはは。
「痛い痛い、ぐりぐりやめて~!そう言えばテント出来たよ。魔法付与の練習も兼ねて作ったから、防水だけじゃなくて、微量だけどステルス機能を付けてみたんだ。で、余った布で作ったステルスマントもあげるから許して~」
急いで私の梅干しから逃れて、アギーラはテントとマントを持ってきた。
「ほら、ベルにジャストサイズ!いや~、逃亡心に火がついちゃう一品でしょ?」
逃亡心とか、時々意味不明な台詞を混ぜてくるけど、アギーラが有能すぎる。おまい、一生逃さん。
一階の奥に休憩スペースみたいな場所があるから、そこで俯瞰見学会をする事になった。
アギーラが椅子を勧めてくれつつ、裏口の扉を少し開けている。
アギーラの俯瞰魔法は、完全に閉まっている所は通り抜け出来ないんだって。
窓があれば中を覗く事はできるけど、通り抜けは出来ない。そんな感じ?
戻る時は一気に引き戻されるから、窓があろうと、扉があろうと、ちゃんと戻れる安心設計らしいけど、ぴっちり閉まった宝箱をこっそり覗くなんてことは出来ないのよ、残念。
本来は、野外で偵察とかに使う部類の魔法なんだろう。そんな事を話していたら、ガイアさん登場!
わーお。
でっかくって、めっちゃかっこいいワンコキター!
ワンコ?狼?何でも良いけどもっふもふでかっこいー!
「何度か獣化したが、大丈夫だったぞ」
バングルを鼻でつんつんとつついて、また二階に戻って行ってしまった。もふもふさようなら…。
そうそう、完全獣化した獣人さんって、普通に喋れるんだよ。
院長先生とかジルとか…最初話した時、すっごく感動したんだから。
不思議なんだよね、これ。読唇術は使えない感じ?なんていうか…腹話術っぽいというより、表現が難しいんだけど、唸り声を出してるみたいな感じなのに、ちゃんと言葉になってる。そんな感じなの。
え?読唇術が使えるのかって?使えないに決まってるでしょ…思っただけっす。
「凄いな、ちゃんとサイズ調整できてる。大したもんだ」
ガイアさんが人型で戻ってきて褒めてくれた!
褒められると嬉しい!子供だからすっごく嬉しい。嘘です、たとえ大人でも褒められると嬉しいよね~。
でもさ、もっふもふでふっさふさだけど、獣化した前足の太さと人型の時の腕の太さってあんまり変わらないみたい。そんなに伸縮性を考えなくても良かったのかも…なんて今更ながら思った私。
私も付与魔法みたいに、服全体に伸縮をかけられるかな。今度試してみよっと。
「良かった!実験みたいになっちゃってすみません。遠距離移動時には獣化してるってシーラさんから聞いて…移動時間が短縮できるかなって思って作ったんです。良かったら使ってください」
「家族の元に一秒でも早く帰れるグッズをくれるなんて…ありがとう!恩に着るよ」
「どういたしまして!」
「この手のサイズ調整って結構難易度高いと思うんだけど…また裁縫の腕をあげたんだね?」
「う、うん。ソウナンダヨ」
アギーラから裁縫強調ツッコミを頂く私。
そうそう、裁縫です。さ、裁縫スキルで出来た事なのです。強調強調。
「そ、それを言ったらアギーラの俯瞰もさ、レベルが上がったらもっと使い勝手がよくなるかもしれないよね。窓通り抜け~とか」
「いや、覗きみたいだから、変な事はしないって」
「確かに。一線超えると犯罪臭」
「酷い!じゃぁ、行ってくるけど、意識のない僕の体…押すなよ?絶対に押すなよ!」
「いや、押さねーよ!」
「「ヤー!」」
アギーラは絶対同じ日本から来た事が確定しましたな。同じ日本人の伝統芸能DNAを組み込まれた輩だと確信した瞬間に、急にポカーンとしてフリーズしたアギーラ。
俯瞰が始まったんだ!
‥‥‥。
んん?
あれれ?
幽体離脱~!?
◇◇◇
椅子に座ったポカーンアギーラと、その頭上にいる人物。それは紛れもなく半透明なアギーラで。
服は…着てる。
いや、そうじゃなくって!なんでそっちの…半透明の方のアギーラも見えんのよ!!
思わず指差して…でも、口がパクパクとしか動かない。
やっと出た声が、超掠れてる私。
こういう時、実年齢がひょっこり出るよね~、じゃなくって!
何で?何で?
「あ…あの…あれ…」
「ベル、どうしたんだ?」
何もない空間を指さす変な子供ってガイアさんには見えてるはず。
違うの、違うのよ!そこに半透明のアギーラがいるの!!
「アギーラが…二人…」
指を差された半透明のアギーラが驚いたように部屋中を移動。
そのまま指で半透明アギーラを追っちゃう私。
人を指さしちゃいけません!いや、あいつ妖精だし!!一人ツッコミしている間にアギーラは手を振って、扉から飛び出して行っちゃった。
どうなってんの、これ。
◇◇◇
「どういう事?」
戻って来たアギーラが開口一番に聞いてくる。
「いやいや、こっちが聞きたいって。俯瞰してる方の姿って…見えないんだよね?」
「今まで誰にも指さされたり、目で追われたりした事なんてないから。あの黒い犬以外は。あ…もももももしかしてあの犬はベルの化身…」
「なんでやねん!でも…半透明だけどさ、本当にちゃんとアギーラが見えたんだよ」
「うん。俯瞰してる僕の事、完全に認識してた。それはわかる。…なんで?」
「だから、こっちが聞きたいって!あ、バングルはどうだった?」
「凄い凄い。スピードがかなり上がったよ!これなら今までより、もっと遠くまで行けるようになる。ありがとね!」
「どういたしまして!ねぇ…もしさ、半透明のアギーラと私の意思疎通が出来たら…面白いと思わない?」
「え?まぁ、確かに。あ、ちょっと待ってて」
アギーラが紙とペンを持ってくる。
「服も着たままって事はさ、手に持ってるものもそのまま使えたり…」
「あー、でもちょっと手がね…こう…方向調整で使ってたりするから…」
「あー…手がピクピク動いてた」
「うん、手で方向調整してる感じなんだよ」
そう言えば、ドローンみたいだって言ってたもんなぁ。そっか…エアリモコンを手で操作してるんだろう。
「じゃぁ、私に頂戴よ!文字盤みたいなさ…あ、紙はもったいないから…そこの書板と白炭、貸してくれる?試してみようよ」
こりゃ面白い事になってきたぞ。
うへへぐふふとひたすら実験を繰り返す私達。
隣に座る半眼のガイアさんの事、すっかり忘れてた。
だって私、子供だもん。一つの事に夢中になったら、周りの事は眼中になくなる立派な子供なんだもーん。
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