うむ、久々のファンタジーや。
一言で言えば、これは天使。
天使が目の前にいますよ!
ライアン君、降臨!ピカーン。
効果音付き。いやもうほんと、そんな感じ。
今はぐっすり眠っているけど、もうマジ天使。
獣人族の特徴をしっかりと受け継いでいるライアン君は新生児だけど…結構、いや凄く大きい。
日本の…親戚やら友人の新生児しか見た事がないし、自信はないけど…人間族と比べたら、初期段階の発達が異常に早い気がする。
獣人族の肉体ってこんなに小さな頃から人間族とは違うんだ。身体能力の差に妙に納得がいくわね。
うっとりライアン君の寝顔を見つめていたら、窓の外から見ていたパケパ芋、気付いたら…部屋の中に入ってきてた!?
「ちょちょちょ、みんなダメだよ!お部屋には入ってこないって約束したでしょ!!」
<だって…>
【【全然…】】
<見えないのだ!>
え、全員自由すぎる!ちょっ…どうしよう、どうしよう。
オロオロしている私に気づいたアギーラに目で相談。
「うーん。言っちゃえば?ほら、授業でも言ってたじゃん。自分で言うのもなんだけど、妖精は気ままで自由な存在だって。もし見えたとしても邪魔はしちゃだめだって」
「だけどさぁ…新生児だよ?さずがに…私だってそろそろ失礼しようと思ってるのに、こんなに大勢で…菌とか持ち込んでたら大変だもん」
「あ、僕がとりあえず浄化魔法をかけようか」
「ありがとう、助かる!私にもかけて~!!」
私も含めてみんなでアギーラの浄化魔法にお世話になる。
きぃぃ、生活魔法、羨ましい!
「ライアン君のご両親にお願いしてみるから。ほら、みんな一緒に行くよ!」
皆にお小言を言っていたら、テーブルに座っているシーラさんとガイアさんが何事かとこっちを見てる。そうだよね、独り言ブツブツ言ってるヤヴァイ奴がライアン君の側にいるのは不安すぎるだろう。すいません、すいません。
精霊とかって…赤ちゃんに何か影響があったらどうしよう。アギーラが近くにいるんだから大丈夫だとは思うんだけど、異世界ルールとか、知らんもん!
ライアン君に何かあったら大変だよ。オロオロ。
「あの…シーラさん、ガイアさん…ちょっとお話が…」
「どうした?」
「実は…今日、どうしてもついて行くってきかない者たちが一緒に来ていて…赤ちゃんを窓の外から覗くだけって約束してたのに、部屋に入って来ちゃって…ごめんなさい。どうしても赤ちゃんが近くで見たいって…」
「僕からもごめんなさい。相談されて…良いよって言っちゃったのは僕だから」
「ん?話がよくわからん。二階の窓から見るだけ?…鳥か?確かに野鳥だと赤ん坊に触れるのは…」
「あの…精霊と幻獣…とか…」
「なんだって?」
「妖精と精霊と幻獣です!」
「え!ど、どこにいるんだ?」
急にガイアさんが慌てだす。
やっぱり勝手に入ってきたらいかんですよね…本当にすいません…。
「私の両肩とこの髪飾り…です」
「髪飾り…これが…」
「幻獣です。どうしても近くで見たいって勝手に入って来ちゃったの。本当にごめんなさい。何か赤ちゃんに影響があったらどうしよう…」
妖精菌とか幻獣菌とか…。
「いや…何か影響があるとかいう話だったら、そもそも俺達はこの世界に居られないだろうよ。それより…シーラも見てみろよ!スゲェ、幻獣だって。俺、初めて見た!」
「アタシも初めて見たわ。幻獣って…ずいぶんと可愛いらしいのねぇ。幻獣さん、こんにちは。うちのライアンに会いに来てくれてありがとうね」
あ…ケサラトパサラが勝手に髪留めの擬態を止めてシーラさんの周りを飛び始めたぞ。こら、やめなさい!お行儀悪いから!!
暫くするとシーラさんの手のひらにしっかりおさまって、気持ちよさげに撫でられている。
何この子達ちゃっかりしてる。自由か!
「あとは…妖精と精霊…?俺には見えんが…。」
「昔は見える人もいたらしいんでけど、最近じゃ見える人が少ないって聞いてます」
「あぁ…そうだな。見えない種族って事は、同じ精霊族でもドアーフやエルフとはまた違う種の者なんだろう?」
「はい」
「と、ともかく、我が家へようこそ。皆さん、ゆっくりしていってください」
「え…良いの?」
「良いも何も…。きっとベルの前提が間違っているんだろうな。ここは…この世界は精霊たちが羽を休める為に作られたんだ。我々は人族はそこに住まわせてもらっているだけなんだよ」
「あらら、久々にガイアの精霊論を聞いたわ。この人、そういう事に妙~に詳しいのよね」
「精霊に助けてもらったっていう冒険者の昔話をたくさん聞いてきたからな。だからなんとなく詳しくなっちまって…冒険者達はその手の話が大好きなんだぜ。俺の言葉は…通じていないんだろう?是非、自由にしてもらってくれと伝えてくれないか?」
「いえ…ガイアさんが話している事は通じていますよ。<そういう考えの者がまだおったとは意外な事よ…>って言ってます」
「差し支えなければ、どういうお姿なのか教えてはくれないか?あぁ…信じられない。俺の目の前に…いや、この空間にそんなに沢山の…」
ガイアさんがなんか手を広げてブツブツ言い始めた。ちと恐い。
「こ、こっちの肩にいるのは羽の生えた小さな女の子の妖精です。それで、こっちの肩にいるのはサラマンダーっていうトカゲみたいな…」
「なぁ、ベルには見えるのか?」
「はい…サラマンダーは、昔、困っている所を助けた事がありまして…えぇと…そのご縁で…見える…的な…」
そう言えば私、何で見えるんだろう。
ステータス的には人間族だけど、やっぱり元パトナの肉体を使わせて貰ってるからかなぁ。
「そうか…サラマンダーと羽のある女の子か今ここに…」
「とにかく、最初にお話しておくべきだったのに…勝手に連れてきちゃって本当にごめんなさい」
「だから全く構わないんだって。皆さん、是非ライアンに会ってやってください」
「良いんですか?」
「もちろんだよ!」
「ベル!ライアンが目を覚ましたよ。みんなこっちに来て!」
ライアン君の側にいたアギーラから声がかかる。
「じゃぁ、ガイアさん、シーラさん、お言葉に甘えて…みんなで挨拶させてもらいます」
「あぁ…なんて幸運な子なんだ、ライアンは!」
ガイアさんが、壺売りそう。水売りそう。布団売りそう。
うん、決めた。早く挨拶させてもらって撤退しよう。
「ほら、パケパ芋、行くよ!」
「パケパイモ…」
「パトナとケサラとパサラとお芋ちゃんって名前なんですけど、長いのでまとめて呼ぶ時はパケパ芋って呼んでるの」
「名前…名前があるのか?」
「はい…名前が欲しいっていうから…。あ、お芋ちゃんは精霊だって知らずに勝手に名前を付けちゃって…それで…」
「はぁぁ…そうか、ベルだもんな…。と、とにかく、ライアンに是非会ってやってくれ」
ん?ちょっと今、聞き捨てならん言い方されたような…ま、いっか。
「はい!パケパ芋、行くよ…もし悪い事したら、お尻ペンペンだからね」
「お尻…ペンペン…」
呆然としているガイアさんをよそに、アギーラお手製ベビーベッドに居るライアン君の側へと向かう。
パケパ芋よ…精霊だろうがなんだろうが、ライアン君にいたずらしたらお尻ペンペンだからな。
「こんにちは~。パケパ芋とベルだよ~、ライアン君、初めまして~!」
「きゃっきゃっ」
「や~ん。笑った!笑ったよ!!可愛いねぇ」
赤ちゃんって何か出てる。幸せビームとか癒しオーラとか、絶対出てる。
ずっと見ていられる。寝ても覚めても天使。なんて可愛んだろう…。
暫くキョロキョロと周囲を見ていたライアン君は、そのうち空中でふわりと浮いているケサラとパサラに向かって、その小さな手を懸命に伸ばし始めた。
ケサラとパサラがライアン君の両手にふんわりと近づいて行く。
二匹の毛をぎゅっと握りしめているライアン君、ご満悦。
そして何故かパトナとお芋ちゃんがベッドの周りをぐるぐると回り始めた。
「ちょ、ちょっと…何してるの?」
人様のお宅で急に走り回らないで!飛び回らないで!!
そう思った時、パァァっと、細かい金色の粒子がライアン君の周りを舞った。
なんこれ、綺麗。
<見て見て~お芋ちゃんとお祝いしたの~>
「うん、すっごく綺麗だよ。パトナもお芋ちゃんも…ありがとう。きっとライアン君も喜んでるよ」
お祝いだって。エエ子やなぁ。
ライアン君が金色の粒子が舞う中、パトナとお芋ちゃんを交互に見る様な仕草を見せる。
「ふふふ。ライアン君、まるでパトナとお芋ちゃんが見えてるみたいじゃない?」
<祝福の効果で瞬間的に見えているのだろうな>
「え、そうなの?」
後ろで鼻をすする音が聞こえたから振り返ると、そこには泣きながら鼻をズビズビしているガイアさんと、目を真ん丸にしているシーラさんが居た。
「お二人にも…もしかして見えました?」
「見えた…俺も、見えた…」
一部始終を冷静に見ていたシーラさん曰く、金色の粒子が見えたと思ったら、パトナとお芋ちゃんの姿が見えて、粒子が消えたと同時にまた見えなくなったらしい。
うむ、久々のファンタジーや。




