どすこーい!
「カシュリって…あの甘いお菓子の?」
「そうそう、姉カシュリさんと妹カシュリちゃん」
「違うよう。私はローザ。こっちがお姉ちゃんのリサだよ」
「リサです。姉カシュリでっす。今日はよろしくね」
アギーラも土産物としてよく利用してるらしい。カシュリのお店の姉妹だと聞いて、包装紙に思い至ったらしく、納得しきり。
ローザから紹介を受けたリサさんは、ノリの良い姉御肌タイプの人だった。ローザがほんわかタイプだから、お姉さんも同じようなタイプかと思ったらチャキチャキタイプ。姉妹あるある。
話しやすそうな人で良かった~。失敗しても笑って許してくれる気がするよ。
アギーラが彫刻刀の使い方をレクチャーしてくれるはずだったんだけど、何も彫るところまで、自分たちでしなくても良いじゃないかと押し切られて、結局デザインをローザとリサさんが考えて、彫刻刀を使って彫る過程はアギーラがしてくれる事になった。
アギーラは道具職人見習いだし、お手の物だよね。ここはプロにお任せしよう。
プロがいるなら全力丸投げ、それが私の生きる道。
リサさんが紙に書いたデザイン案をいくつか持ってきてくれている。
初期学校の終わった後に、少しだけ教室を貸して欲しいとお願いして、そこへリサさんに来てもらったんだ。
「何パターンか持ってきたんだけど、作れる形とかに制限があるのか…ローザの話じゃ要領を得なくて…一応こんな感じで作ってみたんだけど…」
リサさんや、要領を得なかったのはローザが悪いんじゃないんじゃ…ローザ、なんかごめん。
「ふんふん…これならどれでも大丈夫だと思う。サイズはこのままで大丈夫?」
「うん」
「じゃ、ちょっと待ってて。女子会でもしててよ!」
「「ジョシカイ?」」
「あーっとね、女子はこっちでお話でもしてようよって事かな。私さぁ、実はこういうのを作ってるんだけど…お話ししがてら、一緒に作ってみない?」
「あれ?これって魔力操作訓練の…玉?」
「そうそう。孤児院の子供達のおもちゃになるんじゃないかと思ってさ、沢山作ってるの。でね、こうやって刺繍して…みんなの顔に似せて作るとすっごく喜ぶんだよ」
「あら!これ、かわいいじゃない。ローザ、私達も作りましょうよ!」
「是非是非。端切れも裁縫道具もあるし、あと…中身はこれ」
「これって…豆?」
「そう、ドラジャの乾燥豆。音が良いでしょ?」
振るとしゃかしゃか小気味良い音がする。初期学校で使っているものよりも音も良いし、緊急時には非常食にもなります!不味いけど!!
「これならさ、別に初期学校に入る前の子供が遊ぶのにも良いかなって。掛け声も作ってるんだ」
「掛け声?」
「うん。どうせなら計算の基礎になるようなね…見てて」
私は九九にうまく節をつけて、自作お手玉を空に放り投げた。
「サンイチがサーン、サンニがローク、サザンがキュー……」
「あら…それって計算してるの?」
リサさんが食いついてきた。
「うん!3が一つで3でしょ?3が二つで6でしょ?そういう掛け声。これなら自然に計算の勉強が身につくと思わない?」
「へぇぇ。それ、おもしろいわね~」
「えへへ。ほら、ロクイチがローク、ロクニがジュウニー、ロクサンジュウハーチ…字余りになってくるとリズムが取りずらくって難しくなってくるんだ。無意識に玉を回すって訓練にも、一役買うんじゃないかなって」
魔力操作訓練と計算の勉強を一気にする作戦よ。
お手玉に刺繍した可愛い顔に騙されて、孤児院の可愛い後輩たちは既に陥落済。小さい子の目の色と髪の毛の色に合わせて、みんなの顔っぽく刺繍すると、めちゃくちゃ喜んで遊んでくれる。
それどころか、予想外にパイセン達までハマってしまって…その不足分を鋭意作成中なの。
年上組には「何でもっと早く作らなかったんだ」って怒られてるけどね。まぁ、これは主に掛け声のほうかな。
9の段まで覚えられれば凄いぞって話になって、みんな必死にブツブツ言ってて…ちょっと恐い孤児院になりつつある。
仕掛けたのは私だから文句は言えないけど、不気味なのよ…。声変わりしてる兄さん達の集団九九とか…いや、まじで怖いから。
やっぱり数が大きくなるほど不人気なのが面白い。ちなみに7の段と8の段の嫌われっぷりは、この異世界でも同じ。
9の段は最後の段だって思うと、覚えめでたいものらしく、みんなすぐに覚えた模様。なんだそれ、私、そんな事なかったぞ…9の段も嫌いだったもん。
お手玉と九九の掛け声。どちらも、アリー先生がめちゃくちゃ絶賛してくれました。
知育教材、強し!
次のバザーで大量売りする事に決定しちゃったよ。
おもちゃやゲームをたくさん流行らせようかとも思った事もあったけど、異世界転生転移者名物リバーシとか流行らせたら、全異世界中の全親から怒られそうだし、止めておこうとアギーラと話し合った次第。
子供も立派に即戦力なこの世界において、影響は計り知れないからさ。
それに囲碁かなんか作ったら、盤の前から動かない親父が世の中にあふれかえる気がして…知らない人に恨みをかいそうだから、それもやめておこうって事になりました…。
我ら、異世界おやじの生態系を崩す気はさらさらないのでね。
でも、ぬいぐるみやら魔力循環の一助になる知育道具なら、作っても良いかな~って。
あとね、九九の一覧表を刺繍で作ったの。そんでもって吟遊したりましたわ。
吟遊と裁縫ってすごく相性が良いんだよ。
最初はケサラの毛を蔦系染料で染めて刺繍したら文言が強化されるって、異世界面白い!…なーんて思ってたんだけどさ。それなら裁縫スキルと吟遊とをコラボしたら化学反応がおこるかも!?とか思ってやってみたのが、はじまり。
ケサラの毛ほどには文言を作用させることは出来ないんだけど、緩やかに作用する感じ?逆にこういう時には良いのよ~。
この刺繍した九九の一覧表を見てたら、少ーしだけ、覚えが早くなりますように~♪ってね。
これは孤児院の自由室っていう子供の遊び部屋の壁に取り付けてもらったんだ。
興が乗ってきて、可愛い模様の刺繍で縁取ってたら、これもバザー商品になりました。もちろん、吟遊抜きだけど。
次回のバザーも裁縫親衛隊のみんな、頑張ってくれよ!全力丸投げ!!
「ローザ、私達も作りましょうよ!ね、これさ…私が作ったのを貰っていってもいいかしら?」
「どうぞどうぞ。簡単だからすぐにいっぱい作れるよ!」
「ふふ。私ね、もうすぐ結婚するの。でね、これ…絶対に自分の子供にも使わせたいじゃない?もちろんその掛け声も取り入れたいわ!」
「良いですね!でも、その前に掛け声をリサさんが覚えないと…」
「あ、そうだった…」
もちろんリサさんには孤児院のバザーをご紹介しておきましたよ。
そう、私は営業も抜かりない幼女。
◇◇◇
「とにかくね、こうやって目をすっごくすっごく大きくするのが可愛く見えるポイントなの。あとね、まつ毛はこうやってカールっぽくさせると…」
「みなさんお待たせ。出来たよ~!最初に僕が試すのも悪いから、ローザちゃんが押してみない?」
「うん!」
「インク台の方は今、どうするか考え中なんだけど、とりあえずこうやって…よし、これで紙に押し付けて…そうそう…なるべくまっすぐね…うん、そのままそのまま…」
「で、出来てる…?もう手を放してもいい?」
「うん?手は離さないで、僕が紙を持ってるから…そのまま上にまっすぐ持ち上げてみて…ほら、出来た!」
「わ~!」
「まぁまぁ!」
「うん、いいね。上出来じゃない?」
「凄い凄い!」
「インク代がかかるから、かなり掘り込みましたよ。二重線彫りの彫刻刀が良い仕事してくれたわ」
「インクってそう言えば…お菓子の包み紙に使って大丈夫なのかなぁ、って…今更思ったりして…」
「ふっふっふ。子供達で使うからって、植物でできた人畜無害なインクを持ってきてたんだ。淡い色しかないんだけど、ここのお菓子のイメージにも、持ってきたデザイン案にもピッタリでじゃない?」
「さっすがアギーラ!ふーん、植物でインクかぁ。これって私にも作れないかな。材料集めから自分でしてさ…うへ…すんごく楽しそうじゃない?うへ、うへへ…」
そんな夢見る夢子を無視して、ハンコをリサさんに渡して二枚目に取りかかるアギーラ。ちっ。
「これでさ、ちょうど三色あるから…ほら、こういう風にパターン別にして…」
「え?これ…もう3パターン、全部彫ったって事?今??」
「そう。我ながらスキルの恐ろしさを感じるよ」
アギーラもスキルが強く出ちゃうタイプだって言ってたもんね~。やっぱそういう感じだよね~。
二人で若干遠い目をしながら、大喜びの姉カシュリと妹カシュリを見送った数日後…
「「本当にありがとう!」」
私とアギーラの元に、カシュリを沢山持った父カシュリと母カシュリがやって来た。
包装紙の可愛さも相まって、お土産用にと買っていってくれる人がいるのは、勿論わかっていたらしく、リサさんが結婚してお家を出た後の事、悩んでたんだって。今ね、アギーラとさっそく商談してるよ。
私?私は人のふんどしで大相撲して、カシュリを沢山貰っただけ。どすこーい!