よし、他力本願寺だ!
そうそう、初期学校一年目、後期授業にも今のところ皆勤賞で出席中なのよ。
このクラスにはラナとジルもいるし、孤児院以外のお友達だってできたのです!
え?アギーラ?あ、アギーラは同志って事で友達数としてはノーカンでございます。
ノーカンの割には、柿の乾燥はバッチリお願いしているのであります。
柿チップス、めっちゃ美味しいの~。
二日天日干しで、その後は生活魔法の乾燥を…アギーラがパパっとね。
「ローザ、おはよ~!」
「ベル、おはよう!」
お友達の名前はローザちゃん。
なんとなんと、以前、薬師見習いの孤児院の先輩お姉さんであるマルから頂いた、美味しいお菓子金平糖…もとい、カシュリを作っているお店の子なのよ。
家族みんなでお店を経営してるんだって。ローザもお手伝いしてるんだって。一家総出で頑張るってやつね。
「お菓子も美味しかったけどさ、包み紙なんかもすっごく可愛いよね」
「ありがとう!お姉ちゃんが聞いたら喜ぶよぅ」
「でも作るのが大変そうだなとも思って見てた~」
「えへへ…実は、お姉ちゃんは転写のスキルがあるんだ。あ、スキルの話ってあんまりしちゃいけないって言われてたんだった。今のは秘密ね」
「うん、わかったよ。でもやっぱり転写スキルで作ってたんだなぁ。あんなに人気のお菓子だし、結構大変じゃない?」
「うん。大変みたい。最近じゃ、商品が売れすぎて転写した紙が足りなくなっちゃったり…それにもっと大変な事があるんだ…」
「包み紙が足りない以上に?」
「うん。お姉ちゃんね、お嫁に行っちゃうの…」
「あー、そっち系かぁ~」
「うん。そっち系ってよくわかんないけど…そっち系」
「じゃぁ、綺麗な包み紙は…やめちゃうの?」
「そうなると思う。遠い町に行くから、今迄みたいにはお手伝が出来ないもの。お姉ちゃん以外に、家族は誰も転写のスキルなんて持っていないから…」
「そっかぁ。でもさ、お菓子の美味しさは変わらないし…ね、元気だしなよ」
「うん。包み紙もそうだけど、お姉ちゃんがもうすぐお嫁に行っちゃうと思うと、寂しくて…」
「遠い町だとなかなか会えなくなっちゃうもんねぇ。あ、お姉さんの作る包み紙みたいなあんなに素敵なのは出来ないけどさ、簡単な図形とかでさ、包み紙を作ってみない?」
「え!ど、どうやって?」
「うーん。板を彫ってね、その板に色を付けて押し付けていく?…感じ?」
「ベルの話…時々意味が分かんない…」
「まぁまぁ。まずは試してみようよ。あー…でもさぁ、これが成功すると他のお店も真似しちゃうかもしれない…」
「うふふ。そんなの今更だよ!包装紙とかお土産用の箱とか袋とかに力を入れてきてるお店って結構増えてきてるし。それにね、お姉ちゃんが嫁ぐって決まった時にお父さんが言ってた。綺麗な包装紙がなくても大丈夫だぞ。うちは菓子自体の味で勝負してるからなって…」
なら良いのかなぁ。正直ローザのお姉さんの転写した包み紙は、センスがよくてとってもステキだから、その代用品にはならないかもしれないけど…とにかくまずはやってみないとね。
よし、他力本願寺だ!
◇◇◇
「版画がしたいの?彫刻刀で彫っちゃう的な?」
「そうそう、版画がしたいんだよね。本当はハンコが良いんだけど、素材が難しいかもしれないと思って」
さっそくアギーラ坊主に相談よ!こういう事はプロに聞くのが一番。
「あー、なるほど。ゴムみたいな素材ってなかなか手に入らないもんね。僕もシャワーのパッキンで随分と苦労したよ」
「パッキン部分ってどうしたの?」
「魔獣の素材で作ったんだ。詳しい人がいて、その人と試行錯誤しながらって感じ」
「その素材って…高価?」
「別に高価なものじゃないよ。シャワー一式セット、とってもリーズナブルなお値段でご提供させて頂いております」
「そうだったそうだった。ねぇ…その素材でハンコって作れないかな」
「ハンコかぁ…。ゴム部分を魔獣で後ろに木をつけて…うん…いけるかもしれない」
「パチクリパチクリ~ウィンクウィンク~」
「ちょっと言ってる意味わかんないっす…。でも面白そうだから作ってみるよ。素材がまだ小屋にたくさん残ってるから材料はあるし、すぐに出来ると思う」
「よっしゃ!ありがと~!!」
◇◇◇
翌週、アギーラが持ってきてくれたのは、試作品だというかまぼこ板サイズのハンコ板だった。
「なかなかに奥深かったわ。これってグーチョキパを出しても良いかなぁ?」
「もちもち」
「やった。でさ、兄弟で配管工してる人達が居るんだけど、グーチョキパを商店名で出して、共同でグーチョキパの管理してるんだって。それで思ったんだけど…僕らも商店を作ってみない?一人が成人してれば作れるらしいから。商人の次男三男とかはそうやって自立していくらしいんだ。だから結構簡単に作れるらしいんだよ」
「え?でもさ、アギーラって見習いさんなんでしょ?シーラさんに仁義立てとかしなくて良いの?」
「抜かりなーし。シーラさん、既に僕が意見を出した製品でめちゃくちゃ儲けが出てるから、一切そう言う事は考えないで自由にして良いって言われてるんだ。ベルが発明脳だって知って、逆にそうしたほうが良いって言われたよ」
「発明脳って?」
「僕とはそもそもの脳みそが違うんだって思うようにしてるって事らしい。そうしたら、悲しくならないからって…」
「異世界脳、異世界知識ってだけだけどね…言わんとすることはわかる気がする」
私も小学校時代、クラスメイトだった天才ボーイの山路君の事、宇宙人だと思う事にしてたからさ…わかるよ。今思えば彼は異世界人だったのかも…なーんて。
「その話、院長先生に相談してからで良いかなぁ?」
「もちろん。逃亡者になる可能性があるなら、資産を分散しておくことも大事だよ。あの院長先生だったら応援してくれそうだから、OKは貰えると思うけど、聞いてみてよ」
「資産分散とか…さらに悪者じみてきた気がする…」
「いや、資産分散は悪者じゃないから!でも逃亡者になるかもだからね~。あ、とりあえず、これなんだけどさ…」
そうそう、今は悪者逃亡者の事よりハンコよ、ハンコ。
「おぉ…取っ手が社判っぽい」
「四角い板だけだと大きくなると押しずらいでしょ?」
「さすがだ~!」
「これは自作の彫刻刀もどき。もし彫るんだったらレンタルしますよ」
「抜かりない!貸して!って言うか、初期学校の友達と彫りたいんだけど、一緒にどう?」
「いやいや、せっかくの同い年の友達の輪に入るのは悪いから遠慮するよ。…あー、でも彫刻刀って、使った事のない人に任せちゃうのは危ないかぁ…」
「そうだよそうだよ。子供だけで彫刻刀は危険だよ!まぁ、友達のお姉さんにも参加してもらって一緒に作るつもりだけど…私も彫刻刀って危険な気がしてきた。アギーラもこっちの保護者として一緒に来てよ~」
「うーん。彫刻刀って使った事がないと危ないからなぁ…参加させてもらおうかな」