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ドキー!

 料理スキルが料理スキルで料理スキルなもんで…と、何とか言い逃げして、ぐったり疲れまくりながらも院長先生と二人、言葉少なに孤児院へと辿り着いた。言い逃げ…ちゃんと出来たと思いたい。


「ベル、疲れたろう。夕食まで部屋でゆっくり休みなさい」


「はい。院長先生、今日はありがとうございました」


「いや、礼を言うのはこっちだ。薬師会の人たちも沢山辛い現場を見てきたって言ってたけれど、それは僕だって同じだから。どうしてやることも出来ない悔しさをずっと抱えてた…本当にありがとうな。あの場に同席できたなんて光栄だよ」


 親兄弟姉妹、友達、恋人、パートナー…きっと獣人族の人達は、誰かしら近しい人達の苦しむ姿を見てきたんだよね。

 王家だか国だか貴族だかなんだか知らんけどさ…本当に酷い話で許せないよ。

 もうこれから先はその道の各プロフェッショナル達にお任せするけど、今までの知らんぷり料もふんだくる勢いで、ギルドには是非とも好条件で話を進めてもらえる様に祈ろう。


 ◇◇◇


 院長先生と別れて部屋へと戻る私。もうへとへと。

 同室だったお姉さんが先日成人を迎えて、孤児院を卒業していったため、なんとなんと現在一人部屋。薬草や雑草やらの素材が大量にある事から、暫くはそのまま一人部屋という事になったのよ。


 発見したものの有用性を考えると、逆に他の子と同室は避けた方が良いだろうという事になったらしいんだけどさ。一人部屋なんて他の子からさぞかし反発があるだろうって思ってたんだけど、誰も何も言ってこないんだよね…院長先生やアリー先生が何か言ってくれたのかもしれないな。


 まじで今日は疲れた~!ベッドへダーイ…ブ!?あれ?


<ドキー!>


 …。

 …へ?



 いや~、心底びっくりする事って、まだまだこの世界(異世界)にはたくさんあるんですよ。


 私のベッドの上に居たのは、お芋ちゃんの繭を抱えた赤い…ミニサイズの恐竜っぽい動物だった。もしかして…これが魔獣ってやつ?ど、どうしよう!


<なんだ?キョウリュウって…。それに魔獣とは失礼な。我はサラマンダーだぞ。やはり主は…ベルは我の事が見えるのだな!>


 何で私の名前を知ってんのさ!そしてなんでサトラレてんの?そしてそして喋る恐竜って地味に恐い!!絶賛知らんぷりしてやる!!!


「いえ、見えてません…」


<むむ。何故そこで嘘をつくのじゃ!>


「み、見えないテイの方が良いかなって…。あ…さ、サラマンダーって事は、貴方はお芋ちゃん…!?」


<いかにも我がお芋ちゃんである>


 自分で言っといてなんだけど、その名前は納得しちゃってんだ…。

 よく見ると恐竜というよりエリマキトカゲに似てるわね。ザビエル襟と私が勝手に呼んでいたエリザベスカラーっぽいやつも首元についてるし。


<芋虫時代に世話になったのでな。こうやって繭が出来たら、ベルに届ける事も忘れておらぬのだ>


 芋虫時代って…ツッコミどころ満載!

 本当にお芋ちゃんなのかしら。

 うん。まったくわからん世界だね…。


 そしてもっとわからんのは…


「みんな、すっごいフレンドリーに接してるけど…知り合いなの?」


<えええ?ベルだって知り合い…名付けたんでしょ?繭があると『またお芋ちゃんが来てくれたんだね~!』って言ってた…よね?あれ?…違うの?>


【いつも来る~】

【お芋ちゃん~】


 あ…そう言えばお芋ちゃんお芋ちゃんって言ってるだけで、お芋ちゃんの見た目だとか、一度も繭を届けてくれるその姿を見た事がないとかの話はしたことがなかったかも…パケパも当然私が知ってると思い込んで…。


 そう言えば繭を見ながら【お芋ちゃんが】、【来た~】とか…言ってたな。うん、言ってた。確かに言ってた。

 繭を見て言ってたんじゃなくって、サラマンダーな姿のお芋ちゃんに会ってたって事か。

 私がそう言ってるから、ケサラもパサラも一緒になって言ってるだけかと思ってたよ…。


 知らなかったのは私だけかーい!


<我も忙しいが、ベルも多忙なようじゃのう。もう何年目か…初めて会うたな>


「サラマンダーさん、いつも繭をありがとうございます。大切に使わせてもらってます。裁縫した品も色々と作って、知り合いにプレゼントしたりさせてもらってます」


<人の子らの間ではなかなかに高価なのであろう?多少の恩返しにでもなっていれば結構結構。我には使い道もないからの。気にせずともよいぞ。あ、我の事はお芋ちゃんと呼ぶように。丁寧な言葉遣いもむず痒いからやめてくれ>


「あ…う…はい。お芋ちゃん、一度ちゃんと会って御礼が言いたかったの。本当にありがとう!」


<御礼を言わねばならんのは我のほうよ。人里へはあまり寄り付かんもんでな…長居せずいつも繭だけ置いて帰っていたから、今回は会えて良かった。そうじゃ、どれどれ…>


 ブワっとお芋ちゃんの身体が強い光を帯びる。


 あー、これ既視感あるわ…今回は赤い光だね。はいはい…。


 うん、もう驚かないよ…左手の小指にその光の筋が結ばれ…的な。はいはい…。

 私の左手の小指って、どうなってんだろう…。


 何故か任侠映画の音楽が大音量で脳内リフレインだよ。

 ダメダメ、何も考えない考えない。


 だがしかし、ここで一つ私ははっきりと言っておきたい。

 本当にドキッとした時は『ドキー!』なんて、言わないもんなんだぜ…

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