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人生初馬車、その先にあったのは・・・

 どうも、アギーラです。

 まさかこんな酷い経験をするとは、僕だって思いもしなったさ…。


 数日後、普段は徒歩で通っているらしいのに、シーラさんが『無理は禁物』と、わざわざ僕の為に借りてきてくれた馬車に乗って、ミネラリアの町中へと足を踏み入れる事となったんだけど…。

 

 乗って三分もしないうちに…お尻に『キーーーーーン』って激痛が走った。何故かお尻や腰に加えて背骨のほうまで痛いんだ。

 どぁぁ…太もも痛い!軟弱な元日本人の僕にはこの馬車は辛すぎる…今度からは絶対徒歩だ!

 

 勝手に素っ裸で転移させられても…シッポ生えてても…僕、泣かなかったんだ。

 なのに…えぐっえぐっ。…な、泣いてなんかないやい!

 

 人生初馬車、その先にあったのは激・痛・地・獄。

 ただ、それだけ。


 ◇◇◇

 

 シーラさんの店舗は、工房の森に近い町の端っこのほうにある。

 

 お店はこの町じゃ知らない人はいないっていうくらい有名らしい。何も家賃が高い中心部に店を構えなくても、腕のいい魔道具師だから注文は絶えないし、町の端っこでも全く問題がないんだってさ。

 

 いやだな…シーラさんがそんな事を自分で言うわけないだろ?これは色々動けるようになってから町で僕が仕入れたネタだよ。


 何なら、森の中の工房を店舗にしても良さそうなもんだけど、留守の多いガイアさんが『一人は危険だ』って強固に反対したらしい。本当は一人の時は工房に泊まり込み禁止って言われてるんだって。

 

 シーラさんは「一人じゃないから平気~」って…トンチでおなじみな小僧さんみたいな事を言ってるけど…僕、間男認定で秒殺とか…大丈夫だよね?


 ガイアさんは、魔道具師の修行してる若いシーラさんの周りを、常にウロチョロしてアタックし続けたんだ。シーラさんのほうも、そのうちに居て当たり前…空気と同じになっちゃったらしい。もちろん良い意味でね。普段は意識しないけど、居ない事なんて考えられない関係。


  いやだな…シーラさんがそんな事を自分で言うわけ…あるんだ…この話の後も惚気は続いて、僕は砂糖を吐き続けたんだから…僕、間夫認定で瞬殺とか…大丈夫だよね?


 馬車に乗って十数分くらいかなぁ、無事に(全然無事ではないけど)店舗兼住居に到着した。

 もっと短いかったのかもしれないけど…正直それどころじゃなくって…もうお尻が立ち直れないって言ってる。ぐるぅぅぅ。

 それに町の門にある検問所を通った時に、そこで一旦止まったりしたから余計に時間がわかんなくなっちゃった。

 

 検問所…シーラさんの顔パスで僕はノーチェックだった。それだけ平和って事…だよね。


 ◇◇◇


 シーラさんは暫くゆっくりしたほうが良いと言ってくれたんだけど、そこは元日本人の性がひょっこり顔を出す。

 町の店舗兼住居へ移動してからは働かざる者食うべからずの心意気で、シーラさんが苦手そうな家事全般を任せてほしいとお願いした。

 見様見真似で僕にできる事って、他には何もないよ。でも、シーラさんは徐々に色々な事を僕に任せて居場所を作ってくれた。


 そうそう。ここに置いてもらう代わりに、薬師さんに診てもらうのが条件だって言われてたから、町に着いてすぐに診てもらったんだよね。

 もしこれでバレたら全部情報開示して助けを求めるしかないって思って腹を括ったさ。

 

 シーラさんは体の激痛を和らげる薬草茶を買ってくれた。

 薬やポーションは高いから、もちろん要らないけど…薬草茶の贅沢だけは許して!


 薬師さんは薬を作って売るだけじゃないんだよ。症状を聞いて症状にあった薬を処方したり、薬やポーションも作る人の事を薬師って言うんだって。

 ポーションなんかはお値段も結構するみたいだけど、怪我でも病気でも治るらしいんだから…って、僕はすでにそのポーション1本飲んでる訳だけどね…いつか清算出来る日がくると信じたい。


 診察してその人に合ったその薬やポーションが提供できるって…それはお医者さんではないかと思うんだけど。だってさ、それって治療ができるって事と同じでしょ?

 なーんて思ってたら、医師は高貴な家柄の人がなる職業だから貴族しかなれないんだって。高貴な人が平民を診る訳ないもんね。

 

 なので、薬師さんは医師と名乗れはしないけど、市井の医師みたいな役割を果たしてくれてるんだ。

 貴族に『薬師』スキルがでたら『医師』を名乗るのかもね…くっだらないや。


 僕を診察してくれる薬師のグリンデルさんは『薬師』の他に、体の状態異常を見抜く固有スキル『察知』というものがあるらしい。

 

 ドキドキ。

 結果は…

 

『状態異常なし』。


 ………ですよね~。


 ホッとしたところで、思わぬところから魔力の話が出てきたんだよ。グリンデルさんの診察によるとちゃんと僕にも魔力があったんだ。

 

 なんと体内の魔力感知ができる魔道具で調べたんだよ。本来は魔力詰まりの位置を探るのに使うものみたいだけど…医療器具的な魔道具もあるんだね。ほんとに魔道具って凄いや。


 ショック状態に陥ったからか、体内回路に流れる魔力が通常より物凄くゆっくり流れていて覚醒しなくなっているんだってさ。まるで赤ん坊のようだって。

 よく時空を旅するSF映画なんかで、光速移動する時に、冷凍やら仮死やらの状態にするじゃん…なんか、それの魔力版って感じだよね。


 ついでに見てもらったけど魔力詰まりも起こしてない。グリンデルさんも「やっぱり心かねぇ」とつぶやくだけだった。詳しくはわからないそうだ。珍しい事だけど、今までにもない訳じゃないからいずれ自然に回復するだろうって。


 そりゃぁ、心も体もショックは受けてると思う…異世界転移したんだから。


「体は小さいが家系や個体差なんだろうね。成人はしてるよ」って、グリンデルさんが言ってくれたから、シーラさんが安心してた。

 未成年じゃないかと思ってたらしく預かるのは気が引けてたって後で教えてくれたよ。

 日本ではまだだけど、こっちは16歳で成人だから僕も成人してる事になる。

 郷に入っては郷に従うけど、何を診て未成年か成人かが判断できるのかが謎すぎるって思うのは僕だけかな…。


 シーラさんにはいつか僕の話をちゃんとしようと思う。

 その日まで――もう少し時間をください。

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