そうだよね 違うんだけど そうだよね
破滅フラグは要らないけど、孤児院に利益配分が見込める形にするのは良いと思うんだ。
もし国から予算を引き出せれば、ギルドと薬師会も納品~製造~管理を請け負う事でしっかり利益が取れるから、悪くない話になると思う。
やっぱりごっそり慰謝料…違う、予算を引き出してもらおう。
「ベルちゃんの希望は…それだけ?」
「はい。他の孤児院にも院長先生が確認してくれたの。孤児院はトイレ紙の事もあって、手を広げる事は各国ともに難しいだろうという話でした。でも複数の収入口を確保したいって話は昔からあったらしいので、一種類なら良いねって。だから…香静抑丸の素材は孤児院からの基本的に独占納品の方向でお話を出来れば進めて頂きたいです。もちろん不慮の事態で不足がでるようであればギルド、薬師会が全面的にフォローする事が条件で。あ、あと…年に一度以上の鑑定を希望します」
「鑑定?」
「今回の事で名前がついた植物もあります。どこで成分が変化するかわかりません。でも、獣人族の女性たちにとって、成分変質は命取りにもなりかねないから…」
「なるほど。これは私からも是非お願いしたいですね。あと、鑑定だけでなく薬師会の品質保証も…」
薬師会の人達が、口々に意見を出してくれる。ここはプロにお任せだね。
方向性が決まるにつれて、今度は現物をテーブルの上に出すようにと促された。ナップサックから出した包みにみんなの視線が集まる。
中から小さな飴やら茶葉の瓶を出すと、サワットさんの後ろに控えていたギルド職員さんがお茶セットの用意をしてくれる。
「なるほどなるほど。これは私ら男性が食べたり飲んだりしても大丈夫なものですかな?問題がなければ、是非口にしてみたいのですが…」
ためつすがめつ眺めていた薬師会会長であるトラヴァさんが尋ねてきた。
「成分的には概ね体の不調を取り除くものと考えてください。ですから問題はないと…私の料理スキルを信用してくださればの話ですが。もちろん大量摂取しなければ毒という事もありません。毒見というか…私はすでに飴を何個も舐めていますし、お茶も飲んでいます。人間族の女児ですけど、何の変調もありません」
厳密に言うと、私の体と魂のうんにゃらかんにゃらで、真の人間族だと言い切れない不安はあるけれど、こんな小さな体で害がないものなんだから、大丈夫だと言えるよ…たぶん、きっと。
子供にも男性にも害はないという、もちろん鑑定先生のお墨付きだから。ただただ劇的に不味いのよね~。最大の問題はこれを舐めないといけないって所なのよ。
飲みこんじゃえば良いと思ったんだけど、それだと効果が弱まるんだって鑑定先生がいうんだもん。
自分の唾液と共に嚥下するってのが大事なんだってさ。
どうしても甘みがないと厳しいんだよ。
飴、予算の事とか色々考えて三種類作って、落としどころを真ん中の飴にするつもりだったんだけど、作戦変更する事にしました。あたしゃぁ、ぷんすかだかんね。
卓上には飴を二種類置いたのだ。
そう、一番不味い飴と一番甘い飴だけを舐めてみてもらう事にしたの。
私が頬を膨らまし、めっちゃムカついたという意思を示したら、グリンデルさんが苦笑いしてた。
グリンデルさんと事前に相談して、本当は三種類のうちの真ん中の飴で手打ちにするつもりだったんだ。
だけど、あのムカつく話を聞いた今、三択じゃなくって二択にした私は悪くないもん。
一番甘い飴と一番不味い飴の、二択だよ。ぷんすかぷんすか。
まずは皆さまに不味い方を勧める。
飴は薬局で使っている、フワンフワで出来た唾液でさっと溶ける薬包紙というものに、一粒づつ包んであるんだ。フワンフワめ…ここでも大活躍だよ。
最初に手に取るのは嫌かなと思い、自ら口に放り込んだ。
グリンデルさん、リーフさんが続いて口にしたので、薬師会会長さんとサワットさんやその部下らしき人たちも後に続く。口にした瞬間…
「うえっ!なんだこりゃ…無理だ。なぁ、無理だろ?」
「ぐっ…ちょっとこれは…ごほっ、ごほっ。水をちょうだ…ごほっ」
飴を吐き出したサワットさんが顔をゆがませて言った。
「これを全部舐めろっていうのは…無理でしょうね…」
「飲み込むので良ければ、これでも大丈夫だと思うんですが、舐めないとダメみたいなの…」
「…なるほど…ごほっ」
「では、次にこちらの甘みを加えたものを試してみて下さい」
そう言って、また自ら口にする。
先ほどとは違って、誰も咳き込んだりはしない。
うしろから「これならなんとか…」という声が聞こえる。
こっちはキビ草を使った甘み成分がたっぷりだから、クセの強すぎるハーブのど飴みたいな味に仕上がってるんだ。
最初にこれを舐めた時、その昔、海外旅行先でまずい不味いと評判の飴、サルミアッキっていう飴を食べた事を思い出したんだけどさ。
友人6人のグループで行った旅行だったけど、1人だけ「嫌いじゃない味~」って言ってる友人がいたから、六分の一くらいは、いける!って人もいるかもしれないという味には仕上がっていると思いたい。
サルミアッキが好きな人もいるんだから、もしかしたらハマる人も出てくるかもしれないよ、カッコ希望カッコ閉じ!
「しかし、ここまで甘みをだすとなると、価格が…」
「この甘み、実は砂糖でも蜂蜜でもないんです」
「なんと!?では、これは一体何から…」
グリンデルさんがいぶかしげな顔をした薬師会会長の疑問に答えてくれる。
「こりゃ、ベルがグーチョキパを出している、植物から抽出した甘味料さね」
「なんと!それは…貴重な植物ではないのかね?」
「いえ…これも料理スキルでたまたま出来たものですが、どこにでも生えている草が原料で…今回の事で、ついでにグーチョキパを取りました。この飴に使用するに際しては、この甘味料のグーチョキパは頂きません」
「なんと…これはこれで一財産ものじゃないか…」
「安価に提供出来るとは言っても、大量に使えば塵も積もれば山となるで採取納品にはお金もかかるでしょう。子供が必要とする飴ではないので、ある程度は我慢して頂く事を前提に、この程度の甘みでどうかなって…」
「うん…確かにこっちの飴であれば、忌避感なく舐めていられるな」
薬草茶が出来たので、それをしばし飲みながら休憩。何故だろうか…放心状態の人が何人かいる。
その放心状態の一人、サワットさんがぽつりと呟いた。
「料理スキルの評価が一気に上がるわね…」
すっごく遠い目になっちゃうから、それ以上、そこはツッコまないで!
ここで一句。
そうだよね 違うんだけど そうだよね




