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すっごいムカつく

種族差別のお話が出てきます。

苦手だなと思われる方は読むのをお控えください。

 商業ギルドの中に薬師会があるの知ってた人~?


 ――しーん


 だ・よ・ね~。私も初めて知りました。


 商業ギルド長、サワットさんの右横には薬師会会長のトラヴァさん、その横には女性のあれやこれやな病などを専門にしている薬師でグリンデルさんの友人でもあるリーフさん。

 その後ろにはトラヴァさんの部下っぽい薬師さんとサワットさんの部下っぽいギルドの職員が数人ずつ。

 私の右横にはグリンデルさん、左横には保護者でお馴染み、孤児院の院長先生。


 以上、この布陣でお送りしますは、第一回不安定期会議でございます。

 いや、違うな…第一回不安定期安定化会議、でございます。


 最初はね、なんとか私を矢面にしないって事で話を進めてくれてたんだけど、薬師会の熱意に負けた…というか、雑草たちの名付けからの鑑定使いまくり研究なんていうものをガツガツしてしまった結果、ワタクシがいないと話にならんって事になってしまい…覆面不可って事で呼び出されてしまった次第でございます。


 丸くて小さい粒を花びらの先に付けてる雑草のお花があったでしょ?効能に消香鎮静って書いてあったやつ…恐らくこの植物が発情香を抑える鍵になるんじゃないかと私が睨んでた、あれね。


 これは植物自体をシズカコウって名前で登録して、ついでにあの丸い小さな粒から抽出した薬の原材料を香静抑丸って名前で登録したんだけど…いくらでも鑑定できるのをいい事に、なんでもかんでも全部鑑定しまくってたら、香静抑丸の効能を引き出す抽出方法がもの凄い確立されてしまったというね…ほぼほぼこの香静抑丸せいで、覆面を脱いで話し合いに出ざるを得なくなった訳でございます。


 鑑定をかけまくっただけなんて言えないから、なんとか料理スキルのせいだって言い張ってるんだけど、これ…正直料理スキル押しで通用するネタかな…?

 いやいやいや!って、感じだよねぇ…どうしよう…。


 使わないけど、使わないんだけど…食用可能なんだから料理で使えなくもないじゃない?「だからなのか、変にスキルが作用しちゃいました~あはは」的な感じで、言い訳してるんだけどさ。絶対やばいよ。あのみんなの目を一目見ればわかる。

 でも…どう言い訳すれば良いのかわかんない。料理スキルでドーッカーンっすよ!これで逃げ切るしか道はない。


「料理スキルに反応してしまったという事を聞いたんだが…本当にそんな事があるのかね?」


 ほら、ジットリとした目で薬師会代表のトラヴァさんがこっちを見ながら聞いてくるよ。

 だ・よ・ね~。


「はい。どうもそのようでして…最初は食用可能な雑草を探していたもので…あはは…」


 あくまで料理スキルでドーッカーン!って事で頑張る私。


「その成分を凝縮したエキスで飴を作ったと…」


「はい…飴にしたいと思って試行錯誤していたら、香静抑丸の効能が引き出せる抽出方法がなんとなく…はい…」


「いやだわ、トラヴァさん…そんな尋問みたいに。…で?試作品を持ってきてくれたのだったわね?」


「はい。出来るだけ単価を安くしたいっていう気持ちと、とてつもない不味さの緩和…この二つのバランスを考えている最中で…」


 いくら無料のキビ草やらなんやらを使って不味さを緩和させるとはいっても、キビ草を大量に用意するとなると、それなりにお金がかかる。大規模に使うとなると私がお遊びで甘水を作るのとは訳が違うんだから。下手すると栽培になるかもしれないし…納品業者とかだって絡んでくるもん。

 ここ最近、実はこの採算バランスで悩んでもいるのよ。ほんと、お金の事って難しいよね…。


「まず最初に…ベルさんにお伺いしておきたいのだけどね、この薬草茶と飴…これはこの国…この大陸を揺るがすような発明になるものなんだけど…ご自分の利益に関してどのように考えていますか?いや、こんな話は難しいかな…院長先生にお伺いしたほうが良いですか?」


 トラヴァさんが皆の代表といった形で切り込んできた。やっぱ、そこが一番気になるかぁ。


「いえ、院長先生とも話し合っていますし、グリンデルさんとも相談してもう決めてあります。薬師会から正式に有効性が認められると仰っていただけた場合は、これらに関してはすべてを無償で配合を公開致します。その代わり価格を一定に…できるだけ安く安定供給できるようにと国に掛け合ってもらいたいと思っているんです。これから長い期間を経て安全性を調べていく事になるのかと思いますが…最終的にはどこの薬局に駆け込んでも買えるくらいに普及させて欲しいというのが希望です。もし薬の普及を各国の国策にして貰えたら予算がかなりつくだろうって聞いて、それがベストかなって思っているのですが…」


 みなはどうしていいものか判断できないといった感じでボソボソ両サイドの人達と話し合っている。

 良案浮かばずといった所で、場がしんっと静かになった。

 天使が通った!天使が通ったぞ!


 やがて、ごほん、と、グリンデルさんが咳払いをして話始めた。


「…ベル、ひとつ話を聞いとくれ。凄く嫌な話だ。この国の…いや、この大陸の貴族はね、ほぼ人間族で構成されているんだ。知ってたかい?」


「知りません…そもそも関わり合いがないから」


「そうだね、私らには関係のない世界だ。だがその貴族の中にはね、純人間族主義っていう差別意識を持つ者が一定数いるんだよ」


「純人間族主義…」


「そう、人間族のみがアークマインの神に認められた種族であって、それ以外の種族は認めない…人間族至上主義を掲げる人達の事ね」

 

 サワットさんが補足してくれた。


「だから…獣人族、獣人女性が苦しんでるのを知っていても、上の奴らは見て見ぬふり。ずっと…ずっと知らぬ存ぜぬでこの世界は成り立ってきたんだ」


「悔しいけれど、悔しいという意識が麻痺してなくなる程、当たり前に受け入れてしまっている話なのよ。結局、一定数の貴族の強い反発があるってわかってる事を、どこの国も…王家もわざわざする必要がないでしょう?この純人間族主義の人達は国を跨いで結束しているらしくて、獣人族を擁護するような動きに関しては、非常に敏感だというし。だから、この不安定期や発情香の事、この手の改善や減少に関する研究はまるで進んでいなかったの」


「大人数が関わって研究しようとすると、必ず邪魔されてきたからね」


 差別を差別と感じなくなる程の長く続いてきた差別。それって差別されていると感じている時よりも危険な状態じゃない?長い時を経て正当化されてしまうなんて、やりきれないし…なんだこれ、すっごいムカつく。


「リーフみたいに忙しい日々の生活の中で、なんとか時間をやりくりして、個人で研究してる…この分野の知識が深い人に頼るばかりでね…」


「それでも、不安定期や発情香をどうしてやる事もできなかった」


「リーフさんが私財をなげうって研究をしている事…私、知っているのよ。そんな言い方、してはいけないわ」


「それでも…もう、無力感しか残っていなかったんだ。ベルさん…私はね、発情香が原因の事故で、マリンを…一人娘を亡くしているのです」


「リーフ…ベルの発明を広めていく役割は、これから私ら薬師に課せられるんだ。そんな…無力感なんか抱いている暇はないさね。マリンちゃんの為にもさ、しっかりやってやろうじゃないか!」


「あぁ…その通りだな。ベルさん、本当にありがとう。私らが一生をかけても辿り着くことのできなかっただろう事を、君は成し遂げてくれたんだよ」


「悲しい事件や事故を本当にたくさん…たくさん見てきたさね。それを知らぬはずはないのに、王家や貴族からは見て見ぬふりをされてきた。…小さい子にこんな嫌な話を聞かせて悪かった。でもね、ベルが発明したものがどれほどのものか…どうしても知っていて欲しかったんだ」

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