んん?…なんじゃこりゃあ!
美味しく飲んで体質改善…体のサポート飲料みたいな薬草茶を作ってみたい。
生臭いくせに生意気だぞって思うけど、ポーションって、すっごく高価なんだ。
だから、怪我や病気をしても購入せずに仕事を辞めたり…人生を終える人だっている。
色んな部位に特化したポーションなんかもあるらしいけど、どんなに良いポーションでも購入できないんじゃ意味がない。
でも、薬草茶ならポーションみたいに、効能がすっごく強力って訳じゃないけど、気軽に買えるからさ。
グリンデルさんはポーション1本まるまるは購入できない人に、薬草茶と少しのポーションを組み合わせる事で価格を抑える、なんて事もしてくれる薬師さん。もちろん知識と技術とスキルとがある上での処方だけど…本当に尊敬できる人なんだよ。
私はもちろんそんな事は出来ない。そんなふうに人の命や生活を左右させるような事を、背負える自信も覚悟もない。それに医学に興味があるかと言われれば…全くない。
それでも薬草を見つけたり、薬草茶を作ってみることは鑑定の魔法があるおかげで出来るかもしれない…自分の興味の赴くままに薬草をブレンドして、新しい薬草茶なんかを作っていけたら良いなって思ってるんだ。
でも薬草茶だってタダじゃない。お金を出して買ってもらうものなんだから、見た目も綺麗で美味しい薬草茶が良いに決まってる。一日の終わりにリラックス効果のあるお茶をお気に入りのコップで飲む。そしてテンション上がる!明日への活力さらに注入!!
そういう用途で飲んでもらえる薬草茶が作りたい。でも、それがまずくて、どどめ色だったりしたら…つまんないなって思ったんだ。
安心してください!そんな事を考えつつも、手はしっかりとお仕事中だからね。
根っこをすりつぶしてすりつぶしてすりつぶして…ひたすらすりつぶす。
パン作りにでも使うのかな?短いこん棒みたいなものが厨房にあったから、それでゴリゴリしてるんだけど…これ、バレたら怒られる案件かしら。乳鉢と乳棒みたいなやつが欲しいな。これは発明品の開発費で買っても良い事にしよう、うんうん。
――ごりごりごりごり
欲を言えば、工芸茶みたいなのも作ってみたいの。
中国土産で頂いた事があるんだけど…お湯を注ぐとポットの中でお花がぶわわ~って咲くような感じになるあのお茶。水中花みたいですっごく綺麗だったなぁ。ああいう見た目にも美しいお茶を薬草茶で作ってみたい。
乾燥茶葉って日持ちがするから、ニーズがあれば、この世界の輸送状況でも商機はあるんじゃないかと思ってね。自分で栽培するのも良いな、なんて思ってもいる。これは野望よ、壮大なスローライフへの野望。
――ごりごりごりごり
そう言えば、日本で生活してた頃、女性誌に『丁寧な暮らし』特集ってのが、一時期乱立した時代があったなぁ…日々の暮らしにしっかり手間ひまかけて、日常をより豊かに大切に、的な発想の人生どうすか?、みたいな記事だったと記憶。…記憶が違ってたらすいません。
私はその雑誌の特集記事を美容室の待ち時間にいっぱい読んで、「うっへー、私、絶対出来ない~!」って、思っちゃった。
眼の下に万年クマが生息してる会社員が、全部が全部を丁寧にしながら暮らしてごらんなさいよ。それ、何拷問?って。
もちろん否定するわけじゃないよ。たださ、残念不器用タイプな私みたいな人が手を出したら、どんなに時間があったとしても、自分ルールに首絞められて、自滅する未来しか見えないっていう話。
――ごりごりごりごり
便利なもの、買った方が良いと思ったもの…まぁ、金額的に折り合いのつくものでだけど…、あとは利用できるものは全部使った上で、本当に自分のやりたい事、挑戦してみたい事だけを丁寧にする暮らし、って方が絶対良いでしょうよ。
そういう特集ではさ、大抵がぬか漬け漬けてるのよ。だけどさ、近くのスーパーで美味しいの売ってるなら、それ買おうよ…って思っちゃって。
でも自分の本当にやりたい事が、ぬか床まぜまぜを極める事なら、それは丁寧に自家製にすれば良いと私も思う。優先順位ってもんがあるからね、世の中には。
――ごりごりごりごり
会社員である事、働く事だけが人生のほとんどを占めてた私、成留鈴花。
ぬか床まぜまぜなんてとんでもない、日々の食事すらもコンビニ先生にお世話になりっぱなしだった。
どこにも丁寧な暮らしなんてなかった。
この異世界、日本人の私にとっては不便な事も多いけど、最大限に使えるものは全部使って、自分の好きな事だけを丁寧にする暮らしが許されるって気がするんだよね。
成留鈴花の憧れた暮らし…できるかもしれない、ここでなら。
そう思うと、先の不安盛りだくさんの異世界生活に、一縷の望みが出てくる気がする。
――ごりごりごりごり
…いかんいかん。そんな自己流丁寧な暮らしの話は今はどうでも良いんだった。
だってさー、ひたすらすりつぶしのごりごりタイムって妄想タイムにぴったりなんだもん。
しかも最近、妄想がどんどん脱線しちゃうのよね。
いや、違うな…これは最近というか、1回目の子供時代からだったわ…
◇◇◇
夢は大きく、いつかは工芸薬草茶!
はいはい、まずは普通の薬草茶作りをきちんとね、わかってますってば…。
黄色ラベンダー(仮)、その半量のドクダミ風雑草。これを煮出して…これまたひたすら潰す。
あ、ドクダミ風がめっちゃ主張してくる!これはアカンやつや…。
黄色ラベンダー(仮)の量を少し増やしてみよう。
あーでもない、こーでもない…。
――まぜまぜまぜまぜ
次は5対3対2対根っこは配合を変えて…これにキビ草を適量入れて…。
これをまた、ひたすら潰しながらまぜる。
うー、色が黒っぽいような赤黒い?いや、紫黒い?…違うな…どどめ色?
これ、なんかグロイなぁ。すっごく個性的な色になっちゃったよ…。
いや、見た目じゃない、人は見た目じゃない!いや、人もお茶も見た目じゃない!!
綺麗な薬草茶を作る夢を、大いに語らってしまった自分に赤面…
――まぜまぜまぜまぜ
うん、なんかおどろおどろしいけど…出来た事は出来たぞ。
いつかは綺麗で美味しい工芸薬草茶を作ってやるんだからね!き、今日はこのくらいで勘弁してあげようじゃないか。
甘水を入れても、土っぽい匂いが強いなぁ。丸くて小さい粒を花びらの先に付けてる変わった形のお花、可愛いんだけどさ…結構頂けない匂いだったのよね。でも効能の『消香鎮静』っていうのが気になっちゃったもんだから、これは絶対に入れてみたい。
上手い言い方が思いつかないんだけど、何となく薬草茶を配合してると…これは入れても良い予感、これは駄目な予感…みたいなのがある感じがする。入れる量もしかり。
何回か試行錯誤してると、なんというか…直観が働くって感じ?
――まぜまぜまぜまぜ
これは料理スキルの恩恵なのかなぁ。最初に甘水を作った時に、量とかが漠然とわかった感覚に少し似てるんだ。“量なんかは『料理』スキルでわかるから~!”って料理スキルの欄にあったのよね。ついでに言うと、あれは料理スキルの恩恵だったから。
という事で…この直観というものに逆らわず、素直な気持ちで作ってみました。
ただ残念な事に、見た目にはその直観は働かないみたい。
うーん…。料理は見た目も大事でしょ?料理スキルは関係ないのかなぁ…。
もうひとつわからない事があるんだけど、ラベンダー(仮)を鑑定した時に『NONAME(乾燥)、薬草』って出たんだ。
でもさ、ラベンダー(仮)を使った甘水には、薬草なんちゃらって表現がつかなかったの。でもさでもさ、“薬草調合効果で甘みがでる”とは書いてあったのよ。
ここらへんの事がいまいちしっくりこないんだなぁ。薬草を使っても薬草の効能が消える物もあるって事なんだとは思うんだけど…。
――まぜまぜまぜまぜ
うん、まぁ匂いは合格点かな。ポーションみたいに、もちろん生臭いなんて事もない。
よく考えたらポーションが生臭いって…何かの…生物系の何かを何かして…何かもにょもにょって作ってる可能性が高いよね、きっと、たぶん。
ポーションを飲まないといけなくなった時の事を想定して、これ以上は考えないようにしよう。
薬草茶になぁれ~♪ステキな効能が、ありますように~♪
あ…ちょっと今、吟遊を使ってしまったような気がしないでもないぞ。
この一回のブレンドだけに効能が出ても困るからね。ナーシィ~♪今のは~♪ナーシィィ~♪。
辛い症状が緩和できるような薬草茶が出来たら良いな。
甘水みたいに薬草の効能が消えてませんように。
試飲の前の、しっかり鑑定!お願いしまーす!!
――ポワワン
***
【鑑定】
ベルのブレンドした薬草茶
成分:薬草であるトーキの根・ブクリョーの根に付着した菌核・シャクヤークの根(全て乾燥)・NONAME雑草花核部、NONAME雑草花茎部、NONAME雑草葉茎部(全て乾燥)…以下略
効能:のぼせ・めまい・慢性的な頭痛の緩和/獣人族女性固有の不安定期の安定化・発情香の減少/長期飲用にて貧血・不安感・倦怠感・精神に作用する…途中略…の解消が期待できる/白湯で約10倍に薄めたものは…以下略
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のぼせ・めまい・頭痛の緩和…うんうん、いいねいいね~。
ん?獣人?…不安定期??
んん?…なんじゃこりゃあ!