ルッ)コラァァ、出てこいやー!
アギーラとは初期学校で会えるようになってから、とにかく色んな話をした。
結論としては、同盟組もうぜ!って感じ?この異世界でお互い自分の幸せを掴むために協力しようって。
もちろん出会った頃からそのつもりだったけど、魔法の話になった時、ちょっとこれはマズイんじゃないかって事になってさ。同盟、協定…何でも良いけど、とにかく仲間関係でいようって強く認識したっていうかね…。
アギーラに「僕の方がまだマシだった!」って嬉しそうに言われて、ちょいと落ち込んだけど、正直似たようなもんよ。どっちとも、今現在のこの世界にいないタイプだって事には変わりない。
私の場合は無色の魔法を使っても、魔力消費がゼロだけど、アギーラも膨大な魔力量を持ってるから、ほぼ無尽蔵。その差くらいじゃん…アギーラの固有スキル『俯瞰』っていうのだって、相当おっかないし。
『俯瞰』は、自分がまるでドローンになったかのように、遠くのものを見る事ができる眺望眼とも呼ばれるスキル。昔は少ないけれど使い手もいた。でも、最近ではとんと聞かない固有スキルになってしまったんだってさ。
ガイアさんに訓練を付き合ってもらっていて、移動距離を延ばしたり、速度や高度を変える練習をしてるんだって。ちなみに最近は王都っていう首都みたいなところ。すっごく遠い所なんだけど、そこを見に行ってるみたい。
何でも一度行った場所には、普通の倍くらいの速度で移動できるって…おいおい、そりゃなんじゃ!ワタクシ的には私の魔法よりとんでもないと思う。
何故、王都へ行ってるかっていうとね…読み本【世界の始まりの物語】にある『大陸の中心に精霊の祈り木の若芽を授けました』っていう一節。王都にはその現物があるんだって。『精霊の祈り木の丘』って言うところがあって、『精霊の祈り木』はちゃんと存在してる。
そこに時々、黒い大きな犬がいてね、見えないはずのアギーラの俯瞰飛行にどうやら気付いてるみたいなんだってさ。だからアギーラもなんとなく気になっちゃって、何とはなしに見に行ってるらしい。ただただお互いを認識しあうだけの存在。ワンコ同士の親近感とか共鳴とか、何か思うところがあるのかもしれないね。
訓練と言えば「魔力循環の訓練も、私も念の為に真面目にやってるんだ」なんて話をして、訓練内容がまさかのお手玉オチな話をしたら、アギーラから「あー…」みたいな相槌。
「これなんだけど…僕も使ってるからあげられないけどさ、3万を超すような魔力量を持ってる場合は、これが良いらしいんだ。交代で使ってみない?」
「良いの?って何これ。木製ぼたもち?」
「絶対そんな訳ないでしょうよ。これはジャグリングボールみたいなもんかな。お手玉の要領でこれを使うと魔力循環に良いらしいんだ。この木が陽の木っていう、精霊力が高い木で出来てて、中でも霊力が高いと言われる白材から作られてるらしいんだけど。あ…そう言えば精霊力って何か聞くの忘れてたな…」
「精霊力!なんとなく、アギーラに必要そうな力だねぇ」
「今度、薬師さんに聞いてみなきゃ。これさ、僕の魔力の事なんかを相談した薬師さんに貰ったんだよ。知り合いにすっごく魔力の多い人がいたんだって。グリンデルさんって薬師さんなんだけど…知ってる?」
「知ってるも何も、私が魔法の事を相談した薬師さんがグリンデルさんだよ!」
「マジか!僕も魔力の事を相談したのがグリンデルさん。じゃぁ…グリンデルさんは、二人もとんでもない奴がこの町に居るって事を知ってる…?」
「そういう事になるさね」
「いや、ものまね挟まなくて良いから!」
「グリンデルさんは信頼できる人だと思うから、色々と相談に乗って貰ってるよ」
「うん、僕も信頼できる人だと思う。でも…この事態っていうか、現在では見かけなくなった魔法の使い手と、膨大な魔力持ちが同じ町に同時代にいるなんて、何かとんでもない事が起こる予兆じゃないのか?って、すっごく不安になってる気はするね」
アギーラ君、ドっ正論。
◇◇◇
苦節数か月。
そう言ってしまえば『短いわっ!』って思うけど…やってやりましたよ、私。地道に面白い雑草を色々と見つけたのだ!
こっそり一人で1cm飛行訓練してたら、きっかり1cmは変わらずに、どんどんスピードアップしちゃってさ。
あとさ、あっという間にレベルが2になりましてね…そうしたら、まるでハンドクリームのパッケージによく書かれがちな“うるおいヴェール”的な感じで、飛行してる時に体が何かに…こう、包まれてるような感じになってきたのよ。
でもそのお陰で木の枝とか、草とかに当たって怪我したりすることもない、もちろん川を渡っても濡れなくなったの。草とか…当たり所が悪いとめっちゃ切れるんだからね…。そして風当りで寒い思いをする事がなくなった。これ大事、声を大にして言いますよ。寒くない!
だからさ、バレないんだったら常時発動してたいんだけど…絶対バレるよね、うん。
訓練を日々頑張ってはいるけれど、その成果はかなり斜め上だった…。
思ってない方向へとどんどん上達してしまった結果、みんなの目を盗んで森の中、一人長距離移動なんてものが可能になってしまったという…もはやこれ、人じゃないじゃん的な事は考えない、考えないぞ。
そんなこんなで、今まで行ったことのなかった方面に、ちょろちょろお邪魔したりしております。いや、本当は遠くに行くなんてダメなんだけど、もしかしたら魔獣が出るかもしれないからダメなんだけどだけどだけど…ルール破りは背徳の美酒よのぅ…という訳の分からん事をつぶやきながら、今日も今日とて離れた土地で雑草鑑定!
パセリっぽいのとレモングラスっぽいのとローズマリーっぽいの見ぃつけた。
ぽい、ってだけ。パセリ風ってだけのたぶん違う物。
だってさ、今って季節は冬なのよ。
年がら年中、もしくは冬に取れるハーブがこんなにたくさんって。いや、地球のハーブがいつ取れるかなんて、知らんけどさ。だから自信はないんだけど、恐らく違うものじゃないかと思うんだよ。
家の中で育ててるのとかは別にしてさ…そんな自然のハーブってないわよね?ね?
そうそう、木も発見したんだ。ローリエ風。肉料理とか食べてたら、葉っぱが一枚口の中に…何て事、ない?あの葉っぱがローリエ、月桂樹ともいうやつ。
実家の庭にあった木だから、鑑定する前に一目見てわかったんだ。これは風味付けは勿論、肉の臭み消しに絶対良いと思う。
あとはルッコラ風とバジル風を発見。
この二つは葉物野菜としても使える気がするから、育てて孤児院の食料にすべし。
色んな発見雑草は全部根っこごと引き抜いて、孤児院の裏にこっそり植えようと思ってる。
堂々と花壇っぽくしちゃえば、そこがもともと花壇だったと思ってくれるに違いない。ふはははは。
なーんて。ちゃんとアリー先生に許可は取ったもーん。
美味しいものが出来るかもって言ったら、イチコロだったもーん。
鑑定で食用可って出た可愛らしいお花も数種類発見。
あのラベンダー(仮)の黄色い花版も見つけたの。
そのままだと臭いけど、乾燥させると…って所もラベンダー(仮)と同じ。ちょっと違う匂いなんだけど、花の形はラベンダー(仮)。
あと、丸くて小さい粒を花びらの先に付けてる変わった形のお花も見つけたんだ。これももちろん食用可。鑑定では『名無しの雑草』ではあるけれど、効能に『消香鎮静』って書いてあったんだよね。消臭じゃなくて消香ってなんだろうと思いつつも…これって、薬草になりそうじゃない?
それにしても、この世界の雑草の花って季節関係なく咲くのかなぁ…そこにまた話は戻るわ~。気になるよ。
野菜や木の実、果物なんかは、ちゃんと収穫時期があるものが多いと思うんだけど…あ…この世界の刺繍が一丸で押してきてる薔薇も、咲く時期が限定されてるな。
冬に雑草とは言えこんなにたくさんのお花を見つけられるのか…まぁでも、ロムロムも年中取れるらしいから、そういう世界なんだろうって思う事にしてるけど、不思議よね~。
あとは…根っこを乾燥させると、生薬になるっていう薬草を何種類か見つけたから、それを採取したのと…たぶんドクダミ風じゃないかなって植物も見つけたんだ。
やっぱりこれも鑑定で『名無しの雑草』って出てるのに、効能には『体内に溜まった悪いものを排出する作用』ってあって…薬草区分じゃないかと思ったんだけど、この世界ではポーション、薬や薬草茶なんかには使われてないらしく雑草表示だった。
これ、どこで雑草と薬草の区分が変わるんだろう。
もしさ、私が雑草を数種類こねくりまわした結果、何らかの効能が出た場合、それは薬草になるのかなぁ。
まさか…グーチョキパが取れたら、とか…言わないよね。
うーん。謎深しだ…仕組みがよくわからない。
ドクダミってさ、そこいらに生えてる植物の中では結構作用が強い…おばあちゃんの知恵袋的な植物だっただけに、雑草区分は意外。ドクダミじゃなくって、ドクダミ風だけど。
ドクダミに生態が似ているとしたら、奴らは異常に蔓延のがお上手なはず。花壇とは別の所にひっそり植えてみよう。
よいしょっと。
今日は結構大収穫だったもんで…お、重い。これ、どうやって持って帰ろうかな。
ちなみにきっかり1cm浮いてる時に荷物が軽くなるなんて、そんな調子の良い事はおこらない。
自分が持てる量の荷物なら、重さはきちんと感じるけど浮遊は出来るって感じ。ただし、移動速度は落ちる。
…あれ?
ない!
私の摘みまくった雑草が…ない!
なーんーでー?
え…恐っ。
もしかして私の妄想だったりする?
えへらえへらと雑草摘みまくる妄想とか…私、めちゃくちゃ病んでるじゃん。
ルッコラ風、大量に摘んだのに…。
自分のシッポを追いかける犬の如く、ぐるぐるとその場で回転する私。
ルッ)コラァァ、出てこいやー!
――ポスン
ん?
…で、出てきた?
間違いない、私が摘みまくったやつ。
ちゃんと蔦で束ねておいたから…見ればわかる。
だけど…君たちはどこからご登場?
あ…まさか!
色々ありすぎてすっかり忘れてた、無色魔法の一つ『収納』…とか…?
これはもしかしてもしかしなくても…
えい!収納!!
き、消えた…。
でもって…ルッ)コラァァ、出てこいやー!
――ポスン
うわーお。




