一体なんの話だよって?
<【【ただいま~】】>
「おかえり~!ね、ね、私さ…どこか変じゃない?」
【ベルはいつも】
【変~】
「むむっ、ケサラもパサラもなかなかキッツイ事、言うよね…じゃ、なくって~!」
<ベル…浮いてる…>
「はいパトナちゃん、大正解~!」
【【人間族じゃない~!?】】
「いや、人間ではあるけれども…みんなの事『いいなぁ』って思って見てたら、浮いたの。きっかり1cmだけ」
<凄い凄い~!毎日訓練すればもっと高く浮くんじゃない?本当に一緒に飛べるかも!>
「自分の魔法の訓練は絶賛おさぼりしてるくせに、毎日訓練って…パトナはまったく。これさ、浮遊魔法を自分にかけてるのかもって思ってるんだけど…こんな事あってあるの?」
<…わかんない>
「だよね~。魔力が減らないもんだから、さっきからずっと浮いてみてるんだけどね。川にね、川の上にも行けたんだよ…水を被ったから止めたけど行こうと思えば行けるんだ。これって地味に凄くない?地味にだけど。きっかり1cmだけ」
川の表面は流れで波打つもんだから、全てを避けられる感じではなく、川の上を浮くことは出来たけど、実用的じゃなかったのよね。
川の表面平均から1cm浮く状態って感じかな。
だからしっかり水を被りまくり。
川の上でも使えなくもない…使いたくはないけど。
<あのさ、本当にさ、ベルがもっと飛べるようになったら…>
「ん?飛べるようになったら?」
<妖精の国に一緒に行こうよ!>
なな、何ですとぉ?
◇◇◇
自分、結構好きなんですよー、努力って。
思い描いていたような実を結ばない事もあるけど、無駄じゃない事の方が多かったから。
だから嫌いじゃない、努力。
一体なんの話だよって?
妖精の国ってキーワードを聞いて、俄然ヤル気になったって話よ。
いやさぁ、アギーラの事…妖精の国っていう所へ行けたら、何かわかるかもしれないじゃん。
私は『人間族』って、ステータス画面にでたけど、アギーラはそこに『クー・シー』って出た妖精さん。
でも、詳しい事とか全然わかんないんだって。『クー・シー』に関する情報が少なすぎる、というかほぼないに等しいんだ。
だからもし、もしも少しでもわかる事があるなら、何でもいいから知りたいなって思ってさ。
寿命の事とか…その事に関係があるのかもしれないけど、見た目問題ね。
見た目が幼い事、結構気にしてるんだよ、アギーラ。
本人曰く、考え方やぱっと出る行動やなんかが、わがままというか…ちょっと子供っぽいらしいの。私は子供に転生したから自分が子供っぽくても納得できてるけど、アギーラは成人年齢で異世界転移してるでしょ?
それでどうしても自分が自分じゃないみたいな感覚に陥る時があるらしいんだ、未だにね。それで、本当はまだ幼体なんじゃないかって…自分でも疑ってるらしくて。
まぁ、幼体なら幼体でも別に良いかなって思えるようになってきたらしいから、それは良いんだけど問題は…この世界でクー・シーって言うとね、本来は完全なる犬型らしいんだよ。
だから、いつまでも人族の容姿でいられるのかなって悩んでる…そんなのめちゃくちゃ不安だよね。
私にはない不安がアギーラにはたくさんあるんだ。
もし、少しでも情報があれば…。
今は地上から1cmだとしても、いつか…
◇◇◇
黄の日。
一年目①の一般知識とマナーの授業の日。
「来たね~、アギーラ!」
「おはよ~、ベル!」
「おはよ~。これでいっぱい話が出来る!って…先生がもう来たみたい。また後で」
あれれ?
ドッペルゲンガー?
一般知識とマナーのおじいちゃん先生に超そっくり!
ドッペルゲ…これ違うだろう。部屋に入ってきたご老人は、読み書き計算のおじいちゃん先生ご本人だった。
なんでも、予定していた先生が急に都合がつかなくなったらしく、おじいちゃん先生が受け持ってくれる事になったらしい。
生徒一人と聴講一人だしね…色々調整的な事情があったのかもしれない。
私、結構おじいちゃん先生とウマが合いそうだから大歓迎だよ。
やっぱり最初の授業はレベルチェックテスト的なやつだった。
本来はアギーラは受けなくても良いんだけど、ついでだからって一緒にテストを受けている。
私は孤児院で仕込まれてるし、アギーラも身元引受人になってくれたシーラさんとガイアさん、取引先の人達とのやりとりがあるらしいし、大抵のマナーはこなせている事がわかったんだ。
丁寧な言い回しも、二人ともクリアだよ!
日本が敬語という概念のある国でほんとに良かった。
おじいちゃん先生から、一応カリキュラムがあるので、それを元に授業の前半は進めて、後半は知りたい事を学べるようにするのはどうだろうって提案があったから、喜んでその提案を受ける事にしたの。
読み書き計算の時にも伝えたけど、大陸の知識全般や他国の事も含めての歴史や地理的な事なんかを、深掘りしてもらいたいってお願いをする。
アギーラも同意って感じだったので、しばらくはそういう授業になりそう。
とにかく色んな情報を得にくい世界。
そこに生き字引といっても過言ではないかもしれない、情報量と知識の多そうなおじいちゃん先生の登場。
アギーラも前のめりで授業に参加してるし…これは気に入ったと見た。
読み書き計算の授業も誘ってみよっと。
◇◇◇
結局、この世界の情報を得る魅力に勝てなかったアギーラは、青の日の、読み書き計算の授業も聴講する事になりましたとさ。
わかる、わかるよ…情報は喉から手が出るほど欲しいよね。
そして只今、休憩時間中――
「ねぇ…孤児院ってさ、自由に外出は出来ないんだよね?」
「そうねぇ。あのさ、私もすっごく小さい頃は年長組が子守りをしてくれたり、兄弟みたいに遊んでくれたり…とにかく色々と面倒をみてくれたの。だから、初期学校へ入る年頃になると、今度は私が下の子の面倒を見るというか…そういうシステムで成り立ってる部分もあるから」
「だよねー」
「なんで?」
「いや、シーラさんもガイアさんもベルの事、気に入っちゃってさ。また連れてこいってうるさいもんだから…」
「あはは。私もあのご夫婦、好きだよ。でも、院長先生に言われたんだけど…発明品のお陰で私の孤児院への貢献度が高すぎるって。だから子守りとか色んな当番を免除するって言われてるんだ。いや、ちゃんとしてるけどね。だから…お願いすれば、ある程度は自由に外出も出来るかもしれない」
「それはまたすっごい優遇具合で、逆に怖い」
「うん…実はさ…」
ちょっと魔法関連でチートをくらいまして…の件を、大まかに話した。
やっと話せたよ…。
「うわー。じゃぁ、幼くして逃亡者になるかもしれない可能性があると!?」
「そうそう、結構エグいでしょ?だから、そうなった時に困らない程度に生きる術を身につけろ、的な事を言われたし…グーチョキパで貰ったお金も貯めてもらってるんだ」
「逃亡資金!」
「ちょっと言い方~!って、まぁ…そうなんだけどさ」
「僕も魔力の件で実は誰かにバレたらヤバい感じだと思うんだけど、確かに孤児院だと逃げ場がないもんなぁ。院長先生が良い人で良かったね」
「それは本当にありがたいと思ってる。願わくば、孤児院は普通に卒業したいけど、どうなることやら…」




