ちくちくちくちくふんふふ~ん♪
さて、次に作業いたしますのは…ケサラの毛でございます。シーラさんから譲って頂いた蔦系染料で染めますよ~!
熱湯が必要なのかなって思ったら、ぬるま湯で大丈夫なんだって。だからお風呂場でこっそり作業する事にしたの。
使えそうな木の枝も拾ってきたからね。用意はばっちり。
アギーラからゲットした桶にぬるま湯を入れてから、染料を少し入れてみる。
木の枝でぐるぐるして染料を溶かしていく。
ケサラもパサラもすっごく興味深そうに覗きこんでる。もちろんパトナもね。
ケサラもパサラも凄く楽しみにしてたみたいで、風呂場についてからはポワンポワン跳ねまわって可愛いを量産してくる。喜びの舞~!的なやつかしら…。
パサラがね、自分の毛もどうしても一緒に染めて欲しいんだって。
まぁ、鑑定を信じるならばハゲないみたいだし、パサラの毛も少し追加で貰って、一緒に染める事にしたんだ。
お芋ちゃんの糸と、若いウェービーメェメェの毛の毛糸も、一緒に染めてみる事に。
濃淡をつけた緑色のアンクレットを作って、シーラさんとガイアさんに渡そうかなって思ってさ。
赤ちゃんが大きくなったらお揃いに出来るように、子供用も作っちゃおうかな…さすがに気が早いか…。
あとはアギーラが仲間外れになっちゃうから、アギーラの分も作らなくっちゃね。
一回目。
すっごくうすー--い緑色に毛が染まった。お芋ちゃんの糸だけ全然染まってない。
そうだったよ…浄化作用があるんだった。どうやったら染められるんだろう…。
あ…。
「綺麗に染まりますよ~にぃぃ♪お芋ちゃんの糸ぉぉ、グリーングリーンになぁれぇぇ~♪」
はい、これが正解!
みるみる染まっていくお芋ちゃんの糸。
いまいちよくわかってない魔法、『吟遊』の発動よ!
この魔法、最初は怖いなぁって思ってたんだけど…だって、勝手に発動したらヤバいじゃん。
『お前の母ちゃんデベソ~!』みたいな事を軽く言っちゃったら、それが現実になるとか…ね、ヤバいでしょ?
そう思ってたんだけど、別に普通に鼻歌歌っても大丈夫だって事が判明。ただ、『お願い~!』って強く願ったり、自分で『吟遊』の力を使いたい!って思って発した言葉には効果が表れる。たぶん。
そんなに強い効果じゃないみたいだから、謎な部分も多いけど、『〇〇になりますように~』くらいな感じで使うのが良いかなって思って、じゃんじゃん使ってるの。
普通に鼻歌を歌っても問題ないと知った瞬間に、便利な魔法ポジションに変わったという訳なんです、はい。おまじない風発言や鼻歌、そういう形で使う事が多いんだ。
恐らく大きな声で自作ソングを歌っても効果があるんだろうけど…なんか…嫌なんだもん。
だってこの世界の人たち、誰も歌とか歌わないんだよ。
自作の鼻歌みたいなのは、機嫌が良いと口ずさんだりするから聞いた事はあるけど、歌手的な…そういう人とかいなさそうだし、そう言えば教会からも歌というか音楽自体、聞こえてきた事がない。
大衆娯楽としての音楽自体も、ないっぽいんだよね。
孤児院育ちなもんで周りは子供だらけでしょ?だけど、『はい、歌を歌いましょ~』みたいなシチュエーションになった事がないから。
そう言えば、楽器的なものも見た事がないなぁ…この世界の音楽事情ってどうなってるんだろ。
貴族は社交パーティーなんかでダンスを踊ったりするみたいだけど。
何で知ってるかって?…そりゃ、あの例の貴族の為のマナー冊子、『嗜みシリーズ』に書いてあったからだよ。
ダンスを踊るんだから、楽器はあるんだろうな。
まさか手拍子とかじゃないよね…うん。
ま、詳しい事は知らないけれど、とにかく超絶絶唱はやめた方が良いって話よ。
鼻歌やまじない発言ですら、いつも一人でブツブツ言ってたら、変な子認定されちゃいそうでしょ?
だからこそこそ使う事にしてる。なんとなくだけど…『少~し変わった子供だな』って思われてる気がしないでもないんで、ここは譲れない。
でもそう、こそこそだろうがちゃんと使ってるの。
なんでかって言うとね、『鑑定』のレベルがどんどんあがって、今やレベル4になってるから。
たぶんだけど魔法って、使えば使うほどレベルがアップするんじゃないかって思ってて…積極的に使う事にしてるんだ。
ちなみに職スキルは裁縫も料理も、レベル1のまま。
料理は今のところじゃがいもの皮むき以外、使用頻度が少ないってのもあるけど、裁縫は結構使ってると思うのよね。
ここらへんの仕組みも謎なんだよなぁ。
もっと難しい事に挑戦したりしないとレベルが上がらないのかも、とは思ってるんだけど…。
まぁ、日々の生活が忙しくてあんまり気にはしてなかったんだけどさ、逃亡生活の可能性があるとしたら、魔法って使えないより使えたほうが絶対良いよね。
だから、ちゃんと使って出来るだけレベルアップさせたいと思ってるんだ。
「うーん。今日はここまでにして、ちゃんと乾いてから二回目の染めをするからね。一回染めて、しっかり乾かしてみて色の濃淡を見てから、色が薄かったら二回目を染めるんだって。思ったより一回だと色が薄かったから、今日、もう一回くらいは染めてみたかったけど…」
【乾かすの~】
【風~】
<あ、そうか…ケサラとパサラの力があれば、毛を乾かすなんて、すぐじゃない?>
「そんな事、出来るの?」
【…わかんない】
【試すの~】
「お、おぅ…それじゃ、試してみて貰っても良いかな?」
軽く水気を絞ったあと、ケサラとパサラに肯いてみせる。
――ブォォォン
お、おおぅ…さすが風を操る奴ら。
何度か様子を見つつ、ちょうどいい風量を糸に均一にあて続けてるわ。
もしかして…ケサラもパサラもすっごい器用な子なんじゃない?
いや、努力の子だな。
毎日ちゃーんと訓練してるもんね。
うちの子は真面目なんやでぇ、パトナは除くんやでぇ。
そのパトナはと言えば、ケサラとパサラが紡ぐ風に、自分からあたりに行っては跳ね飛ばされ…完全に波打ち際のキャッキャウフフお一人様バージョンを謳歌していた。
感心→呆れ→感心→呆れ…交互に見ているうちに、あっという間に乾いてしまった。
「ありがとう!こんな事ができるなんて驚いちゃった。風の調整も絶妙だし。毛も糸も…ほら、全然絡まってないよ!」
【【えへへ~】】
「どういう仕組みで風が発生するのか全然わかんないけど、凄い!」
よしよし、二回目の工程に入れるぞ。
これを何回か繰り返して、濃淡をつけるんだ。
ケサラとパサラの協力があれば、今日中に出来そうだよ。
◇◇◇
「ありがと~。とっても綺麗に乾いたからさっそく刺繍してみよう!」
【早く~】
【見たい~】
ケサラとパサラの毛は基本効果に俊足強化がついてるから、妊婦さんには使わない方が良いかなって思って、パトナの服に刺繍してみることにしたんだ。
「まずはケサラの毛で刺繍してみるね」
【【ドキドキ…】】
「パトナ、刺繍した文字の言葉が効果になるらしいんだけど、何かお願いしたい事はある?」
<もっと早く飛べるようになりたいの~!>
「十分早く飛べてるじゃん」
<最近、ケサラとパサラに全然ついて行けない…>
「え…それは追いつこうって方が無理なんじゃ…いや、とりあえず入れてみよう」
待てよ、ちょっと自作の鼻歌を歌いながら刺繍してみようかな…
――パトナがもっと速く飛べますようにぃぃ♪自分で速度コントロールもできますようにぃぃ♪
――ちくちくちくちくふんふふ~ん♪
よし、完成だ!
――キラキラキラキラ
おぉぉぉぅ…『完成だ!』って思った瞬間に、毛が金色に点滅して光る。
暫くすると普通の緑の毛に戻っていったけど…ふ、ふぁんたすてぃーっく!!
<すご~い!>
【【あわあわあわ…】】
「い、今の見た?見た…よ、ね?これって…凄く凄~く御利益がありそうじゃない?とりあえずパトナの服、全部に入れとこう。効果のほどは報告宜しく~」
――ゾクッ
あれ、なんか今ゾクッてしたんだけど…なんだろう。
ほんの少しだけ体の奥がゾクッってした。
もしかしたら…魔力の使い過ぎ…とか?
魔力枯渇とかコワヒ。
…。
ステータス確認しとこっと。
どれどれ…。
なななんと!魔力量に変化はないけど、裁縫スキルが2に上がってる!!
今までは全く気付かなかったけど、落ち着いて座ってる時にレベルアップがあった場合は、わかりそうだな。
そんな状態でレベルアップするって、裁縫以外ではないかもしれないけどさ…。
うーん。職スキルのレベルアップってやっぱり量より質なのかなぁ。
でも、職スキルってなかなかレベルが上がらないのかもしれないと思ってたから、地味に嬉しい~!
いかん、感傷に浸る間はないのだ!どんどん作るよ~!!
次はお芋ちゃんの糸で、シーラさんへのお守りを作りまーす。
腹帯のつもりな腹巻に、小さなポケットをつけてるから、その中にお守りを入れて渡そうと思ってるんだ。
小さな布に『安産祈願』と『母子共に健康でありますように』って刺繍してみよう。もちろん鼻歌全開でね。
ケサラの毛じゃないから、文言の強化はないけれど、私の『吟遊』とお芋ちゃんの糸のコラボでお送りします!曲は『イエス!安産祈願~母子ともにめっちゃ元気だぜイエーィ!!』…なんつって。
あ、アギーラを模したワンコマークも入れよう。
本当は日本語で刺繍したいけど、バレないと思ってひっそり背面に入れてたナップサックの刺繍がアギーラに即バレした事、シーラさんが見たら私もアギーラと同じく転移してきたんじゃないかと思われるんじゃないかなって事、この二点を鑑み自重いたしました…。
――ちくちくちくちくふんふふ~ん♪
よし、完成だ!
――キラキラキラキラ
本日二度目だけど言わせほしい!ふぁんたすてぃーっく!!




