ランドリーシステム
やがてガイアさんがウロウロし始めたので、苦笑いのシーラさんが自分の小屋へと戻って行った。
「ふんふふん~♪可愛いの~作るんだ~♪」
「はーい、そこまで。色々話したい事もあるんだから!あ、その前に…これでどうかな?」
手には細長い棒が二本。それはもしやもしやの…!
「えっ、早い!もう出来たの?」
「チッチッチッ。道具職人をなめて貰っちゃ困るね」
「アギーラ様~、すっごく滑らか…これ、完璧だよぉ!」
「良かった!言われた通りに作ってみたけど、改善箇所があれば言って~。即対応のアフターメンテナンス付きだよ」
「ないない、完璧だよ。ありがとうね!これで…ぐふ…ぐふふ…」
「どういたしまして。…変な笑い方やめぃ。それくらいならいつでも作れるから、折れたりしたら言ってよ。たぶん、故意に折らない限りは大丈夫だと思うけど。さて、まずは馬車のシートをちゃっちゃと終わらせないと」
「あ、その前に…編み棒の御礼代わりって事で…サルエルパンツの進呈式をおこないます。サイズ的にもちょうど良いと思うから、おひとつお納めくださいませ。ジャージ的なポジションでどうぞ」
「わ~、珍しい形のズボン。こういうの知ってるぞ!踊っちゃう系の人が着てるやつでしょ?これってサルエルパンツって言うんだ…ふーん…ちょっと着てみてもいい?」
寝室がある扉に消えたアギーラと話を続ける。
そう、ちゃんと寝室もあるんだよ。小屋と言えども実質我が家って言ってたのもわかるな。
小屋小屋言ってるけど、本当に十分な住居スペースと作業スペース、収納スペースがあるし、町中で狭い住居に高い賃料とか払うのを考えると、こういうのも良いよね。
ちなみに…小屋と言い張るこの住宅、町外だからなのか領主から直接許可での建築だからなのか、賃料はほぼないようなものらしいのよ、建築費はかかるけど羨ましい。
町中じゃないから、魔物とか盗賊とかに遭遇するリスクは少し高いのかもしれないけど…もし、逃亡生活になってしまったら、こっそりこういう感じもアリだな。
あーでも、違法建築を請け負ってくれる大工さんを探す方が大変だよなぁ…。
それに最低限の護身術も必要になってくるじゃん。
不慮の事態想定事案、まだまだ考える事はいっぱいある。
もう、妄想逃亡者の気分だよ。
逃亡者になったら野宿もあるよなぁ…お風呂とかトイレとか、色々大変そう。
不便=風呂とトイレがない!って、とっさに思っちゃう所が私ってメードインジャパン。
そうそう、お風呂の話って聞いてみたかったんだ。
「お風呂の話とか、聞きたいなぁ」
「何それ。もしかして、風呂桶が欲しいとか?」
「即バレ~。いや、孤児院にはさ…今はアギーラ様のおかげでシャワーだけど…蛇口しかないでしょ?風呂桶がある家もあるのかどうかが気になっちゃって…」
「残念ながらないみたいだよ」
「そうなんだ~」
「ふふふ。だがしかーし!ここの風呂場を見て頂きたい!!あぁ、これめっちゃリラックス~。寝巻にしたいぞ…作務衣は仕事着でこれは寝巻…」
アギーラが戻って来てお披露目をしてくれる。合わせて作ったヘンリーネックのTシャツと合わせるとすっごく若者感が出て宜しい。
「是非寝巻にしてよ。って、お風呂…まさか作ったの?」
「ちょっと自作してみました」
「まじで。さすがアギーラ!」
「配管やら金物を扱う柔軟な思考の職人さん達を、シーラさんから紹介して貰えたから実現したんだけどね。地道に広めていきたいんだけど、スペース問題があるからなぁ。うちは、例の工法で作った小屋の部屋の一室部分を風呂にして、風呂桶を入れた感じだし。やっぱり既存の家に設置するのは難しいんだ」
「スペース問題かぁ…スペースと言えば、洗濯桶はどうなったの?」
「ほぼ完成してて、今はテスト段階。そんな訳で庶民の家庭に置くのは難しそうだから、バケツサイズを作成中なんだ。例のコインランドリー、とりあえずランドリーシステムって言ってるんだけど…来年には可動するかもしれない。というか、ほぼ決定かな。コインランドリーではないけど、クリーニング店とコインランドリーの中間って感じで進行中だよ。発明者のグーチョキパはきちんとお支払いするけど…別途、出資者として一枚噛む?開発費内でお金が多少動かせるなら、凄くお薦め」
「もう話が進んでるの?洗濯桶やバケツなんかが一気に出来るとさ、洗濯を生業にしてた人の職を奪う事になるかもしれないなって思ってたから…どうなんだろって思ってたのに。まだまだこの世界って労働力が足りてない部分も多いから大丈夫かとは思ってはいるけど…って、こういうのって考えすぎ?」
「僕もそれ思ってた。でもさ、結局新しい技術や発明って止められないでしょ?遅かれ早かれ人の営みは利便性を求めて時代と共に変わっていくものだから、人のほうがその波に合わせて生きなきゃって言われたんだ。その進む先が良い方であれ悪い方であれ、それは誰にも止められないだろう。そこで淘汰されていく職種はもちろんあるだろうけど、それが時代のうつろいというものだから。って、これは全部ギルドの人の受け売りだけどね…」
「そっかぁ。そんな事も話してるんだね。ならば何も言う事なーしっ!」
「うん。洗濯に関しては時間も労力も割かれ過ぎてるし、軽んじられてる割に重労働だしで…しかも家庭では女性が一人で担ってる場合も多いでしょ?新技術があるなら是非導入すべきだって話になったんだよ。しかもこのランドリーシステムが稼働すれば、単純に労働環境が増える事に繋がるしね。相談した生産ギルドがすんごい前のめりに賛成してくれたんだ。噂を聞きつけた人達が出資したいって、すでに集まってきてて」
「私も色々資金を確保しなきゃいけない羽目になりそうだからなぁ。一枚噛ませてもらいたい気持ちは正直ある」
「その見た目で何でそんな羽目に陥ってんのさ…」
「うーん…実はこないださぁ、遅まきながら魔力覚醒があったんだよね」
「魔力…そっち系か。その手の話ならば僕もけっこうなネタが…」
さっきもなんかあるって言ってたもんね。
じっくりすり合わせしたいですな。
「いかんいかん。魔法の事、めっちゃ聞きたいし話したいけど、まずは先に発明品の報告をしないと。えっと、液体洗剤ができました」
「おー、早い」
「ほら、ランドリーシステムが押せ押せムードなもんで。ギルドが石鹸を製造してる職人さんやら工場やらを紹介してくれたから、ほぼ丸投げで出来たんだ」
「なるほどですねぇ」
「これもあとで見せるからね。うん…座面シートはこれで大丈夫で…あと、さっき話したサイズのと、背中部分の改善点を話し合いたいね。あとは御者席用の…」
◇◇◇
「風呂桶だ~!すんごーい」
「良いでしょ~。ちなみに何軒か宿屋にも泊まった事があるけど、一軒も風呂桶はなかったよ。シーラさん達にも聞いたけど、そういうものはないらしいし。ちなみに他国でも見た事ないってガイアさんが言ってた」
「羨ましいなぁ。…いや、もちろん風呂桶も羨ましいけど、それだけじゃなくって…そういうこっちの事情が聞ける人がいてすっごく羨ましい。こっちはラベンダーがあるかないかも聞けないって感じで、本当に苦労してんのよ…」
「ラベンダー?」
「うん、ちょっと面白い花を見つけてさ…花と言えば、この洗剤に少しだけ何か香り付けしても良いかもね」
「そういうの良いね!言ってみよう」
「ミントっぽいのとかも良いよね。ここでの名前忘れちゃったけど、あのスーっとするやつ。あと、この世界って薔薇押しが半端ないから、ローズ系とか?あとはロムロム系。何種類か用意すると売れそうじゃない?固形石鹸でも、そういうのがあると面白いかも」
日本で言う石鹸の香りというより、粘土みたいな匂いなんだよね。この世界の石鹸…。
もし、香りが変わるのなら、ついでに固形石鹸も変えてもらいたい。いつもの如く、言い逃げよ!
「そういう発想は全然なかった…」
「ちょっと試してみようよ。香害は困るから気をつけながらだけどね。獣人族は嗅覚が鋭い人が多いから、色んな種族の皆さんに匂いの確認をしてもらったりして、商品モニターになって貰っても良いかも…それ自体が宣伝になるし」
「商品モニター…それ、いただきます」
「うむ、良きに計らえ。そう言えば、油ってどんな位置づけなの?高級品って感じじゃないよね??揚げ物した時も驚かれはしたけど、絶対無理!って感じでもなかったし」
「そうだなぁ…結構いろんな種類もあるし、そこまで高級品って感じじゃないと思う」
「そしたらさ、香油って…見かけた事はある?」
「アロマオイルみたいなもの?」
「そうそう、そんな感じ」
「まったくわかんない。見かけてたとしても、目がスルーしてる気がする。シーラさんに聞いてみようか?」
「いや…アギーラが急に香油とか言い出すのもおかしいから…」
「そうだよね…あぁ、洗剤の香り付けの話にかこつけて聞いてみようか」
「アギーラ様は天才だと、前々から思ってました」
「絶対褒めてねぇなおい…」




