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一瞬持った尊敬した気持ち、返して下さい。

 「ただの小屋だからねっ!」とか言ってたけど、それは普通の家だった。

 これって、町中の一般的な住宅と同じじゃないのかなぁ。まぁ、町中は二階建てが多いけど、これは平屋だってくらいで。何が違うのか全然わかんない。


 違いがわからない女、ダバダー ダバダー ダー♪

 …お父さんが昔よく言ってた台詞を替えてつぶやく。いや…なんでもないです。


 シーラさんとガイアさんは「後で顔を出すわね~」と言いながら、お隣にある小屋へと入って行った。


「なんか思ってたよりすっごい豪華なんだけど…しかも…正直、お隣の師匠の小屋よりご立派…それってどうなの?」


「仕方ないんだよ。なんとかっていう新しい工法が確立されたらしくてさ…グーチョキパさえ支払えば、誰でもその建築構造を利用できる、安価なのに丈夫な住宅の建築方法が発表されたんだって。それで作って貰ったんだ」


「オープン工法的なやつかなぁ。ほら、ツーバイフォー住宅とかさ、ああいう感じの。使用料とかは知らないけど…規格が同じ的な」


「それそれ、そういう感じ。なんでも材料の加工を別の所で済ませてあるらしくて、それを現地に持ち込む形だから早く出来るし、丈夫だし今までより断然安いって人気らしい。小屋とはこうでなくちゃダメ、的な決まり事が何もなかったもんで…普通に建てちゃったんだよね」


「卑怯な…法の盲点を突くやり方!」


「いやいや、法や条例なんてものも特になかったもん」


「この世界の庶民の住宅って基本は賃貸なんでしょ?」


「うん、そうだね。基本的にはすべては神のもの…とかいう大きな話は抜きにして、領主が貴族に差配させて、建築物を管理してる感じ?でも、こういう職人が建てる小屋とかドワーフの鍛冶屋が暮らす洞窟住居なんかは、直接領主が許可を出すんだ。それで職人本人が小屋を建てたり、ドワーフの人も洞窟に手を入れたりって形になるらしい」


「へぇぇ」


「基本的にはあんまり町の外の建物建築許可が出ないから、その珍しい許可が出たって時点で、もう何してもOKって感じになっちゃうらしいんだよね。だからさ、小屋だからって間取りや面積の指定とか、何もなかったよ。お好きにどうぞ~って感じ」


「そうなんだ、なんか意外。結構権利関係には厳しい異世界だなーなんて思ってたから」


「あはは、僕もそう思った!権利に厳しいのは職人にとってはありがたい事だから、別に良いけどね。そうなんだよなぁ…僕も師匠より立派な小屋になるのは申し訳ないから、小屋をチェンジしてもらおうと思ったんだけど、荷物を移動させるのが面倒だからって断られちゃって」


「あー、引っ越しって大変だもんねぇ…」


「うん。言ったっけ?町の店舗兼自宅も引っ越したばかりなんだよ。それでうんざりしちゃったらしくて…。でも、やっぱりわかっちゃうかなぁ…外壁とか扉とかカスタマイズ可能な所は、相当素材も吟味して作って貰ったから」


 うわー、見て見て!アギーラのケモ耳がめっちゃピコピコしてる!!

 同じ日本から来た組なのに…ケモ耳付き…ちぃっ。


「なんか軽井沢の別荘って感じだよ~。ドラマでしか見た事ないけども!」


「確かに周りの森感が別荘を思わせるでもないよね。あ、ちなみに僕がマッパでぶっ倒れてたのは、ここね」


 玄関のドア前を指してアギーラが言う。


「え、まじで。マッパでぶっ倒れてた場所に建てたの?」


「もしかしたら重要な緯度経度なのかもって思ってさ」


「え、まじで」


「うん。だから、どうしても…その場所を確保しておきたくてさ」


 そんな事、考えた事もなかったよ…私の場合は自分の魂だけが他の魂が消えそうになった体に入り込んだっぽいから、ちょっと事情が違うけどさ。アギーラって色々考えてるんだなぁ…。


「ぷっ…。ごめん、嘘だから。シーラさんの小屋との行き来の動線とか、上下水道とか、共同の薪置き場なんかの位置とかで、ここがベスポジだっただけ」


 一瞬持った尊敬した気持ち、返して下さい。


 へらへら笑ってるアギーラと共に室内へ。

 上下水道も完備されてるって、高ポイントだわー。

 町の外ではあるけど、ここら辺一帯は町の直轄地でもあるから、上下水道が使えるようになってるらしいのよね。

 治安も良いし、動物による被害もない。魔獣も出た事がないんだって。

 もうさ、ここ、町中で良くない?


 そう思ったら、今後、ミネラリアの町の人口が増えた場合は、ここら辺一体も町になる可能性があるらしいって話だった。

 ダンジョンが出来て冒険者がたくさん入ってきてる事を別にしても、ここ数年、徐々に人口が増えてるらしいから、あながち可能性があるってだけの話じゃないみたい。

 ここは隣国セレストへ入る為のユスティーナ国側の最後の町だし、交通の要で大きな宿場町でもあるから、今後の需要もあるだろうしね。


 もしここが町になったら…まだ若いのに、町中でこんなに広い平屋建てに住めるって事になる…あれ?俄然、アギーラが守銭奴王っぽくなってきた…


 ◇◇◇


「やっぱ室内も広いねぇ」


「はい、小屋に入れた時点でベルには悪意がないってわかりました!」


「え?何それ怖い」


「シーラさんが小屋が出来たお祝いにって魔道具をプレゼントしてくれて」


「こーわっ、異世界こーわっ。でもひーろっ、お家、ひーろっ」


「道具職人を目指してもいるから、必要にかられてね。いやほんと、作業場が狭いと色々大変でさぁ」


「あー、やっぱりそうだよね。すごい…道具やらなんやらがいっぱいだ」


「まぁね、商売道具だからボチボチ揃えてるんだ」


「あ、道具で思い出した。帰りにさ、染料とか取り扱ってるようなお店があったら、寄り道して貰えないかなぁ?」


「染料って、どんなの?」


「うーんとね、糸を染めたりできる『蔦系染料』っていうのが欲しいんだけど。そういうのって知ってる?」


 そうそう、ケサラの毛を勝手に鑑定してしまった時に、蔦系染料で染めた糸で文字を刺繍すると、その文言を強化する性質があるとかなんとか…って出てきたんだよ。

 いや、勝手に鑑定してしまってなんだけど、見てしまったからには是非染めてみたいと思うのは、人のさがってもんでしてね…・。


「蔦系染料かぁ…ちょっと待ってて」


 アギーラがそう言って小屋を出て行ったかと思ったら、すぐに戻ってくる。

 その手には小さな瓶。


「染料って、基本的には取寄せて貰わないといけないんだ。たまに置いてる店もあるけど…で、これ。シーラさんが持ってたから譲って貰った」


「え~、悪いよ。料金をお支払いしないと」


「いや、二人とも髪ゴムで絶賛恐縮中だから、貰ってくれると嬉しいって。これで足りそう?って、分量とか知らないか…これは色の濃淡で量を調節するタイプだから、まずは少量から試してみて。濃い色にする分には何度でも重ね染めできるから。変わった使い方しないなら、結構な量の糸を染められると思うよ」


「ありがと。まずは試しに少しだけ染めてみたいだけだからさ…わかんないけど十分だと思う」


「シーラさんが、そういうものが必要な時は僕に言うようにって言ってたよ。用意させるからって」


「えー!」


「ほら、僕らは生産職だから、色んな素材やらこういう材料の購入はしょっちゅうしてるもんで、一緒に発注できるからさ」


「そっか。…それは嬉しいかも。助かるよ。ほら、ホームセンターとかないじゃん」


「そうそう。良い取引先がないと、ぼったくられるかもしれないし」


「あー…じゃぁお言葉に甘えて、何か欲しいものがあったら相談させてよ」


「おう、任せろ。あ、そろそろ発明品の話に入らないと時間がなくなるね」


「そうだった…これ、馬車のやつ?」


「うん。レンタル馬車っていうのをギルドが貸し出してるからさ、今回の事を相談してみたら、客車というか…馬以外の部分を全部貸してくれたんだよ」


「アギーラ。なんか企んでるんでしょ」


「いやだって、色々ツッコミどころ満載だったもんだから。その…ちょっとだけ乗り心地改造をね…」


「ふふ、まぁ乗り心地は大事だもんね」


「ベルも馬車に乗ってみたらわかるよ。ただ、後付けで改良できる部分だけ手を入れるつもり。さすがに全部作り直すのは予算的にもみんな厳しいだろうし、既存のものを使って改良できる所だけにするんだ」


「馬車かぁ。ラヴァリマが引いてくれる荷台にしか乗った事ないや」


「それは体が悲鳴をあげたりしない?」


「最初はちょっと筋肉痛みたいな感じになったけどね。う~ん、多分だけど…私の体はこの世界の庶民仕立てなんじゃないのかな」


「あ~。シーラさんも最初は体中が痛くなるけど、我慢してれば乗れるって言ってたもんな…」

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