普通で最高の幸せ
本日二投稿目ですが、一投稿目の閑話は読み飛ばしてもいけます~!
「私たちが出会った時にさ、芸能ネタで本当に同じ日本から来たのかどうか判断しようとかって…話したの覚えてる?」
「もちろん。パラレルワールド疑惑ね。joyjoysevenの翔が結婚しただとか、仮想通過の流出責任擦り付け合いとか…」
「そうそう。あの日…アギーラが転移しただろう日のニューストピックスで、作詞作曲家の夫婦が亡くなったっていうのがあったんだけどさ…それは知ってる?」
「作詞作曲?うーん、知らないなぁ…。僕は3時か…4時頃転移したと思うんだけど…その後のニュースかな?」
「昼頃亡くなったって書いてあったけど、発表は夕方以降だったのかも。私は終電で帰って、車内でニュース見て…家の玄関前で転生したから…」
「あ~、そうだったそうだった!なんか、僕の情報でもないのに懐かしいのは何故だろう。カズヒコね、カズヒコ」
「嫌な事、思い出させないでよ…って、その話じゃなくって、作詞作曲家夫婦の話。老衰らしいんだけどさ、二人共、穏やかな顔して手を握り合って亡くなってたんだって」
「うわ~、ドラマじゃん」
「だよね。見出しにも『映画のような最期』とかなんとかって、書かれてたと思う」
「そんな事ってあるんだ」
「うん…。でね、その夫婦には子供がいなくって、養子を迎えてたって話でさ。まぁ、その養子がゲーム作家の白玉さんていう、トンデモ逸材な訳なんだけど」
「じゃぁ…それって、風谷銀之丞と花夫婦の事?え~っ!」
「うん。え?フルネームって…すっごいよく知ってるね…」
「白玉さんとかマジ神だから!僕、超ファンだもん。遊ぶだけじゃなくって、実際に自分でもゲームとか作ってみたくなって、ゲームプログラミングにも手を出したくらいだよ。インタビュー記事とか読んだりもしてたから、結構詳しいんだ」
「あー、ゲームって懐かしい…」
「スマホでゲームとかしてた…ほんとに懐かしいよ。そう言えば、僕の通ってた高校の校歌ってその風谷夫婦が作ったんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。自慢じゃないけど自慢なんだけど、僕が通ってた高校は白玉さんの母校でもあるからね。うちってさ、もともと女子高だったんだ。白玉さんが入学した時が、確か男子生徒第一期生で…そのご縁で、共学になるし校歌を新しくしたいって高校側が打診して、校歌を作って貰ったって聞いたよ」
「こっちからネタふったら、相手の方がその話に数倍造詣が深かった時の悲哀を、今、ひしひしと感じてます。しくしく」
「まぁまぁ。あ、あのアニメのダンスのやつ…WE!GO!!MUSCLE!!!とか、学校で踊ったやつを投稿した事もあるな…」
「追加ネタも豊富なラインナップでございますねぇ。しくしく」
「ぶふっ。笑わせないでよ!でも筋肉戦隊バルハルトとかさ…すっごい懐かしくない?本編はめっちゃかっこいいのに、エンディングだけ急に三頭身でさ、筋肉モリ可愛いとかつぶやかれて、人気が出たんだよね」
「あ~そうだったねぇ。懐かしいよ…じゃなくって、そのご夫婦の話よ。75年も連れ添ったんだって。終身名誉おしどりだよ!なんか…それって凄い事だなって思ってさ。いや、終身名誉おしどりが凄いんじゃなくって…それは聞かなかった事にして良いから!…きっとさ、その75年は二人にとってはあたりまえの日常で、それが普通で最高の幸せだったんだろうなーって。あれ、何が言いたかったんだっけ…」
何で急にこんな事、思い出したんだろう。
いや、1000%、目の前の仲良し夫婦のせいだろうけど。
前方を見ると、シーラさんがケタケタと笑って何か言い、ガイアさんの肩をバシバシ叩いている。
するとガイアさんが耳元で何かを囁き、シーラさんの腰に手をまわして、さりげなく体を支えるような仕草をみせる。
前世って言い方が合ってるかわかんないけど、日本でノホホンと28年生きてきて、ご縁にご縁がなかった私。異世界でご縁だなんて…なおさら難しいだろう。そんな事、わかってるよ…。
「私には、あの幸せの形は望めないかもしれない。だけど…自分の幸せを見つけようって思うんだよ。普通で最高の幸せ。幸せの形は一つじゃないんだからさ」
アギーラが横で一瞬泣きそうな顔になって、そしてそれをぐっとこらえているのがわかった。
色々考えちゃってたんだろうな…辛かったよね。
でも、そんな言葉はかけられたくないだろう。
異世界転生転移ものの小説とかアニメとかさ、なんやかんやでみんな前向きなんだよなー。
私が知ってる限り、だけどさ。
スローライフを掲げるにしろ、勇者然として戦うにしろ…将来の不安とかさ、途方に暮れる感がまるでないんだもん。…尺の都合で葛藤カットってだけかもしれないけど。
実際はさ、転生なんてしちゃったら、もう不安しかないっていうね。
「守銭奴王アギーラもいっぱい異世界生活を楽しんで、自分の幸せを見つけようよ。それに…ここには同郷のよしみもいるんだからさ!」
私もシーラさんの真似をして、アギーラの肩をバシバシ叩いてみた。
ちょっと励まして、ちょっとテレる。
よし、話を変えよう!
「そ、そう言えばさ、出産予定日とかって、もうわかってるの?」
自分、やっぱヘタか!
「ん?…あぁ…なんだかさぁ、よくわかんないんだよなー」
「まだわかんないのかな?腹帯とか産着とか…い、要らないかな…どうかな…」
「あはは。作りたいだけでしょ~?」
「だって、ちっさい服って可愛いじゃん…肌触りの良い生地とか集めてさぁ」
「ベルさんベルさん、お金はどうなさるおつもりで?」
「それがね~、院長先生が発明品作りに力を入れるって事に賛成してくれてね、今まで儲けた分の資金の一部を、新製品の発明品用に、使えるようにしてくれたんだよ」
「それは開発費なんじゃ…」
「うん…まぁ、おくるみの開発とか…」
「しょっぱなから使途不明金ださないでよ。あ…そうだ!僕が資金提供して、ベルが作るってものアリじゃない?どうかな??」
「のった!そしてその上で明君にはお願いがあります!!」
「明君って…その言い方、すっごく怖いんだけど…」
「あのさ、編み物がしたくって…編み棒ってわかる?あれが欲しいんだよね。もちろん、制作費用は出しますんで…」
「ビビったーー。恐がらせといて、編み棒って!うーん、編み棒かぁ…木製で良いならすぐに作れるだろうし、代金なんて要らないけど…。あれって素材は何で出来てたの?プラスチック??って、この世界にはプラはないけど。そうだなぁ…金属なら、ものによっては時間がかかるかもしれない。あと自慢じゃないけど、細部がどういうものかが全然わかんない…編み棒って、長い箸みたいなやつで合ってるよね?」
「そうそう。木製でお願いしたいんだけど。うーん…竹っぽい感じの材質って言ったらわかる?ああいう、こう…毛糸が滑りやすそうで、しなやかな感じの軽い素材だと嬉しい」
「あ~、なんとなく了解」
「だいたいの形状はわかるなら話は早いよ。まずは玉付きの二本針っていうのが一番に欲しくてさ…」
アギーラに少しいつもの快活さが出てきて、詳しく編み棒の話をし始めた頃、町の外にある作業小屋に着いた。
東門にある検問所は、この三人組に文句があるはずもなく、もちろんプラスワンな私にもニコニコと手を振ってくれただけ。
話は通してあると言っても、最低限のチェックくらいはあるのかと思ったんだけどな。
だって立派な門があって、検問所があって人も常駐してるのに。
町から出る人に対しては、こんなもんなのかなぁ。
おらのドキドキを返せー!