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ちょっとした験担ぎ(げんかつぎ)

「冒険者の必需品ですか?」


 お土産に渡した髪ゴムを見て、『今や冒険者の必需品』と話すのは、アギーラの師匠・魔道具師のシーラさんのご主人である冒険者のガイアさん。

 冒険者の必需品…って、なんでなんで?

 頭の上にクエスチョンマークをいっぱいつけてたら、訳を話してくれた。


「あぁ…魔獣を狩るとな、希少部位をその場で取り出すことがあるんだよ。鮮度が命の素材ってのがあるからな。死後硬直が始まる前に取り出すとさらに価値が出る部位とか、まぁ、そういうやつだ。あ、悪い…小さい子にこんな話ししちゃいかんか」


「あ、いいえ。あの大丈夫なんで…是非聞かせてください」


「そうか…じゃ、遠慮なく。気分が悪くなりそうなら言ってくれよ?…魔獣を倒すと、死骸の運搬を引き受ける若手の冒険者達が回収に来るんだけど、他人には任せたくない高価な素材なんかをだな、その場で抜き取る事があるんだよ。で、この髪ゴムの出番だ。その素材、匂閉布(こうへいふ)の袋に入れる事が多いんだがな。匂閉布は知っているかい?」


「はい。匂いが漏れないように特殊加工した布、ですよね?」


「そうそう。防水加工した匂閉布で作った袋に希少部位を入れて持ち運ぶんだが、その袋の口を髪ゴムで縛ってるんだ」


「へぇぇ!知らなかったです」


「髪ゴムを何本も髪に結んでる奴も多いぞ。すぐに使えて便利だってだけじゃなく、ちょっとした験担(げんかつ)ぎになっちまってる感もあるが。『髪ゴムが何本も必要になるくらい、良い素材がたくさん持ち帰れますように』ってな。匂閉布の袋の口は、今までは紐で結んでたんだが…たまに緩んじまう。それであわや大惨事って事が…うん…まぁ…よくあったんだ」


 その時の事を思い出したかのように、鼻に皺を寄せてガイアさんが話してくれた。


「はぁぁ。匂閉布の袋の口をですかぁ…」


「あぁ。紐と髪ゴムとダブルで縛るっていうのが、ここいらの冒険者の間で流行ってるんだ。ミネラリアの冒険者ギルドでもその方法を推奨してて、今では冒険者ギルドの窓口でも販売されてるって訳だな」


「そんな事、思いつきもしませんでした。でも、お役に立ててるなら良かった」


「最近じゃ、他の町や他国からもダンジョン目当てで冒険者がたくさん来るからな…髪ゴム、大陸中の冒険者にあっという間に広がると思うぞ。こいつはいくつあっても助かる。ありがとうな」


「こちらこそ、面白い話が聞けて良かったです。あ…でも、こちらの髪ゴムは量産品と同じですが、こっちの…この髪ゴムは使ってる糸が一部違うので、出来れば髪の毛を結ぶ専用として使って貰った方が良いかもしれません。多分、大丈夫でしょうけど…もし魔物の素材に影響があると困るから…」


 モゴモゴ言い始めた私にアギーラが小さく聞いてくる。


「あー…もしかして?」


「うん…お守り程度に一本だけ。あと、ちょっと別のも入れちゃった…」


「あららら…うーん…」


「なぁに?二人だけでコソコソと…髪ゴムの糸の種類が違うの?」


 アギーラをチラっと見ると、この二人なら大丈夫だよ、という感じで私に肯いてきた。

 そうだよね…ここまで話して、お土産を引っ込める訳にもいかんわなぁ…


「あの…実はですね…」


 私はお芋ちゃんの糸や幻獣の糸の事を淡くぼかして話してみた。


「そんな訳で職業柄、髪ゴムを良く触るから、ギルドに置いてある髪ゴムの素材と違うものが入ってるのは手触りでもわかったがな。なぁ…それってもしかして、ボヨンビヨン・モリの糸…だったり…しないよな…?」


「凄ーい、正解です!」


「バカ!お前…」


「ちょっと、ガイア!お嬢さんに対してバカって何よ!!お前って…アンタ!!!」


「いや、シーラ…あの…とんでもないもので…あの…すまん…」


「お気になさらず。そうなんです…これは秘密でお願いしますね。アギーラから信頼できるお二人って伺ってたので、お渡ししても大丈夫かなって…。ちょっと色々ありまして、たまたま手に入ったんです。特に入手に金銭が発生してる訳じゃないので、あくまで秘密にして頂ければ、あとは気にしないで欲しいと言いますか…本当は黙って渡そうと思ってたから、一本しか編み込んでないので、効果も薄いでしょうし…バレないかな…なんて。まさかそんな用途で使うなんて思ってもみなくてですね…」


「………」


 ひぃぃ。反省してる、反省してます。そうだよね、別の使い方をする事だってあるかもしれない。今度からこっそり何かするのはやめます、はい。


 ガイアさんが盛大なため息をつく。


「はぁぁぁぁ。なんだか…さすがアギーラの友達って感じだな。最近、ボヨンビヨン・モリの糸が使われた商品が、過去に例をみないほど多く流通してるって噂は聞いてたが…いや、自分で言っといてアレだけど、驚いたぞ…」


「その糸って、すっごく高価なのよね。もちろん見た事なんてないけれど。だって庶民には関係のない話だし、そもそも流通も少ないから、注文品の魔道具に使う何て事も一度だってなかったのだもの」


 諦めてお芋ちゃんとパサラの糸の効果をきちんと説明する事にした。言葉にして説明すればするほど、とてつもなく凄い感じになっちゃうから嫌なんだよなぁ。

 私としてはただただお芋ちゃんとパサラの糸ってだけなんだよ。お世話になった人や大切な人に、お守りみたいな感じで渡せたら良いなって…ただそれだけだったんだけどさ。


「髪ゴムで髪質が改善されるし、いつも洗いたてのような感じになるので凄いなぁ、なんて。それで、アンクレットを作ってみたんです。浄化作用で足やら靴やらに防臭効果とかついたらいいな…な~んて、少し期待しつつ作ってみたら、結果、スカートの裾汚れもなくなってですね。アギーラに聞いたら、アギーラもズボンの裾が汚れなくなったって。だから…足首のサイズをちょっと確認させて頂ければ…後日、アンクレットもお渡しします…ですよ?少しですが足運びが楽になったりもするんで、お勧めなんですけど…」


「「!!!」」


「あはははは~、効果のついてる糸って凄いですよねぇ。あ、そろそろルコッコの唐揚げにとりかかりましょうか。鍋とか色々お借りしますね。アギーラは一緒に付いていてくれる?」


「ねぇ、出来たらアタシも見学したいのだけれど…ダメ?作り方が秘密だったりするのかな」


 なんだかいたたまれなくなった私の会話の方向転換に、シーラさんがさっと乗っかってくれた。こういう人、好きー!


「いえいえ。もうすぐ発売されるレシピ冊子に、揚げ焼きバージョンの作り方が掲載されるので。油をたくさん使うから、油にだけ気を付けて貰えれば大丈夫です」


「じゃぁ、ちょっと見学させてもらえないかなぁ。油をたくさん使うっていうから…怖くて挑戦出来なかったの。言っておくけれど、ガイアの料理の腕はアタシ以下なのよ。だからガイアが自分で作るのは無理だと思うからさ」


「あー、そうなんですね。それじゃぁ、ガイアさん以外のお二人で作り方をマスターしましょうよ。揚げ焼きの方が恐くないかもしれないですから、今日は両方作っちゃいましょう!」

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