本日は、アギーラの所へお邪魔する日なのでございます!
本日は、アギーラの所へお邪魔する日なのでございます!
発明品の細かい打ち合わせに入るからって言って、孤児院から外出許可をもぎ取ってくれたらしい。発明品の現物が大きくて、孤児院に持ち込む事が出来ないからって。
現物って何さ…って思ったけど、勿論そんな事は言わないもんね。
アギーラの口八丁手八丁に有難く乗っかる事にしますです、はい。
外出ってあんまりする事がないから、正直すっごい興奮よ!ふんがふんが。
ちなみにパトナ&ケサラ&パサラは今日は別行動。
外出自体が珍しいからさ…何かあったら困るんだもん。グリンデルさんにあっさりと姿を見られてしまった事を鑑み、今日は一人だけでお出かけする事にしたんだ。
パトナはケサラとパサラの風を操る訓練に同行するらしい。
いや、自分の魔法訓練しなよ…。
同じ妖精族って事で、アギーラとパトナのご対面ってのも考えたんだけど、私が外出慣れしてからでも遅くないかなって。
いや、外出慣れするのなんていつになるんだよ!って話はさておき、だけど。
「なかなか会いに行けなくって、悪いね」
「いやいや、アギーラは働いてるし、勉強しなきゃいけない事がいっぱいあるじゃん。今日はお招きありがとうね」
「うん、責任を持って帰りも孤児院までちゃんと送るから。荷物はこれだけ?じゃぁ行くよ~」
「はぁい。あ…まずは初めに話しておくことがあります」
「なんか怖いなぁ、その急に丁寧な言葉…」
「いやいや、怖い話じゃないから。あのさ…この体、ベルちゃんの体、私のものになっちゃったみたいなんだよ」
「えぇ!?それって…魂だけがお邪魔してたのが、鈴花さんのものになったって事?…そもそもの前提からしておかしいから、逆に全然おかしくないと思っちゃう自分がおかしいけども!」
「ほんとそれ。うん…色々あってね…。話をすると長くなるから、詳しい話はまたいずれだけど。うん…まぁ、そういう感じ」
「じゃあさ…『成仏~!』って、急に居なくなる感じではなくなったって事?」
「そりゃ、アギーラみたいに、異世界転移する可能性もあるから、ゼロではないだろうけど…アギーラと同じくらいの確率にはなったって事かな…?」
「いやいや異世界転移とか数に入れてたら無理でしょ。そういうのはノーカンだよね。あー--!良かったぁぁぁ!!急に居なくなったら悲しすぎるって思ってたからさ」
「嬉しい事言ってくれるねぇ」
「いやほんと。まじで嬉しい!」
「うんうん、やっぱりええ子や…。異世界生活の同志として、今後とも宜しくね。あ!話は変わるけど、魔道具店で馬車のシートとか広げても良いの?かなり場所取るんだけど、お師匠様が困らない?」
あまりに喜んでくれたもんだから、ちょっと照れた。
そして照れ隠しに無理矢理話題を変える。自分、ヘタか!
「大丈夫だよ。まずはお店に寄るけど…あ、言ってなかったんだった…僕の作業小屋に行こうかと思って。町の東門を出たすぐの所に建てちゃったんだ。シーラさん…僕の師匠の作業小屋の隣にね。シャワーヘッドを安い価格にして、庶民に浸透させたいって話が、偉い人の琴線に触れたらしくて、もの凄く感動されちゃってさ。なかなか出して貰えない小屋の建築許可がすぐに出たんだ」
「アギーラってそういう所、なんか世渡り上手なんよねぇ…」
「聞こえたぞ。それちょっと悪口!」
「ほ、褒め口ですよぉ」
「まぁ…良いけど。それでね、住居としてはシーラさんのお家に住込みって事になってるんだけど、最近は作業小屋で寝泊りする事も多いから、実質もう我が家って感じで。そっちに現物…馬車の客車とかがあるからね、今日はその小屋の方にも行こうと思ってるんだ」
「客車って…もう、馬車の乗り心地に対するアギーラの本気度が凄まじい。って、キャー!私、門の外に出るの初めて~!!」
「そうだってね。院長先生には許可を取ってるから。僕を拾ってくれたシーラさんの旦那さんが冒険者なんだけど、今日は一緒に付き添ってくれるから安心して。って言っても、町の外側ではあるけど、魔獣やら盗賊やらには一度も会った事がないし、町の門には検問所があるけど警備隊の人とも仲良しだし。事前に話も通してあるから大丈夫だよ」
「すっごい嬉しい!孤児院からほとんど出た事ないのに門の外だなんてー!!うわーうわー、楽しみ!!!」
「いや…すぐに着いちゃうし、門がすぐに見えちゃうくらい町に近いんだけど…」
「それでも嬉しい!」
「いや、そこまで喜ばれると謎のハードル上げちゃった気が…わかってる?小屋だからね、門のすぐ近くのただの小屋だからねっ!」
「ぐふんぐふん」
「絶対聞いてないやつや…。まずはシーラ魔道具店へ行くからさ。そこからシーラさんご夫婦と一緒に、門の外にある作業小屋に行こうと思ってるんだ」
「え?わざわざと言うか…旦那さんというか、ご夫婦に護衛を押し付けてるみたいで申し訳なくない?」
「シーラさんも自分の作業小屋に用事があるらしいから、どうせなら一緒に行こうって話。気にしなくても大丈夫だよ。冒険者である旦那さんはシーラさんの金魚の糞状態だから、別に気にしなくてもいいよ…ホントに…」
「愛妻家なんだ」
「うん…もともとすっごく愛妻家だったんだけど…シーラさんが実は今、妊娠しててさ…」
「え~、そうなんだ!」
「うん…だから輪をかけて超絶愛妻家に…」
「あはは、周りが大変っていうやつ?」
「お察しの通りで。あ、通りと言えばこっちの通りに入るから」
「ここって町の東側だよね~、初めて来た。なんだか通りがずいぶん栄えてるなぁ」
「隣国のセレストから入ってくる人達が多いから、南北の道より東西の道の方が栄えてるのかも。あとはほら…ダンジョン効果で今は町自体がさ…」
「そっか。先生達からダンジョンが出来たからって、治安面の注意もわざわざあったくらいだから、相当なんだとは思ってたけど…へぇぇ、本当に賑やかなもんだね…」
「ここがシーラ魔道具店だよ」
二階建ての戸建ての前でアギーラが立ち止まる。
「え、看板ちっさ!」
「ここに引っ越すときに看板を付けるかどうか凄く迷った結果のこれだよ。実は看板無しでも構わないくらいの人気店だからさ、もう看板は要らないんじゃないかって。で、どうしようかって話になって…最終的に間を取って超小さな看板を付ける事になったって感じ。表札をイメージして作ってみました」
「表札。そうそう、これは表札だよ~!そうかぁ、人気のお店なんだね。なんかドキドキしてきちゃった…」
「いやいや、そういうキャラじゃないでしょ」
アギーラが『シーラ魔道具店』という小さな小さな洒落た表札の付いた、店舗の戸を開ける。
「ただいま戻りました!」
店の奥から小柄な女性が満面の笑みで顔を出した。
ビンゴ~!やっぱりバザーでちらっと見かけた女性がお師匠様だったよ!!
「あら、早かったわね。せっかくだから少し寄り道でもしてくれば良かったのに。初めまして、ベルちゃん。お話は聞いていますよ。アタシはこのお店を経営しているシーラです。魔道具師なの。宜しくね」
あ、そう言えばそうだよね…話に夢中になりすぎて、そんな事考えもしなかった。
アギーラも同じだったらしく、小さい声で「ごめんごめん、話にのめりこみました…」って謝ってる。
笑いながらも挨拶大事。総合アラサー、ちゃんとご挨拶せねば。
「はじめまして、ベルです。アギーラの…アギーラさんのお言葉に甘えてお邪魔してしまって…今日はお世話になります。どうぞ宜しくお願いいたします」
「ふふ。礼儀の正しいお嬢さん、普段通りに喋ってもらって構わないわよ。アギーラ、先に作業小屋へ行くつもりだった?ガイアがまだ戻っていないのよね…」
「ちょっと先にここでやりたい事があるから平気だよ。ベル、あのさぁ…お願いがあるんだけど…」
「なぁに?」
「あの…ルコッコの唐揚げをまた作って欲しいんだけど…ダメかなぁ?」
誤字報告、ありがとうございます!




