オシャモンペ
私の魔法の件での三者面談(薬師のグリンデルさんと院長先生と私)の数日後、院長先生と少し話をした。
まぁなんというか…心づもりはしておいた方が良いって話。
最悪の最悪、12歳になる前に籍を置いたまま身を隠せるように、とかさ。
戸籍を新たに作っちゃったりしちゃうと、ギルドへの預託分が上手く引き出せなくなったりする可能性もゼロじゃないから。
孤児院との繋がりがあるギルドとはいえ、一枚岩じゃないかもしれないし…リスクは避けようって話とか色々とね。
「院長先生、私…何が出来るかわかりませんけど、もう少し発明品に力をいれてみたいんです。初期学校も始まるし、まだ小さいから行動範囲も限られてる。ここで出来る事で、一番効率が良いのは発明品…グーチョキパを得る事な気がして…」
「そうだな。ベルには発明の才能があるから…もし、作ってみたいものなんかがあれば、どんどんやってみたらいい。アリー先生にもそう伝えておくから。いやなに、孤児院は子供の才能は出来る限り伸ばすって方針を掲げているからね。それに絡めて上手く言っておくよ。実際、ベルの場合は発明品で生計を立てられるだろうからなぁ。それどころか、髪ゴムのグーチョキパだけでも、もう安泰というか…」
資産的には気にしなくても良いけれど、さらに邁進するって事で話がまとまった。
考えたくないけど、逃亡するとなるとお金はいくらあっても邪魔にはならないもんね。
「で…開発費用だったかな?」
「はい。少しお金を自由に使えるようにして貰えたら、発明品を作る時の初期費用で、孤児院にもご迷惑がかからないし…ダメでしょうか?」
「いや、ベルのお金だからそれは構わないよ。うん…お金を使う事も学んでおいた方が良いかもしれないね。それに頼みにくい時もあるだろうし。よし、ちょっとギルドとも相談して、良い方法がないか探ってみるから、待っていてくれる?お金を一度にたくさん渡すのは危険だからね。あと、保護者として大まかにだけ使い方をチェックさせてもらいたいけれど…構わないかな?」
「はい、もちろん。大きな金額を使う前には相談もさせてもらいたいです。あと、あの…初期学校が始まると忙しくなっちゃうだろうから…その前にアギーラさんに面会がしたくて…実は発明品を共同で開発していて、試作品が出来たので…」
「あぁ、アリー先生から聞いているよ。アギーラ君も忙しいだろうから、無理は言えないけれど。そうだね、初期学校が始まる前に面会出来ないか、伺ってみよう」
よっしゃ!
◇◇◇
アギーラに会・え・る~♪
楽しみ~!
だって、この広い異世界で知ってる限り、現状たった二人だけの日本人だよ。いや、地球人!
しかも、めっちゃええ子!ここ肝心。めっちゃええ子!!
性悪な奴が転移してきてたって、おかしくなかっただろうからさ。
誰に感謝して良いのかわかんないから、日本に御座した八百万の神々と、アークマインの神に感謝しとこっと…。
さてと…アギーラに頼まれていた馬車のシート用カバーの試作品を渡すって事になってるから、それはちゃんと用意済み。
あとはお土産だなぁ。
だって、今回はアギーラのお宅へ行く事になったからね。厳密にいえばアギーラの師匠宅だけども。
何でも、開発してるものの現物が大きすぎて、持ち運びが大変でって話でさ。だから孤児院では打合せが難しいとかなんとかって…なんじゃそりゃ?と思いつつ、話に乗っかっといたんだけど。
なんやかんやでお邪魔させていただく訳だから、お師匠様にもしっかりとお土産を用意しようと思います。
アギーラと出会ったあの教会バザーで、チラっと見かけた人…あの人が師匠ではないかと思うんだよねー。横にはモフっとしたシッポをお持ちのでっかい男性が居たしさ。
そうそう、院長室でもちょっとニアミスしたことのある、あのでっかい人。
うん、やっぱりバザーでちらっと見かけた人が師匠なんだと思う。でっかい人は旦那さんなんだろうと推測。
見かけただけだけど、二人の体型もだいたいはわかるから、何か面白いものを作って持っていこうと思うんだ。
でね、ちょっと作務衣っぽいのもを作ってみようかと…使用感のご意見を貰えたら嬉しいし。
そう、次なるリラックスウエアとしてロックオンしておりますの…おほほ。
実際の作務衣と比べたら全然違うものかもしれないけど、私の中の作務衣のイメージで脳内に型紙が出来ちゃったもんで、作ってみようかなって。
まずはパトナ用に一着作ってみたんだけど、着やすいって喜んでるしさ。ズボンを膝丈にしたからこれは作務衣と言うより甚平っていうのかも。
上手く出来たから、今度は人族用サイズでね。ちょうどいい被験者が…ぐふんぐふん。
聞いた話だと、獣人族は獣の性質が本能に残ってるから、服で体を締め付けられるのが人間族より苦手なんだって。だから、作務衣とかさ…良いと思わない?
アギーラの師匠は人間族っぽく見えたけど…まぁ人間族だったらだったで、ご意見も聞いてみたいしね。
あとはインナーにヘンリーネックなタンクトップを作ってみる。
生地が伸縮しないから、ボタン無しってのはやっぱり厳しいのよ~。
男性はまだしも女性だと胸元がしゃがんだ時に見えちゃうのは困るし…そこらへんをちょいと気を使って作ってみよう。
――ちくちくちくちく
出来た!
うん。寝巻にしても良いし、仕事着にしても良いと思う。
この世界では見かけない形だけど、アギーラは見た事があるはず。使ってくれるかな~。
ズボンはダボパンにしておいて、シッポ穴の位置は現地で仕上げる…あれ、こんなお土産ってどうなんだ?まぁ、いいか…。
ダボパンの下にゴム通しを作って、ちょっとジョガーパンツっぽく仕上げてみた。いや、モンペ型かな。
そういえば、こういう形のズボンって見た事ないかも。
この世界、土埃が酷いからさ…編み上げの長いブーツみたいな靴の場合は良いけど、普通の靴だと足が凄く汚れるんだよね。だから、こういう足首部分を絞った形のズボンはアリなんじゃないかと思うんだ。お芋ちゃんアンクレットのおかげで、私の足元はいつでもキレイだけどね。
ウェービーメェメェで作ったゴムをふんだんに使っちゃうけど…良いよね。
だって開発費用があるから!
こ、これだって立派な開発だよ。モンペ、オシャモンペ。
と、言いつつ、孤児院のウェービーメェメェの毛糸を盗む私。
い、いつかちゃんと補充するから…たぶん。
あとはやっぱり髪ゴムかな。お師匠様へのプレゼントバージョン。
そう言えば旦那さんってどんな髪型してただろう。この世界の住人は大抵髪が長いけど…すっごくでっかい人って記憶しかないポンコツ記憶脳が恨めしい…。
まぁ、一応用意はしておこう。
全部ウェービーメェメェで作ろうと思ったけど、こっそりお芋ちゃんの糸を一本だけ編み込んで髪ゴムを作ってみようと思う。
これくらいならバレない…よね?
なにせお守りみたいなもんだからさ…鑑定されなきゃ気付かれないだろうし、鑑定出来る人もそうそういないだろうし。
【【ただいま~】】
【なぁに】
【してるの~?】
ケサラとパサラが帰ってきた。
風の操作訓練も順調のご様子でなにより。
今度、訓練とやらを見せて貰いたいっすね。
「おかえり!今ね、髪の毛を結ぶ髪ゴムっていうものを作ってるところだよ」
【お芋ちゃんも使うの?】
【お芋ちゃんの糸、光ってる】
「そうそう、よくわかったね。ケサラとパサラにも結んでる糸と同じ、お芋ちゃんの糸とウェービーメェメェっていう動物の糸なの」
編み込む前の糸に近づいて、何やら二匹でこそこそと話をしてる。
なんだよ、内緒話かよ。可愛いかよ…くっ。
【これにね】
【僕らの毛も混ぜて~】




