――雑草雑草雑草幻獣雑草
只今、大きな岩に腰かけて、近くの草花を鑑定しまくり中。
周囲を片っ端から鑑定していくという荒業。
やっぱりハーブってないみたい。狙いは薬草だな。
――鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定
――雑草雑草雑草雑草雑草…うーん、雑草ばっかり…
こっちはどうだ?
――鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定
――雑草雑草雑草幻獣雑草…うーん、雑草ばっかり…
…あん?
なんか混ざってたぞ…げんじゅう?
どこ、どこ?
うっ…まさかこの薄ら汚れた毛糸ポンポンみたいなの?
(鑑定)…やっぱりこれか。
これがマボロシのケモノ?ほんとにぃ??
タンポポの綿毛みたいだし、植物に見えなくもないんだけど、ケモノなのかなぁ。
あ、動いた。
うずくまって隠れてたんだ。
こっそり逃げようとしてる。
どこかに行こうと一生懸命って感じで移動してる。
でも遅い…歩くのすっごく遅いねぇ。
まだ幼いのかな。
それにしても汚れまくってるのに可愛い成分しかないって、どんだけ可愛いんだ。
可愛いものってのは、泥まみれでも可愛いんだなぁ。
チラッチラッってこっちを伺ってるのがわかるのも、ただただ可愛いだけなんだけど…。
驚かせてごめんね。
取って食べたりしないよ。
ちょっと見てただけだからさ。
いや~、今日は良いもん見たぞ!
◇◇◇
結局、めぼしい植物は見つからなかったけど、可愛い幻獣君とやらが見られたから、良しとしよう。
風も強くなってきたし、そろそろ帰ろっと。
ん?
あれ?木の上に雑巾が引っ掛かってる。
いや…これって、さっきの幻獣君じゃない?
なんだか膨張してるっていうか…大きくなってるけど…。
ちっちゃい手足が木に必死にしがみついてて、見まごう事なき…ぼろ雑巾。
隠れてる手足が、かろうじて生き物だとわかるよすがよ…。
「おーぃ、大丈夫?」
<$%”@&…>
「うーん、言葉がわかんない。木から降りたいの?」
<*’%?+#>
「パトナ~、何って言ってるのか、わかる?」
<全然わかんない~。でも、脅えてるみたいに見えるねぇ>
「やっぱり?私もそう思った。木から降りたいんじゃないかなぁ」
<そうかも~、ちょっとひっぱってみるよ!>
「気を付けてね。無理しちゃ駄目だよ!」
<はーい>
パトナが木の上にふよふよと飛んでいく。
<ベル~、駄目だぁ。しがみついてて固まって動けなくなっちゃってるみたい。でも、やっぱり降りたいんだと思う。脅えてるよ~>
どうしよう。
私が登れそうなギリギリの高さだけど、登れるかなぁ。
ラナの木登り講座受けとけばよかった…ま、そんなもんないけど。
あんなに軽そうなのに…ふわっと降りられないかなぁ…ふわっと。
――ふわっ
急に幻獣君の体が木から離れて浮き上がった。
「あ!危ない!!止まって~!」
――ピタッ
おぉ!これって、私の声に反応してる…よね?
これってあの『浮遊』ってやつかも。
で、出来るかな…出来れば助けてあげたいけど。
イメージよ、イメージ。
私の手の中にゆーっくり降りてくるイメージ。
タンポポの綿毛みたいな…ふわりふわり、軽~いイメージ。
――ふわりふわり
出来た!
もうちょっと…私の手の中にゆっくりゆっくりカモーンヌ!!
――ふわりふわり
<ベル~!すごいすごい!!>
「ドキドキした…変な汗かいちゃったよ。怪我はないかなぁ」
<#$&*?‘+@>
「ごめん…全然わかんないけど、大丈夫そう…かな…」
あ、鑑定すればいいのか。
グリンデルさんから、人に対してはむやみに鑑定をかけないようにって言われたけど…人じゃないもーん。
…ダメ?
でも、心配なんだよなぁ…。
「幻獣君、ごめん。言葉がわからないから、ちょっと鑑定させてもらうね。怪我がないか知りたいだけなんだよ」
【状態異常なし/急に強い風に吹かれて怖かったの。助けてくれてありがと~】
「そうか、怖かったね~」
って、言葉が通訳されてる感!これも鑑定の力?凄いわこの力。
「どこも怪我してなくて良かった!風で飛ばされちゃったのかぁ。どうしよう…どこなら安全かなぁ…」
【あのね…兄弟とはぐれちゃったの…えぐっえぐっ】
「え!どこで?」
【わかんない…】
…待てよ。さっきの岩場に居たのって、別の個体だったのかも!
「ちょっとこのまま移動するね」
【うん…つかまっててもいい?】
「もちろん!」
私の言葉は理解してくれてるみたい。
これなら、鑑定をかければいつだって意思疎通が図れるじゃないか。
任せとき、あたしゃぁ、鑑定かけ放題プラン契約なんだから!
うーん、便利。便利すぎて怖い…。
片手に乗る程の小さな幻獣君がまた飛ばされないように、そっと片方の手を上に被せながら、さっきの岩場へと急ぐ。
見事に薄汚れてるけど、触るとふわっと柔らかい。泥を取って綺麗に洗ったらすっごくフワフワになるかも…ぐふふ。
居た!
岩場から、さほど離れていない場所でうずくまる幻獣君、発見!
私に気づくと、また一生懸命に逃げようとする。
「あ、怖がらないで良いからね。兄弟君を連れてきただけだよ~」
そっと隣におろしてあげると、お互いお互いの手を懸命に伸ばして、ぎゅっと抱き合った。
と、尊い…。
「今日みたいに風が強いと飛ばされちゃうからね、気を付けるんだよ~」
【【うん、ありがと~!】】
言った先から、また飛ばされそうになってる。
…今までどうやって生きてきたんや。
この子達、不安しかない…
◇◇◇
連れて帰って来ちゃった。
洗っても大丈夫か聞いたら二匹とも喜んだので、桶の中でもしゃもしゃと洗ったら、真っ白のフワッフワになった。
あの泥を吸った雑巾みたいな姿から想像できない。詐欺だ~逆詐欺だ~!
こっそり自分のベッドの隅に隠しちゃうんだもんね~。
近くに毛糸ポンポンを何個が置けば、カモフラージュも完璧。
「風がやむまで、ここに居て良いからね」
【【うん】】
強い風も暫くすれば止むはず。
どこか、過ごしやすそうな場所ってないかなぁ…。
あ…そう言えば、食事ってどうするんだろう。
パトナみたいに、自然界の魔素があれば良いって訳じゃないよね。
そうそう、びっくりじゃない?
パトナって魔素を取り込んで生きてるんだって!
空気中にも土にも川の水にも…どこにだって魔素があるから、基本的には食事不要らしい。
でもね、他の物が食べられない訳じゃないから、木の実とか、果物とかも普通に食べてるよ。
なんでも興味津々なお年頃なのか、先日はとうとうサンドウィッチに挑戦してました…マヨがお気に入り。
…万能マヨめ。
「ねぇ、お二人さんはさ…お腹が空いてたりする?何を食べるのかなぁ」
【草でも葉っぱでもお花でも】
【なんでもいいの】
【お腹すいちゃった…】
「え?何でも良いの?フワンフワの葉っぱとかでも?」
【【フワンフワの葉っぱ!好き!!】】
…万能フワンフワめ。
「パトナ、フワンフワの葉っぱを持って来るからさ、一緒に居てあげてくれる?」
<わかった~>
葉っぱを取って部屋に戻ったら、二匹とも完全に眠っちゃってた。
フワッフワ君がフワッフワ君にぴったりと寄り添っておる。
誰か私にスマホを下さい…写真撮りたいよぅ。
無色魔法の一つ、『転写』ってあったけど、そういう事じゃぁ…ないよね…あ、鑑定すれば良いのか。
――カシャ
今、『カシャ』ってシャッター音的なもんが聞こえましたけども…まさかね…。
ぬ、布…要らない布…
『転写』!
うわーーーお!
すかさずステータス確認。
やはりというか何というか魔力はなーんにも減ってねぇずら。
悶絶級のこの布はこっそり保管するずら…




