この日、歴史が動いた――
ふんわり読んでくださいね~、ふんわり。
サルエルパンツって、全体的に余裕のある作りというか…ダボダボしてるでしょ?
そのダボダボ感をシッポ有人族な皆さんが、大絶賛してくれちゃったのよ…。
女性でも獣人族の方々は身体能力が高いから、冒険者はもちろんだけど、狩人とか伐採人、高所作業なんかに従事してる人も多い。
だからね、やっぱりズボンが欲しかったらしい。
でも冒険者の女性達みたいに、男装する勇気がなかったんだってさ。
勇気?…ズボンをはく勇気って…何だ?
私たち子供はスカートの下にドロワーズっていう、かぼちゃパンツみたいなものをはいてるんだ。みんな丸見えで木に登ってるんだよ…羞恥心も何もなく。
見せパンな感じの認識だと思う。
いや、ドロワーズ見せるくらいならズボンはけよ…って、私なんかは思っちゃうけどね。
大人の人は、私たちが使ってるドロワーズの長めなやつをはいてる人が多い…たぶんだけど。
スカートめくりでチェックした訳じゃないですよぉ…。
準成人を過ぎたお姉さんたちの洗濯物をちょっとジロジロ見てただけだもん。
…私の名誉の為に、これは犯罪ではないと声を大にして言っておきたい。
大人になると、ドロワーズ丸見えで木に登る訳にはいかんだろうって事で、男性用のズボンをこっそりワンピースの下にはいてたらしいの。
たいていは家族のズボンを拝借してるんだって。
孤児院でも準成人になった女子は、男性用のズボンを共用で使ってるって言ってた。
でもそれってさ、ズボンサイズが違うし、シッポ穴の位置やなんかも違う訳でしょ?
危なっかしい事するのに、ワンピ着たまま。
しかもズボンのサイズが合ってないって、危険すぎない?…って、またまた私なんかは思っちゃうけどね。
シッポ穴。考えた事もなかったけど、シッポ有人族の皆様の服にはシッポ穴があるんだ。
どうしてもズボンとなると、シッポ穴の部分が気になるらしいのよ…私ら人間族にはないチラリな悩みもあるらしくてね。
どうせなら、そこはファンタジー全開でパトナの身体みたいに認識阻害っぽいのをかけてやれよ…って思うけど、そんなに都合良くはいかないらしい。
それにシッポが動くとスカートが捻じれたりまくれあがったり、ズボンはズボンでシッポ穴の位置がずれた時にシッポの付け根部分?っていうのかしら…そこらへんが痛くなったりね、色々と地味に大変だったらしいの。
ダボダボズボンのおかげで、そういう事が解決するし…長年の悩みが薄れる感じ、らしい?
疑問形なのは、私にはシッポが無いから。
本当のトコロはよくわかんないってやつです。
私からするとダボダボなほうが、シッポとの相性が悪いんじゃないかと思ったけど、そんな事もないんだってさ。
そうだ!いっそのこと、肌触りの良い布で作ったシュシュをシッポ穴に付けたら良いんじゃない?
サルエルは布がたっぷりあるからギャザーを寄せて、シュシュをはめ込んでみる。
布が多めのシュシュならお悩み解決にもなるし、伸縮するから付け根が痛くなったりしなさそうだよね。
そして何より、なんか…可愛い。
この日、歴史が動いた――
◇◇◇
なーんちゃって。
歴史が動いたってのは大袈裟だけどさ。
でも、あれからサルエルパンツ&シッポ穴用シュシュが大流行しちゃったのであります。
シッポ有人族でも男性陣はあんまりというか…全然、チラリの事は気にしてないのにね。
しかも皮膚が女性より強い人が多いらしく、シッポの付け根が痛くなる人も少ないんだって。
でもね、本質的に体を締め付けられるのが人間族より苦手というか、はっきり言うと嫌悪感があるらしい。
なんでも獣の性質が本能に残ってるからだって話だけど…難しい事はよくわからんかった…。
まぁ、わからんなりに、そんな話を聞いちゃったもんだから、ユニセックスな楽ちんウェアを売りだしたら…もうウハウハよ。死後に死語だけど、ウハウハ。
裁縫が出来る人用に、大まかに図案と説明を入れたカードも販売したの。
料理のレシピカードみたいな感じでね。型紙もなくデザインの提案だけで、手持ちの服からのリメイクになるから、あとは各人頑張れ!って感じなカードだったのに、これも凄く売れちゃった!
人間族にも大流行だよ。特に女性にね。
近年、働く女性がどんどん増えてきていて、もっと動きやすい服が欲しいと思ってたところにサルエルが登場したもんだから、みんな飛びついてくれたんだ。
『女はワンピ』な固定概念が強すぎたのもあるけど、どうしてもピッタリとしたズボンには抵抗があったんだってさ。
あのダボダボした感じがウケたらしい。
手持ちのワンピで作れるってカードを作りたいって話した時に、大興奮で何故か自ら面会にやって来た商業ギルド長のサワットさんが、あのダボダボ感を『ドレッシー』って表現した時は、さすがに二度見したけど…。
サワットさんも働く女性だもんなぁ…しかもバリキャリ。
当然というべきか何と言うべきか、サワットさんも女性がズボンスタイルを選べる事に大賛成だった。
出張も多いし馬車に乗る事も多いからね。
馬車ってさ…乗るのも乗り降りもキッツイってのは知ってたけど、それでも優雅なイメージだったのに。実は泥はねとか土埃とかが酷いという非情な現実をじっくりと教えてくれた。
大人の女性のワンピースはロング丈。いや、マキシロング丈。
だから、馬車の乗降もスカート裾を巻き込まないようにとか、汚さないようにって気を使ってたらしい。
ズボンなら足さばきも楽になるし、ドロワーズが汚れないで済むようになるしで、夢のようなデザインだって絶賛してくれたの。
サワットさんはさすが商業ギルド長だけあって、オシャレさん…だと思う。
そのサワットさんが積極的にサルエルを着用してくれれば、広まるのも早いだろう。
無料の広告塔、あざっす!
『女性の服はワンピースであるべき』なんていう、意味不明な横やりが入ったりして、色々と面倒もかけてしまったけど、サワットさんは断然パンツルック押しだったから、謎校則並みの『女性はワンピースオンリー』という呪縛は、見事に消滅したのでした。ヤッタネ!
誤字報告、ありがとうございます!




