自分、グッジョブ。
パトナに可愛い服を作りたくって…でも、小さな服だけ作ってると、変人認定くらっちゃうかもって危惧した私は、ダミーの着せ替え人形とダミーワンピースも何着か作っておいたんだけどね…。
「ねぇ、ベルのベッドに置いてあるこれ…なぁに?」
「これは着せ替え人形?っていう…おもちゃ?」
「ふうん…。可愛いねぇ。着せ替えって…お洋服を変えられるの?」
「そうそう。作るのが楽しくって、作りすぎちゃった」
こういうお人形を見た事がなかったから、暫くはこっそり作ろうって思ってたのに、こっそりをうっかりどこかに置き忘れて、気付いたら同室のお姉さん達の目に留まるくらい、めちゃくちゃ数が増えてたらしいよ。
な~んて、他人事風に語る。
おかしいなぁ…一期生は少数だったはずのに…いつの間にか、うじゃうじゃ友達が増えてた…。
はい、速攻バレました。迫りくる鼻息荒い裁縫親衛隊!
でも詰問タイムの前に、アリー先生の「甘水の事で、是非ともお話がしたいからすぐにいらっしゃいね。うふふ」な、尋問タイムがあるんだった。
――トントントン
「きゃ~!」
お?なんだなんだ?
お部屋からアリー先生の叫び声が廊下まで聞こえてきたけども!?
これはあれだな…先生の苦手な虫関係に違いない。
日本ではG一匹で大騒ぎだったワタクシも、今や何虫でもむんずと掴めちゃうのだ。
拙者が助太刀いたすでござる!
「アリー先生、入りますね!だ、大丈夫?怪我は?怪我はしてない?」
「大丈夫よ、怪我はしてないわ。悪いのだけれど、雑巾を持ってきてもらえるかしら?」
ワンピースの胸元が黒く染まってしまってるアリー先生。
「ペン先から急にインクが飛び出してきちゃってね…」
だ、だよね…これが虫の仕業だったら、拙者だってちょっと怖いでござるよ。
「わ~、手も酷い事になってる!とりあえず洗ってきたら?」
「そうね…」
「早く行って!お掃除しとくからね」
机やら床やらを拭いたけど、そんなに飛び散らなかったらしくて、あんまり被害がない。
被害は、ほぼほぼアリー先生の服って感じ。あのワンピ…たぶんダメだろうなぁ。
しょんぼりと戻って来たアリー先生のワンピースは、上半身のど真ん中に濃紺のような深緑のような色になったインクがべっとり。滲んでさらに悲惨になっただけだった…スカート部分はなんとか大丈夫そうだけど。
「ベル、ありがとう。あら…床はあんまり汚れなかったのね。良かった…」
「ほとんど掃除するところがなかったよ。でも、ちょっと壁に…拭いてはみたけどね…」
「あとは、私がするからもう良いわよ。本当にありがとうね!さてと…まずは服を着替えてこないと。うーん、これはさすがに隠せないわね。汚れなかった部分は雑巾にでもしてしまいましょう」
「え!なんで!!」
「え?なにが?」
「す、捨てちゃうの?」
「さすがにこれは使えないわよ。凄く古いものだし、諦めるわ」
「じゃぁ…私…貰えないかな?」
「…駄目よ?こんなインクだらけのワンピースを着たりしては」
ここの孤児院は、贅沢は決してしないけど、子供達に清潔でこざっぱりとした服装をさせてるの。
だから、インクの染みが広がったワンピースを着るなど論外!って、アリー先生の言わん事はわかってるけどさぁ…モッタイナイ精神が顔を出す。
「あのさ、試してみたい裁縫品があってね…」
「あぁ…それなら良いかしらねぇ。うん…じゃぁ、持って行っても良いわよ」
裁縫品で数々の地獄を作り出した私。裁縫親衛隊のラスボスと言っても過言ではないアリー先生は、こう言えばきっと許可してくれそうよね~、って思ったら、案の定、お許しを出してくれた。
自分、グッジョブ。
◇◇◇
この異世界でちょいと疑問だった事。
それは女性の服装がワンピースオンリーだって事。
もしくは男装。これは冒険者女性限定。
男装って言うか、パンツスタイルってだけだけど、女性がワンピースしか着ないから、必然的にズボン=男装、という図式になるらしい。
何故だ。何故、ワンピースだけなんだぁぁぁ!
寝巻ももちろんネグリジェ方式。
こういう事があったとしても、女性はワンピースオンリー縛りがあるから…スカートだけにするって事はないのか。雑巾にするって言ってたもんね…この縛りってダレトクよ。
ほんとこれ、謎校則にぶち当たった学生気分。
今回はね、受け入れられるかはわからないけど、ワンピースを解体して…スカートだけ、なーんてものを作ってみようかなって思うんだ。
スカート部分だけで子供用のワンピースができなくもないけど。
…だからワンピースはいらんねん。
まずは、上半身部分をちょきちょき。
切り離してスカート部分にだけしてみる。
ダボっとした形で、上半身にはボタンが付いてて、ボタンを外すとワンピが脱げるタイプ。ウエスト部分は同布で作られた幅のあるベルトリボンのようなもので結ぶスタイル。
アリー先生は小柄だから、リメイクしやすいかも。さて、どうするかな…。
まずはこっそりウェービーメェメェの毛糸を拝借。
ウェービーメェメェの毛糸、今は超大量に孤児院にストックがあるんだもん。ちょっとだけよ~。
髪ゴムはどれもこれも売れ行きが絶好調なんだけどさ、特にあのシンプルな四つ編みの髪ゴムが、めっちゃ売れてるらしいの。
冬の手仕事にもぴったりだし、もれなく手が空いてる子供達には髪ゴム生産人になって貰ってるんだ。
こんなに売れたら…くぅぅっ。ぐふっ。
げふんげふん。話が逸れちゃったわね。
ウエストは是非、ゴムタイプにしてみたい。
だ、誰も見てないし…コソコソやればバレないはず…。
スカートにするつもりだったけど…これさぁ、サルエルパンツっぽくできないかな。
サルエルなら脳内型紙がなくても出来そう。
イメージは完全に描けてるんだ。
なーんて恰好良い事言ったけど、スカートの中心ど真ん中を、逆Uの字にくり抜いて縫い合わせるだけ。
ものは試し!
――ちょきちょきちくちく
あらこれ…すっごく良い感じ。
ウエスト部分はゴム通しを作り、さっき作っておいたウェービーメェメェの毛糸で出来たウエストゴムを通して…。
サルエルパンツ、即完成~!
森に行く時に良いなぁ。
いや、寝巻にしたい…いや、ずっと着ていたい。
ちょっと試着してみよっと…これ、洗い替え用にもう一着欲しいな。
まずはアリー先生に見せに行かなくっちゃね~。
これならインクの染みはどこにもないから、森に着て行っても良いって言ってくれるかもしれない。
いや待てよ…これを見せた瞬間に、『女の子がズボンなんて!』とかなんとか言われて、没収されちゃったり…まさか、しないでしょうね…。
でも頂き物のワンピースだからなぁ、やっぱり御礼に行かねばえばえばぁ~ズボンがないなんてぇぇ~♪
なーんて、鼻歌混じりな軽い気持ちでサルエルパンツをご披露したら…なんだか、とんでもない事態になっちゃうって事を、この時の私はまだ知る由もない…
誤字報告、ありがとうございます!