おばあちゃん…見てるからね…
<ベル!ベル!!>
『パトナ!どうしたの?』
<エルフの…あのおばあちゃんと話がしたいの>
『え?…じゃぁ…通訳しようか?』
<ううん。おばあちゃんの両手を軽く握ってくれればいいよ。今みたいに私に話しかける意識を持っててくれたら、私の言葉が通じるから。おばあちゃんは普通に声に出して喋ってもらえれば大丈夫>
「ベル?ベル…大丈夫かい。やっぱり急にたくさん話しすぎたかね…今日はここらへんでやめて「あ、あの…違うんです…妖精が…パトナって言うんですけど…グリンデルさんとお話したいって…」」
「…なんとまぁ。…しかし、どうやって話すんだい?ベルが通訳してくれるのかい?」
言われたとおりにグリンデルさんの手を握り、パトナに頭の中で話しかけた。
『
「これでいいかな?」
<うん!ベルは頭の中で話しかけても、普通に声に出して話してもどっちでも大丈夫だから>
「わかった」
<もしもーし…聞こえる?私、パトナ。ベルの友達だよ>
「こりゃぁたまげた!聞こえるとも。パトナ、初めまして」
<ねぇ…おばあちゃんの事、信じていいの?>
「おばあ…あぁ、お前さんはベルの事が心配なんだね?」
<ベルは大事な大事な友達なの。ねぇ…信じていいの?>
「もちろんだよ。このグリンデル、神にも…そう…精霊の血にかけても誓おう。ベルが困る事のないように助けてやりたいだけさね」
<ほんと?>
パトナったら…良い子。ポッ。
いやそんな事言ってるバヤイじゃない。
「あぁ本当さ。恐らくだけどね、ベルには古の魔法と言われている、強力な色魔法を持っているのかもしれない。もう誰も使えない…大昔に使われていた魔法だよ。だがね、誰も使えないって事は、誰も教えてやれないのさ。しかも、魔力覚醒したばかりなのに、今はない強力な色魔法を使えてしまってる。…長い事、薬師をやってるからね。他の人よりかは少しだけ助けてやれることがあると思うんだ。このまま一人で抱え込むには、少々危険な事だってのは…わかるかい?」
<うん…>
「怖がらせる訳じゃないが…『無』の魔法はね、その昔、獣人族にばかりでたって言われてる。獣人族は身体能力も優れているだろ?でも大抵は魔力量がもの凄く少ない。その事で…身体が脆い人間族はずっと留飲を下げてきたんだ。そんな中で、強力な『無色』魔法を魔力量関係なく使える獣人を…人間族が排除しようとしたって…聞いたことがあるんだよ。そんな排除対象になったような強い魔法が…ベルは使えるかも知れないんだ」
<うん…>
「だからね。出来るだけ助けてやりたいんだよ。そりゃ、古の魔法に興味がないって言ったら嘘になる。でもね、薬師として、いや一人の…少し長く生きてるばあさんとして、やれることはしてやりたいし、少しでも助けになるなら手を貸したいと思ってるんだ。わかってくれるかい?」
<うん…ベルを傷つけない?>
「なんの保証もないが…信じてほしいね。どうだい?名のある妖精には真偽の目があるっていうじゃないか。よこしまな心があるとわかるだろ?私を視ておくれ」
なにぃ!『真偽の目』って、なんすかそれは…パトナ、そんなもの持ってたの!?
<…もう視たの…だから…わかってるんだ。でも…もし、ベルを悲しませることがあったら…怒るからね。ベルが信じてるから私も信じる。な、何かあったら許さないんだから>
『ちょ…ちょっとパトナ、言いすぎだよ。大丈夫だから、ね。…でも、ありがと。心配してくれて』
<おばあちゃん…見てるからね…>
ぷつんとパトナとの念話が終わった。
「脅されちまったよ…肝が冷えるね…」
「ですね…なんか、すいません…」
びっくりした…あの海外ドラマでやる“お前の事、見てるからな”の、ゆび指しポーズって異世界でもやるのよ。
見た目は可愛い妖精さんなんだけどなぁ…
◇◇◇
気を取り直したように、グリンデルさんがバッグをぽんぽんと叩く。
「一応、魔力ポーションやら体力回復薬なんかもここに揃えてある。もし何かあっても、私は薬師だからね。薬師が出来る最良の事をするって約束するよ。ふふ、おっかないパトナもいるし…」
「ふふ…はい」
「それじゃぁ…その、『鑑定』をしてみてくれるかい?そうだね…このお茶の成分を視ておくれ」
そう言って、グリンデルさんは茶葉の入った瓶を目の前に差し出した。
――ポワワン
***
【鑑定】
ミネラリアの薬師、グリンデルがブレンドした茶葉(乾燥)
成分:ジネヴラ産茶葉・国産麦こがし・国産ソウカイダ草
その他:ソウカイダ草により爽快感、麦こがしにより香ばしくほのかな甘みが感じられるブレンド茶葉
料理:使えるけどさ、そのままお茶として飲んだ方が良いと思うよ/麦こがしでお菓子を作るのはありだね/あ、そっちのポットね、あと一回はお湯足ししても美味しく飲めるよ~
***
「読みあげます。ミネラリアの薬師………美味しく飲めるよ~…以上です」
「驚いた!確かにジネヴラの国の茶葉を使ったさね。その…『料理』って欄は…ちょいと独特だね…。コホン…まぁ、それは置いといて…まずはステータス確認をしてみておくれ。魔力の減りを確認してみて…体力や他の変化もね。気分は悪くないかい?」
「はい、大丈夫。えっと………魔力60/60で…他も変化なしです」
「…ちょっと視させてもらうよ」
グリンデルさんは体力魔力簡易測定魔道具で私の体調を確認し、更に固有スキルの『察知』で体の状態異常がないか視てくれた。
「よし、大丈夫だ。じゃぁ…さっきの話だと、ブレンドの配合率なんかも、ベルが視たいと思ったらわかるって事なのかね…。よし、次はブレンドの配合率を『鑑定』してごらん」
「……おおよそ茶葉60、麦焦がし30、ソウカイダ草10、です」
「そうかい…それじゃ、またステータス確認をして」
「………変化なしです」
「そう…体に変調は?ちょっと視させてもらうよ………うん、大丈夫だね。いやはや、こっちはたまげて腰が抜けそうだ。はぁぁ…まったく何てことだろう…」
「あ、あの…グリンデルさん、正解…してました?」
「正解、大正解だ。そうかい…個別スキルの『鑑定』は、そもそも『無色』のスキルの派生だったんだろう…考えた事もなかったが…。…もう一回、ポットにお湯を入れても良いんだったね」
そう言って、グリンデルさんはお湯を沸かすとポットにお湯を継ぎ足した。
二人して無言でお茶を飲む。
突然、グリンデルさんが膝をバシッと叩いた。
「あぁ、そうだ!色魔法ならステータス画面でわかるじゃないか!!」