いや…ここでダジャレってどうよ…
薬師のグリンデルさんに、マルとのお喋りを聞かれてた事が発端で、色々とお話しする事になっちゃった、ベルこと成留鈴花でございます。
『鑑定』の事だけじゃなくって、パトナの事まで看破されちゃった。
でもさ、マルが信頼してる人だもん、色々と相談するにはうってつけかも。
ここはいっちょ度胸を決めて、色々教えて頂こうかなって思ってる。
<ベル!ベル!!ごめーん。見つかっちゃったよ~>
「わっ!びっくりした!!パトナ?何これ、頭に直接声が聞こえるよ?」
<そうそう、直接ベルに語りかけてるの~。ベルも心の中で話しかけてみて~!>
『うわーお。念話みたーい!…もしもーし。パトナ、聞こえる~?』
<ばっちり聞こえてるよ~。もしもーし、って…なぁに?もしもーし、もしもーし。ごめんね、まさか見つかっちゃうとは思わなくってさ~。話が面白くって…光が強くなっちゃってたのかも~>
『マルが信頼してる師匠だから、きっと悪いようにはならないから大丈夫だよ。私こそ誤魔化せなくって…色々話しちゃってごめんね』
<別に話しても良いよ?それにね、エルフ族は同じ精霊族だから、色々知ってるんじゃないかなぁ。あの人ね、エルフの血がすっごく濃いんだ。見た目は兎人族の老人に寄せてるけどね~>
『へぇぇ…あ、戻ってきた。また後でね』
<はーい>
グリンデルさんが、お茶の道具の他にも何やらたくさん抱えて戻ってきた。
「ちょうどマルがお茶と菓子を用意してくれてたさね。お茶…熱いから気を付けておあがり」
「いただきます」
スーッとする香りと、ほのかに香ばしいお茶の甘みが口の中に広がる。
「スーっとするお茶、とっても美味しいです」
「そうかい?市販のもんと採ってきたもんをブレンドしただけなんだが、スッキリするだろう?あ、お菓子もおあがり。マルがベルにあげるんだって用意してたものなんだ」
丸くって小さい色とりどりの粒。綺麗!
「うわ~、甘くて美味しい!」
「この町で作ってる菓子だ。町でずいぶんと評判らしいよ」
「あとでお礼言わなくっちゃ!すっごく美味しい~」
ちょっと金平糖っぽい感じ。甘み成分万年不足なこの世界で…金平糖…ありがたや~。
色んな果物味の丸い形の金平糖だよ!うんまーぃ!!
見た目もおしゃれ…こういうお菓子がこの世界にもあるんだなぁ…。
「さてと…少しばっかり話を聞かせて欲しいんだよ。その…『鑑定』とやらをね」
「はい。私も急に出てきたから…怖くなってきちゃって。今、院長先生は会議があるって、別の孤児院へ行ってるんです…だからもう一人の先生はすごく忙しいし。特に緊急って訳でもないから、相談しづらくて。それで、マルに話を聞いてもらいたかったの」
「そうだったんだね。もし何かわかったら孤児院の院長にも話をしなきゃなんないけど、じゃぁ…それは了承してもらえるかい?」
「はい。そもそも院長先生に相談しようと思ってたから…」
「そうかい。それじゃ…話を聞かせてもらえるかい?」
私の説明にグリンデルさんの顔色がどんどん青くなる。
うっかり三回も連続で『鑑定』しちゃったあたりで徐々に白くなり…一つも魔力が減ってなかったくだりで、完全に顔から表情が抜け落ちた。
グリンデルさんから、『鑑定』はとても希少価値の高い固有スキルであることや、もし存在を知られたら汚い手を使っても手に入れようとする人が現れるだろうって話を聞いちゃったの。
一日で数回使える人なんていないんだって…。
もし…もしもさ、本当に魔力を一切使わずに『鑑定』が出来ると知られたら…わーわーわー、聞こえなーい。ワタシ ナンニモ キコエナイ。
深くため息を吐いたグリンデルさんが言った。
「勝手に鑑定スキルが出ちまうってのも不安だろう。今日、ちょっと診察するって話にしようと思うんだ。マルが孤児院へ報告に行ってくれてるよ。先日の件での診察って事にしてあるからね…。こっから先の事は書面にしておくから、院長先生が戻ってきたら渡してくれるかい?」
マルが全幅の信頼を置いてる薬師さんなら…私も信頼できる。
お願いするのはやぶさかではないけれど…
「はい。ありがとうございます。あの…でも、私…お金を持ってなくって…」
そうなの、お金がないのよね~。
みんなで採取したりした素材を売って小銭程度のお小遣い稼ぎはしてるけど…そんなんじゃ絶対に足りないよね。
院長先生がギルドで貯蓄してくれてる分は、手元にないし。
「何言ってんだい。こっちが話を聞かせて欲しいってお願いしてるんだよ。いや、下手すりゃこっちが支払わなきゃいけないくらいの話になるかもしれない。本当ならこんなすごい話はないよ。しかも当の本人から聞こうってんだ。薬師冥利に尽きるさね。あぁ、もちろん守秘義務は絶対に守るよ。なんなら話を秘密にするって魔法契約をしてもかまわない」
「いえ、そこまでは…。あの、調べるだけでも、お願いしても良いですか?」
「もちろんさ。それじゃぁ…まず、ベルのステータスを確認させて貰いたいんだがね。かまわないかい?そうかい…じゃぁ、前に見た時と変わりがないか確認してくれるかい?それで変化がなければ読みあげて…字は読めるんだね?」
「はい」
――ポワン
***
ベル(6)
♀ 人間族
体力60/60
魔力60/60
色別
無
職スキル
料理1
裁縫1
***
「変化はありません。読みあげます。ベル・6・女・人間族………料理1・裁縫1、以上です」
「そうかい…ベルは文字は書けるのかい?」
「はい。書けます」
「そう…じゃぁここにね、ベルのステータス画面をそのまま書き写してくれるかい?」
そう言ってグリンデルさんは大きな板書と白灰を渡してくれた。これは黒板とチョークみたいなものよ。
「…こんな感じです」
「………。固有スキルの欄はないんだね?」
「はい。…あれ?」
そう言えば、色別は無しってわざわざ書いてあるのに…変じゃない?
「色別『無』…もしかしたらだけどね…そりゃ『無い』んじゃなくって、『無色』じゃないかと思うんだよ」
「『無色』?あれ…色魔法って確か、青・赤・白・黄・緑の五色じゃ…」
「そう言われているね。ベルは…一週間の曜日はわかるかい?」
「はい。青・赤・白・黄・緑・黒・花です」
「そう。昔はね、色魔法は七色あったんだ。今の五色以外にあと二色。もともとその二色の色魔法が使える者はとても少なかったらしいけどね。しかもね…その二色は人間族には決して出なかったと言われてるんだよ。それで…その二色魔法の強さに畏怖した人間族達によって、いつしか存在自体も秘匿されて…消滅してしまったんだよ。この二色の魔法は古の魔法と言われているんだ」
なんとなんと!
茶を一口飲んでグリンデルさんは話を続ける。
「『花』…変だろ?色でない曜日が一つだけ。この『花』はね、色魔法にも関わらず、全ての属性から切り離された『無色』…『無属性』の事だ。その別名で使われてたんだよ。『無』って否定の意味合いが強いだろ?それで言い方が敬遠されたみたいだね。だからいつしか『花』って言葉で置き換えて呼ぶようになったって話だよ。この大陸の形を現わしてるとも言われてるが…本当のところはもう誰にもわからんだろう…でも、そういう昔語りがあったのは確かさね。」
「先生から『黒』は『闇魔法』って、大昔にあった色魔法の一種じゃないかって、聞いたことがあります。『花』は『無』…。私は…無色の魔法が使えるの?でも魔力もほとんどないのに…」
「色魔法が使えるって事と、魔力の大小は関係ないよ。他の色魔法使いだって、魔力が少なくて扱えない奴も沢山いるさ」
「そっか…そうですよね…」
そう、いくら強い魔法が使えるってステータス画面に出たとしても、魔力量が伴ってなければ使えない。色魔法があったとしても、宝の持ち腐れってやつ。
「でもね。『鑑定』という画面が出ても、魔力が減ってなかったんだろ?…これもまた言い伝えだけどね…『無』の力を持つ者の中には、まれに魔力が『無』関係に魔法が使えた者がいたと言われているんだ…」
「無魔法で無関係…」
いや…ここでダジャレってどうよ…




