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閑話 うっかりとんでもない事を聞いちまったのかもしれない②

 なんだか客足の鈍い日だったし、ベルの状態もちょいと気にかかってたもんだからって、従業員用の休憩スペースで話をしていてもいいよって言ったら、二人は喜んでちょこんと座って話をし始めた。


「薬師見習いになったお祝いを渡したかったの」と言って、背中の…背負い籠かい?ありゃなんだろうね…背負った袋から取り出した物をマルにあげている。

 

 あんな状態からよくもまぁ短期間で、ここまで回復したもんだ…もちろん表面ヅラだけじゃわからないけどね。心ってやつは本当にやっかいだから。

 こうやって仲の良い友達とのんびり語らう時間ってのも、リハビリには良いもんだと思うよ。孤児院の先生の差配には頭が下がるさね。

 

 それにしても本当に仲が良いんだねぇ。まるで姉妹みたいだ。

 微笑ましくってちらちら様子を伺っていたけれど…差し出した小さな袋の真ん中に、マルにそっくりな女の子が刺繍されてるのを見ちまった。

 自分で作ったって言ってるが…あの小さな子が作ったってのかい。信じられないよ。


 ちょっとばかし耳が大きいようだけど、その耳に可愛いリボンをくっつけてね。

 尻尾は…あれはどうやって作ったんだろう…毛糸かね…毛糸に何かして、丸くふわっふわに…ありゃ、どうなってんだい?


 どうにも気になっちまって、「話の途中で悪いね。それはなんだい?」って尻尾を指して聞いたら、「毛糸をグルグル巻きにして作る毛糸ポンポンです」っていうじゃないか。

 よくわからないけど…すごく兎人族のシッポを表現できてるよ。


 そう褒めたら、自分の小物入れからポンポンを取り出して、私にも一つくれたんだけどさ…。マルも持っているらしく、買い物に行ったりする時には髪に付けてるんだって言ってるが、それより何より付いてる紐に目が釘付けになった。


「これ、紐が伸びるね…」

「はい、ウェービーメェメェの毛糸で伸びる髪紐を作って、販売しているんです」

 

 何でも、自分で発明してグーチョキパも取ったらしい。

 孤児院の手仕事で作ったものを、ギルド経由で販売までしてるっていうじゃないか。

「髪紐だけでも使えるし、ポンポンは髪に飾ったり、鞄や靴に着けても可愛いでしょ?」って言って、この伸びる髪紐もいくつもわけてくれたんだがね。

 これ、恐ろしく便利じゃないか…。


 ポンポンも可愛いけれど、私が使うにはちょいと可愛いらしすぎるかね…。

 あ…良い事を思いついちまった。


 お店の入口に薬局ってわかるように、巨大サイズのポーション瓶の置物を置いてるんだけど…瓶の首部分にポンポンを飾ったのさ。

 兎人族の薬局っぽいだろ?


 それを見て、ベルはケタケタと笑って喜んだ。

 そんなところはまだまだ子供って様子なんだけれど、こんなの見た事のないものまで作るなんて…末恐ろしい子だよ…


 ◇◇◇


 溜まった診察記録を処理しながら、話を聞くともなしに聞いてたら、二人で摘んだっていう雑草の話になってさ。

 あの子…ベルはとんでもない相談をマルにし始めた。


 マルの生活を一通り聞いて安心したらしく、ベルが自分の事を話し始めたんだけどね。

 魔力覚醒したは良いけど、魔力量がもの凄く少ないだとか、生活魔法が使えなくてショックだとか…職スキルが『料理』と『裁縫』だったから、いずれはどっちかのスキルを生かせる職場で働きたいんだ、なんて話をしてる。


 やっぱりねぇ。あんなものを作るんだ、裁縫スキルがあるのも納得さね。

 スキルってね、まぁないよりマシかなぁ…くらいの奴から、ベルみたいに小さい頃から才能の塊のような奴まで、ふり幅が凄いんだ。

 だからね、スキルを持ってるからって、それだけで雇い入れたりすると痛い目にあうから、気を付けなくっちゃいけないんだよ。


「…そうなの。うん、摘んだじゃない?あれって無臭だったでしょ?でも揉むとね、すっごいきっつい匂いで…薄めてね……そうそう………乾燥…持ってきた……で匂いが無害…ステータス画面に鑑定って…」

「え?鑑定!?」

「し~!お店だから静かにしないと!!」

「ご、ごめん…。でも、固有スキルの『鑑定』…違う…で…」

「…のよ。…聞いた事ある?」

「うーん。…」

「だよねぇ。初期…遅れ…入学したら基礎…魔法…」

「どうだろ。…院長…アリ…」

「…出張…忙しくて…」

「あー、そうかぁ。」


 なんだって?

 鑑定だ?


「でね。鑑定って…名無し…薬草って…」

「薬草だったの!?他に…」

「効能とか…気にな…毒の…」

「え!それって鑑定スキルじゃない?」

「だってそんなのステータス画面に出てなかったよ?」

「その鑑定って魔力…」

「ううん。それがさ…忘れて、3回…。へへ。だからさ、鑑…」

「鑑定…魔力消費……」

「わかんない…信用…」

…………(ぼそぼそぼそぼそ)

……(ぼそぼそ)


 …つい、聞き耳をたてちまったけど、これはちょいと聞き捨てならないよ。

 私の持つ『察知』だって持つ者は少ないが、『鑑定』スキル持ちはさらに少ないって言われているからね。

 

 どんな職スキルと結びつこうが、知られたら最後、囲い込みたい奴らが押し寄せて…本人の意思なんてお構いなしに、争奪戦になるような固有スキルなんだ。

 

 確か、職スキルは『料理』と『裁縫』って言っていたね…料理と結びついたら毒見役にって王家からの声かけという名の召し抱えって事もあるかもしれない。

 

 裁縫だって、一級品の見極めが出来るとなったら…あの王家は黙ってないだろうね。

 本人が望むなら止めはしないが、もしそうでないとしたら…。


 ともかく不特定多数の人が出入りする店で、こんな話をするなんて論外さね。

 急いでお店の外に出て、ドアに『本日終了』の札をかけた。


 店の販売カウンターにいた従業員の子たちに「今日はもうしまいにするよ。片づけたらあとは自由におし」って、言ってやった。

 皆、喜んでまくりの作業に没頭し始めたよ。


 …誰もあの二人の話を聞いてた様子はないようでホッとする。

 まぁ、そもそもあっちのカウンターからじゃ聞こえないだろうがね。


 マルにも「折角のお喋りなのに悪いけど…。少しベルと話がしたいから…あっちで少しだけ…良いかい?」と、断わってからベルを裏口から連れ出した。

 マルは驚いたような顔をしながらも、聡い子だからね…勘づいたようで、何も言わずにベルに大きく肯いて、ついて行くようにと促してくれた。


 …変なところへ連れ出そうってんじゃないよ。店の裏手に行くだけさ。

 町中だが小さな薬草園を持ってるからね。作業小屋もあるから、そこで話を聞かせてもらいたいって言ったんだ。


「ベル、悪かったね。せっかく楽しくお喋りしてたのに。あんたたちの話が聞こえちまって…正直に言うとかなり聞いちまった。でね…ちょいと気になったもんだから。いくつか確認させてくれないかい?」

「はい。なんでしょう?もしかして鑑定もどきの…」

「そうだね。まぁ、それもあるけど…まずはさ…その肩にある光…それには気付いているのかい?」


 私に気づかれたと驚いたような顔をしている。こりゃ気付いてるんだろう。


「は…い…。その…実は…」

「ふん…。それが何だかもわかってるんだね。いや、私には外でしか見えなかったんだ。それもうっすらとだ。こりゃ…妖精だね?」

「…はい。色々あって…一緒に行動してます。他の人には見えないようにするって言ってたから…」

「そうかね。…でもね、私は少しだけエルフ族っていう精霊族の血が入ってるんだ。だから見えちまったのかも知れないが…エルフってわかるかい?」

「読み本で読んだことがあります。精霊種族の魂を持っているって。エルフやドワーフは人族にも見る事ができて…中には人族と交流を深めて生きる者もいると書いてありました」

「そうだね…。私にも少しだけ精霊の血が入っているから、その光が見えたんだと思う。不思議なもんで、見た瞬間に『妖精だ』って、わかっちまったさねぇ…」


 長く生きているが、妖精の光なんて拝んだことがないよ。

 クー・シーだというあの子…アギーラの件にしろ、妖精の光と一緒にいるベルにしろ…これは何かの先触れ…なのかい…?


「何というか…自由奔放って感じで、まだ子供みたいなんです。姿も消せるから、一緒にずっと居るんだって…あの…一緒にいないほうが良いんでしょうか…」

「ほぅ…ベルには声も聞こえているんだね。妖精は…とても自由な存在なんだよ。一緒に居てくれるって言うなら居たらいいさ。好きにさせておやりよ。エルフやドワーフなんかの精霊種族に会わなきゃ見えもしないだろうし。それにね、よほど気を付けてベルを見ていないと見えないはずだ。私もお天道様の下でほんの一瞬、見えただけさね。今は全く見えないから、基本的には大丈夫だと思うよ。…今もいるんだろう?」

「…はい」

「あぁ、この町だと…南側の端っこで鍛冶の店をやってるドワーフの爺さんがいる。修行している若いのもいたはずだ。まぁあいつらなら心配いらないよ。あと、東の方にも見える奴がいるかもしれないけれど…悪い奴じゃなさそうだが…」


 孤児院で生活しているなら、学校も敷地内だろうしね…外で出会う確率も低いだろう。

 恐らく相当じっくり見ないとわからないだろうからね…もし誰かに何か言われたり、困った事があったら、私が間に入るから訪ねてくるようにとだけ伝えておいた。


「今日は…時間は大丈夫かい?」

「はい。私が…その…色々あって…気分が塞いでるんじゃないかって、先生が心配してくれて…特別に仲良しのマルと、ゆっくり過ごせるようにって、丸一日の外出許可をくれたから。マルが孤児院まで送ってくれるなら、時間は遅くなっても平気です」

「そうかい。じゃぁ、もう少し話をしてもかまわないね。どれ、お茶でも持ってこよう」


 微笑ましい二人のお喋りについつい聞き耳たてちまったが…こりゃ、うっかりとんでもない事を聞いちまったのかもしれない。

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