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わかってるってば…

 ラナが木から落ちた一件から、みんながやけに優しいんだ…ラナにじゃなくって私に。

 心の問題はポーションでも治らないからって、薬師さんが様子を気にかけて見守るようにと、釘をさして帰ったらしい。


 だから、思いっきり甘やかしてくれちゃって…マルのお仕事が休みの日に合わせて、外出許可をくれたの。

 院長先生もすんごく心配しながら、他の孤児院へと出張に行きました…そんな顔をされたら罪悪感が増すってば…。

 でも、マルとゆっくり話が出来るなんて嬉しいから、もちろん許可はちゃっかり頂いたけどね。


 マルと会う為の外出許可だよ。

 そう、私に薬草摘みの楽しさを教えてくれた大好きなお姉さんのマルは、少し前に孤児院を卒業してしまっていたのです。


 マルが職業訓練期間でお世話になってる…ラナの事故の時に診察しに来てくれた…薬師さんが営む薬局は、とっても厳しいけど、とっても良い職場らしいよ。

 随分前から孤児院卒業後も、そのまま薬師見習いとして面倒を見てくれる事が決まってたらしく、そのまま住込みで働くことになったんだ。


 見習いだけど、きちんとお休みも貰えるんだって。

 しっかり『お休み』って言って、休日をもらえる見習いって少ないらしいから…思いっきりホワイト企業なんだ。


 見習い期間が終われば、マルが専門としたい分野の薬草研究も自由にさせて貰えるって、張り切ってる。

 師匠がとにかく熟練の薬師だし膨大な知識量を誇っているらしく、毎日がすごく勉強になるって嬉しそうだったな。

 

 そうそう、師匠は同じ兎人族らしくってね。出入りの業者さん達に「お孫さんかい?」って、よく聞かれてるらしいよ。師匠が真面目な顔で「そうだよ。手を出すんじゃないよ」ってその度に言うもんだから、笑っちゃうって言ってた。


 販売やら受付やらのお手伝いをしてくれている従業員さんとも、職業訓練期間中にずいぶんと仲良くなったらしいし、上司や同僚さんとの対人関係も大丈夫そう。

 良い職場に恵まれて良かったね~!


 そう言えばさ、みんなには内緒ねって言ってたけど、マルは奨学金のようなものを貰えるらしいの。

『薬師』っていうさ、この世界では高位職スキルを持ってるからなんだけどね。


 そういう子供にはお金で苦労しないで、そのスキルをいかして生きて行けるようにって、孤児院独自の資金給付貸与制度があるんだって。

 見習いだからって酷い給金でこき使って、使い捨てみたいな事をしようとする人達がいたらしくて…見習い期間のあいだの生活の助けになればって事で始まったらしい。高スキルであればあるほど、見習い期間も長くなるから、ありがたい制度だよね。

 なんとこれ、あのトイレ紙準男爵が考案したらしいよ。やること手広いわ~。


 マルには5年も補助してくれて、その後10年返済で、利子無しの2割返しだって。太っ腹~!

 早く返せたらその分、返済額がさらに減る仕組みもあるんだってさ。よっ、太っ腹~!!

 マルがトイレ紙準男爵の事を尊敬するのもわかるよね。


 最大期間援助して貰えるって言ってたから、マルの努力と才能で勝ち取った事でもあるんだけど、就職先の薬局は凄く良心的で、修行中でもきちんとお給金を払ってくれるらしいんだ。

 後ろ盾がない分の保険として少し貯蓄をした後は、期間短縮も考えてるらしい。

 貰っときゃいいのに、マルったら無欲なんだから。


 …はいはい、わかってるって。そういう人格者だから、制度の対象になるんでしょ。わかってるってば…


 ◇◇◇


 みんなよりかなり遅かったけど、私も無事に魔力が覚醒して一安心。

 それは良かったんだけど、孤児院の同い年の子たちが一斉に通うはずだった、初期学校の一年目前期の時期を逃しちゃったんだよね…。


 院長先生とアリー先生に相談して、後期時期から入学して、前後期分を同時履修するって事で話がついてるんだ。


 「できるだけ年長の時間を個人の能力を伸ばすことに使いたい」って相談したら、二人ともベルならば大丈夫って太鼓判を押してくれたの。

 だから入学したら半年間は週5日通う事になるんだ。


 まぁ、読み書きはほぼマスターしてしまったし、計算は…で、できるわよ。

 算数よ。四則演算よ。

 だ、大丈夫よ。あ、何よ…その信じてなさそうな感じは…。

 主に魔力操作と魔法の基礎訓練をガッツリやるの!…計算は大丈夫なんだからね!!


 冗談(?)は、さておき…読み書き計算に関してはアリー先生のお墨付きを貰えてるから、前後期の同時履修OKって事になったんだけどさ。

 魔法魔力系は前期で基本を学び、後期は個人授業や先生の見守りつきの復習時間になるらしいから、前後期を同時に受けても大丈夫なんだって。

 

 生活魔法や魔力を消費するスキルがなかった私は、基礎訓練と魔道具のスイッチオン的な練習だけだろうから…すぐに終わりそうなのよね…別に、いいけど…。

 料理や裁縫スキルには魔力は必要ないし、そもそも魔力がほとんどなかったから仕方がないけどね。

 

 でも稀に、大人になって急に魔力が増える人もいるからって、どんなに魔力が少なくても基礎訓練は授業に組み込まれてるんだってさ。


 だからね、身元がきちんと保証されてる大人であれば、初期学校の授業って聴講しても良いらしいのよ。

 子供の時には魔力がなくて、基礎訓練の授業を適当に受け流してた人が、大人になって急に魔力が増えちゃって、焦って参加するって事もよくあるらしいの。


 あと、読み書き計算一般マナーなんかがイマイチな大人が、社会にもまれて学び直したいって思うらしくて、そういう人たちが時折顔を出すらしい。

 小学校というより、公開講座っぽいのかも。


 とにかくさ、初期学校が始まるまではヒマなんだ…。

 仲良しのマルも卒業していなくなっちゃったし、皆は学校へ通ってる。

 その上、お手伝いもちょっとお休みなんだ。

 心と体を休めなさいだって…つまんないの。


 アギーラにはなかなか会えないしなー。

 孤児院に来る理由って、なかなかないもんねぇ。

 それにアギーラだって修行の真っ只中なんだから、自由になる時間も少ないだろうし。


 必然的に一人遊びが多くなっちゃった。


 ◇◇◇


 そこで本日、何をして遊ぶかと言いますと…マルと一緒に摘んだ花、覚えてる?

 そうそう、濃い紫の雑草ね。


 摘んだ時は無臭だなって思ってたけど、なんと花を揉むと物凄い強烈な匂いがする事に気付いてしまったからさ。ちょっと気になってたんだよね~。

 茎とか葉っぱは匂わないから、摘んだ時にはまったく気付かなかったのよ。


 たぶんこれだけを一瞬嗅ぐと「クサッ」って思う人続出だと思う。

 でもさ~すっごく強烈なんだけど、何だかどこかで嗅いだことがあるような…って思って、薄めて匂いを嗅ぐことを思いついたの。って言っても、桶に水を入れて花を揉んだ自分の手をつけてみただけだけど。


 そしたらね、ラベンダーみたいな香りがしたの!

 なんていうか…草感が強いっていうのか…もっと野性味が強い感じ。花を揉んだ時はそっちの匂いが前面に出てた感じなんだけど。

 とにかくさ、薄めるとすっごく良い香りなのよ。


 マルが無害な花って言ってたけど、どうだろう。

 害がないなら何かに使いたいな…。

 花を一つ揉んで、その手を桶につけただけで、こんなに香りがつくんだもん。

 どのくらい香りが持続するか、実験しちゃおっかなって思ってさ。


 あ、アロマオイルの抽出方法なぞはもちろん知らんから。

 そんなおしゃれな生活とは無縁だった私に聞かないでよ。

 なんか…蒸留するんだと思う。知らんけど。

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