スローライフwithモフモフ資金計画。
この世界、この体には、そんなに長くは居られないんだと思ってたんだけど…。
異世界より勝手にこの体を乗っ取った挙句、とうとう正式にこの体の主となってしまったらしい。
そして、ベルちゃん…いや、パトナちゃんは、人間族になってみたいと願った小さな妖精さんだった…という衝撃の事実。
あの…最期のお別れって、シリアスな雰囲気で天に還るくだり…あれ、ちょっと…なかったことにしたい。
天に召されるって意味の『還る』だと思ったら、妖精女王様の所に一旦『帰る』だけだったって言うね…。
うそーん。
なんか…思い返すとすっごく恥ずかしくなってきた…。
あれは無かったことにしよう…。
アギーラも妖精だって言ってたけど、見た目が人族まんまだから…あんまり意識してなかったもんで、『ザ・妖精』みたいな容姿の、ふよふよ飛んでる小さいパトナちゃんを見てると、本当に妖精さんっているんだなって思っちゃう。
アギーラ…なんかごめん。
いつかはお返しするはずだと思っていたこの体は、現在私のワンオペになっちゃったのよ。
精霊族の妖精様じゃぁ、『こんなもん、返していらん!』って感じだよね…。
人間、めっちゃ弱いってディスってたもん。
お父さん、お母さん…会えるのは何だかもう少し先になりそうだよ。
でもね、ここに来られたから、いつかは会えるって思えるようになったから…もう寂しくない。
急に死んじゃって…バイバイも言えなくって、ずっと寂しかった。
だけど、もう大丈夫。
また絶対に会える。
その時まで待っててね!
ちょっとしんみりしちゃってたら、パトナちゃんがなにやら横で、やいのやいのと言い出した。
ラナやジルを呼び捨てにしてるのを聞いて、パトナちゃんが自分のことも『ちゃん』付けをやめろって、迫ってくる…。
<友達はみんな呼び捨てなの~>だって。
そういう訳でもないと思うけど…。
パトナちゃ…パトナはまだ幼い妖精さんみたいで、話が時々わからない…でも可愛いから許す!
色々聞いても<わかんな~い>、<知らな~い>って、能天気な声が返ってくることも多々…可愛いから許す!!
それはぁ~異世界だからぁ~♪で、済まされる私の理解の許容範囲はとっくに超えてるけど、現に私の横で淡い光をまとい、ふよふよと飛び回って遊ぶパトナを見てると、これは夢ではないのだと、何十回も思って、何十回も…チラ見。
はぁぁ…妖精って、本当にいるんだなぁ~。
あ、アギーラ…なんかごめん。
パトナちゃんって自分で名付けといて、未だにベルちゃんって言いそうになるけどさ…妖精ベルって…間違えないようにしたほうが良いのかも…権利とか色々…うん、大丈夫なのかもしれないけど、うん…うん…
◇◇◇
まず、私が考えなければいけない事。
それは今後、この体で人生を全うする可能性が高くなった今、今後をどう生きていくかという事。
ちょっと私の体の成分がどうなってるのかって、気にはなるけど…ステータス画面に『人間族』って出てたから、それを信じるしかない。いや、信じたい。
これは…考えても埒があかないし、今は考えない事にした。
だってさ、私の脳みそで解明できると思う?
…。
ですよね~。
アギーラみたいに異世界転移する可能性もある訳で、またどこかの世界へ行く事もあるのかもしれないけど、その可能性まで考えてたらキリがないから、その事も考えない。
今、考えるべきこと。
それは、この世界でどうしたいか、どう動くべきかって事。
正直さ、数年でおさらばだって思ってたんで…自分がどうしたいこうしたいって、全く考えてなかったのよね…。
ここは魔獣が闊歩する世界。
しかも普通に会社員してれば、なんとなく生きていけるんじゃないかなんていう日本でのノープラン人生展開は、この世界では通用しない。
しかも孤児だから、後ろ盾もない。
今からしっかり人生設計を考えて行動しないと、リアルに詰む。
ギルドやグー舎に、そこはかとなく企業臭を嗅ぎ取ってはいるけれど、そこに事務職として所属するってのは、かなり狭き門っぽい気がする。
ちょいと、いや、かなり敷居が高いイメージ。
あ、あと、もちろん貴族とやらに絡む展開も絶対にパスよ。
もしも異世界の知識なんぞに目をつけられて、塔に幽閉とかされたりしたら嫌じゃん。
なんか噂によると、ろくでもない輩もいるらしいしさ。
だから、これは決まりよ!
お屋敷勤めはノーサンキュー!!
ありがたい事にスキルは料理と裁縫を貰えたから、これをベースに考えるのが妥当だろうなぁ。
まずはどちらかに関わる職業につけるように努力するべきよね。
正直な所、使い勝手が良いというか…贅沢を言わなければ、どこでも仕事にありつけるスキルだと思う。
庶民生活をつつがなく送る上では、すっごいありがたいスキルなんだよ?それが二つも!
これは孤児院に居られる間に、出来る限り研鑽を積まないとね。
あとさ、リタイアの見通しが立ったら…のんびり暮らしたいなって思う。
他人との軋轢とか無縁な心穏やかな生活…。
上流階級は知らないけど、庶民には定年とか年金とかがある訳じゃないから、この世界は誰もがリタイアの時期を自分で決めるんだよね。
ちゃんと永続的な資金のアテがあれば、もちろんこの世界でだって早期リタイアが可能。
一時期、私の周りでも話題になってたけど…FIREとかさ。
経済的自立ありきで早期リタイアってやつ。
異世界でもう一度、10代20代と過ごすなら、FIREを目標に頑張るのも良いよね。
ほら、あれよあれ、私はスローライフってやつがしたいのよ。
お芋ちゃんのおかげで資産は貯まる一方だから、これはその為の資金にしようかなって思ったの。
スローライフ資金計画。
なんか胡散臭い投資の勧誘っぽい…。
スローライフwithモフモフ資金計画。
おっ、一気におバカっぽくなった…。
本来の体の持ち主である本当のベルちゃんに、全部残してあげたかったからさ、一銭も使ってないんだよ。もちろん、裁縫品やレシピ冊子のグーチョキパからの利益も、なーんにも手を付けてない。
今も奇数月に一つ、繭がベッドに置いてあるんだもん…お金は貯まる一方なの。
いつまで戴けるのかは知らないけど、こうなったら貰える分はありがたく頂戴し続けようね…。
スローライフwithモフモフ資金計画、始動!
◇◇◇
料理と裁縫のスキルは貰えたけど、生活魔法がなかったのはすっごく残念。
そりゃぁ魔力量が少なすぎて、スキルを貰ってもあんまり使えなかったかもしれないけどさ…。
庶民が使える唯一の魔法とも言えなくもない、生活魔法が使えないなんて。ぶちぶち。
異世界の醍醐味が味わえないじゃないか…。
でも、料理も裁縫も魔力のいらないスキルだから、そこは良かったと思ってるんだ。
この魔力量で錬金術スキルとかもらっても、一ミリも使えないだろうからね。
そう言えばさ、スキルが包丁と針関係って…やっぱり『刺されて』転生したって事が、絡んでるのかなぁ…前世の因果的なやつで。
別に、だからってトラウマ抱えるって事はないから大丈夫よ?
でもまぁ、久々に思い出しちゃったわ。もう顔も思い出せないけど、全ての元凶カズヒコの事とかね…あ、なんかまた腹立ってきた…
◇◇◇
私が寝込んでいる間にラナの足はとっくに治ってしまって、普段通りに木登りを再開しているという現実。っていうか、翌日には普通に生活してたらしいよ…なんと逞しい奴…。
そのせいか、事故の経緯聞き取り調査も少ーし、おざなり。
なんせ、すでに本人がケロっとしてるんだから。
私も私で、院長先生に事故の経緯を話してて、木の高さがお互い全く違うイメージなんだとわかったけど、そのままにしておいた。
『実は妖精さんが助けてくれて、すっごく高い所からラナは落ちたけど、不思議な事に体が空中で浮いて、ゆっくり落ちてきてくれたから無事でした。あはは』
…んなこたぁ、言えるかーーーーぃ!
違うお薬盛られそう。
妖精云々の話は聞くけど、ちょっとしたいたずらとか、ちょっとした不思議話とかだもん。
これはなんか違うと思う。黙ってるのが吉。
そんな訳で、私はラナが木から落ちたという真実に、20m程の高低差虚偽報告をして事なきを得たのでした…。
嘘をつく時はね、真実に上手く混ぜ込む事が大事なの。
院長先生は、私の魔力覚醒のシチュエーションに心配をしている。
魔力覚醒が他の子どもより凄く遅くなっていた上に、友達が目の前で木から落ちて気を失ったなんていう、強度の精神的ダメージを受けたと同時に魔力覚醒してしまったからって…。
別に嘘をついてる訳じゃないけど…申し訳ない気持ちになってくる。
魔力覚醒なんて…どうって事なかった、なんて…言えない…。
精神的に落ち着いてきた私に安心した後は、スキルの話になったんだけど、料理と裁縫スキルの事はとっても喜んでくれたんだ。
「絶対どっちかがあると思ってたんだ!まさか両方あるなんて、凄い事なんだよ」って、嬉しそうに言ってくれた。
スローライフwithモフモフを目指して、若いうちはちゃーんと働かなきゃね。
それにしてもさ、今回の事で改めて思ったのよ、院長先生はめっちゃ良い人だって。
普段感じさせない獰猛熊感は凄かったし、熊さんの全力疾走はとんでもなく怖かったけど。
ラナの事も、私の事も…子供第一主義がにじみ出てたもん。
この異世界で信用できる人間を増やす事。これも、大事。