パトナ
<えへへ、遊びに来ちゃった~!>
…へ?
<ベル~…あれ…ちゃんと見えてないのかな…>
なななな何で…何で私の名前を知ってるの!?
え?何?なんで?
<ねぇねぇ、私の事、見えてる?ちゃんと聞こえてる~?>
「半透明で光ってるけど…女の子…み、見え…る…よ?聞こえてる…し?あの…一体どちら様で…?」
<ひどいな~ベルだよ~。一緒の体に居たべ・ル!あ、そうか!!姿が変わっちゃったから、わかんないよね。ごめんごめ~ん>
「ベ、ベルちゃん!?本当にベルちゃんなの?」
<そうそう。あれ?…ベルちゃんってのはどうなんだろ?それ、もう私の名前じゃなかったや>
ん?あれ?んん??あれあれ??
…ちょっと待て、ぜんっぜん意味がわからん。
「あの、あのさ…て、天に還るって…し、死んじゃったんじゃなかったの?」
<勝手に殺さないでよ!ちゃんと帰れたよ~!今までさ、めっちゃ妖精女王様に怒られてたんだから。ずーーっと人間族になってみたいってお願いしてさ~、やーーーっと人間族の体に入らせて貰ったのに、一年で死んじゃったからさ。『人間族にするの、すっごい大変だったのに、アンタなにすぐ死んでんのよ!めっ!!』って…。妖精女王様ったらプリップリに怒っちゃってさ~!!>
「ご…ごめん、話についていけない…べ、ベルちゃんって…妖精だったの?」
<そうそう~妖精妖精~。って、だからベルじゃないの!ベルは私じゃなくって、スズカの事でしょ?人間族の体がこんなに弱っちいなんて知らなかったんだもん。それなのにさ、妖精女王様ったら、すっご~い怒っちゃってね。ずーっと反省させられてたんだよ!ひどいでしょ~?>
「…天に還ったんじゃなくって…ただ帰った…って事?」
<うん?妖精の国に帰ったよ~。転んじゃった時に不味いと思って、すぐに抜け出して帰ろうとしたんだけど、なんかね…身体から出られなくなっちゃったの。気が付いたら、真っ暗い所に閉じ込められちゃってたんだよね~>
「そ、そうなんだ…」
<それでね…どんどん体もちっちゃくなっちゃってさ、妖精魂?ってのだけになっちゃったの。でも、ベルが何年もずっと話しかけてくれてたでしょ?だから存在意義が残って生き残れたんだろうって、妖精女王様が言ってた~。とにかく、全部ベルのおかげなの~。ありがとう~>
「…ベルちゃんの天に還るってさ…し、死んだんじゃないんだね?」
<だ・か・ら、『かえるだけ』だって、言ったじゃん>
「う…確かに……そう言ってた…けど…ね…うん…」
<ちゃんと言ったもーん。でもさぁ、ベルが話しかけてくれなかったら、とーっくに消滅してたんだよ。ほら、外に出られた時も、ほとんど喋る事ができなかったでしょ?かなり危なかったって、妖精女王様が言ってた~。ベルは命の恩人なんだって~。だからね、お小言が終わって、すぐに会いに来ちゃったんだ!って、も~!ちがーう!!私はベルちゃんじゃないんだってば~>
おぉぅ…妖精のノリツッコミ…。
「じゃぁさ…なんて呼べばいいの?」
<呼び方?うーん…名前はないんだよ>
「え?名前がないの?」
<うん、ないの。…そうだ!ベルがつけてくれる?>
「私?」
<そう!『お友達が出来たら、もしかしたら名前を貰えるかもしれないわよ』って、妖精女王様が言ってた~>
「友達…私がつけちゃって良いものじゃない気がする…」
<良いから良いから~。だって友達だよ~。友達以上かもよ~。色々知ってるよ~。色々~。ぐふふ。ね~ね~お願~い>
あれ…なんかちょっと脅された感じがするんですけど。
色々知ってるって…嫌な言い方しないで欲しい…。
名前かぁ…。
私が付けちゃって良いのかなぁ。
ベルちゃんは私の…相方?…なんか漫才っぽい。
相棒?…なんかドラマっぽい。
うーん…バディ?いやもう、ずーっと心のパートナー…
「じゃぁさ………パトナ…って…どうかな…」
ブワっとベルちゃんの身体がさらに強い光を帯びる。
その光が私の方へ一筋、するすると向かってきた。
ふと自分を見ると、左手の小指にその光の筋が結ばれていた。
ひぃぃ…マズい!小指が…小指、持ってかれるー!!
急いでその光を外そうとしたけれども間に合わず…光は私の小指にそのまま吸収されて消えてしまった。
ぬわっ!間に合わなかった―――!!
どうしよう…小指、持っていかれはしなかったけど、なんか…光が…小指に入っていっちゃった…。
ベルちゃんを見やると、半透明だった体がしっかりと肉体を持ち、色づいていくのがわかる。
<わ~!凄いっ凄いよっ!ベル、ありがと~!!>
「ど、どう…いたしまして…?」
<わ~!体がはっきり見える!>
「よ、良かったね…?良かった…の??」
<うん!ありがと!!パトナ、これでずーっとベルのそばに居られるの~>
えっと…名前って、すんなり受け入れちゃった感じ?
それに、『ずっと』って…私の傍でこんな目立つ子が浮いてたら、とってもマズい気がするんだけど…
「そ、そうなの?でもこんなに小さい妖精さんなんて、誰も見たことないだろうし…みんなに見つかったら、お、驚いちゃうかなぁ~なんて…」
<大丈夫大丈夫~。姿なんていくらでも消せるから。命の恩人だからさ~、ずーっと一緒にいるの~>
「命の…恩人…。私、私さ、ベルちゃ…パトナちゃんの事、体から追い出して…殺しちゃったんだって思ってて…」
<逆だよ~、ベルがずっとずっと長い間、パトナの事を生かしてくれてたんだから~>
私、ベルちゃんの事、追い出したりした訳じゃなかったんだ…。
そっか…そっかぁ…私、ベルちゃんの事、殺したりしてなかったんだ…そっかぁ…。
<…なんで泣いてるの?…悲しい?>
「違うの。すっごく嬉しくって泣いてるの!」
<じゃぁねぇ、たくさん泣いても良いよ!わわわ、凄い凄い!どんどん力がモリモリする~!ふぁぁ…名前って凄いねぇ~>
「ずびっ…なんか…よくわかんないけど、パトナちゃんが喜んでくれて嬉しいよ…」
ひとしきり泣いたり笑ったりした後、パトナちゃんにさっきの小指に消えた光の話をする。
パトナちゃんは<お友達の証だよ~>って言うんだけど…なんすかそれ。
まぁ、いっか…。
いや、だめか…もう…よーわからん…




