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CASE 9 オービタルミッション

宇宙での冒険です! 怪獣も出ますっ。

宇宙、それは凍てつく海。銀河を満たすその母なる暗黒の中、俺は地球の衛星軌道上を一筋の光となって加速していたっ!

「スズキぃ、そっち行ったよぉ」

「スズキさんっ」

「ふぅおおーーっ!!」

俺はコスモアーマーを操り、装備したマシンガンで感電弾を乱射し、モルケルアピー亜種豪腕型を沈黙させたっ。

モルケルアピー亜種豪腕型はモルケルアピー亜種の中でも腕部が発達した系統だ。ここでいう亜種とは地球系という意味で、本来モルケルアピーはモルケル星系に属するエーテル飛翔型有翼種であり、それがトトンチャ線等の変質によりアピー化し、モルケルアピーと進化し、その一部がおよそ1万4千年前の光子爆発乱流の際に発生した『宇宙オヨヨ』の干渉により西銀河方面に進出し、旧ロスカ朝系ン・ホ辺境伯爵が私的に建造した多重フォトンブラッド光炉に引き寄せられ、第一時接触交戦が勃発。当時の西部0257コスモジャーナル記者ガオンッ氏は「まさにトトンチャの福音である」と記事を出し、これに宗教扇動ではないか? という疑惑が・・って、設定多いっ! 全然解説が地球にたどり着かないよっ?!

とにかくっ、俺は地球の衛星軌道上でコスモアーマーに乗り、モルケル何とかとかいう真空の宇宙空間を『羽ばたいて』飛び回るふざけた宇宙生物を狩りまくっていたっ!

と、死角から別の機体が俺に向かって感電弾を撃ってきたっ。

「うおっ?!」

慌ててスラスターを吹いて回避する。

「ニャハハーっ! 避けるの上手いじゃん地球人っ」

「完全同意っ! ヒヒっ」

カメラで確認するとニッカーとケッムーの機体だっ。

北海道の蜂小人型文明調査官達っ! 俺は今、小さなマイクロクローン体でフィレオレ・プレプレ星人達の機体に乗っているからヤツらの小さな弾丸も十分脅威だった。

「PK行為禁止だぞっ?!」

「そうですっ、許しませんよっ!」

同じくマイクロクローン体で小さな機体に乗ったタナカさん機が割って入ってマシンガンを正確に撃ったが、ニッカーとケッムーの機体はバリアを張って防いだっ。

「あっ?! 何かズルいですっ」

「ズルくないよっ、こっちは2人チームだもんね。2ランク上の機体さっ!」

「稼ごうと思って参加人数多くして機体デチューンされるなんてダッサ~っ」

「欲深自業自得だわ~」

「PK禁止とPK可能は似て非なりますぅ」

機体をおどけた風に操作して俺達を挑発しまくるニッカーとケッムーっ! くっそぉ~っ。

「スズキ、タナカ、あいつらおちょけてるだけだから無視していいよぉ? 乱戦してるとこに入れば手が出せなくなるからぁ。ルート取るからそっち行きなぁ」

アモチーからの通信。彼女は『チート』と認定され狩りへの参加を認められずオペレーターとしてフォローするのみ、だった。

「了解。行こうタナカさん」

「はい、スモーク撃っときますっ」

タナカさんはイキり散らしているニッカー達にスモーク弾を撃ち込んだっ。白いガスで覆われるニッカー機とケッムー機っ!

「うわぁっ?!」

「卑怯だぞっ」

「ちょっ? ケッムー撃つな危なっ、危っ、危っ」

「ニッカーどこっ?!」

混乱するニッカー達。俺達はその隙に、アモチーが示したルートで軌道上のデブリを越えていった。

「ハァ、厄介だ」

ことの始まりは数時間前に遡る・・



俺は夕方、電車で東京からS県に帰っていた。会社を綺麗さっぱり辞め、9月に入ってから東京の製パン教室に通っている。

3ヶ月間の短期集中講習の製パン学校は10月からだが、そこは経験者向けのハードな所だったから先に系列の教室で基礎を学んでおく必要があった。

趣味のカルチャー教室ではないので基礎だけでも帰る頃には腰、肩、腕がパンパンになってしまい、車で安全に帰る自信がなかったので電車通学をしていた。

特別パン好きでもパン屋に憧れがあったワケでもなかったが、サトウさんが好きだったような美味しい餡パンと市販のフルーツ牛乳を提供するような気軽な店をやってみたかった。これも1つの『起業』だし。

今は単純に身体を動かすのが好ましかった、というのもある。動機としては甘いが、他に強い衝動を感じる道が俺には特になかった。

電車は途中までは学生が多かったが、快速急行が駅を飛ばしてグングン速度を上げ出す頃には空いてきて、車両に俺以外には数名しかいなくなった。

イヤホン付けてスマホでゲームやってるらしい若いサラリーマン。居眠りしている品の良いカーディガンを着た老婦人。閉じた車窓に後頭部を預けて爆睡している40代くらいの作業着の男。ワイヤレスのヘッドフォンを付けてずっと自分の爪を見ている若い女・・。それくらいかな。

「時にスズキよ」

「おっ?」

俺の座ってる座席の右隣にSFスーツを着たゴラエモンがいた。

「一狩り行っとく?」

「っ!」

左隣にはジュエスがいた。テレポートだな。随分大っぴらに現れた。また『バイト』の誘いか。

俺は今、実技主体の教室に通っていて、怪我できない。それに早期退職扱いで退職金も結構出たし、一般ではなく特定として失業保険もすぐ出ることになった。

これまでの来訪者関連のバイト代もまだ使い切ってないくらいだ。

まぁこれから色々入り用だから資金はあるに越したことはないんだけど。今回は断ろう。

「いや・・どぉっ?!」

言い掛けた側から2人に念力で持ち上げられ、一緒に俺の部屋の玄関にテレポートされたっ。

「っ? って、オイっ! 強引っ。電車のカメラに撮られてないか?」

「ハッキング済み」

「容易いことよ」

念力を解かれ、三和土に降ろされた。

「たくっ、家まで時短はできたけど・・」

「スズキさーんっ」

「っ?!」

既にSFスーツを着たフィレオレ・プレプレ星人達と同じサイズのタナカさんがリビングの方からとてとてと手を振りながら駆けてきた。

「タナカさんっ? マイクロクローン体作ってたんですか?!」

「いやぁ、知らなかったんですけどいつの間にか」

「・・君ら勝手にクローン作るのどうなの?」

「リスクを鑑みればむしろ最善手だ」

「本体が生きてりゃ何とかなるしね」

「勝手だなぁ」

「スズキさん、でも今回は宇宙ですよっ? 普通お金持ちか宇宙飛行士じゃないと行けない、宇宙ですよっ?!」

「宇宙?」

「今回派手だよ?」

「手当てもよしっ、タナカもゆく! 他のメンバーは既に『現地』で準備している。どうする? スズキよ?」

「うーん」

俺はワクワク顔でこちらを見上げている小さなタナカさんを見て、ため息を吐いた。

「先にタナカさん口説くの、ズルいぞ?」

断り切れなかった・・。



本体を休眠カプセルに寝かせ、連中の根城の冷蔵庫の倉庫に仕舞われていた! 俺のマイクロクローン体に意識を移し、SFスーツを着てタナカさん、ゴラエモン、ジュエスの4人でテレポートした。そこは、

「おおぅ・・・??」

「思ってたのとちょっと違うけど楽しそうですっ」

カジノとショーパブを合わせた様な施設だった。会場は来訪者だらけだっ。ステージでは蜘蛛人間の様な来訪者ダンサーがしっかり訓練されたダンスパフォーマンスを披露していた。

俺達は透明な筒状の装置の中にテレポートしてきていたが、ジュエスが筒を開けるとフロアの大音量がもろに響いてきた。

「うわっ」

「耳が」

すぐにジュエスが念力で浮遊して近付いてきて俺とタナカさんが被っているメットを調整して耐えられる音量になった。

「ここでは基本的にスーツもフェイスガードも取ったらダメだよ? トイレに行きたくなったら無理せず言ってね」

「荒っぽいヤツらが多いというのもあるが、それ以前にクリーンフロア以外は検疫が甘いのだ」

「ここどこなんだ?」

「もう宇宙ですか?」

「ここは地球の衛星軌道上を周回する来訪者の不可視拠点の1つだよ。ちょっとオンボロだからちょいちょい地球人に観測されてるけど。黒騎士だとか何とか」

「さっさと行くぞ? アモチーを見付けないとな・・」

ゴラエモンたジュエスは念力で浮き上がり、俺達も念力で宙に引っ張り上げた。

「いつかみたいに背中にジェット吹かすヤツ付けてくれればよかったのに」

「あれ楽しいですよね」

「推進力が強過ぎるだろ?」

「僕ら念力が発達しているから普段仕様のフライトパック使わないからさ。作っておいてもよかったけど。あっ、いたいた」

来訪者だらけの人混みの中に、青と白と銀の体色の水着を着た鳥人間の様な女性の来訪者の後ろ姿を見付けると、ジュエス達は俺とタナカさんを連れてそちらへ飛行した。

「アモチーっ! 通信繋いどいてよっ」

アモチー?

「ん~っ」

飲み物のグラス片手に唸りながら振り返ったのはまさしくアモチーだった。顔と身体のシルエットは元のままだったが、それ意外は水着を着た青い鳥人間の姿をしていた!

「アモチーさん、凄いクオリティのコスプレですねっ。ミュージカルキャストみたいですっ!」

「コスプレっていうか地球圏以外ではわりとこの姿だよぉ。服選ばなくていいし、分体の中ならこれが一番パワー出るしぃ」

「神秘的な感じだ」

「ああ、そう・・」

アモチーは飲み物を飲んだが、ジュエスとゴラエモンが念力でやや手荒に俺とタナカさんをアモチーの左右の肩の上に置くと、ギョッとして軽くむせていた。

「隊長とサンビーのヤツは?」

「サンビーは手続きしてるぅ。隊長はドッグ。ニッカー達が来てるから機体見張ってんだよぉ」

「ヤツらもやはり来ていたかっ!」

「一回目を付けられるとしつこいんだよね・・」

「北海道の小さい人達ですね」

「ジュエスに凄い圧、掛けてたもんな」

「あんなヤツら大したことないよぉ?」

「ホントですか?」

「蜂だよ? 刺すんじゃないか?」

「針は退化してるからぁ」

「へぇ」

「ほぉ」

等と言っていると、照明と曲調とステージの形が変わり、蜘蛛人間のダンサー達が去り、代わりに迫り上がりで巨大な蜘蛛人間・・というか擬人化した巨大蜘蛛が現れたっ!

ド派手な外套を羽織り、王冠まで被っている。

「エンプレスっ! エンプレスっ! エンプレスっ!」

会場の来訪者達が大騒ぎしている。女帝?

「アイツかこの衛星拠点の支配者で、今回の依頼のゲームマスターでもある」

「ゲームなのか?」

「え? 何系ですか?」

「まぁ聞けば大体わかるよ」

巨大蜘蛛は腕を拡げて芝居掛かったポーズを取った。

「愛しい皆さーんっ! 狩りたいですかぁーっ!!」

意外と甘ったるい声で呼び掛ける巨大蜘蛛っ。

「ウォオオオーッ!!!」

「狩らせろぉーっ!!」

「早く発表しろぉおおーーーッ!!!」

会場の熱気に満足げな顔をする巨大蜘蛛。

「わたくし『ウッキー・ニョルタァルゼオムフフ』が主催するぅううう・・第16237回ぃいいっ!! ジェニーをガバ取りっ! ハンティイイイーングショーーーッ!! 開催するよぉーーっ!!!」

蜘蛛のウッキー何とかが絶好調で叫ぶと会場のボルテージがさらに上がり、興奮して設備を破壊しだす来訪者達が蜘蛛の警備員にテイザーガンを凶悪化させた様な武器で昏倒させられたりしだしたっ。

「ジェニーって何だ?」

「幾つかある地球系の通貨単位の1つだよぉ、大体1ジェニーは10万円くらいだねぇ」

「チップ1枚10万かっ」

「凄いレートですね・・」

俺とタナカさんが若干引いていると、ウッキー何とかは自分の頭上に数十枚程度の映像パネルを出現させた。

「今回のゲームはコレだっ! 好きな物を選びなっ。ベイビーちゃんからガンキマリのクソ野郎まで対応してるよっ!! 知力体力時の運っ! どれも無いヤツは足掻いてみせろっ。勝って儲けたヤツが正しいっ! 負けたヤツはカスっ!! 踏み潰してゆくよぉおおーーーっ!!!」

「ウォオオオーっ!!!」

「エンプレースッ!!!」

「早く始めろぉおおーーっ!!!」

凄い盛り上りだ。テーザーガンくらいでは収まらなくなり、マスクをした蜘蛛の警備員達が沈静ガスらしき物を散布しだしたっ。

「それじゃあエントリーよろしくぅーっ!!」

ウッキー何とかは自分の周囲に光の障壁を張り、警備蜘蛛達に守られつつ迫り上がり余裕の顔でゆっくりと迫り上がりを下げて退場していった。

「暫く場が荒れる。ゲームに参加せずここで暴れたり、どさくさに盗みを働くことを目的に来ている連中も多い、ゲストルームを取っているからそこに引き上げる」

「アモチー、あんまり反撃しなくていいからねっ?」

「ん~っ、めんどくさぁ。スズキとタナカは落っこちないでねぇ? 踏まれてプチュっ! て潰されちゃうよぉ?」

「ええっ?」

「か、髪に掴まっていいですか?」

大混乱の会場からゴラエモンの『エーテル峰打ち』とアモチーの『謎パワーの大砲の様な蹴り』で脱出し、途中のクリアランスポイントという所で洗浄され、俺達はゲストルームまで来た。

ゲストルームは低温らしく、楽な部屋着のサンビーがルームサービスらしい物を摘まみながらリラックスしていた。

「遅くなーい?」

「仕方がないだろ? アクセスポイントがメインステージフロアしかなかったのだ」

「あたしと隊長、コスモポリスの船経由で飛んだから最初っからクリーンエリアに来たよ?」

「そういやその手があったね・・ここ来るの40年ぶりくらいだから忘れてた」

「あの、トイレは・・」

我慢していたらしいタナカさん。

「サンビー案内してやんなぁ」

「あいよ、おいでタナカ。ここのトイレ、油断すると身体ごと流されるよ?」

「嘘ですよね?」

「と、信じたいだろ?」

「嘘ぉっ」

サンビーに念力でトイレと思われる部屋に運ばれてゆくタナカさんだった。

「パネルが色々出ていたけど、どれに参加するんだ? あまり複雑なヤツは・・」

「いや、スズキよ。正直ゲームの方はどうでもいい」

「ん?」

「実は今回の参加者の中に『亜次元怪獣』を不法所持しているヤツがいる」

「亜次元怪獣?」

そういえば最初の頃の自己紹介ソングでゴラエモン達もそんなこと言っていた。

「中々強力で地上で出されると厄介だから、持ち主をコスモポリスと東銀河政府の諜報機関がこの衛星まで誘導していた」

急に大事っ。

「この施設内でその怪獣? を出させるのか? ここ衛星軌道上だろ?」

「施設内への巨大生物の転送や巨大化は念入りに制限されているよ? 出すとすれば近くの宇宙空間だね」

そんな感じか・・陽動しろ、とかそういう話かな?

「バイトの仕事の中身がいまいちわからない。これまで戦った宇宙人だか何だかと同じくらいなら何とかなるかもしれないが・・」

「スズキぃ、全然比べ物にならないよぉ? 亜次元怪獣達は基本的に1つの星の文明を破滅させて塗り変えるくらいのパワー持ってるからぁ」

『塗り変える』って何だよ? 壊されるだけじゃ済まないのか??

「そんなの俺とタナカさんじゃ無理だよ。君らも軍隊とか呼んだ方がいいんじゃないか?」

「コスモアーミーは強硬派過ぎる。我々と思想的に折り合い難い」

同じ組織でモメてる?

「そこでアモチーだよぉっ!」

青い鳥の姿で胸を張るアモチー。全身をゴラエモンの使う光の剣と似た感じの光で一瞬覆った。

肩に乗ってる俺もその光を浴びたが、温かいような涼しいような、不思議な光だった。

「アモチーも制限があるから船本体は使えないけどぉ、この姿ならブッ飛ばせるよぉっ! 最近ストレス溜まってるからぁっ、ぐふふっ」

悪い顔をするアモチー。

「まぁいいけど・・だったらさっさとその不正な怪獣ってのを出させて片付けたらいいんじゃないか?」

「出せ、って言って大人しく出してくれる様なヤツなら簡単なんだけどね」

「多少手順を踏む必要があってな」

ゴラエモンはややうんざり顔で段取りと、段取りを組まざる得ない理由を解説しだした・・。



ターゲットの名前はビ・タスゥオ。コジフ星人という小型種族の札付きのワルで、ギャンブルや狩猟ゲームの類いに目がない人物。

長命種の為に裏社会での人脈は広く、本来亜次元怪獣を使役する資格を持たないにも拘わらず、強力な怪獣を獲得している。

これだけならビ・タスゥオが怪獣を出す前に昏倒させる等して、後は慎重に亜次元にキープしている怪獣を回収すればそれで済むそうなのだが・・

用心深いビ・タスゥオは、怪獣の使役権を仲間達にも暫定的を与えられるように契約していた。

ビ・タスゥオ本人が怪獣の使役が不可能な状態になれば、代わりに不特定多数の仲間達が怪獣の仕様が可能になってしまい収拾がつかない。

そこでビ・タスゥオ本人が自分の意思で怪獣を意図した場所に出現させる状況を作ることが必要になった。

奴はウッキー何とかに莫大な借金があり、元々逆恨みしている。

これをテコに、コスモポリスと内通しているウッキー何とかは『次のゲームショーで勝たせてやるから今後八百長に協力しろ』と持ち掛けた。

しかし本番では負かしてスッテンテンにする。粗暴なビ・タスゥオは激怒して自ら怪獣を呼び出して衛星ごとウッキー何とかの殺害を試みる。

これをアモチーが仕止め、ビ・タスゥオ本人はコスモポリスの潜入捜査官が即、確保する。というミッションだ。



・・俺達は衛星のドッグで、ロク・チャンが見張っていたコスモアーマーに既に乗り込んでいた。

俺とタナカさんはエントリーした競技のルールとコスモアーマーの操作方の確認に余念が無い。

「スズキ、タナカ。一応、オートサポート強めにしてあるし、本格的にヤバくなったらアモチーが遠隔で対応してくれるから」

ジュエスはドッグに残ってメンテを担当していた。編成は俺とタナカさんペア、ロク・チャンとサンビーペア、ゴラエモンはソロだ。

1つのチームだが3班に別れる。この小型種族限定競技は運営が定めたエリアに放ったエネミーを倒し、スコアがもっとも多いチームが賞金総取りというルール。

ビ・タスゥオのチームはウッキー何とかとの裏取り引きは指定エリアで待ってるだけで狩り安くスコア効率のいいエネミーをどんどん送り込むから上手くやれ。という物。

勿論これはフェイク。実際には狩り難くスコア効率の悪いエネミーばかり送られる。

俺達はダメ押しで、ビ・タスゥオチームの方に効率のいいエネミーがゆかない様に先回りして狩り、とにかくスコアを稼がせない。

スコアを稼ぐ専門のチームは別にいるので俺達はお邪魔虫活動に専念すればいい。

別途に撃破ボーナスというルールもあったが、ゲームに気を取られると目的を見失うのでそこはあまり考えないことになった。

「アモチー、オペレーターとか苦手だわぁ」

「まぁ頼むよ」

「お願いしますっ」

他に人がいないのでオペレーターをやらされたアモチー不満そうだったが何とか宥めた。

「タナカさん、あんまりムチャしないで下さいね」

タナカさんにだけ通信を繋ぐ。

「スズキさんこそ」

「いや、連中からのバイトを受ける受けないの話ですよ」

「あ~・・でも、もう今月一杯じゃないですか」

「・・・でしたね」

いつの間にか冷蔵庫に住むフィレオレ・プレプレ星人やアモチーがいるのが当たり前になっていた。

だが連中の任期は今月末までだ。俺とタナカさんの一件が『彼女』のことを含め片付いたから、特に延長もしないらしい。

「・・ん? というかタナカさん、前から連中から頼まれたバイト全部引き受けてるじゃないですかっ?」

「いやぁすいません。やっぱり作る側からするとサブクエも全部拾ってくれないと寂しいじゃないですか?」

「サブクエって・・それ、クリアするのに無限に時間掛かるパターンですね」

「ゲームと違ってプレイ時間に限りがあるのが残念です」

「プレイ時間ですか」

「あ、スズキさん今、エッチなこと考えましたねっ?」

「考えてませんよ?」

「もう~っ」

そんな事を言ってる内に競技開始時間になった!

「タナカ、3号機っ。出ますっ!」

「スズキ、4号機っ。行っきまぁ~すっ!」

俺達は衛星のカタパルトからコスモアーマーで出撃していったっ!! 先行していたロク・チャン機とサンビー機の続く。後からソロのゴラエモン機も出てきた。

「スズキっ! タナカっ! お前達が以前北海道で絡まれたニッカー達もやはり参加しているようだっ」

「あの蜂さん達ですか?」

「連携するのかい?」

「いや、ヤツらはフワフワしているからコスモポリスからあまり信用されていない。素で参加してきてる。十中八九今回も絡んでくるだろうから気を付けろっ」

「ええっ?」

「どう気を付けたらいいんだろう・・」

そんな感じで競技は始まり、危惧された通りニッカー達に絡まれたが何とか振り切り、俺とタナカさんはアモチーのナビで乱戦しているエリアに向かった。



乱戦エリアはモルケルアピー亜種豪脚型とモルケルアピー亜種光弾型が入り乱れる戦闘エリアだったっ!

豪脚型は豪腕型程速くないが畳んだ脚を伸ばした時のリーチが長く近接注意。光弾型はその名の通り口から光弾を連発するタイプで遠距離注意だが手足は退化していて近接戦は弱い。

ただどちらも入れ食い状態でワラワラいた。ここはリスキーでもボーナスエリアなんだろう。他のチームも幾つかいた。

「アモチー、既に他のチームも居るみたいだけど?」

「もう点取り担当のチームは2位以下がどうやっても取り返せないくらいスコア取ってるからぁ。あとはニッカー達にうっかり墜とされないようにしときゃそれでいいよぉ」

「ターゲットのビ・タスゥオのチームはどうしてます?」

「強いエネミーを続けてけしかけられて仲間は全員リタイア。さっきブチ切れて別のエリアに行ったみたいだけどステルス使ってるから場所はわかんないなぁ」

「もう怪獣出しちゃうんじゃないか?」

「別にアモチー的にはいつでもいいけどぉ。競技エリアは衛星まで結構遠いから微妙じゃないかぁ?」

「スズキさん、取り敢えずガード重視で競技終了まで時間稼ぎましょう」

「ですね。アモチー、何か状況変わったら教えてくれ」

「わかったぁ」

俺とタナカさんは消極的に反撃しつつ、他の無関係なチームを刺激しない様に距離も取り、終始無難にモルケルアピー亜種達から身を守った。のだが、

「ゴラァっ! お前らぁっ!!」

「道産子パワー見せてやるよぉっ!」

ニッカー達が追い付いてきたっ。感電弾と感電散弾まで撃ってきたのでややこしいっ!

「もう俺らに構わないでくれてよっ、ここ稼ぎ易いから後は勝手にやったらいいだろっ?! 交戦する気は無いんだっ」

「へへーんっ、負ける前に予防線張ってるよニッカー?」

「PKは不毛ですっ! 運営にも目を付けられますよっ?」

「クラス委員みたいなこと言ってらぁっ!」

ニッカー機はエネミーそっちのけで右手に

持ったマシンガンと左肩の散弾砲を乱射してきたっ! すぐにケッムー機がその援護に回るっ。

「やっべっ」

焦っていると、タナカさんが個別回線を繋いできた。

「はい?」

「デブリ使いましょう。私が食い止めるんで回り込んで下さいっ。アモチーさんっ! ちょうどいいデブリありますか?」

「ん~、3つ候補出すから好きなの選びなぁっ」

「スズキさんっ、手前のでいきますっ!」

「ああ、はいっ! やってみましょうっ」

タナカさんが体当たりする様に突進したタイミングで俺は威嚇射撃しつつ、アモチーが指定したデブリの裏に回った。

「どぅわっ?!」

いきなり潜んでいた豪脚型が蹴り付けてきたのを何とか躱し、デブリ裏を抜け、ニッカー達の背後に出たっ!

「サンドイッチだっ!」

同士討ちしない様に注意しながら、俺は背後から、タナカさんは正面からニッカー達に感電弾を撃ち込んだっ!!

「ちょっ?!」

「マジでっ?!」

ニッカー機とケッムー機にヒットっ!!

「ギャーっ!!」

「覚えてろぉーっ?!」

機体はショートし、戦闘不能と見なされ衛星に転送されていったっ。

「やりましたねっ」

「あ、でもPK禁止だ・・」

「反撃はOKだよぉ? まぁ種目発表の時から全部中継されてるし、盛り上がったら何でもアリって感じ」

「そゆことか」

道理で自分の施設壊されるのにやたら煽るワケだ。

「後は制限時間までやり過ごしましょう」

「ですね。アモチーはこの後怪獣退治、大丈夫なのか?」

「余裕余裕ぅ。それよりターゲットがこのままトンズラしないかの方が心配だよぉ」

確かに冷静な判断ができるなら借金返済やウマそうな仕事の話が流れた上に、謎にハメられてるワケだから、さっさとバックレるのが賢い。

どうなのかな??



それは杞憂だったようだ。まだ修理が不充分なカジノホールでウッキー何とかが、例によって煽り気味に成績発表をしていると・・ズゥウウンッ!!! 衛星施設全体が揺れたっ。

アラームが鳴り出し、同時にカジノホールの中空に多数の画面が出現した。全てにコスモアーマーのコクピットの中らしい頭髪と鼻の無い、角の生えた小鬼の様な人物が映し出されたっ!

「ウッキー・ニョルタァルゼオムフフっ! このビ・タスゥオ様をコケにしやがってっ。テメェがこのカス衛星ごと死んじまえば借金もチャラだぁああーっ!!」

「あら? 黒騎士衛星は元はコスモアーミーの所有物よ? 勝手に墜としちゃっていいの?」

「知るかぁあああーーっ!!! クソ蜘蛛がぁああっ!! 来いっ! メゾフ獣・改ッ!!!!」

ビ・タスゥオはブレスレットを激しく発光させたっ!!! 映像は閃光と共に途切れたがすぐに衛星を外から映した複数の視点に変わった。視点が静止しているから監視ドローン的な物か?

衛星のすぐの側の虚空に光が集まり、空間が歪み、鮫とエイと猿とファンタジー作に出てくる竜を合体させた様な巨大生物が出現したっ!

メゾフ獣・改が真空の宇宙空間で吠えるとっ、奇妙な振動と共にそれはカジノホールにいる俺達まで響いてきたっ。

「モォオオオーーーンッ!!!」

「ターゲット出現だのっ! アモチーっ、エーテル武装限定解除っ!! 暴れてくるんだのっ」

「ん~っ!!! やるよぉっ!!」

アモチーは青白く輝いて浮き上がり、転送された機械の鎧を身に纏い、人型の戦闘機の様な姿になったっ!

「一狩り行ってくるぅっ!!!」

アモチーは光の粒子を残し、テレポートしたっ。

同時にメゾフ獣・改の眼前に青い小さな光が出現し、それが弾丸の勢いで怪獣の頭部に激突し、仰け反らせたっ!

「あの怪獣はすぐに分体を無数に出してくるっ! 我々もアモチーの援護にゆくんだのっ!!」

ロク・チャンに促され、俺達はドッグに急いだっ。

「皆さーんっ! 分体駆除に懸賞金出しますよぉーっ? ゲームで負けた人達も取り返しちゃってぇええーーっ!!!」

「ウォオオーーっ!!」

「やってやらぁっ!!」

会場にいた参加者も大半は俺達に続いたっ!

施設内へのテレポートは結構制限されてる上に重力のあるフロアが多く、途中の通路を大勢で走るのが結構狭くてややこしい。

ロク・チャン達の念力で持ち上げられてなかったら踏まれ過ぎてミンチにされるところだっ。

「おい地球人コンビっ!」

「S県人っ!」

ニッカーとケッムーが、邪魔になった他の来訪者を小さな身体からは想定できないパワーで殴ったり、触覚光線でショックを与えたりして押し退けて近付いてきた。何だよっ?

「さっきのまぐれだからねっ?」

「完全同意っ!」

「ハイハイ、わかったよ」

「お前らぁ、さてはコスモポリスと組んでるよね?」

「吐けよっ」

「いやぁ、それはどうかなぁ?」

「記憶が曖昧ですっ」

「チッ、まぁいいっ。どっちしろウチらの実力今度こそ見せつけてやんからねっ!」

「本気と書いてマジっ!」

「わかったってっ!」

ニッカー達にまたまた絡まれつつ、途中簡易クリアランスポイントでざっと洗浄され、ドッグまでたどり着けた。

「ジュエスっ、すぐ出せるっ?」

「いけるけど、衛星のエーテルシールドに引っ掛からないでねっ! もうゲームじゃないからリミッターは外してある。操作は一緒っ。僕は皆が出たらオペレーターに回るからっ!」

「わかったっ!」

「ジュエス君も気を付けてねっ!」

「ヤバくなったらテレポートしときなっ」

「では行ってくるのっ」

「・・そういうことだ」

特に言うことが無かったらしいゴラエモンっ。

俺達は再び、それぞれの機体に搭乗したっ!

「タナカ、3号機っ。出ますっ!」

「スズキ、4号機っ。行っきまぁ~すっ!」

ロク・チャンとサンビーに続いてカタパルトから射出されて、ゲーム中は無かった、衛星の全方位に分けて張られていた半透明のエネルギーの壁を避けて通り抜けてゆくと、早速『分体』数体とかち合ったっ。

それは本体同様に鮫、エイ、猿の要素は持っていたが、竜の要素の代わりに鰐と蛇の要素を足された様な生物だった。

大きさはたぶんタンクローリーくらいあるから、俺達が乗ってる小さなコスモアーマーからすると超巨大生物だっ!

「デカっ!」

俺はビビったが、タナカさんは躊躇無くマシンガンで銃撃したっ。ゲームで使った感電弾ではなく、貫通してさらに炸裂して吹き飛ばす光弾を放っている。

ガガガッ! ヤツらからすると細い針の様な光弾だが、効果は覿面で、1体は頭部を粉砕されて沈黙したっ!

「スズキさんっ、いけますっ!」

「君はほんと、凄いよね」

「え? そうですか?」

俺も負けてられないっ。リミッターが外れて機体の性能が上がり過ぎて対応し辛いが、何とか乗りこなすっ。

輪っかのようなエネルギーの衝撃波を口から放ってくる分体の攻撃を避けて、急所らしい頭部に光弾を撃ち込んで沈黙させていった。

「モォオオオオーーンッ!!!」

アモチーとメゾフ獣・改の本体との交戦も激しい物になっていた。

加速とテレポートを繰り返しながら、俺達の小さな砲撃からすると桁違いの光のエネルギーの砲撃と斬撃を超高速のコンボで延々と撃ち込み続ける武装アモチーっ!

凄いっ。既に怪獣の右腕と左脚、頭部の左辺を破壊し、それ以外の部位にもかなりダメージを与えていた。

怪獣は小さ過ぎて速過ぎるアモチーの動きを捉えられず苦戦しているようだ。

怪獣を呼び出したビ・タスゥオ機もコスモポリスの機体らしいチームに取り囲まれていた。

さらに周囲に張られた立方体状のエネルギーの構造物によってテレポートも封じられているらしく、墜とされるのは時間の問題に見えた。

「詰めそうですね、スズキさん」

「だといいんですが・・」

「スズキっ! タナカっ! アモチーのフォローに入ってっ」

ジュエスからだっ。モニターで確認すると、メゾフ獣・改が自分の周囲、いやアモチーに向かって全ての分体を集めだしていたっ。

俺達や衛星への攻撃より、アモチーを倒すことの方が優先順位が高いと判断したんだろう。

ビ・タスゥオとあの怪獣は正式に契約していないというから命令や主の守護より、自分の生存を選んだのかもしれない。

「モォオオオオーーンッ!!!」

真空の宇宙空間を越えて響く咆哮に応え、分体達は無数の個体で渦潮の様にうねってアモチーに襲い掛かり出した。

衛星に匹敵する大きさの本体ですら圧倒するアモチーにとっては薄紙を引き裂くようなものだ。

それでも動きは制限されるのと空間を強いエネルギーを持つ物質で埋められるとテレポートもし難いらしく、本体の攻撃を避けきれなくなり、バリア越しに機械の武装を少しずつ破壊され始めたっ。

「アモチーがヤバいっ」

「直接絡んでる先頭集団だけでも何とかしましょうっ!」

「それでいこうっ」

俺達の動きに、ロク・チャン達だけではなく、他の参戦者達も続き、分体の渦の先頭集団に一斉に砲撃を始めたっ!

「チンタラやってるんじゃん? 地球人っ!」

「たちけてーっ、ボクちゃん達の仲間が死んじゃうよぉ~って聞こえたけどぉ?」

「今、それどころじゃないっ」

「二人も手伝って下さいっ!」

「しょうがないなぁ~・・じゃ、御褒美いっとくケッムー?」

「完全同意だよっ、ニッカーっ!」

ニッカー機達は機体背部の装甲の一部をパージしてタンクの付いた銛の様な物を露出させた。

「お尻の針は退化しちゃったけどぉ~っ!」

「毒の合成はお手の物ぉ~っ!」

「御褒美針っ! 喰らいなっ!!」

ニッカー機とケッムー機は銛の様な物をメゾフ獣・改本体の胴体に撃ち込んだっ!

相手の巨体からすると全く話にならない小さなトゲに過ぎないが、その毒は確かに怪獣の腹部を蝕み、変色させていったっ!

苦しみ、攻撃の手を止めるメゾフ獣・改っ。アモチーはその隙を逃さなかったっ!

本体ではなく分体に集中し、大出力の光弾

を全方位に無尽蔵に放出し、一気に分体達の渦を吹き飛ばしたっ!!!

「凄っ」

「アモチーさん、秒で地球制圧できますね・・」

「しないよぉっ?」

「おうっ?」

「通信繋いできたっ」

「おちょけたフィレオレ・ペロペロ星人の手を借りたのはちょっと微妙だったけど、まぁいいやぁ。そろそろ終わらせるねぇっ!」

アモチーは弱りながらも口から熱線を吐こうとしたメゾフ獣・改の口を光弾で吹き飛ばし、殴り掛かってきた左腕を光の斬撃で破壊し、多数放った光の輪で右脚と尻尾も破壊し、それでも身体中から触手を出そうとしたところを光の格子で張り付けにして動きを封じた!!

アモチーは損傷している機械の鎧を全てパージし、それを砲台の形に組み直すと後部に片手を添え、呟いた。

「主を間違えたねぇ。違う理に移りな・・デュワ・・・」

青い鳥の様なアモチーは激しく輝き、砲台から光の波動を放ったっ!


ドォウウウゥンンンンーーーッ!!!!!


撃ち抜かれたメゾフ獣・改は光の粒子となって消し飛んでいった・・。



ビ・タスゥオも無事確保され、俺達とさらにニッカー達も衛星の主、ウッキー何とかの私室に招かれていた。

そこにいたのは巨大な蜘蛛ではなく、なんとなく蜘蛛っぽくもある人間の10代後半くらいの娘だった。セーラー服まで着てる。

「えーと・・小さくなりましたね」

「そうねー。あの大きい姿は『着ぐるみ』だから。セキュリティ的にもパフォーマンス的にもあれくらいでいいよの」

「あの・・高校生なんですか?」

そこツッコむんだ、タナカさん。

「違うけど? まぁたまに地球に完全擬態して降りたりはしてるけどね。私で20代目くらいどけど何百年もこんなことしてると、無限に儲かるけど頭オカシクなってくるからね。結構似合ってるでしょう?」

JKっぽいポーズをしてくるウッキー何とかさんっ。困惑するタナカさん。

「ともかく、我々は依頼された仕事はしたんだの。コスモアーミーが出張る理由も無くなったはず。後はコスモポリスなり諜報部なりと交渉してくれ。派手な中継でまた儲けたんだろうから、あんまり欲をかいた交渉はどうかと思うがの」

「ま、気を付けるわ」

「ウチらにボーナス忘れないでよっ」

「完全同意っ」

全然臆さないニッカー達っ。

「ふふっ、いい毒使うよね」

「先に分体と交戦できたからサンプル取れたし、あれくらい簡単」

「イージーだよね」

「弾んでおくわ」

ウッキー何とかさんは俺を向き直り、ニヤリとした。

「ん?」

「特異点の被造物なんでしょ?」

「ええ、まぁ」

そんな有名?

「愛される為に作られた人形なんてセクシーね。歪で素敵だわ。クローンを1体売ってくれない? 私、地球人、嫌いじゃないの・・」

ねっとりとした視線を送ってくるウッキー何とかさんっ。すぐにタナカさんとアモチーがガードに入った!

「スズキさんを大人の玩具扱いするのはやめて下さいっ」

大人の玩具ってっ。

「そんな高性能でもないよぉっ」

意味深っ。

「ああ、そう。まぁいいわ、また何かあったら、よろしく、ね?」

ウッキー何とかさんのウィンクにたじろぎ、タナカさんとアモチーから冷えた視線を向けられる俺だった。



その後、俺のマンションに戻ったワケだが、なぜかニッカー達までついてきてしまった。

俺とタナカさんがマイクロクローン体からカプセルの中の本体に戻ると2人して「デカくなったっ!」となぜか爆笑されてしまい。俺もタナカさんも処理の困った。

例によって宴会の為に室温を下げると、連中は特別暑がりでもないので真冬のロシア人みたいな格好をした。

それからウッキー何とかさんからのギャラはべらぼうな額で、俺とタナカさんは協議の結果、80万円だけもらい、後はロク・チャン達の判断で身のある事に寄付してもらうことにした。

全額寄付と言い出せなかったのは、俺もタナカさんも将来の金銭の不安に敏感なお年頃と立場だったからだった・・

「実は今月の末から、知り合いがやってる物販会社をちょっと手伝うことになって、結果収入は下がりそうです・・」

冷え過ぎレッドアイを飲みつつ、言ってくるタナカさん。チャンチャンコの上から羽織ったダウンジャケットの背中には『安室という名の果実』と印されていた。

「俺なんて年明けに研修先紹介してもらうまで無職ですから・・」

陰気に応えてみる。

「はい、そこの搾りカス特異点とその被造物、暗くなるからちょっと黙りなっ」

「歌うよ? 今夜はツインボーカルっ!」

ソファの上の歌唱ステージにサンビーとニッカーがボーカルとして立っていた。

全員昭和の歌謡ショーっぽい格好をしている。ニッカーとケッムーは寒いらしくやや厚着だったが。というかニッカーが謎の男装をしているっ。揉み上げまで付けてる??

「そこの破壊兵器っ! 起きろっ」

「んあっ?」

いつかの洋食屋で着ていたサリー姿で床に転がって寝ていたアモチーを起こすニッカー。さすがにアモチーも疲れている様でもあった。

「このフィレオレ・ペロペロ星人界のカリスマ歌姫っ、ニッカー様の超絶御褒美ソングを」

「もういいってっ、それじゃ聴いて下さい『女と男のラブディスタンス』っ!」


つれないじゃないの貴方 私は夜に滑る空の雲 月明かりにしか映らない


君の方こそ移り気だね 僕は海の底の海月さ 波間に揺らめいて


そんなこと! 貴方はランプの影


君こそね! 飛べない鳥さペンギンさ


私達の秘密のモノローグ ラブラブラブ ラブディスタンス~~~っ!!


いつか行ったね箱根 欅と青い山並み果て 5月の湖畔が眩しかった


ウッドデッキのプランター 植えた鬼灯は萎えたさ 夏まで夢を見た


勝手な人! ペンギンは海に飛ぶ


忘れたね! 影に踊った微睡みは


私達の秘密のダイアリー ラブラブラブ ラブディスタンス~~~っ!!



・・昨日は悪酔いしたな。選曲の意図がわからない。東京の最寄り駅からも製パン教室までバスで移動しなきゃならなかった。地味に交通費が嵩む。

本数が少ないから逃すと大変だったりする。行きは時間も微妙なので、平日は客が少ない。

俺以外の客はたった3人。年配の主婦らしい女性。あまり話したことはないが同じ教室に通ってる二十代後半くらいの華奢で無口な男性。

それから営業にも見えないが、かなり太めの体型の背広の中年男性。この男性は膝の上にタブレット端末を出していたが居眠りしていた。イビキが凄い。

と、中年男性が眠ったまま体勢を変えた拍子にタブレットと共に持っていたタッチペンを取り落とし・・そこで時が止まった。

バスの走行も、対向車も、歩道をウォーキングしていた壮年男性も、電柱から飛び立ったカラスも、全て止まった。

動いているのは俺と、俺の足元に転がってきたゴムボールだけ。

と、中年男性のタブレットから細い電光がバスの通路に走り、フード付きマントを着た、傷の入った猫の仮面を被った子供が姿を現した。

「ジンゴロっ!」

「やぁ、思ったより早く会ったね。気まずいよ、ふふ」

楽しげに見えるジンゴロ。

「どうしたんだい?」

「実はスズキ、君に警告しに来たんだ」

「何を? まさかっ」

「いや、違う。『彼女』の本体は間違いなく次の宇宙に送られた。別件だ」

それ以外に俺に関して何かあったかな?

「アモチーが狙われている」

「え?」

「一般の地球人には上手く隠していたようだけど、衛星軌道上で派手に力を使ったのがマズかったのかもしれない。あるいは以前、セピアダウンに行った時点で気付かれていたのかもしれないが」

「誰に狙われているんだ? いやでもアモチーだ。狙われてもそう簡単には・・」

「いや、スズキ。間違いなく対策されている。アモチーではヤツに勝てない。ヤツはアモチーに復讐する為に帰ってきたからね」

「何者なんだ? そいつはっ」

自分でも意外な程カッとした。

「元の名前は今となっては意味を成さないだろう。今のヤツはこう名乗ってる『キャプテンまほろば』と」

キャプテン? 船長? まほろば??

「アモチー本人とロク・チャン達にも既に知らせた。ヤツの力と僕は相性が悪いけど、可能な限り協力はするよ」

「俺はどうしたらいい?」

「アモチーは幾つか動力を持っているけど、一番強力なのはパラレルドライブだ。それは確率に作用する」

これまで何度かアモチーがそういった力を使うのを見てきた。

「君にできる範囲で構わない。アモチーが存在する確率を護ってほしい」

存在する確率を護る??

「どうやって?」

ジンゴロは仮面を少し取って、額に傷痕の残る顔を半分程見せた。

「知っているだろ? 心の有り様さ」

ジンゴロは仮面を付け直し、また電光になって、中年男性のタブレットの中に戻っていった。途端、時が動き出した。

「心・・」

俺はまだ足元に転がっていたゴムボールを拾おうとしたが、それは夢の様に掠れて消えてしまった。

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