第5話 南方の船団護衛艦隊2
最新話を投稿いたします。クラウス・リッターです。
今回は、前回最後の予告通り船団護衛に関する話の第2話です。
あまり派手な戦闘ではありませんが・・・一応戦闘があります。
それでは、スタートです。
シンガポールのセレター軍港を出港した輸送船団は、進路を一路北に向けて本土を目指して航行していた。
この輸送船団を護衛する船団護衛艦隊の旗艦は、未来日本海軍のイージス重巡洋艦『秋津洲』である。
全長:238m 全幅:28.7mの艦体に、
45口径28cm連装速射砲3基6門、55口径15.5cm単装速射砲4基4門、13mm四連装近接防御機関砲8基32門、「ブルー・スピアー」十二連装対潜魚雷発射管4基48門、「レッドアロー」八連装艦対艦ミサイル発射機4基、「フラッシュベック」八連装対空迎撃ミサイル発射管4基・・・
・・・という重武装を施しながら、更に3機のVTOL機を搭載している航空重巡洋艦とも言える艦艇である。
基準排水量:3万トン 満水排水量:3万9800トン ・・・と戦艦クラスの排水量を持ち、最大速力37ノットという高速性を備えた未来日本海軍の精鋭艦である。
・・・この『秋津洲』を、中心とした未来日本海軍の艦艇が中央に集まって航行している50隻を超える輸送船の周りに輪形陣の形で陣形を組み、連合艦隊所属の艦艇が間隔が大きく開いている日本海軍艦艇の隙間を補完する形で陣形に組み込まれていた。
−−− 航空戦艦『伊勢』艦橋 −−−
『中瀬君・・・状況はどうだね?』
『今のところ、特に問題はありません』
『ふむ・・・そうか。いやそれにしても、船団護衛とは・・・普通に戦闘する以上に神経を使うものだな』
『そうですね・・・マリアナでの対空戦よりも、これは神経を使いますよ』
『成る程・・・兵達が嫌がるのも、無理は無いか』
『仕方ありません。いつ奴さんが、得物をぶっ放してくるか分かりませんからね』
『そうだな・・・』
シンガポールのセレター軍港を出港してから3日程経過したが、特にこれと言った襲撃は受けていなかった。
事件は、出港してから4日後の事であった。
この日、船団は台湾東方の沖合凡そ50kmの所を航行していた。
このまま無事に突破できると大半の兵士が思いかけたその時・・・
ビィーーッ、ビィーーッ、ビィーーッ、
輸送船団中央の右側に位置していた、未来日本海軍の護衛駆逐艦『はるかぜ』級の3番艦である『あまかぜ』の艦橋に、けたたましいブザーの音が鳴った。
そしてそれは、艦隊の前方に位置していた旗艦『秋津洲』も同様であった。
『艦長っ!ソナーに反応です。敵潜水艦と思われます』
『数は?』
『2隻・・・いえ、3隻です』
『どういたしますか、長官?』
『艦種は?』
『待って下さい。・・・分かりました。全て『ガトー』級潜水艦です』
『距離は?』
『それ程離れていません。最も近い艦で1万4千ってとこです』
『「ブルー・スピアー」の射程内です』
『全て沈めろ!』
『はっ!』
こうして、彼らの戦争が始まった。
『全艦艇に通達。本艦隊は、これより対潜戦闘行動に入る。繰り返す。本艦隊は、これより対潜戦闘行動に入る』
『よし・・・『はまかぜ』に通達。「ブルー・スピアー」にて敵潜を沈めよ』
『了解です』
『艦長!』
『どうした?』
『旗艦より入電。「ブルー・スピアー」で敵潜を沈めよとの事です』
『了解した。水雷長っ、右舷第1発射管1番起動!』
『右舷第1発射管1番起動!!』
『発射用意完了!』
『発射っ!』
水雷長の言葉と共に、勢いよく3本の対潜魚雷が発射されていった。
ーーー 米ガトー級潜水艦『アルバコア』−−−
『確認できました・・・ジャップの輸送船団です、艦長』
『艦長、もっと近づきましょう!!5千を切っても、ジャップの連中には俺達の事を見つけられないんですから!』
『そうだな。とりあえず6500mまで近づこうか』
『了解っ。6500まで接近します』
彼らは、油断していた。
いや・・・彼らだけでない。
この輸送船団を発見・攻撃をした3隻の潜水艦の乗組員全員。
延いては米軍全体が、大日本帝国軍を舐めきっていた。
そして、その代償は大きかった。
その洗礼を真っ先に浴びたのが、この時輸送船団を攻撃した3隻の潜水艦であった。
『・・・っ!?これは・・・?』
『うん?どうした?何かあったか?』
『この音・・・』
『どうしたのだ?』
『どうやらソナーに反応があったらしいのですが・・・』
『何かの間違いではないかね?それか他の2隻が先に攻撃を仕掛けたのではないかな?』
『そんなことは・・・』
『・・・っ!これは魚雷ですっ!まっすぐこちらに向かっています』
『そんなバカな。ジャップごときが我々を発見し、さらに水中にいる我々に魚雷攻撃を仕掛けてくるだと?そんな事は出来んよ』
『しかし、現にこの「魚雷らしき物」は本艦に向かってきているんですよ?しかも雷速は、おそらく60ノットを超えています!』
『それこそ何かと勘違いしたんだろ?ソナーが壊れたんじゃないか?』
『ソナーも壊れてないし、勘違いもしていない!これは間違いなく我々を狙った雷撃ですよ艦長!!』
『もういい。ここ最近・・・君は働きすぎたんだよ。少し休め・・・』
『艦長っ!』
この時のソナー員の主張は、間違っていなかった。
この時『アルバコア』に向かってきていたのは、「ブルー・スピアー」対戦魚雷であったのだ。
だが、日本軍に対する驕りが彼らから冷静な判断力を奪っていた。
そもそも帝国の輸送船団がいる方向から放たれたと思われているのだから、この物体の正体の下手人は帝国軍に間違いはないのである。
だが、日本軍など最早虫けら同然。
一人でも多くの日本人・・・いや「ジャップ」を地獄に送ってやれと言われた彼らには、冷静な判断をする事など最早不可能であった。
もっとも、彼らが例え正しく現状を認識していて、最善と思われる行動をとったとしても、沈められることに変わりはなかった。
彼ら・・・未来日本海軍の艦艇に発見された時点で彼ら(米潜水艦)の運命は沈められる以外に選択肢は無かったわけだが・・・
『艦長!高速物体が本艦に向かってきます!』
『何っ!?』
『どういうことだ?』
『分かりませ・・・』
ドゴオォォォーーーーンという重低音が海の中に広がった時、その海域にいた米潜水艦『アルバコア』の姿は無かった。
船体は木端微塵に破壊され、80名前後の乗員は一人も祖国に帰る事無く深い海の底へ運ばれていった。
そしてそれは、同艦と行動を共にして輸送船団へと攻撃を仕掛けようとした2隻のガトー級潜水艦・・・『ドラム』と『カヴァラ』(史実では空母『翔鶴』・駆逐艦『霜月』撃沈など)・・・の両艦も同様の運命を辿った。
3隻の潜水艦は、自分達に何が起きたのかを理解できずに沈んだ。
3隻合計247名の兵士たちは、深い深い海の底へ引きずり込まれた。
まるでギリシャ神話に登場する冥界の王「プルートー」に導かれるが如く・・・
−−− 『秋津洲』艦橋 −−−
『それで・・・撃沈したのね?』
『はっ。間違いありません。『あまかぜ』の方でも撃沈を確認したとの報告が来ております』
『そう・・・ちゃんと彼らに報告した?』
『すでに知らせております。ちょっと半信半疑の状態でありましたが』
そう言って報告した兵士は苦笑した。
『まぁ、無理もありませんか。うふふっ、私からも一応説明しましょう』
『よろしいのですか長官?』
『ええ、その方が話が早いでしょうから・・・』
−−− 航空戦艦『伊勢』艦橋 −−−
『なる程・・・了解した。感謝する』
ふう、と息をついた第3航空艦隊司令官の松田司令の表情は複雑だ。
それもその筈である。何せ自分達が発見する事ができなかった潜水艦を、しかも3隻も発見し、あまつさえ撃沈したと彼らは言ってきたのである。
これが未来の戦い方なのか・・・と松田少将は呟いた。
松田千秋少将は、史実では典型的な砲術畑の出身として知られている。
駐米海軍武官補佐官や軍令部第1課員などの要職を歴任し、『大和』級戦艦建造を発想し、基本構想に関与したと知られている。
また彼は、駐米経験者としては珍しく「反米主義者」でもあった。
『我々は・・・』
『司令、どうしましたか?』
『いや・・・何でもない』
松田司令は、自嘲気味に小さく笑った。
とてもではないが、言えた物ではない。
彼は気づいてしまった。
「彼ら」の存在によって、この輸送船団は何事もなく・・・無論潜水艦や場合によっては航空機による襲撃を受けるだろうが・・・1隻も失う事無く本土に辿りつく事が出来るだろう。
つまり、「彼ら」が居なかったら何隻もの輸送船と護衛艦艇を失う事になっていたであろう。
『ふっ、何が無敵海軍だ・・・たったの3隻の潜水艦を発見出来もしない我々に、偉そうなことは言えんな』
松田司令は、本土に辿りつくまでこうして自虐的な事を度々口ずさんだ。
その後、彼らの輸送船団はおよそ10日を掛けて広島の呉港に到着した。
最初の潜水艦の襲撃以来、実に5度に及んだ米潜水艦の攻撃は、参加した13隻の潜水艦全てが1本の魚雷を発射する事無く海の藻屑となった。
優秀な艦艇・・・主に未来日本海軍の艦艇・・・と迅速で適切な対応が、56隻もの輸送船と12隻の第3航空艦隊の艦艇の命を救ったと言える。
輸送船団は呉の港に錨を下ろし、積み荷を降ろす作業を開始した。
呉の様子は、長らく南方にいた兵士たちの家族が会いに来ていたりと非常に賑やかであった。
だが、『伊勢』から降りた松田少将以下第3航空艦隊司令部の面々は心穏やかではいられなかった。
結局彼ら第3航空艦隊は、船団の護衛という任務こそ成し遂げたものの、敵潜水艦に爆雷の1個も落とすことは無かった。
いや・・・潜水艦を発見する事さえ出来なかった。
これでは第3航空艦隊司令部の面々が、穏やかでいられる筈がない。
・・・いくら兵器の質に差がありすぎる事とは言え、彼らは大きく自尊心を傷つけられることとなった。
松田少将は、呉に帰還するとすぐに第3航空艦隊司令部の面々と共に東京へと向かい、今回の作戦の結果を報告すると同時に新たに船団護衛を専門とする艦隊の創設を進言した。
松田司令とその部下の進言は、当初こそ軽くあしらわれた。
だが、その松田少将の報告を聞いた雨宮香織が裏で手をまわした御蔭で、新たに『第101海軍護衛艦隊』と呼ばれる艦隊が新設される事となった。
*この新たに護衛艦隊を新設出来た裏には、雨宮香織が当時の軍令部や連合艦隊上層部、更には海軍省の高官などにいた頭の固い所謂『石頭』と呼ばれた人々を笑顔で恫喝したと呼ばれる噂が流れたとか流れなかったとか・・・
話がそれてしまった。元に戻そう。
雨宮香織が裏で手をまわしてくれた御蔭で、新たに輸送船団の護衛を専門にする艦隊を新設する事が許可された松田司令は、そのまま『第101海軍護衛艦隊』の司令官へと就任し、前職であった第3航空艦隊司令部幕僚の部下の大半と共に部隊の編成に取り掛かった。
まず真っ先に行われたのが、艦艇などの資材とそれを動かす人員の確保であった。
しかし、戦況が逼迫してきたこの時に、艦艇・人材共確保するのは難しかった。
史実と違って、空母『赤城』・『瑞鶴』や戦艦『大和』・『長門』・『陸奥』など、ある程度大型艦艇がまとまった戦力として存在していた一方で、残存駆逐艦の数は80隻前後まで減少しており、とても裏方の仕事である護衛艦隊には渡せないという現状であった。
また、新たに建造するにしても時間が掛かる上に大量の資材を必要とするために、それも難しかった。
苦肉の策として、松田司令は未来日本海軍に小型艦艇の一定期間の貸与を要請すると共に、旧第3航空艦隊所属艦の改装という手段にでた。
前者の方は、雨宮香織の好意もあって『おやしお』級護衛艦8隻を無償貸与されたこともあり、上手くいった。
しかし、後者は簡単にはいかなかった。
まず連合艦隊司令部から大反発を招いた。
曰く、
『一実戦部隊の司令が、国民の血税をもってして作られた艦艇を、独自の判断で勝手に話を進めて改装しようなどもっての外である』
・・・だそうだ。
本音としては、『伊勢』級航空戦艦2隻や球磨級軽巡洋艦の『北上』・『大井』の2隻などの艦艇、更には艦隊型駆逐艦である陽炎型駆逐艦7隻と島風型駆逐艦の『島風』などの高性能艦の数々を裏方の地味な仕事に回したくないという思惑が見て取れた。
ここで勘違いしてもらっては困るが、連合艦隊司令部が輸送船団の護衛を軽視しているという訳ではない。
彼らも、当初こそシーレーンの確保を軽視していたが、戦況が次第に不利になり、物資を満載した本土へ向かっていた輸送船が潜水艦によって沈められるにつれ、船団護衛の重要性についても認識を持ち始めていた。
重々言うが、連合艦隊司令部は護衛艦隊に配備する艦艇に不満を述べているのであって、護衛艦隊の創設に不満は述べていないのである。
結局、旧第3航空艦隊所属艦の配備を取りやめ、最古参の『峰風』型駆逐艦6隻と同じのく旧型の『吹雪』型駆逐艦6隻、『初春』型駆逐艦8隻、更には新たに竣工した客船改装空母の『龍鷹』(基準排水量:1万1千トン 航空機43機搭載)の配備により護衛艦隊司令部側が妥協する事となった。
特に、客船改装とはいえれっきとした空母があるのは、護衛艦隊の面々にとっては有り難かった。
結果、未来日本海軍から貸与された護衛艦8隻と、連合艦隊の各艦隊から回された20隻の旧型駆逐艦、そして客船改装空母1隻の計29隻によって『第101海軍護衛艦隊』は編成され、南方から本土へ向かう輸送船の護衛を長く務める事となる。
予断だが、計13隻の潜水艦を失った米太平洋艦隊司令部では、早速事実の究明作業が開始されたが、まったく進まなかった。
一部の潜水艦からは、攻撃前に無線を打った艦もあったが、詳しい情報は手に入らなかった。
しかし、大半の将兵はこの問題を特に気にしてはいなかった。
偶然ジャップに運が転んだだけ。っと言う者もいれば、
沈められた潜水艦の連中が、下手をうっただけ。などと言う者が大半だった。
兎に角、米兵の大半は帝国軍の最後の悪あがきと考えていた。
・・・彼らは後に大きな代償を支払う事となる。
米兵はこの時、完全に日本軍を見下していた。
その付けを払う事になるのは、もう少し先のことである。
如何でしたでしょうか?
あまり派手な描写ではありませんでしたが、戦闘描写を入れました。
やはり、戦闘に関する描写は難しいですね(汗)
次回は、1944年の終わりから1945年の初めの頃までの帝国の動きを書きたいと思っています。
・・・飽くまで予定ですが(苦笑)
予定では多数の兵器を登場させます。
お楽しみに。それでは、また。




