第25話 戦闘の余波 〜可憐な少女の辿る道〜
どうも、クラウスです。
今回は、視点を変えて、前話に搭乗したあるパイロットの物語を綴ります。
多少なりとも恋愛要素が混じっていたりしますが…まぁそこは気にしてはいけません(苦笑)。
それでは、どうぞ。
『うっ、うううぅ…』
肩に軽く触れる程の短い金色の髪を持つ1人の少女が、一枚の薄っぺらな木片にしがみ付きながら、海原の中を漂っていた。
『わっ、私は……ううっ』
被弾した機体を何とか不時着させようとして海面に激突し、大きく頭をぶつけたのだ。
『ここは…何処?』
彼女は周りを見渡した。
しかし、辺りに島影は見えず、ここがどこかを確認する事は敵わなかった。
その時、不意に大きな波が彼女を襲った。
波に揉まれる彼女は、何とかして足掻くも、次第に体力を消耗し、海中に沈んで行きそうになった。
最後の力を振り絞って一度海面に顔を出した時に見たのは、遠くを航行する日の丸を付けた艦船であった…
−−− 未来日本海軍 第2遊撃艦隊旗艦 イージス重巡洋艦『秋津洲』 −−−
『少尉、目標は本艦からさほど離れてはいない。直ぐに出てくれ!』
『了解です艦長!』
格納庫内で一人の少年が、この艦の艦長と艦内テレビを通じて会話をしていた。
この少年は、未来日本海軍が運用する数少ない外国産兵器の一つであるVTOL戦闘機…正式名称:AV102−23「ハリアー4」…の搭乗員である。
名をエドワード・イシダ(石田)・ジャックテインと言う。
母は日本人、父がニューヨーク生まれの日本育ちというアメリカ人であり、ハーフである。
『エドっ!機体の準備は出来たぞ!』
『了解です!』
そう言って機体に乗り込み、素早く機体を稼働させる。
そんな時、機体の窓越しに一人の年長の整備兵が声を掛けてきた。
『坊主っ、ポイントに着いたら、すぐに海面を確認しろ?要救助者の救助方法は、訓練通りにやればいい』
『了解です、筧さん!』
『頼むぞ…』
筧と名乗った年長の整備兵が、機体から離れる。
同時にエドが機体のエンジンを稼働させ、強力に空気を機体下方へと噴き出させる。
機体が一瞬浮いたのを感覚で知ったエドは、一気に機体のアフターバーナーの出力を最大まで引き上げ、機体を前進させる…
エドがペダルを踏むと、機体は一気に速度を上げて、前へと進みだした…
『…あれかっ!』
『秋津洲』の指示したポイントまで来てみると、眼下の海面に、1人の人間が、背中を海面に着きだして浮いていた。
『あのままじゃ!』
言うなり彼は、翼下に装備された救助用兵装のオプションを起動し、眼下に浮かぶ人間に狙いを定めた。
『少々荒っぽいけど…ごめん!』
エドがそう言った時には、彼の指はトリガーを引いていた。
刹那、翼下に装備された救助用兵装から、何やら勢いよく撃ち出された。
それは寸分の狂いなく眼下の人間に命中し、機体と要救助者の体を1本の特殊ロープで固定し、それを巻き上げ始めた。
発射された物体の先端には、タコの吸盤のような物が付いており、それが海面に浮いていた人間の背中に貼りつき、固定したのだ。
『…よし、固定完了!これより帰還する』
『了解。救助者を振り落とすなよ?!』
『だったら「ハリアー」で救助活動なんかやらすな!』
『文句は後で聞くわ!さっさと帰って来なさい、エド!!』
『げっ、羽柴長官!すっ、すぐに戻りまーす!』
『救助者を落とすなよー』
漫才のような会話が続いたが、当然の如く問題もあった。
そう…何故救助活動を垂直離着陸機である「ハリアー」タイプで行わせたのかである。
しかし、この艦の…『秋津洲』の現状を省みれば、仕方が無い事であった。
今現在『秋津洲』は、何と単艦で行動していたのだ。
当初こそ、第101海軍護衛艦隊と共に臨時の艦隊編成で輸送船団の護衛を行っていたのだが、運悪く艦本体のエンジンにトラブルが生じ、単艦で当海域に残って修復・整備作業を行っていたのだ。
その際、艦後部に設置されていた飛行甲板及び格納庫の部分において、高波を受け、艦載機である多目的大型ヘリコプター2機が損傷し為、稼働機が現在エドが乗っている「ハリアー4」のみになってしまった。
そして運悪く当直の兵士の一人が、一機の戦闘機が海面に着水する所をレーダーで捉え、今回の一連の救出劇となったのだ。
『ったく…』
悪態を吐きながらも、エドは最新の注意を払いながら艦へと急いだ。
彼が救助した者が、何者かすら知らずに…
ーーー 第2遊撃艦隊旗艦 イージス重巡洋艦『秋津洲』 −−−
『参りましたね…どうします?』
『一応は私が行くわ…』
『長官…万が一あなたに何かあれば…』
『何?心配してくれるの、私を?』
『いえ、自分の心配をしております。もし長官の御命に危険が訪れましたら、本土にいる立花長官に何をされるかわかりませんので』
『…1回死んどく?』
『…今この場で死にたくは無いですね』
『ならそうならないように、あなたが護衛に着きなさい』
『了解です』
……………
−−− 『秋津洲』艦内 −−−
『うっ、ううぅ……』
『目が覚めたみたいだな』
『ここは…?』
『ここは艦の中だ』
『どの艦の…』
『残念ながら、米国籍ではない…君達アメリカ人と敵対する日本籍の艦艇さ』
『何っ!?それはどういう…っつ!?』
『あっ、無理すんなよ!肋骨やアバラ骨やら何本か折れてんだぞ…』
『くっ、ううぅ…分かったわよ…今更逃げられる訳も無いしね』
『逃げるつもりだったのかよ…呆れたな』
『それで…私をどうするつもりかしら…おチビちゃん?』
『チビって言うなよ…俺には、「エドワード・イシダ・ジャックテイン」っていう立派な名前があるんだぞ』
『悪かったわね…じゃあ何て呼べばいいのよ?』
『エドでいいさ。皆そう呼ぶしね』
『分かったわエド…』
『それで…名前はなんて言うのさ』
『名前…私の?』
『当たり前だろ?ここには俺達2人しかいないんだぜ?』
『ふふっ、そうね…』
『分かったなら、教えてくれよ…』
『ローラよ…ローラ・デュエ。宜しくね』
『あっ、ああ…宜しく』
『どうしたの?』
『いや…何でもない』
『そう…ならいいわ。それで、私はどうなるの?』
『どうなるって言わっ『貴官の処遇について、我々にどうこうする権限は無い…』』
『…誰?』
『ちょ、長官っ!』
『長官?随分若いのね…それに…』
『私が女性で驚いたのかしら?』
『えぇ…その通りよ』
『ふふふっ、色々と楽しいお話が出来そうね』
目が覚めたローラ少尉と会話をしていたエドの間に割り込んできたのは、未来日本海軍第2遊撃艦隊司令長官の羽柴命と、参謀長を務める豊臣勇臥の2名であった。
エドは、当初こそ、この『秋津洲』艦内の空き部屋に設けられた病室から出ようとしたものの、長官と参謀長、何より捕虜となったローラ少尉が、エドの同席を強く求めたのだ。
結局、エドは同席を許され、ローラが横になっているベッドのすぐ脇にあった椅子に、腰を下ろした。
それから約1時間の間、羽柴長官・勇臥参謀長の2人がローラ少尉に対して、自分達が何者で、何のためにこの世界に来たのかを、パソコンに映し出される映像を加味しながら説明した。
同然の如くローラ少尉は混乱したものの、話の最後に
『別に貴官を帝国軍に引き渡すつもりも無いし、その必要性も無いと考えている』
と言った事で、最低限の事は保障された。
つまり、帝国陸海軍の兵士に、言葉は悪いが所謂「慰み者」にされる事は無いと言う事だ。
それは、他の者にとっては大した事では無いように聞こえるが、女性兵士である彼女にとっては、非常に重要な事であった。
2人が去っていってから、数分後…徐にローラ少尉が、エドに口を開いた。
『私…ずっと日本人を憎んでいた。両親を殺した日本人を…』
『ローラ…』
『日本本土に行って、男どもは勿論、女子供も皆、全部、皆殺しにしてやると誓って軍に入隊した』
『………』
『自分達の祖国の正義を信じて、日本人に対して復讐する為、辛い訓練にも耐えてきた…』
『………』
『でも…あの人達の話を聞いて、何だか…自分の祖国に幻滅をしたわ…』
彼女が2人から聞いた話し…それは、今この世界で起きているリアルな出来事と、これから起こるであろう未来の話であった。
だが、彼女にショックを与えたのは、自分達の祖国であるアメリカ合衆国の行っている裏の…闇の一旦を垣間見た時であった。
日本軍・ドイツ軍を問わず、捕虜となった者に対する非人道的扱い。
敵国の銃後の市民に対する非人道的扱い。
そしてアメリカが勝利した後の、ソ連との対立に端を発する冷戦…そして第3次世界大戦。
彼女は、最早自分の祖国である「自由と正義の国」と謳っているアメリカ合衆国に、何ら信じられるものを見いだせなかった。
『在米日本人に対する非人道的扱い…占領地での米軍兵士による邦人女性に対しての強姦・陵辱事件………私が信じていた国家は、軍は、一体何だったのだ!?』
大声で泣き始めた彼女を支えたのは、すぐ傍にいたエドであった。
『ローラ…君が悩む事じゃないよ。長官達は、あんな風に言ったけど、だからと言って日本軍が皆同じ事をしないという訳じゃない…所詮、何処の国も、軍も、同じ事をやっているんだよ…』
『うっ、うううっ…私は、私は…』
『ローラ…今日はもう、休んだ方がいいよ…』
『うううっ…うっ、うん…そうする。有難う…エド』
『別に…気にするなよ。俺はただ…いや、何でもない…とっ、兎に角、今日はさっさと休め!どうせ明日には港に入港するんだ…』
『うん…有難う』
『だから…気にするなって!』
『じゃあ…また明日…ねっ?』
『あぁ…また明日!』
翌日、何とか鹿児島港に入港した『秋津洲』を待っていたのは、雨宮香織を始めとした未来日本軍の上級幹部と、帝国陸海軍上層部の面々であった。
帝国陸海軍の上層部の連中は、何処からかローラ少尉という捕虜が『秋津洲』内にいる事を突き止め、引き渡しを要求してきたのだ。
『雨宮閣下…捕虜の引き渡し…お願いできますかな?』
『これはこれは…いくら帝国陸軍の参謀総長閣下のお願いと言えども、私に決定権はありませんですわ』
『では…どうするおつもりですかなっ?』
『それは…彼等に決めてもらいましょうか』
そう言って雨宮香織は、ある人物に対してすうっと手を指し示した。
『第2遊撃艦隊司令長官羽柴命、あなたに捕虜の身柄に関する一切の権限の行使を許可します』
そう言った刹那、帝国陸海軍のお偉いさん方は、ザワザワと騒ぎ出した。
『はっ!謹んで承ります』
そう言った途端、振り返った彼女は、
『捕虜であるローラ・デュエ少尉の身柄は、本艦が全面的に受け入れる』
…と断言して正面に向き直り、帝国陸海軍のお偉いさん方に『以後、一切の行動の干渉は、受け付けません!』と宣告した。
こうしてローラ少尉の身柄は、第2遊撃艦隊旗艦の『秋津洲』が保護する事になった。
帝国軍に身柄を引き渡したら、彼女がどんな目にあうか分からないといった長官の人道的配慮があった事は、言うまでもない。
艦内に戻った羽柴がふと自分を見つめる視線に気づき、そちらを見てみると、一人の少年と女性が、頭を垂れて、感謝の意を示していた。
そう…羽柴は気が付いていたのだ。
彼等2人が、お互いに好意を抱いていた事を…
その2人に対して、軽く右手を上げて、感謝の意に答える。
その羽柴の顔は、エドとローラの2人と同じく、微笑みを浮かべていた事は、言うまでも無かった…
この後、『秋津洲』は再び揮下の艦艇を率いて、再び前線に出立する事になる。
その『秋津洲』の乗員の中に、1人の米国人女性がいた。
いくら自身が不信感を抱いたとは言え、自身の祖国であるアメリカと、そして自分と同じアメリカ人が操る艦艇や航空機と戦う事になった彼女の心中は、非常に辛いモノがあったであろう。
だが、そんな彼女の傍にはいつも、1人の少年パイロットがいた。
彼が常に、彼女を支え続けた。
彼女は言った。
『彼がいたから、私は祖国を捨ててまで戦ってこれた』
…と。
そんな彼女を支えた少年は、
『自分はただ、彼女の傍にいただけです』
…と答えたそうだ。
2人の物語は、戦争が終わってからも、終わる事は無かった…
如何でしたでしょうか?
今回の物語は、戦闘中に被弾し、海原を漂っていたローラ少尉と、『秋津洲』艦載機のパイロットであるエド君。
そして『秋津洲』を含めた艦隊の司令長官である羽柴命の3名を中心に執筆しました。
なんと言いますか…
中々慣れない物を書くのは辛いですね(苦笑)。
次回はしっかり本来の軸に戻しますよ!
と言う事で、また次回をお楽しみに〜