第23話 大空の戦い 〜日米決戦 in 沖縄・台湾〜 2
クラウスです。
大学の試験が終了し、時間に余裕が出来たので、早速執筆&投稿です。
さて今回の話は、勿論前回の続き通り、日米の決戦の続きを描きます。
それでは、どうぞ。
古来より人は、自身の上に広がる空に対して、憧れと恐れを抱いた…
そして今日、飽くなき努力と飽くなき夢によって、人は、「飛行機」という空を舞う道具を手に入れた。
しかしその道具は、数多くの人の命を奪う、戦争の道具へと成り果ててしまった…
−−− 沖縄・台湾近海 −−−
4月16日
ハワイ真珠湾港を、ハルゼー率いる大艦隊が出港してから2日が経ったこの日、沖縄・台湾に攻撃を仕掛ける為にトラック環礁を出撃した機動部隊が攻撃隊を沖縄に向けて放った。
戦爆混合の336機にも及ぶ、大部隊であった。
この機動部隊の指揮官であるエドガー中将は、どちらかと言えば欲深い性格の人間であり、ハルゼー艦隊が到着する前に、手柄を全部頂こうと考えてすらいるような人間であった。
それはある意味で「好戦的で積極果敢」と言えるが、いざ負けが込んでも退く事を善しとしない「引き際を弁えない」指揮官とも言えた。
そんな指揮官が率いる大小19隻の空母から出撃した攻撃隊は、梅雨払い役の制空隊であるF6F「ヘルキャット」を先頭にして一路進路を北に取り、目標である沖縄本島へ向かって突き進んだ。
沖縄本島に向かっていた攻撃隊が異変に気が付いたのは、母艦である空母から飛び立ってから1時間もしない内であった。
不意に先頭を突き進んでいた護衛役のF6Fが20機ばかしが、驚くべき事に跡形も無く吹き飛んだのだ。
攻撃隊の指揮官であるエドワード・ホフマンJr大尉は、その様子を乗機であるTBM「アヴェンジャー」の中から目撃していた。
*注:「アヴェンジャー」の生産が途中からグラマン社からGM社が生産する事になった為、TBFからTBMへと正式番号が変更になった。
『何だっ!何が起こった?』
『分かりません!』
『突然機体が爆散したんだぞ!分かりませんで済むか!』
『ジャップの攻撃ですか?』
『まず間違いないだろう…』
『奴らは何処に…』
ドガァーーーンッ!!ドガァーーーンッ!!
『何っ!!』
『何だ?!』
『たっ、隊長!変な物が味方に…』
『変な物だと?そんな表現で分かるか!!』
『しっ、しかし…』
『なっ、何…』
ドガァーーーンッ!!
攻撃隊隊長であるホフマンJrの機体を含む米軍機を仕留めたのは、沖縄本島の嘉手納基地・普天間基地から飛び立った未来日本空軍の機体から発射された空対空ミサイルであった。
出撃した米攻撃隊の隊員達は、自分達が向かっていた沖縄に化け物のような戦闘力を持った部隊が配備されている事を知らず、当然その部隊が運用する機体や武器を知らなかった。
故に、自分達がどのようにして攻撃を受けたのかを知らなかった。
しかし、それも仕方が無い。
技術力の差が、天と地ほどの差があるのだ。
沖縄本島に配備された高性能レーダーによって、米機動部隊は攻撃隊を発進させた時から既に捕捉されていたのだ。
故に、勝敗は最初から見えていた。
米軍の第1次攻撃隊は、嘉手納・普天間の両基地から出撃した第3航空師団・第5航空師団に所属する機体からミサイル攻撃を受けて40機以上を失った。
揚句、隊長機を失った事によって統制を失い、混乱状態に陥ってしまった。
そこに、先程先制攻撃を仕掛けた第3航空師団と第5航空師団に所属する計144機が、姿を見せた。
米攻撃隊の搭乗員達は、混乱どころか恐慌状態に陥るか、思考停止状態になった。
何せ、自分達の目にした機体に移ったのは、「日の丸」であったのだ。
搭乗員の多くは、この様に思っただろう…
『ありえない』
…と。
事実、有り得ない話であった。
144機の日の丸を纏った機体が、自分達の編隊を通り過ぎた時には、少なくとも同数以上の米攻撃隊の機体が撃墜されたのだ。
あの頑丈さが売りの米軍機が、機銃弾によって一撃の下に撃墜されたのだ。
思考停止状態に陥っても不思議ではない。
そもそも、今の彼らには帝国軍を舐め切っている節があった。
『ゼロはもう時代遅れ』
『黄色い猿に負ける筈が無い』
『そもそも黄色い猿どもに負けているのは、卑怯な騙し討ちを受けたからで、まともに戦ったら奴らは絶対に勝てない。それはマーシャルやマリアナで証明済みだ』
などといった事を、44年の初め以降から常日頃口ずさんできた。
そしてその傾向は、上級将校と年若い新米に多かった。
残念な事に、米機動部隊から出撃した第1次攻撃隊の搭乗員の多くが、戦中に志願した年若い者が多く、戦場の第一線に出てきたのが44年の中盤以降と日米の戦力比が完全に入れ替わり、米国が圧倒的戦力を手に入れて以降であった為、開戦以来ずっと第一線で戦ってきた古参の兵士達に比べて修羅場を経験しておらず、一度苦境に陥っても危機を打開できる能力に大きな不安があった。
そんな彼等は、今回のような混乱を一度起こすと、中々冷静にはなれなかった。
何も出来ないまま機関砲を受けて撃墜される機体が相次ぎ、さらにそれを目撃した友軍機の搭乗員達は、逃げる事・反撃行動に移る事すら忘れて、ただただ泣き叫びながらやられるのを待っている事しかしなかった。
第3航空師団・第5航空師団の計144機が、米攻撃隊の第1波336機を殲滅するのには、10分もかからなかった。
ミサイル攻撃を敢行し、その後最高速度で接近しての機関砲による格闘戦によって敵攻撃隊の護衛を務める戦闘機部隊を殲滅、最後にゆっく鈍重な攻撃機・爆撃機を1機残らず撃墜する…
その作戦を…作戦と言えるかは微妙だが…を簡単にやってのけた。
攻撃隊を、文字通り1機残らず撃墜したのだ。
そしてその事は、攻撃隊を出撃させたエドガー中将率いる機動部隊において、驚きをもって知らされた。
『どうなっている!?味方の攻撃隊が全滅だと!?』
『はい。10分程前から攻撃隊からの信号が途切れています』
『…いったいどうなっているのか!?機械の故障ではないのか!?』
『残念ながら司令…味方機全部の無線が故障するなんて事は…起こらないかと』
『では一体何なんだ!?』
艦隊司令のエドガー中将は、はち切れんばかりの大声を上げて、報告した通信兵に対して怒鳴った。
もっとも、怒鳴られた方の通信兵にしてもどうしようもなかった。
彼が責められる必要性も無く、彼が何をしようとどうしようもなかったからだ。
エドガー中将はただ、このどうしようもない怒りを、通信兵にぶつけただけだった。
『これからどういたしますか、司令?』
参謀の一人が、困惑した顔をしながらエドガー中将に助けを…もとい意見を求めた。
『バカ者っ、そんな事決まっている!第2次攻撃隊を出撃させろっ!全空母から、出せるだけ全部だっ!予備機も捕用機も、余っている機体も全部出せ!!』
『しっ、司令…』
艦橋にいた多くの士官が、エドガー中将のこの発言に耳を疑った。
まったく状況が掴めていないこの時に、第2次攻撃隊を出撃させようと言うのだ。
馬鹿げていると皆が考えても不思議では無い。
この艦隊の不幸は、指揮官がエドガーであった事と、彼を諌められる人材が艦隊にいなかった事だ。
この時、艦隊を撤退させれば、これ以後の損害を受ける事はなかっただろう。
もっとも、機動部隊だけに限らず米海軍全体が、ここまでの勝利に奢り、「東洋の猿」に負ける事は許されない・我々が負ける事など有り得ない…といったプライドの様な物が高まっていった事は、否定できない。
そう…彼等は別の意味で追い詰められていたのだ。
世界の覇者たらんとするアメリカ合衆国の、それこそ最強を誇る機動部隊の一角を構成する自分達の艦隊が、成すすべなく敗退でもしたら、仲間の軍人から馬鹿にされ、国民から後ろ指を指される事は、避けられない事態に陥るだろう。
そう…最早合衆国の軍人は、国民の為にも、また合衆国のプライドの為にも、そして何より自分達の名誉の為にも、敗北が許されなかったのだ。
『これは命令だっ!直ちに出せるだけの機体を出せっ!沖縄をこの地球から消し去るのだ!!』
最早正気ではないとさえ断言できそうな状態ではあったが、命令された参謀達や艦長にしても、このままおいそれと退却は出来なかった。
止む無く、機動部隊から第2次攻撃隊が出撃する事になった。
第2次攻撃隊は、全19隻の空母から戦爆合計600機。
第1次攻撃隊を上回る規模の攻撃隊の搭乗員は皆、悲壮な覚悟の下に出撃していった。
自分達が、第1次攻撃隊と同様の運命を辿る事を予想しながら…
如何でしたでしょうか?
さて、次回も当然の如く今回の続きを執筆します。
それでは次回。
では。